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脂質二重層 - Wikipedia

脂質ししつ重層じゅうそう (ししつにじゅうそう、えい: lipid bilayer) は極性きょくせいったうすリン脂質ししつそうになったまく。ほぼすべての生物せいぶつ細胞さいぼうまく基本きほん構造こうぞうとして利用りようされている。

ホスファチジルコリンから脂質ししつ重層じゅうそう断面だんめん

概要がいよう

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コロイドちゅうのリン脂質ししつのとる形態けいたいリポソームミセル脂質ししつ重層じゅうそう

物質ぶっしつには、みずたいしてリンさんなどがつよ極性きょくせいにより親水しんすいせいしめすものと、炭化たんか水素すいそなど極性きょくせいのため疎水そすいせいしめすものとがある。リンさんや、炭化たんか水素すいそカルボキシもとったカルボンさんアルコールエステル結合けつごうするが、たとえば3のアルコールであるグリセロールかいしてリンさんとカルボンさんむすびつくことができ、分子ぶんし親水しんすいせい疎水そすいせいった両親りょうしんなかだちせいしめす。コロイドなか分子ぶんし分子ぶんしあいだりょくはたらしょう球状きゅうじょう集合しゅうごうするとミセルえい: micelle)となり、カプセルじょう集合しゅうごうするとベシクル(えい: vesicle)となる。ベシクルはリポソームえい: Liposome)ともばれる[1]。リポソームでは、外部がいぶとカプセル内部ないぶ親水しんすいせい分子ぶんしはしならべたうす分子ぶんしそうかいわせにじゅうになったまくじょうていする。これを脂質ししつ重層じゅうそうという。このそうは、リポソームの内外ないがいおおきな水溶すいようせい分子ぶんしイオンたいして透過とうかせいしめす。これらの性質せいしつから「疑似ぎじ細胞さいぼう物質ぶっしつ」ともばれる。ただしこのままの成層せいそう分子ぶんしどうしは結合けつごうりょく非常ひじょうよわく、まく不安定ふあんていである。

生物せいぶつ細胞さいぼうまく細胞さいぼうかくまく細胞さいぼうないしょう器官きかんでは、この構造こうぞう内在ないざいせいまくタンパク質たんぱくしつとう脂質ししつくわわって安定あんてい構造こうぞうをとっている。構造こうぞう内部ないぶ物質ぶっしつ拡散かくさんふせぎ、またイオンポンプゆうすることで構造こうぞう内部ないぶしお濃度のうど、pHを調節ちょうせつすることができる。

 
脂質ししつ重層じゅうそうだい部分ぶぶんをしめるリン脂質ししつ分子ぶんし代表だいひょうてき構造こうぞう リン脂質ししつのうち細胞さいぼうまく多数たすうをしめるグリセロリン脂質ししつ基本きほん構造こうぞう。(R)の部分ぶぶん分子ぶんしによってちがい(R)の部分ぶぶんにコリンがつくとホスファチジルコリンになる
 
スフィンゴミエリン リン脂質ししつ分子ぶんしのうちグリセロリン脂質ししつについでおおいリン脂質ししつで、スフィンゴ脂質ししつ分類ぶんるいされるリン脂質ししつ分子ぶんしである
 
一般いっぱんてき細胞さいぼうまく構造こうぞう細胞さいぼうまくはリン脂質ししつ(あかまる黄色きいろい2ほんあし)が無数むすうならんで形成けいせいされるリン脂質ししつ重層じゅうそう各種かくしゅタンパクなどがからんで形成けいせいされる。(着色ちゃくしょく実際じっさいいろとは無関係むかんけいである)

細胞さいぼうまく

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細胞さいぼうまくは、おもにリン脂質ししつ隙間すきまならんだそうじゅうそう形成けいせいしているまく脂質ししつ重層じゅうそうと、繊維状せんいじょうのたんぱくしつ細胞さいぼうまく裏打うらうちして支持しじしているまく骨格こっかく脂質ししつ重層じゅうそうまく骨格こっかく連結れんけつ保持ほじするまく縦貫じゅうかんタンパク質たんぱくしつやアンカータンパク、細胞さいぼうまく貫通かんつう物質ぶっしつ細胞さいぼう内外ないがい交換こうかん役割やくわりをはたすポンプ・キャリア・チャネルとばれるまく縦貫じゅうかんたんぱくしつ情報じょうほうのやりりのためレセプター表面ひょうめん産毛うぶげのようにおお細胞さいぼうあいだ情報じょうほう伝達でんたつや、細胞さいぼうとの接着せっちゃく分離ぶんりにも関係かんけいするとうくさりなどからなっている。[2]

