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最新刊『板上に咲く』インタビュー vol. 1 - 原田マハ公式ウェブサイト

最新さいしんかんいたじょうく』インタビュー vol. 1

2024.03.06
インタビュー

 マハさんさんねんぶりの長編ちょうへん小説しょうせついたじょうく』は、世界せかいてきられる日本にっぽんいた画家がか棟方むなかた志功しこうを、つまのチヤの視点してんえがいたアート小説しょうせつ。ゴッホにあこがれ、世界せかいいどみ、世界せかいのムナカタとしょうされるまでになった棟方むなかたを、多面ためんてきりにした本書ほんしょ執筆しっぴつ秘話ひわいたインタビューだいいちかい

どものころに大原おおはら美術館びじゅつかん体験たいけんした、リビングアーティストを身近みぢかかんじた瞬間しゅんかん

 ――マハさんはどものころからアートがきでしたが、マハさんが棟方むなかた志功しこうというアーティストをったきっかけはありましたか?

マハ……小学しょうがく年生ねんせいのときに「おとこはつらいよ」をてから、渥美あつみきよしさんのだいファンだったんですが、その棟方むなかた志功しこう夫妻ふさいがモデルになった「おかしな夫婦ふうふ」というテレビドラマで、棟方むなかた志功しこうやく渥美あつみきよしさんがえんじられました。ちちが「棟方むなかた志功しこうという版画はんが実在じつざいしていて、いまきていて、わりと近所きんじょにいる」とおしえてくれて、当時とうじわたしんでいた小平こだいらと、棟方むなかたがいた杉並すぎなみあたりは武蔵野むさしのというおな地域ちいきにありました。渥美あつみきよしさんがえんじられるようなすごい画家がかが、実際じっさいきていて、いま活動かつどうしていることが、どもとしてはしんじられなくて、夢中むちゅうになってドラマをました。わたしのなかでは渥美あつみきよしさんと棟方むなかた志功しこうはセットになっていて、二人ふたりわたしのスーパーヒーローでした。

 ――そんなふうにかんじていた棟方むなかた志功しこう作品さくひんを、実際じっさいにはじめてたのもどものころでしたか?

マハ……ちち岡山おかやませられてった大原おおはら美術館びじゅつかんで、ピカソの「とりかご」をたときのエピソードは、いろいろなところでおはなししていますが、棟方むなかた志功しこう作品さくひんとのげん体験たいけんじつは、そのときなんです。わくわくしながら展示てんじまわったあとに、大原おおはら美術館びじゅつかん併設へいせつされている工芸こうげい東洋館とうようかんったら、かべうえのほうに釈迦しゃかなんまいならんでいて、どもながらにうわっ!とおどろくくらい神々こうごうしかった。そのときちちに「おまえがきな棟方むなかた志功しこう本物ほんものだ」とわれたんです。「これが棟方むなかた志功しこう作品さくひんなんだ」と衝撃しょうげきけましたし、リビングアーティストをとても身近みぢかかんじた瞬間しゅんかんでした。

クリエイティブパートナーでもあったチヤが、芸術げいじゅつ棟方むなかたをどうささつづけてきたのか。

 ――『いたじょうく』はさんねんぶりの長編ちょうへん小説しょうせつになりますが、このタイミングで棟方むなかた志功しこう生涯しょうがいえがこうとおもわれたのはなぜですか?

マハ……『たゆたえどもしずまず』や『リボルバー』でゴッホのはなしきましたが、ゴッホの周辺しゅうへんっていくと、ゴッホを日本にっぽん紹介しょうかいした白樺しらかんば辿たどきます。同時どうじに『リーチ先生せんせい』の執筆しっぴつで、白樺しらかんばのメンバーで日本にっぽん民藝みんげい運動うんどうささえたやなぎ宗悦むねよしさぐっていきましたが、ゴッホ、白樺しらかんばげていったところに、棟方むなかた志功しこうというアーティストが誕生たんじょうするおおきなエピソードがのこっていた。ずっと棟方むなかた志功しこうのことは小説しょうせつ題材だいざいとしても意識いしきしていましたが、これはつよ鉱脈こうみゃくでしたし、一度いちど、しっかりといてみたいとおもいました。

 ――序章じょしょうでは、棟方むなかた没後ぼつご20ねんったころに、一人ひとり新聞しんぶん記者きしゃ棟方むなかたつま・チヤに取材しゅざいもうむシーンからはじまりますが、全編ぜんぺんつうじて、チヤのかたりで棟方むなかた人生じんせいていく構成こうせいになっていますね。

マハ……『リボルバー』でゴッホという存在そんざい際立きわだたせるために、友人ゆうじんのアーティスト・ゴーギャンの視点してんきましたが、アーティストの一人称いちにんしょうではなく、そばにいたひと目線めせんで、どんな人生じんせいあゆんで、どう創作そうさくんだかを客観きゃっかんてきみたという気持きもちがおおきいです。
いたじょうく』では、棟方むなかた一番いちばんちかくでていたチヤという存在そんざいが、結局けっきょくわたし視点してんになりますし、かれ創作そうさく瞬間しゅんかんわたし見守みまもりたかったという願望がんぼうもありました。読者どくしゃだれかの目線めせんっていくうちに、そこに自分じぶん目線めせんかさねていく。わたし一緒いっしょ読者どくしゃ棟方むなかた見守みまもっていける視点してんかんがえると、チヤが一番いちばんふさわしくて、読者どくしゃのみなさんにはだんだんとチヤにトランスフォームしていく体験たいけんをしてほしいです。

 ――棟方むなかた創作そうさくのためにチヤが毎夜まいよすみみがけるシーンがてきますが、その姿すがたからは棟方むなかた芸術げいじゅつささえる彼女かのじょつよ意志いしかんじました。

マハ……棟方むなかた創作そうさく集中しゅうちゅうできる環境かんきょうととのえながらも、女性じょせいとしては精神せいしんてき自立じりつしていて、チヤは棟方むなかた依存いぞんしていなかった。もしかしたら棟方むなかたしんのなかでチヤに依存いぞんしているところがあったかもしれませんが、無意識むいしき依存いぞんのようなものを、チヤはめていたようにおもいます。
棟方むなかた自分じぶんみち自分じぶんひらいていった偉大いだいなアーティストですが、チヤがいなかったらあの棟方むなかた志功しこうまれなかったかもしれないとおもうエピソードはたくさんのこっていて、わたしのなかではチヤは、ある意味いみ、クリエイティブパートナーだったという意識いしきはあります。実際じっさい、チヤは棟方むなかた素晴すばらしいサポーターで、かれにとってソウルメイトのようなパートナーでした。ソウルメイトだったチヤが、どう棟方むなかたささつづけてきたのかというのは、きどころ、みどころのひとつです。

最新さいしんかんいたじょうく』インタビュー vol. 2につづく。/構成こうせい清水しみず志保しほ


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