瑕疵かし

瑕疵かし（かし）とは、通常つうじょう、一般いっぱん的てきには備そなわっているにもかかわらず本来ほんらいあるべき機能きのう・品質ひんしつ・性能せいのう・状態じょうたいが備そなわっていないこと。法ほう概念がいねんとしても用もちいられる。

民法みんぽう上じょうにおける瑕疵かし

民法みんぽう上じょうで「瑕疵かし」の概念がいねんが用もちいられる例れいとして次つぎのような場合ばあいがある。

日本にっぽんの民法みんぽうは、以下いかで条じょう数すうのみ記載きさいする。

瑕疵かしある意思いし表示ひょうじ

→詳細しょうさいは「瑕疵かしある意思いし表示ひょうじ」を参照さんしょう

代理だいり行為こういの瑕疵かし

→詳細しょうさいは「代理だいり」を参照さんしょう

代理だいり行為こういの瑕疵かしとは「意思いし表示ひょうじの効力こうりょくが意思いしの不ふ存在そんざい、詐欺さぎ、強迫きょうはく又またはある事情じじょうを知しっていたこと若もしくは知しらなかったことにつき過失かしつがあったことによって影響えいきょうを受うけるべき場合ばあい」（101条じょう1項こう）をいう。代理だいり行為こういの瑕疵かしについての事実じじつの有無うむは、代理人だいりにんについて決けっする（101条じょう1項こう）。ただし、特定とくていの法律ほうりつ行為こういをすることを委託いたくされた場合ばあいにおいて、代理人だいりにんが本人ほんにんの指図さしずに従したがってその行為こういをしたときや本人ほんにんが過失かしつによって知しらなかった事情じじょうについては本人ほんにんは代理人だいりにんの善意ぜんいを主張しゅちょうできない（101条じょう2項こう）。

瑕疵かしある占有せんゆう

→詳細しょうさいは「占有せんゆう権けん」を参照さんしょう

瑕疵かし担保たんぽ責任せきにん

→詳細しょうさいは「担保たんぽ責任せきにん」を参照さんしょう

売買ばいばいなどの有償ゆうしょう契約けいやくにおいて、契約けいやくの当事とうじ者しゃの一方いっぽう（買主かいぬし）が給付きゅうふ義務ぎむ者しゃ（売主うりぬし）から目的もくてき物ぶつの引渡ひきわたしを受うけた場合ばあいに、その給付きゅうふされた目的もくてき物ぶつについて権利けんり関係かんけいまたは目的もくてき物ぶつそのものに瑕疵かしがあるときには損害そんがい賠償ばいしょうなどの責任せきにんを負おう（561条じょう以下いか。売買ばいばい以外いがいの有償ゆうしょう契約けいやくへの準用じゅんようにつき559条じょう）。これを担保たんぽ責任せきにんというが、このうち目的もくてき物ぶつそのものに隠かくれた瑕疵かしがあった場合ばあいの責任せきにんを瑕疵かし担保たんぽ責任せきにんという（570条じょう、566条じょう）。

瑕疵かし担保たんぽ責任せきにんでいう隠かくれた瑕疵かしとは、買主かいぬしが取引とりひき上じょうにおいて一般いっぱん的てきに要求ようきゅうされる程度ていどの通常つうじょうの注意ちゅういを払はらっても知しり得えない瑕疵かしを指さし、買主かいぬしは善意ぜんい・無む過失かしつであることが必要ひつようである（通説つうせつ・判例はんれい）^[1]^[2]^[3]。瑕疵かしは取引とりひき通念つうねんからみて通常つうじょうであれば同種どうしゅの物ものが有ゆうするべき品質ひんしつ・性能せいのうを欠かいており欠陥けっかんが存在そんざいすることをいう^[4]^[5]^[3]。契約けいやくに先立さきだって売主うりぬしが見本みほんや広告こうこくを用もちいて一定いっていの品質ひんしつや性能せいのうを保証ほしょうした場合ばあいには、その基準きじゅんに至いたらなければ瑕疵かしとなる（大判おおばん大だい15・5・24民みん集しゅう5巻かん433頁ぺーじ）^[6]^[5]^[7]^[8]。なお、法律ほうりつ上じょうの瑕疵かしにつき判例はんれいは瑕疵かし担保たんぽ責任せきにんの問題もんだいとするが、多数たすう説せつは566条じょうの類推るいすい適用てきようによるべきとする^[9]^[10]^[11]^[12]。

