引ひっ越こすたびに『クリーニング店てん』を必かならずチェックする女性じょせい　理由りゆうに、胸むねがジーン

『grape Award 2020』心しんに響ひびくエッセイを募集ぼしゅう！　今年ことしは２ふたつのテーマから選えらべる

心温こころあたたまる接客せっきゃくと聞きいて、まっさきに思おもい浮うかんだのは、わたしの住すむ町まちにあるクリーニング店てんだった。

大学だいがく進学しんがくを機きに実家じっかのある田舎いなかを出でてから、東京とうきょうや名古屋なごやにひとり暮くらしをしてきたが、引ひっ越こしの度たびにまず探さがす場所ばしょの一ひとつは、近所きんじょにあるいい感かんじのクリーニング店てんである。

ここでは、これまでお世話せわになったクリーニング店てんの中なかでも一番いちばん思おもい出深でぶかい、実家じっかの町まちのあるお店みせのことを話はなそう。

そのお店みせの名前なまえは、まるクリーニング（仮かり）と言いう。小ちいさな田舎町いなかまちなので、周辺しゅうへんに住すむ人々ひとびとのほとんどがまるさんにクリーニングをお願ねがいしていたと思おもう。

私わたしの家族かぞくも常連じょうれんで、週末しゅうまつになると父ちちのスーツや兄あにと私わたしの学生がくせい服ふくを出だしに行いっていた。

まるさんの大おおきな特長とくちょうは、きかせすぎくらいにきいたパリっとした、というよりバリバリの糊のりである。

セせーラらー服ふくのスカートを一度いちどクリーニングしてもらうと、自転車じてんしゃ通学つうがくでどんなに雨風あめかぜにさらされても、またどんなに長時間ちょうじかん座すわっていても、そのプリーツはしばらくの間あいだ型がた崩くずれしなかった。

ということは、それだけ何なにか溶剤ようざいが染しみついていて、美容びよう院いんでパーマをかけてもらった後のちのような香かおりを周囲しゅういにまき散ちらしていたかもしれない。

しかし、学校がっこうの先生せんせいからは、「あなたはいつもスカートがきれいね。しっかりしている証拠しょうこだわ」などと褒ほめてもらえたことを、今いまも鮮明せんめいに覚おぼえている。

父ちちもその糊のりの効果こうかには太鼓判たいこばんで、仕上しあがった仕事しごと服ふくを身みにまとう前まえには、必かならず「今日きょうも糊のりがきいとるなあ」と満足まんぞくげに笑わらっていたものだった。

まるクリーニングのもう一ひとつの大事だいじな特長とくちょうは、クリーニング店てんを超こえて地域ちいきの名物めいぶつ、番台ばんだいさんのような存在そんざいだったことである。

チェーン店てんでないからこそ、常連じょうれんさんが依頼いらいにやって来くるリズムを把握はあくして、少々しょうしょう無理むりな納期のうきをお願ねがいしても「はいはい、やっておくよ」と快こころよく対応たいおうしてくれて、大変たいへん助たすけられた。

私わたしの祖父母そふぼもまるさんによく出だしていたが、お店みせから少すこし離はなれて住すむ高齢こうれいの祖父母そふぼに配慮はいりょして、まるさんのお母かあさんがいつもバイクで配達はいたつをしてくれていた。

配達はいたつに来くると、天気てんきや農作物のうさくもつの出来でき、近々ちかぢかある行事ぎょうじの話はなしなどをひと通とおりして、あのコミュニケーションの時間じかんも、祖父母そふぼにとっては楽たのしみの一ひとつになっていた。

また、まるさんのお母かあさんは会計かいけいも担当たんとうしているのだが、服ふくの種類しゅるいによっていくらと単価たんかが決きまっていないようで、明細めいさいは一いち度どももらったことが無ない。

服ふくをたくさん持もって行いくと高たかくて、少すくないと安やすくて、たまにたくさん持もって行いっても「おまけしとくね」と言いって少すくない時ときよりもかなり安やすかったりする。まさに信用しんよう商売しょうばい。

もやもやしつつも、バリバリに糊のりのきいた服ふくにしてもらいたくて、今日きょうはいくらになるかな、なんて考かんがえながら持もって行いき（実際じっさいにはよきタイミングで気きを利きかせた母ははが出だしに行いってくれたりして）、家いえに帰かえって金額きんがくを報告ほうこくし、家族かぞくで毎回まいかいひと笑わらいするのが楽たのしかった。

そんなまるさんも、クリーニング作業さぎょうを担当たんとうしていたお父とうさんが高齢こうれいになったこともあり、ついに近ちかくお店みせを閉しめる予定よていと聞きいた。

真夏まなつになるとランニングの肌着はだぎ一いち枚まいになって、一生懸命いっしょうけんめいアイロンをかけてくれていた姿すがたが見みられなくなるのだなあ。そして、あのお母かあさんの運うん任まかせなお会計かいけいネタもなくなってしまうのか。さいごに会あった時ときに、きちんとありがとうを言いったかな。

人生じんせい初はつのクリーニング店てんがこの名物めいぶつまるさんだったから、わたしは単身たんしん引ひっ越こしを繰くり返かえしてからも、クリーニング店てんにどこかおもしろい所ところがないかと探さがしてしまう。

クリーニング店てんを超こえた思おもい出でになった、まるさんをふと思おもい出だして微笑ほほえみながら。

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