年としを重かさねていくうちに狭せまくなっていく自由じゆうの幅はばを、心身しんしんともに広ひろげていく By - 吉元よしもと 由美ゆみ 公開こうかい:2023-09-17 更新こうしん:2023-09-17 エッセイ吉元よしもと由美ゆみ連載れんさい Share Post LINE はてな コメント 吉元よしもと由美ゆみの『ひと・もの・こと』 作詞さくし家かでもあり、エッセイストでもある吉元よしもと由美ゆみさんが、日常にちじょうに関かかわる『ひと・もの・こと』を徒然つれづれなるままに連載れんさい。 たまたま出会であった人ひとのちょっとした言動げんどうから親友しんゆうのエピソード、取材しゅざいなどの途中とちゅうで出会であった気きになる物ものから愛用あいよう品ひん、そして日常にちじょう話ばなしから気きになる時事じじニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関かんするトピックを吉元よしもと流りゅうでお届とどけします。 折おり合あいと葛藤かっとうとコーヒーのシミと 躓つまずいて、リビングの絨毯じゅうたんにコーヒーを「ぶちまけ」ました。ピアノの椅子いすの縁えんにおでこをぶつけ、(これが大変たいへんなことになったら)と一瞬いっしゅん不安ふあんになる。 切きれてないだろうか、気きを失うしなったら大変たいへんとか、脳のうの内側うちがわに血腫けっしゅでもできたらとか、起おこりうるあらゆる不幸ふこうな出来事できごとが頭あたまを過すぎる。 しかし、カップが落下らっかした周辺しゅうへんの大おおきなシミから、線せん状じょうに、それは先端せんたん向むかって細ぼそくなり、最後さいごは句点くてんのようになったシミを見みて、おでこをぶつけたことなど吹ふき飛とんでしまいました。 そろそろ絨毯じゅうたんを張はり替かえようかと思おもっていたところ、これは決定けってい打だになる。でも、なんとかせねば。左手ひだりてで保冷ほれい剤ざいをおでこにあて、右手みぎてでコーヒーのシミを拭ふき取とること1時じ間近まぢかく。 何なにとか『惨劇さんげき』の痕跡こんせきは薄うすめることはできたものの、ちょっと考かんがえ込こんでしまいました。 年としを重かさねていくとは、これまでできなかったこと、なかったことが起おこるということに気きづいたのは10代じゅうだいの最後さいごの頃ころだったと思おもいます。 前向まえむきな意味いみで、年としと重かさねる……大人おとなになるということは、自由じゆうになることだと感かんじていました。その自由じゆうに伴ともなう責任せきにんはありますが、それはささやかなことにでもチャレンジする行動こうどう力りょくになりました。 これまでの人生じんせいの中なかで多おおくの景色けしきを楽たのしんだり悩なやんだりしたことも受うけ入いれてきて、今いまに至いたります。 いつの頃ころからか、これまでなかったようなことが起おこり、また、(え?)と思おもうようなことをしでかすようになりました。白髪はくはつが出でてきたり、シワが増ふえたり、身体しんたい的てきなことはもちろん、人ひとやものの名前なまえが出でなくなったり。 先日せんじつは段だんボールを縛しばろうと紐ひもを持もち、あ、ハサミも……と引ひき出だしを開あけたところで、もうハサミを持もっていることに気きづく。 怖こわくないですか?いつハサミを手てに取とったのか記憶きおくにない。躓つまずくような場所ばしょでないところに躓つまずくのも、年としを重かさねて起おこることではないかと思おもうわけです。 嘆なげいたところで、悲観ひかんしたところで、こればかりはどうにもならない。十分じゅうぶんに気きをつけることは当然とうぜんのこととして、私わたしは「新あたらしい扉とびらが開ひらいた」と、おもしろがる余裕よゆうを持もとうと思おもうのです。 これまで新あたらしい自分じぶんに出会であってきたのだから、この先さきも新あたらしい自分じぶんに出会であっていくのでしょう。おおらかな気持きもちで折おり合あいをつけながら、できたら緩ゆるやかなペースで「大人おとなになって」いけたらいいと。 いつかこの『折おり合あい』は葛藤かっとうになっていくのでしょうか。身体しんたいの自由じゆうが効きかなくなり、誰だれかの手てを借かりなければならなくなったとき、葛藤かっとうせずに私わたしは『折おり合あい』をつけていけるか。 92歳さいの父ちちの楽たのしみは、週しゅうに一いち度ど、ご近所きんじょの小料理こりょうり屋やさんに行いくこと。馴染なじみのお客きゃくさんと話はなしをし、誰だれの手ても借かりずにいられる自分じぶんでいられることを味あじわいたい、と言いいます。 そうやって、父ちちは葛藤かっとうと折おり合あいをつけているのかもしれません。 毎日まいにちを創造そうぞう的てきに。