瑕疵かし担保たんぽ責任せきにんの内容ないようは契約けいやくの解除かいじょや損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅうであるが、担保たんぽ責任せきにんの法的ほうてき性質せいしつについては、法定ほうてい責任せきにん説せつ、契約けいやく責任せきにん説せつ（債務さいむ不履行ふりこう責任せきにん説せつ）、危険きけん負担ふたん的てき減額げんがく請求せいきゅう権けん説せつが対立たいりつし、学説がくせつごとに瑕疵かし担保たんぽ責任せきにんの適用てきよう範囲はんいや損害そんがい賠償ばいしょうの範囲はんいなどについて見解けんかいを異ことにする^[13]^[4]^[14]^[15]^[16]。瑕疵かし担保たんぽ責任せきにんに基もとづく契約けいやくの解除かいじょ又または損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅうは、買主かいぬしが事実じじつを知しった時ときから1年ねん以内いないにしなければならない（570条じょう、566条じょう3項こう）。

その他たの契約けいやく上じょうの目的もくてき物ぶつの瑕疵かしについての規定きてい・法律ほうりつ

贈与ぞうよ者しゃの担保たんぽ責任せきにん（551条じょう）
消費しょうひ貸借たいしゃくにおける貸主かしぬしの担保たんぽ責任せきにん（590条じょう）
請負人うけおいにんの担保たんぽ責任せきにん（634条じょう、635条じょう、636条じょう、637条じょう、638条じょう）
寄託きたく者しゃによる損害そんがい賠償ばいしょう（661条じょう）
商人しょうにん間あいだの瑕疵かし担保たんぽ責任せきにんの特とく則そく（買主かいぬしによる目的もくてき物ぶつの検査けんさ及および通知つうち義務ぎむ（商法しょうほう526条じょう）
商人しょうにん間あいだの売買ばいばいにおいて、買主かいぬしは、その売買ばいばいの目的もくてき物ぶつを受領じゅりょうしたときは、遅滞ちたいなく、その物ものを検査けんさしなければならない。

前項ぜんこうに規定きていする場合ばあいにおいて、買主かいぬしは、同どう項こうの規定きていによる検査けんさにより売買ばいばいの目的もくてき物ぶつに瑕疵かしがあること又またはその数量すうりょうに不足ふそくがあることを発見はっけんしたときは、直ただちに売主うりぬしに対たいしてその旨むねの通知つうちを発はっしなければ、その瑕疵かし又または数量すうりょうの不足ふそくを理由りゆうとして契約けいやくの解除かいじょ又または代金だいきん減額げんがく若もしくは損害そんがい賠償ばいしょうの請求せいきゅうをすることができない。売買ばいばいの目的もくてき物ぶつに直ただちに発見はっけんすることのできない瑕疵かしがある場合ばあいにおいて、買主かいぬしが六ろく箇月かげつ以内いないにその瑕疵かしを発見はっけんしたときも、同様どうようとする。

前項ぜんこうの規定きていは、売主うりぬしがその瑕疵かし又または数量すうりょうの不足ふそくにつき悪意あくいであった場合ばあいには、適用てきようしない。
宅地たくち建物たてもの取引とりひき業法ぎょうほう40条じょう
宅地たくち又または建物たてものに関かんしては、売主うりぬしが業者ぎょうしゃの場合ばあい、目的もくてき物ぶつの引渡ひきわたしの日ひから2年ねん以上いじょうとなる特約とくやくをする場合ばあい以外いがいの買主かいぬしに不利ふりとなる特約とくやくは、無効むこうとなる。
特定とくてい住宅じゅうたく瑕疵かし担保たんぽ責任せきにんの履行りこうの確保かくほ等とうに関かんする法律ほうりつ

土地とち工作こうさく物ぶつの瑕疵かし

→詳細しょうさいは「工作こうさく物ぶつ責任せきにん」を参照さんしょう

717条じょう

土地とち工作こうさく物ぶつの設置せっち・保存ほぞんに瑕疵かしがあること、あるいは、竹たけ木きの栽植又または支持しじの瑕疵かしによって他人たにんに損害そんがいを生しょうじたときは、その工作こうさく物ぶつの占有せんゆう者しゃは損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにんを負おう。占有せんゆう者しゃが損害そんがいの発生はっせいを防止ぼうしするのに必要ひつような注意ちゅういをしたときは、所有しょゆう者しゃが損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにんを負おう。ただし、損害そんがいの原因げんいんについて他ほかにその責任せきにんを負おう者ものがあるときは、占有せんゆう者しゃ又または所有しょゆう者しゃは、その者ものに対たいして求償きゅうしょう権けんを行使こうしすることができる。

