死しの伝染でんせん病びょうを克服こくふくし男女だんじょの人口じんこう比ひが戻もどった江戸えどの町まちには、多様たよう性せいがもたらす揺ゆらぎがあった。

現代げんだい社会しゃかいにも相あい通つうじるその揺ゆらぎの中なかを、瀧たき内ない公美くみ演えんじる阿部あべ正弘まさひろが、笑わらったり落おち込こんだりしながら駆かけていく。

その明あかるい景色けしきは滅ほろびの覚悟かくごに沈しずんでいた暗くらい家いえ光こうの時代じだいとも、滅ほろびの克服こくふくを決意けついした悲壮ひそうな吉宗よしむねの時代じだいとも違ちがっていて、そこには選択肢せんたくしがあり、だからこその悩なやみがあった。

男子だんしだけが罹かかる伝染でんせん病びょう・赤面せきめん疱瘡ほうそう（あかづらほうそう）により男おとこの数かずが激減げきげんした架空かくうの江戸えど時代じだい。将軍しょうぐんは女おんなだった。労働ろうどうも女おんなたちが担になった。

だが世代せだいを超こえた研究けんきゅう者しゃや医師いしらの苦闘くとうにより赤面せきめん疱瘡ほうそうは克服こくふくされ、再ふたたび社会しゃかいは男性だんせい優位ゆういに戻もどろうとしていた。

そんな時代じだいの流ながれの中なか、徳川とくがわに代々だいだい仕つかえた名門めいもん・阿部あべ家かでは長男ちょうなんが気弱きよわのため隠居いんきょを選えらび、娘むすめが正弘まさひろと名乗なのり家督かとくを継つぐことになる。

そして奇くしくも同おなじ頃ごろ、将軍しょうぐんとして即位そくいしたのもまた、女子じょしであった。

医療いりょう編へんという仄暗ほのぐらい夜明よあけ前まえのようなエピソードに続つづき、華はなやかなフィナーレの幕末ばくまつ編へんが始はじまろうとしている。

その物語ものがたりは遊郭ゆうかく、しかも男おとこのみが集あつめられた遊郭ゆうかくから始はじまる。

幕まく閣かくとして頭角とうかくを現あらわしながらも男おとこばかりの中なかで何なにかと気きを遣つかう、しかしかつての女おんな達たちのようにがむしゃらに仕事しごとするのも少すこし違ちがう。とかく気持きもちがすり減へる阿部あべ正弘まさひろのため息いきは、まるで現代げんだいに生いきる若わかい女性じょせいのようだ。

前回ぜんかいのラストに将軍家しょうぐんけ斉ひとし（中村なかむら蒼あお）と交かわした「赤面せきめん疱瘡ほうそうの頃ころには、才能さいのうある男おとこがそれを発揮はっきせずに終おわることもあったでしょう」という言葉ことばでも分わかる通とおり、正弘まさひろは視野しやの広ひろい、フェアな考かんがえの人物じんぶつである。その視野しやの広ひろさで、ますます気きを遣やって疲つかれてしまう。

しかし困惑こんわく気味ぎみの笑顔えがおを貼はり付づけて、時ときに思おもわずため息いきをついてしまう瀧たき内ない公美くみが演えんじる阿部あべ正弘まさひろは、まるで大切たいせつな女おんな友達ともだちの一人ひとりのようでとてもキュートである。

そして、そんな正弘まさひろを男おとこがもてなす遊郭ゆうかくに誘さそうのは遠山とおやま金四郎きんしろう（高島たかしま豪つよし志こころざし）、つまり『遠山とおやまの金きむさん』である。

さしずめ期待きたいの若手わかて社員しゃいんが生真面目きまじめで悩なやんでいるのを、さばけた上司じょうしが新宿しんじゅく二に丁目ちょうめやホストクラブに気晴きばらしに連つれて行いくようなものだろうか。