年としを重かさねていくうちに狭せまくなっていく自由じゆうの幅はばを、心身しんしんともに広ひろげていく。 うっすらと残のこったコーヒーのシミを見みながら、この瞬間しゅんかんがこれからの自分じぶんの時間じかんにつながっているのだと気きを引ひき締しめるのでした。 いのちを紡つむぐ言葉ことばたち かけがえのないこの世界せかいで吉元よしもと 由美ゆみ1,584円えん(10/28 10:02時点じてん)Amazon楽天らくてん市場いちばYahooAmazonの情報じょうほうを掲載けいさいしています ※記事きじ中ちゅうの写真しゃしんはすべてイメージ 作詞さくし家か・吉元よしもと由美ゆみの連載れんさい『ひと・もの・こと』バックナンバー [文ぶん・構成こうせい/吉元よしもと由美ゆみ] 吉元よしもと由美ゆみ 作詞さくし家か、作家さっか。作詞さくし家か生活せいかつ30年ねんで1000曲きょくの詞しを書かく。これまでに杏里あんり、田原たはら俊彦としひこ、松田まつだ聖子せいこ、中山なかやま美穂みほ、山本やまもと達彦たつひこ、石丸いしまる幹みき二に、加山かやま雄三ゆうぞうなど多おおくのアーティストの作品さくひんを手掛てがける。平原ひらはら綾香あやかの『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在げんざいは「魂たましいが喜よろこぶように生いきよう」をテーマに、「吉元よしもと由美ゆみのLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信はっしん。 ⇒ 吉元よしもと由美ゆみオフィシャルサイト ⇒ 吉元よしもと由美ゆみFacebookページ ⇒ 単行本たんこうぼん「大人おとなの結婚けっこん」 森口もりぐち博子ひろこ、タクシーに乗のって行いき先さきを告つげたら運転うんてん手しゅが…?タクシー運転うんてん手しゅの対応たいおうに反響はんきょうが上あがりました。タクシーに乗車じょうしゃして、目的もくてき地ちを告つげると…? 「違和感いわかんない!」「美うつくしい」 森高もりたか千里せんりが奇跡きせきの『4ショット』写真しゃしんを公開こうかい!2024年ねん10月がつ26日にち、歌手かしゅの森高もりたか千里せんりさんがInstagramを更新こうしん。音楽おんがく番組ばんぐみ『うたコン』(NHK)に出演しゅつえんした際さいの、オフショットを公開こうかいしました。 Share Post LINE はてな コメント
たまたま出会 った人 のちょっとした言動 から親友 のエピソード、取材 などの途中 で出会 った気 になる物 から愛用 品 、そして日常 話 から気 になる時事 ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関 するトピックを吉元 流 でお届 けします。
しかし、カップが落下 した周辺 の大 きなシミから、線 状 に、それは先端 向 かって細 くなり、最後 は句点 のようになったシミを見 て、おでこをぶつけたことなど吹 き飛 んでしまいました。
そろそろ絨毯 を張 り替 えようかと思 っていたところ、これは決定 打 になる。でも、なんとかせねば。左手 で保冷 剤 をおでこにあて、右手 でコーヒーのシミを拭 き取 ること1時 間近 く。
これまでの人生 の中 で多 くの景色 を楽 しんだり悩 んだりしたことも受 け入 れてきて、今 に至 ります。
いつの頃 からか、これまでなかったようなことが起 こり、また、(え?)と思 うようなことをしでかすようになりました。白髪 が出 てきたり、シワが増 えたり、身体 的 なことはもちろん、人 やものの名前 が出 なくなったり。
これまで新 しい自分 に出会 ってきたのだから、この先 も新 しい自分 に出会 っていくのでしょう。おおらかな気持 ちで折 り合 いをつけながら、できたら緩 やかなペースで「大人 になって」いけたらいいと。
いつかこの『折 り合 い』は葛藤 になっていくのでしょうか。身体 の自由 が効 かなくなり、誰 かの手 を借 りなければならなくなったとき、葛藤 せずに私 は『折 り合 い』をつけていけるか。
92歳 の父 の楽 しみは、週 に一 度 、ご近所 の小料理 屋 さんに行 くこと。馴染 みのお客 さんと話 をし、誰 の手 も借 りずにいられる自分 でいられることを味 わいたい、と言 います。
そうやって、父 は葛藤 と折 り合 いをつけているのかもしれません。
うっすらと残 ったコーヒーのシミを見 ながら、この瞬間 がこれからの自分 の時間 につながっているのだと気 を引 き締 めるのでした。
いのちを紡 ぐ言葉 たち かけがえのないこの世界 で
Amazon楽天 市場 Yahoo
※記事 中 の写真 はすべてイメージ
[文 ・構成 /吉元 由美 ]
⇒
⇒
⇒