行政ぎょうせい行為こういの瑕疵かし

→詳細しょうさいは「行政ぎょうせい行為こうい § 瑕疵かしある行政ぎょうせい行為こうい」を参照さんしょう

行政ぎょうせい行為こうい（行政ぎょうせい処分しょぶん）は法律ほうりつに従したがって行おこなわなければならない（法律ほうりつの留保りゅうほ）。しかしその処分しょぶんが有効ゆうこうに成立せいりつするためには、法律ほうりつ上じょう不能ふのうでないこと、法令ほうれいに違反いはんしていないこと（法律ほうりつの優位ゆうい）が前提ぜんていである。その上うえで、権限けんげんのある行政ぎょうせい機関きかんによる執行しっこうがなされなければならない。以上いじょうの要件ようけんのいずれかを欠かくときは、その行政ぎょうせい処分しょぶんは違法いほうな処分しょぶんとなり、これを「瑕疵かしある行政ぎょうせい処分しょぶん」という。

瑕疵かしある行政ぎょうせい処分しょぶんは、その瑕疵かしが重大じゅうだい明白めいはくでない限かぎり、無効むこうとはならない。これは、命令めいれいされた国民こくみんが、違法いほうであるからと考かんがえて、それを無視むしできるとすれば、混乱こんらんを生しょうじ、公益こうえき確保かくほが困難こんなんになるからである。

さらに、行政ぎょうせい庁ちょうの行為こういは公益こうえきを目的もくてきとしているという前提ぜんていがあるために、適法てきほう性せいの推定すいていが働はたらく。よって、国民こくみんは違法いほうであると考かんがえながらも、権限けんげんのある機関きかん（行政ぎょうせい庁ちょうや裁判所さいばんしょ）がその処分しょぶんを取とり消けすまでは、その処分しょぶんに従したがわなくてはならない。これを「行政ぎょうせい処分しょぶんの公定こうてい力りょく」という。

以上いじょうのように、行政ぎょうせい行為こういの瑕疵かしは、行政ぎょうせい行為こういを無効むこうとする瑕疵かしと、行政ぎょうせい行為こういの取消とりけし原因げんいんとなる瑕疵かしとに分わかれる。それぞれ、行政ぎょうせい訴訟そしょうにおいて効力こうりょくを争あらそう場合ばあいの具体ぐたい的てき方法ほうほうが異ことなる。

行政ぎょうせい行為こういの瑕疵かしは、違法いほう性せい、合ごう目的もくてき性せいを回復かいふくするため職権しょっけんで取とり消けすことが出来でき、取とり消けすと遡及そきゅうして最初さいしょから無なかったことになる。しかし、裁断さいだん手続てつづきを経へて発はっせられた行政ぎょうせい行為こういは、不可ふか変更へんこう力りょくが発生はっせいしているので処分しょぶん庁ちょうは、取とり消けすことが出来できない。

また、国民こくみんに権利けんり利益りえきを与あたえる受益じゅえき的てき行政ぎょうせい行為こういや第三者だいさんしゃに法的ほうてき利益りえきを与あたえる複ふく効こう的てき行政ぎょうせい行為こういは、相手あいての既得きとく権益けんえきや信頼しんらいを上回うわまわる特別とくべつの公益こうえき上じょうの必要ひつよう性せいがなければ、職権しょっけんで取とり消けすことができない。