そこで正弘まさひろが偶然ぐうぜん出会であう美うつくしく聡明そうめいな陰間かげま・瀧山たきやまを演えんじるのは古川ふるかわ雄大たけひろ。

舞台ぶたいで磨みがきぬいた美うつくしい所作しょさと、優雅ゆうがな声こえで語かたる廓くるわ詞し（くるわことば）で私わたしたちを魅了みりょうする。

瀧山たきやまが自身じしんの花魁おいらん姿すがたの由来ゆらいを説明せつめいし、正弘まさひろが感心かんしんするシーンは有能ゆうのうな者ものが同おなじく有能ゆうのうな者ものを鋭するどい嗅覚きゅうかくで嗅かぎ当あてるかのようで見みていてわくわくする。

また、原作げんさくにないドラマオリジナルの場面ばめんとして、一いち度どは身請みうけを辞退じたいした瀧山たきやまを、正弘まさひろが遠山とおやま金四郎きんしろうを連つれて再ふたたび説得せっとくに訪おとずれる場面ばめんも胸むねが躍おどった。ちなみに原作げんさくでも遠山とおやま金四郎きんしろうは登場とうじょうしているが、瀧山たきやまとの接点せってんはない。

組織そしきには様々さまざまな出自しゅつじ・由来ゆらいの人物じんぶつが必要ひつようだという正弘まさひろの説得せっとくは、まさに現代げんだいにも通つうじている。

今回こんかいのドラマ化かにあたっては、吉宗よしむね（冨永とみなが愛あい）が馬うまで疾走しっそうする場面ばめんは『暴あばれん坊ぼう将軍しょうぐん』を、大岡おおおか忠相ただすけ（MEGUMI）の描写びょうしゃが多おおくなったのは『大岡おおおか越前えちぜん』を、そして今回こんかいの『遠山とおやまの金きむさん』と、歴代れきだいの名作めいさく時代じだい劇げきへのオマージュがあちこちに見みられることも楽たのしい。

同時どうじに、こういった時代じだい劇げきの面白おもしろさを世代せだいで繋つないでいくことの必要ひつよう性せいにも改あらためて思おもいを馳はせた。

もう一ひとつ、ドラマ化かにあたってのオリジナルの描写びょうしゃは将軍しょうぐん・家定いえさだ（愛希あいきれいか）の、将軍しょうぐんとしての資質ししつである。

原作げんさくでも家定いえさだは聡明そうめいな女性じょせいとして描えがかれるが、ドラマでは更さらにそのリーダーとしての資質ししつが強調きょうちょうされて描えがかれている。

実父じっぷから性せい加害かがいを受うけ傷きずついた家定いえさだを案あんじ、薩摩さつまからの御台みだい輿入こしいれの申もうし出でを断ことわろうとする正弘まさひろに、家定いえさだは薩摩さつまを引ひき入いれれば正弘まさひろの政治せいじの役やくに立たつはずと、自身じしんの意志いしで薩摩さつまの男おとこを伴侶はんりょにすると決心けっしんする。この一連いちれんはドラマのオリジナルだ。

仕つかえる身みとして、これ以上いじょうに心しんを揺ゆさぶる信頼しんらいの言葉ことばは無ないのではないかと思おもう。

そして親おやからの理不尽りふじんな暴力ぼうりょくにも、長ながく誰だれも救すくってくれなかった孤独こどくにも、損そこなわれなかった高貴こうきな魂たましいを体現たいげんするのに、愛希あいきれいかの真まっ直すぐな瞳ひとみの輝かがやき以上いじょうに相応ふさわしいものも無ないだろう。

そして今回こんかいのラストでは胤たね篤あつし（天璋院てんしょういん）が登場とうじょうする。シーズン１で家光いえみつ（堀田ほった真由まゆ）の夫おっと・有功ゆうこうを好演こうえんした福士ふくし蒼あお汰が、再ふたたび「運命うんめいの夫おっと」を演えんじる。

大奥おおおくの始はじまりと終焉しゅうえん。その二ふたつを見届みとどける人物じんぶつとして、福士ふくし蒼あお汰は今回こんかいの映像えいぞう化かを象徴しょうちょうする存在そんざいになるだろう。

シーズン２でも、どんな心しん震ふるえる演技えんぎを見みせてくれるか、楽たのしみだ。

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[文ぶん・構成こうせい／grape編集へんしゅう部ぶ]