市川春子、独自の世界!心の動きを、繊細かつ美しいタッチで描き出す
2006年夏に、月刊アフタヌーンの四季大賞を受賞。その後、同誌にて『星の恋人』をはじめとした読み切り作品を発表します。2009年には、初の単行本『虫と歌 市川春子作品集』が手塚治虫文化賞新生賞を受賞。2年後には『25時のバカンス 市川春子作品集Ⅱ』でマンガ大賞2012の5位に選ばれるなど、徐々に注目を集めていきます。
そしてもう1つ注目していただきたいのは、表装の美しさ!『虫と歌』と『25時のバカンス』では、それぞれの作品テーマの模様をかたどったコーティングがされており、模様部分が光を反射するようになっています。また、『宝石の国』でも、光の角度によってページ全体がキラキラと輝くさまはまるで宝石のよう。
繊細で美しい絵から、イラストレーターとしても人気の市川春子。2017年に画集を発売したほか、2016年にはゲーム『ポケットモンスター サン・ムーン』でキャラクターデザインも担当しました。
短編をほぼ毎年発表してはいるものの、単行本は2013年まで隔年でしか出版されていないため、もどかしい思いをしていたファンもいるのではないでしょうか。寡作ながらもなぜか印象に残る市川春子作品。下では、その3つの単行本をご紹介します!
3位:虫、星、植物……一見無機質なものたちが持つ、あたたかく切ない想い『虫と歌』
もし自分が人間ではなかったら。弟が実は短命の虫だったら……。
この作品には虫や星など人外のものたちが、人の姿をして存在する世界が描かれています。それも単なる擬人化というわけではありません。なぜ人の姿をしているか科学的な説明があるので妙に説得力があり、奇妙な世界観にも入りやすいです。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2009-11-20
市川春子のデビュー作でもある一編「星の恋人」では、どこにでもいる平凡な青年が、ある日叔父から「お前は植物細胞から作った」と衝撃の告白を受けます。そして叔父と暮らす少女は青年の細胞から「挿し木」して作ったとも。
少女の姿をしながら、どこか落ち着いた不思議な少女。少女と叔父の関係とは?そして3人の関係はどうなっていくのでしょうか。
市川春子作品では、切なさや色気のあるキャラクターが登場しますが、それはデビュー作からも見てとれます。そしてラストには、読者をゾクッとさせる驚きの展開が待っています!
短編ながら、深みのある作品ばかり。細い繊細なタッチで描かれるキャラクターたちの、ちょっとした言動すべてに物語の真相が詰まっています。何回も読み返したくなること間違いなしです!
2位:市川春子が描く、人々の健気さ。愛しいもののために、強大なものに立ち向う『25時のバカンス』
この作品では、海、宇宙、北国を舞台とする3編が登場します。それぞれの情景が繊細なタッチで描かれており、とても美しいです。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2011-09-23
まず、単行本タイトルにもなっている一編「25時のバカンス」。海洋研究所の女副室長は、久しぶりに会った弟に隠し事を打ち明けます。それは未知の海洋生物を体の中に飼っている、という衝撃の内容。さらに、姉の隠し事はそれだけではありませんでした。
いかにも科学者、という感じの冷静で論理的な姉。珍しいものに点数をつけていくという変わり者ですが、徐々にさまざまな表情を見せていく姿がとても魅力的です!そのほかにもなんだかんだ副室長に優しい研究員たちや、ちょっとお調子者で世話焼きな海洋生物など、心温まるキャラクターが登場します。
また、夜の海の場面が印象的。真っ黒な海の中に、白く浮かび上がる姉の体と海洋生物たちがミステリアスで、引き込まれる場面です。
そのほかにも、土星の衛星に建てられた女学園での物語や、家出した少年と北国で出会った謎の男の話が描かれます。姿かたちが変わっても、愛しい人と生きようとする健気さが、胸にグッとくる話ばかり。一編ずつ世界観に浸りながら読みたくなる作品です!