【『大奥おおおく』感想かんそう5話わ】福士ふくし蒼あお汰と堀田ほった真由まゆが演えんじきった満身まんしん創痍そういの愛あいの帰結きけつ By - かな 公開こうかい:2023-02-10 更新こうしん:2023-02-10 かなドラマコラム仲なか里依りえ紗しゃ堀田ほった真由まゆ大奥おおおく山本やまもと耕史こうじ福士ふくし蒼あお汰 Share Post LINE はてな コメント Twitterを中心ちゅうしんに注目ちゅうもくドラマの感想かんそうを独自どくじの視点してんでつづり人気にんきを博はくしている、かな(@kanadorama)さん。 2023年ねん1月がつスタートのテレビドラマ『大奥おおおく』(NHK)の見みどころを連載れんさいしていきます。 かなさんがこれまでに書かいたコラムは、こちらから読よめます。 名なを奪うばわれた女おんな(家光いえみつ)と、望のぞむ未来みらいを捨すててその女おんなに寄より添そった男おとこ(有功ゆうこう)。 互たがいに小ちいさな焚火たきびのような尊厳そんげんを守まもりあい、愛あいし合あった男女だんじょに死別しべつのときが訪おとずれた。 ともに太平たいへいの世よを守まもるために苦悶くもんの人生じんせいを耐たえて生いきたけれども、世代せだいがぐるりと回まわった時とき、そうして守まもりたかったものの記憶きおくは自身じしんの子孫しそんでも、社会しゃかいでも薄うすれていく。 史実しじつから考かんがえると、およそ30年ねん強きょう。 価値かち観かんが変かわっていくのにその時間じかんは長ながいか短みじかいか。でも思おもえば、私わたしたちも親おやや祖父母そふぼの語かたる苦労くろうでさえ、どこかふわふわと実感じっかんを伴ともなわないものだ。 江戸えど、太平たいへいの華はなやかな時代じだいに、漂ただようように退廃たいはいをまとわせて現あらわれた将軍しょうぐん・綱吉つなよし(仲なか里依りえ紗しゃ)の姿すがたにそんなことを思おもう。 ドラマ『大奥おおおく』のオリジナルのシーンも 男子だんしだけが罹かかる伝染でんせん病びょうで、人口じんこうの男女だんじょ比ひが不ふ均衡きんこうになった架空かくうの江戸えど時代じだい。三さん代だい将軍家しょうぐんけ光こうを伝染でんせん病びょうで失うしなった春日局かすがのつぼね(斉藤さいとう由貴ゆき)は、その唯一ゆいいつの落胤らくいん(らくいん)である少女しょうじょ(堀田ほった真由まゆ)を拉致らちしてきて家光いえみつの身代みがわりとし、正統せいとうな血筋ちすじの世継よつぎを産うませようと画策かくさくする。 頑かたくなに子供こどもを産うむことを拒こばむ少女しょうじょに春日局かすがのつぼねが引ひき合あわせたのは、公家くげ出身しゅっしんの僧侶そうりょ・万里小路まりこうじ有功ゆうこう(福士ふくし蒼あお汰)だった。 望のぞまぬ還俗げんぞくを強しいられ、未来みらいを奪うばわれてもなお慈悲じひ深ふかさを失うしなわない有功ゆうこうとの日々ひびで家光いえみつは愛情あいじょうと安やすらぎを得えるが、二人ふたりの間あいだに子こは出来できず、やむなく家光いえみつは他たの男おとことの間あいだで子こを産うむ。 だが、出産しゅっさんの為ために他たのどの男おとこと関係かんけいを持もとうが心しんは有功ゆうこうにある家光いえみつと、愛あいする女おんなが他たの男おとこに抱いだかれる苦くるしみから逃のがれられない有功ゆうこうとの間あいだには、細ほそくても埋うまることのない悲かなしい溝みぞが出来できてしまっていた。 ※写真しゃしんはイメージ 死しの間際まぎわ、家光いえみつが有功ゆうこうに頼たのんで身体しんたいを寄よせ合あう場面ばめん、そして本当ほんとうの名前なまえを呼よんでほしいと家光いえみつがせがむセリフは原作げんさくにない、ドラマのオリジナルである。 