まく脂質ししつ重層じゅうそう

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親水しんすいせいのリンさん部分ぶぶん頭部とうぶ疎水そすいせいである脂肪酸しぼうさんが2ほんがついたのがリン脂質ししつ分子ぶんしである。細胞さいぼう内外ないがいおもみずたされているのでリン脂質ししつ分子ぶんし頭部とうぶ外側そとがわに、みず反発はんぱつする内側うちがわあつさが3.5-5.6ナノメートル[3][注釈ちゅうしゃく 1]程度ていどあつさの2重層じゅうそうつくってならぶ(みぎかくまるあたまに2ほんあしえがかれているのがリン脂質ししつ分子ぶんしで、それが無数むすうならんでいるのが2重層じゅうそうである)。2重層じゅうそうりょう外側そとがわ親水しんすいせいなのでまく全体ぜんたい細胞さいぼう内外ないがい環境かんきょうになじみ、内側うちがわには疎水そすいせい脂肪酸しぼうさん充満じゅうまんしているので細胞さいぼう内外ないがいをしっかり遮断しゃだんすることができる。この脂質ししつ2重層じゅうそう電気でんきてき中性ちゅうせいきわめてちいさな分子ぶんしたとえば酸素さんそ分子ぶんし二酸化炭素にさんかたんそ分子ぶんしとおすが、極性きょくせい水分すいぶんとおりにくく、おおきな分子ぶんしやイオンはとおることができない。[4][5]

リン脂質ししつ分子ぶんし同士どうし結合けつごうはゆるいので、かくリン脂質ししつ分子ぶんし脂質ししつ2重層じゅうそうなかよこ方向ほうこう自由じゆう移動いどうすることができ、さらに血漿けっしょうちゅうのリン脂質ししつ分子ぶんし脂質ししつ2重層じゅうそうはいんだり、ぎゃく血漿けっしょうちゅうることも可能かのうである。また脂質ししつ2重層じゅうそう貫通かんつうしているまく縦貫じゅうかんタンパクやレセプターなどもまく脂質ししつ2重層じゅうそうじょう移動いどうすることができる(まく骨格こっかくにアンカーされているものはまく骨格こっかく自由じゆう範囲はんいないうごける)、実際じっさい、マウスとヒトの細胞さいぼう融合ゆうごうさせる実験じっけんでは細胞さいぼうまくじょう分子ぶんし移動いどうしマウス由来ゆらい分子ぶんしとヒト由来ゆらい分子ぶんしざりうことが確認かくにんされている。[5][6]

このリン脂質ししつ分子ぶんしにはリンさんさきいた分子ぶんしによりホスファチジルコリン(PC)、スフィンゴミエリン(SM)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)などがられている。それぞれの割合わりあい細胞さいぼうによっておおきくことなるが、いちれいとしてもっと解析かいせきすすんでいるヒトの赤血球せっけっきゅうまく脂質ししつ2重層じゅうそうではPCが21%、PSとPEがわせて29%、SMが21%、コレステロールが26%、すう%で構成こうせいされる[7]

ならんだリン脂質ししつ分子ぶんしあいだコレステロールはいむと分子ぶんしうごける自由じゆう低下ていかし、まくかたくなり柔軟じゅうなんせいよわくなる。まく脂質ししつ2重層じゅうそうおおくの部分ぶぶんではコレステロールはおおくはないのでリン脂質ししつ分子ぶんし比較的ひかくてき自由じゆううごけるが、つぎ解説かいせつするまく脂質ししつラフト部分ぶぶんではリン脂質ししつあいだはいんだコレステロールが非常ひじょうおおくなる[8][9]

これらのPCやPS、PE、SMなどのリン脂質ししつ分子ぶんしは2重層じゅうそう外側そとがわ血漿けっしょうがわ)と内側うちがわ細胞さいぼうしつがわ)で分布ぶんぷにムラがあり、たとえば赤血球せっけっきゅうでは外側そとがわにはPC、SMととう脂質ししつおおく、内側うちがわにはPE、PSがおお非対称ひたいしょう分布ぶんぷしている。リン脂質ししつ分子ぶんしまく表裏ひょうりあいだ移動いどうは3種類しゅるい酵素こうそかかわっており、flippaseはPE、PSをまく外側そとがわ(血漿けっしょうがわ)から内側うちがわ(細胞さいぼうしつがわ)に移動いどうさせ、floppaseはすべての脂質ししつ分子ぶんし内側うちがわから外側そとがわ移動いどうさせ、scramblaseはすべての分子ぶんし両方向りょうほうこう混同こんどうする。これらの酵素こうそはたらきによってまく内外ないがいのリン脂質ししつ非対称ひたいしょう分布ぶんぷがなされているとかんがえられている[6][10]非対称ひたいしょう分布ぶんぷひとつの理由りゆうとして、おもなリン脂質ししつのなかでPSは陰性いんせい荷電かでんち、細胞さいぼうしつないのたんぱくしつ陽性ようせい荷電かでん相互そうご作用さようしやすいことが細胞さいぼうまく機能きのう好都合こうつごうであるからだとかんがえられている[11]

まく脂質ししつラフト(Lipid Raft)

