吉元よしもと由美ゆみの『ひと・もの・こと』

一いち日にち一いち度ど、陽ひざしを浴あびよう

郵便ゆうびんを取とりに玄関げんかんのドアを開あけたとき、柔やわらかい陽ひざしにふぁあっと包つつまれました。やわらかな風ふうに玄関げんかん先さきのパンジーがゆれ…羽はねを休やすめるときの蝶々ちょうちょうのように。そう、世界せかいはこうだった、こんなふうに気持きもちのいい陽ひざしが降ふり注そそいでいたのだと、しばし佇たたずんでしまいました。

粛々しゅくしゅくと家いえにいる日々ひび。外そとを歩あるくのは夕方ゆうがたの犬いぬの散歩さんぽ。必要ひつようなものをマーケットに買かいに行いくときには車くるまで。このような毎日まいにちを送おくっているうちに、だんだん外そとに出でるのが億劫おっくうになっていたところでした。

自粛じしゅくという要請ようせいをどのように捉とらえるのかは人ひとそれぞれ…不要ふよう不急ふきゅうをどのように線引せんひきするのか、個人こじんの判断はんだんに任まかされているのが現実げんじつです。

久ひさしぶりに感かんじた陽ひの光ひかりのあたたかさ。あたりまえのようにあったものから切きり離はなされた生活せいかつは、与あたえられているさまざまな恩恵おんけいを改あらためて感かんじることになりました。あたたかい日差ひざしのありがたさ。それは生いきる喜よろこびにも似にて、縮ちぢこまっていた私わたしにエネルギーを与あたえてくれました。

『ひざし』という言葉ことばには、大おおきく次つぎの漢字かんじ表記ひょうきがあります。日差ひざし、陽射ひざし、陽ひざし、日射ひざし。さて、この漢字かんじからどんな光ひかりをイメージするでしょうか。日ひは太陽たいよう、太陽たいようの光ひかりです。陽ひは、日にち、日ひなた、陽ひの光ひかりが当あたる場所ばしょを表あらわします。

私わたしは『陽ひざし』と書かきました。春はるのほっこりとした柔やわらかい光ひかりを表あらわすのには、この表記ひょうきがぴたりときたのです。『日射ひざし』は、射さすような太陽たいようの光ひかり、真夏まなつの太陽たいようの光ひかりは、本当ほんとうに射さすような暑あつさです。『日射ひざし』は、夏なつの太陽たいようの光ひかりを表あらわすのにふさわしい表記ひょうきです。

秋あきの日ひの光ひかりはどうでしょうか。春はるの柔やわらかさとは違ちがう、光ひかりの奥おくが乾かわいているような感かんじがします。陽ひざしでも陽射ひざしでも日射ひざしでもない、『日差ひざし』という漢字かんじがふさわしいでしょう。

日本語にほんごは美うつくしいです。季き節ぶしと言葉ことば、自然しぜんの様子ようすを漢字かんじ、言葉ことばを違ちがえて表あらわす。とても繊細せんさいな感性かんせいから生うまれた言語げんごです。その言葉ことばだけで、読よんだ人ひとのイメージを広ひろげることができるのですから。

縮ちぢこまっていた日々ひび、思おもいがけず包つつまれて感かんじた陽ひざしのあたたかさが、日本語にほんごの美うつくしさを感かんじさせてくれました。閉とじこもっている間あいだに季き節ぶしは過すぎていきます。思おもいきり日射ひざしを感かんじることができる夏なつを迎むかえられますように。

※記事きじ中ちゅうの写真しゃしんはすべてイメージ

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[文ぶん・構成こうせい／吉元よしもと由美ゆみ]