名なは人ひとが生いきていく尊厳そんげんの最後さいごの砦とりでであり、悲かなしい運命うんめいの女将おかみ軍ぐんはそれを有功ゆうこうの存在そんざいで守まもり通とおしたのだと分わかる、素晴すばらしいシーンだった。 「千恵ちえ様さま」と万感ばんかんの想おもいを込こめた福士ふくし蒼あお汰の表情ひょうじょうと声こえにこみ上あげるものがあり、更さらにそれに「…うん」と小ちいさく頷うなずく堀田ほった真由まゆが、出会であった頃ころのように性別せいべつを越こえた無垢むくな笑顔えがおで頷うなずくのを見みていて、思おもわず声こえと涙なみだをこらえきれなくなった。 ※写真しゃしんはイメージ 悲かなしい人生じんせいだが確たしかな幸しあわせもあったのだと伝つたわってくる。 春日局かすがのつぼねが有功ゆうこうに還俗げんぞくを強つよい『仏ほとけをさらった』、その時ときに望のぞんだ『上様うえさまこそこの世よで最もっとも救すくわれねばならないひと』という願ねがいを、有功ゆうこうは果はたしたのである。 ドラマの有功ゆうこうはより人間にんげんらしさが溢あふれていたし、春日局かすがのつぼねの深ふかみのある烈女れつじょぶりも見事みごとだった。そして、玉たま栄さかえを演えんじた奥おく智さとし哉の愛嬌あいきょうとバイタリティもまた印象深いんしょうぶかい。 この玉たま栄さかえの可愛かわいらしさが私わたしたちの記憶きおくに残のこれば残のこるほどに、綱吉つなよし編へんは業ごうの深ふかい、やるせないものになるだろう。 かくして、家光いえみつの死しから物語ものがたりは一気いっきに五ご代だい将軍しょうぐん綱吉つなよしの時代じだいにとぶ。戦乱せんらんの世よは遠とおのき、大奥おおおくは絢爛けんらん豪華ごうかになり、そして江戸えどの町まちでは庶民しょみんが芸能げいのうや食事しょくじを楽たのしんでおり、これぞ我々われわれがイメージする『大奥おおおく』の世界せかいという高揚こうよう感かんに満みちている。 御ご鈴すず廊下ろうか、しずしずと女将おかみ軍ぐんに付つき従したがう極彩色ごくさいしょくの衣装いしょうに身みを包つつんだ御ご台所だいどころや御中おんちゅう﨟たち。 その中なかで、権力けんりょく、美貌びぼう、跡継あとつぎの娘むすめ、腹心ふくしんの部下ぶか、世よに人ひとが望のぞむ全すべてを持もっているかのように見みえる女将おかみ軍ぐん・綱吉つなよしは倦怠けんたいにうんざりしている。 大奥おおおくでの房事ぼうじに飽あき飽あきしている綱吉つなよしは、かつての愛人あいじんで、今いまは重臣じゅうしん・牧野まきのの夫おっとになっている男おとこを目めの前まえで奪うばいとり、更さらに息子むすこまで大奥おおおくに召めし出だして奪うばってしまう。 奔放ほんぽうな女将おかみ軍ぐんの欲望よくぼうで牧野ぼくやの一家いっかは崩壊ほうかいし、綱吉つなよしの元もとから去さってしまうが、綱吉つなよしには罪悪ざいあく感かんの欠片かけらもない。 興味深きょうみぶかいのは、原作げんさくではここで「成なり貞さだは優やさしうてお母上ははうえのようで私わたしは大好だいすきであったに」と綱吉つなよしは心底しんそこ悲かなしそうに呟つぶやくのである。 不可解ふかかいな価値かち観かんにも見みえるが、もしも貞淑ていしゅくであることが美徳びとくであると教おしえ込こまれるのと同おなじくらいに、性せいに奔放ほんぽうで貪欲どんよくであることが彼女かのじょにとってある種しゅの勤つとめであり、美徳びとくであると教おしえられて生いきれば、そういうことになるのかもしれないとも思おもうのだった。 エピソードを通とおして、エロスはふんだんにあるがロマンスは見みえにくい、怜悧れいり(れいり)だが同おなじくらい強引ごういんな女将おかみ軍ぐん綱吉つなよしは、演えんじるにあたってもリスクの高たかい難役なんやくだろうと思おもう。 その高たかい山やまに挑いどむのに、怪かい女優じょゆう・仲なか里依りえ紗しゃほど適任てきにんの俳優はいゆうはいないだろう。 