脚注きゃくちゅう

^ 遠藤えんどう浩ひろし・原島はらしま重義しげよし・水本みずもと浩ひろし・川井かわい健けん・広中ひろなか俊雄としお・山本やまもと進一しんいち著ちょ　『民法みんぽう6 契約けいやく各論かくろん第だい4版はん』　有斐閣ゆうひかく〈有斐閣ゆうひかく双書そうしょ〉、1997年ねん4月がつ、52頁ぺーじ
^ 我妻あづま栄さかえ・有泉ありいずみ亨とおる・川井かわい健けん著ちょ　『民法みんぽう2　債権さいけん法ほう　第だい2版はん』　勁草書房しょぼう、2005年ねん4月がつ、284頁ぺーじ
^ ^a ^b 大島おおしま俊之としゆき・下村しもむら正明まさあき・久保くぼ宏之ひろゆき・青野あおの博之ひろゆき著ちょ　『プリメール民法みんぽう4 第だい2版はん』　法律文化社ほうりつぶんかしゃ〈αあるふぁブックス〉、2003年ねん3月がつ、64頁ぺーじ
^ ^a ^b 川井かわい健けん著ちょ　『民法みんぽう概論がいろん4 債権さいけん各論かくろん補ほ訂てい版ばん』　有斐閣ゆうひかく、2010年ねん12月、160頁ぺーじ
^ ^a ^b 遠藤えんどう浩ひろし・原島はらしま重義しげよし・水本みずもと浩ひろし・川井かわい健けん・広中ひろなか俊雄としお・山本やまもと進一しんいち著ちょ　『民法みんぽう6 契約けいやく各論かくろん第だい4版はん』　有斐閣ゆうひかく〈有斐閣ゆうひかく双書そうしょ〉、1997年ねん4月がつ、50頁ぺーじ
^ 川井かわい健けん著ちょ　『民法みんぽう概論がいろん4 債権さいけん各論かくろん補ほ訂てい版ばん』　有斐閣ゆうひかく、2010年ねん12月、160-161頁ぺーじ
^ 我妻あづま栄さかえ・有泉ありいずみ亨とおる・川井かわい健けん著ちょ　『民法みんぽう2　債権さいけん法ほう　第だい2版はん』　勁草書房しょぼう、2005年ねん4月がつ、283-284頁ぺーじ
^ 大島おおしま俊之としゆき・下村しもむら正明まさあき・久保くぼ宏之ひろゆき・青野あおの博之ひろゆき著ちょ　『プリメール民法みんぽう4 第だい2版はん』　法律文化社ほうりつぶんかしゃ〈αあるふぁブックス〉、2003年ねん3月がつ、63頁ぺーじ
^ 大島おおしま俊之としゆき・下村しもむら正明まさあき・久保くぼ宏之ひろゆき・青野あおの博之ひろゆき著ちょ　『プリメール民法みんぽう4 第だい2版はん』　法律文化社ほうりつぶんかしゃ〈αあるふぁブックス〉、2003年ねん3月がつ、65頁ぺーじ
^ 近江おうみ幸治こうじ著ちょ　『民法みんぽう講義こうぎⅤ 契約けいやく法ほう第だい3版はん』　成文せいぶん堂どう、2006年ねん10月がつ、145頁ぺーじ
^ 川井かわい健けん著ちょ　『民法みんぽう概論がいろん4 債権さいけん各論かくろん補ほ訂てい版ばん』　有斐閣ゆうひかく、2010年ねん12月、161頁ぺーじ
^ 遠藤えんどう浩ひろし・原島はらしま重義しげよし・水本みずもと浩ひろし・川井かわい健けん・広中ひろなか俊雄としお・山本やまもと進一しんいち著ちょ　『民法みんぽう6 契約けいやく各論かくろん第だい4版はん』　有斐閣ゆうひかく〈有斐閣ゆうひかく双書そうしょ〉、1997年ねん4月がつ、51頁ぺーじ
^ 近江おうみ幸治こうじ著ちょ　『民法みんぽう講義こうぎⅤ 契約けいやく法ほう第だい3版はん』　成文せいぶん堂どう、2006年ねん10月がつ、139頁ぺーじ以下いか
^ 遠藤えんどう浩ひろし・原島はらしま重義しげよし・水本みずもと浩ひろし・川井かわい健けん・広中ひろなか俊雄としお・山本やまもと進一しんいち著ちょ　『民法みんぽう6 契約けいやく各論かくろん第だい4版はん』　有斐閣ゆうひかく〈有斐閣ゆうひかく双書そうしょ〉、1997年ねん4月がつ、53頁ぺーじ以下いか
^ 大島おおしま俊之としゆき・下村しもむら正明まさあき・久保くぼ宏之ひろゆき・青野あおの博之ひろゆき著ちょ　『プリメール民法みんぽう4 第だい2版はん』　法律文化社ほうりつぶんかしゃ〈αあるふぁブックス〉、2003年ねん3月がつ、67頁ぺーじ以下いか
^ 我妻あづま栄さかえ・有泉ありいずみ亨とおる・川井かわい健けん著ちょ　『民法みんぽう2　債権さいけん法ほう　第だい2版はん』　勁草書房しょぼう、2005年ねん4月がつ、289頁ぺーじ以下いか