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脂質ししつラフト、したがわ細胞さいぼうがい上側うわがわ細胞さいぼうしつがわになる。1.は通常つうじょう脂質ししつ重層じゅうそう、2.脂質ししつラフト、3.4.まく縦貫じゅうかんタンパク、5.とうくさり、6.まくがいタンパク、7.コレステロール、8.とう脂質ししつ

リン脂質ししつ2重層じゅうそうまくじょうには部分ぶぶんよりすこあつさがあつすこかた脂質ししつ2重層じゅうそうじょう移動いどうすることができる領域りょういきがあり、うみかぶいかだたとえられ脂質ししつラフト(Lipid Raft)とばれている。ラフト部分ぶぶんではリン脂質ししつおもにスフィンゴミエリン(SM)で構成こうせいされ、SM分子ぶんしあいだにコレステロール分子ぶんし非常ひじょうおおはいんで分子ぶんしあいだ結合けつごう強化きょうかしている。スフィンゴミエリンの脂肪酸しぼうさん部分ぶぶんはPCやPS、PEよりながいのでラフトは若干じゃっかんあつさをし、コレステロールが分子ぶんしあいだ結合けつごう強化きょうかするのでかたくなる。ラフトではSMとコレステロールのほかに、まく縦貫じゅうかんタンパクやレセプター、とう脂質ししつなどもおお存在そんざいしている。おおくの積荷つみにんだいかだのようなイメージでラフトと通称つうしょうされているが、通常つうじょう脂質ししつ2重層じゅうそうもラフトも、どちらもリン脂質ししつ主要しゅよう構成こうせい分子ぶんしにしているてん海上かいじょうかぶいかだとはちがう。ラフトの直径ちょっけいすうじゅうナノメートル程度ていど赤血球せっけっきゅうまくじょうには多数たすうあり、タンパクやとうくさりなど多種たしゅ分子ぶんしおおせているラフトは細胞さいぼう機能きのうおおきくかかわっている部分ぶぶんだとかんがえられている[12][13]

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ リン脂質ししつ重層じゅうそうあつさにかんしては文献ぶんけんによってことなり、『さんりん血液けつえきびょうがく』p129では7.5ナノメートル、H. Lodish, ちょ分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく』p381では3.5-5.6ナノメートル、日本にっぽん検査けんさ血液けつえき学会がっかいへん『スタンダード検査けんさ血液けつえきがく』では8ナノメートル、『図解ずかい分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく』では3-5ナノメートルなど様々さまざまである。これはまく存在そんざいするタンパクのあつさも影響えいきょうしているとおもわれる。タンパクを考慮こうりょしない脂質ししつ重層じゅうそうのみのあつさは3-6ナノメートルの範囲はんいおもわれる。ここでは『分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく』の数字すうじをあげた。

出典しゅってん

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  1. ^ 実験じっけん医学いがくOnline「ベシクル」
  2. ^ 三輪みわ赤血球せっけっきゅう』p81-98
  3. ^ 分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく』p381
  4. ^ 赤血球せっけっきゅうまく研究けんきゅう』p260
  5. ^ a b 『クーパー細胞さいぼう生物せいぶつがく』p49-51
  6. ^ a b 図解ずかい分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく』p7-8
  7. ^ 分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく』p380
  8. ^ 図解ずかい分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく』p9
  9. ^ 細胞さいぼうまくのしくみ』p44-47
  10. ^ 細胞さいぼうまくのしくみ』p36-39
  11. ^ 赤血球せっけっきゅうまく研究けんきゅう』p258
  12. ^ 図解ずかい分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく』p9-10
  13. ^ 細胞さいぼうまくのしくみ』p48-50

参考さんこう文献ぶんけん

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書籍しょせき

  • 三輪みわ史朗しろう 監修かんしゅう赤血球せっけっきゅう医学書院いがくしょいん、1998ねんISBN 4-260-10946-4
  • Robert K.Murray,Daryl K.Granner,Victor W.Rodwellちょ『ハーパー・生化学せいかがく上代じょうだい淑人よしと監訳かんやく丸善まるぜん、2007ねんISBN 978-4-621-07801-3
  • 八幡はちまん 義人よしひと ちょ赤血球せっけっきゅうまく研究けんきゅう医薬いやくジャーナルしゃ、2007ねんISBN 978-4-7532-2238-4
  • 八幡はちまん 義人よしひと ちょ細胞さいぼうまくのしくみ』はなぼう、2008ねんISBN 978-4-7853-8784-6
  • Geoffrey M.Cooper,Robert E.Hausmanちょ『クーパー細胞さいぼう生物せいぶつがく須藤すとう和夫かずお,,わけ東京とうきょう化学かがく同人どうじん、2008ねんISBN 978-4-8079-0686-4
  • 浅島あさじま まこと駒崎こまざき 伸二しんじ 共著きょうちょ図解ずかい分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがくはなぼう、2010ねんISBN 978-4-7853-5841-9
  • H. Lodish, ちょ分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく石浦いしうらしょういち やく東京とうきょう化学かがく同人どうじん、2010ねんISBN 978-4-8079-0732-8

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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