早はやくも京都きょうとからやってきた御中おんちゅう﨟(おちゅうろう)の右みぎ衛門えもん佐さを値踏ねぶみするねっとりした視線しせんにはゾクゾクさせられる。 その視線しせんを受うけるのは『信用しんようならない男おとこ』を演えんじたら当代とうだい随一ずいいちの山本やまもと耕史こうじで、NHK大河たいがや時代じだい劇げきの常連じょうれんでもあり、所作しょさの自然しぜんな美うつくしさはさすがである。 綱吉つなよし編へんは、大奥おおおくらしさ全開ぜんかいの政争せいそうや情念じょうねんの駆かけ引ひきも楽たのしく、同時どうじに史実しじつや、赤穂あこう浪士ろうしといった歴史れきし上じょう有名ゆうめいなエピソードと物語ものがたりの縫ぬい合あわせ具合ぐあいが絶妙ぜつみょうで、それもまた楽たのしみな見所みどころといえるだろう。 ドラマコラムの一覧いちらんはこちら [文ぶん・構成こうせい/grape編集へんしゅう部ぶ] かな Twitterを中心ちゅうしんに注目ちゅうもくドラマの感想かんそうを独自どくじの視点してんでつづり人気にんきを博はくしている。 ⇒ かなさんのコラムはこちら Share Post LINE はてな コメント
Twitterを中心 に注目 ドラマの感想 を独自 の視点 でつづり人気 を博 している、かな(@kanadorama)さん。
2023年 1月 スタートのテレビドラマ『大奥 』(NHK)の見 どころを連載 していきます。
かなさんがこれまでに書 いたコラムは、こちらから読 めます。
ともに太平 の世 を守 るために苦悶 の人生 を耐 えて生 きたけれども、世代 がぐるりと回 った時 、そうして守 りたかったものの記憶 は自身 の子孫 でも、社会 でも薄 れていく。
ドラマ『大奥 』のオリジナルのシーンも
だが、出産 の為 に他 のどの男 と関係 を持 とうが心 は有功 にある家光 と、愛 する女 が他 の男 に抱 かれる苦 しみから逃 れられない有功 との間 には、細 くても埋 まることのない悲 しい溝 が出来 てしまっていた。
※写真 はイメージ
「千恵 様 」と万感 の想 いを込 めた福士 蒼 汰の表情 と声 にこみ上 げるものがあり、更 にそれに「…うん」と小 さく頷 く堀田 真由 が、出会 った頃 のように性別 を越 えた無垢 な笑顔 で頷 くのを見 ていて、思 わず声 と涙 をこらえきれなくなった。
※写真 はイメージ
ドラマの有功 はより人間 らしさが溢 れていたし、春日局 の深 みのある烈女 ぶりも見事 だった。そして、玉 栄 を演 じた奥 智 哉の愛嬌 とバイタリティもまた印象深 い。
この玉 栄 の可愛 らしさが私 たちの記憶 に残 れば残 るほどに、綱吉 編 は業 の深 い、やるせないものになるだろう。
かくして、家光 の死 から物語 は一気 に五 代 将軍 綱吉 の時代 にとぶ。戦乱 の世 は遠 のき、大奥 は絢爛 豪華 になり、そして江戸 の町 では庶民 が芸能 や食事 を楽 しんでおり、これぞ我々 がイメージする『大奥 』の世界 という高揚 感 に満 ちている。
その中 で、権力 、美貌 、跡継 ぎの娘 、腹心 の部下 、世 に人 が望 む全 てを持 っているかのように見 える女将 軍 ・綱吉 は倦怠 にうんざりしている。
エピソードを通 して、エロスはふんだんにあるがロマンスは見 えにくい、怜悧 (れいり)だが同 じくらい強引 な女将 軍 綱吉 は、演 じるにあたってもリスクの高 い難役 だろうと思 う。
その高 い山 に挑 むのに、怪 女優 ・仲 里依 紗 ほど適任 の俳優 はいないだろう。
その視線 を受 けるのは『信用 ならない男 』を演 じたら当代 随一 の山本 耕史 で、NHK大河 や時代 劇 の常連 でもあり、所作 の自然 な美 しさはさすがである。
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