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秘教 - Wikipedia

秘教ひきょう(ひきょう、えい: esotericismふつ: ésotérisme)とは、だい1に「秘伝ひでんてきな」「奥義おうぎてきな」「えらばれた少数しょうすうしゃだけの」 (esoteric) と、だい2に「深遠しんえんなこと」「難解なんかいなこと」との、2とおりの意味いみゆうする。英語えいごの esotericism(仏語ふつごの ésotérisme)は、ギリシアσしぐまωおめが (エソー、「内部ないぶに」) を語幹ごかんとする ἐσωτερικός (エソーテリコス、「より内部ないぶ関係かんけいする」) からしょうじたものである。対義語たいぎごは、「おおやけきょうまと」「顕教けんぎょうまと」「公開こうかいてき」「通俗つうぞくてき」 (exoteric) である。

エソテリック(「秘教ひきょうてき」「秘伝ひでんてき」「奥義おうぎてき」)な知識ちしきとは、辞書じしょてき意味いみにおいては、「教化きょうかされた」「賢明けんめいな」あるいは特別とくべつ教育きょういくされた人々ひとびとせまいサークルにのみ入手にゅうしゅ可能かのう知識ちしきである。秘教ひきょうてき事柄ことがらは "esoterica" ともばれる。反対はんたいエクソテリック(「おおやけきょうてき」「公開こうかいてき」「通俗つうぞくてき」)な知識ちしきとは、よくられている知識ちしき、つまりおおやけ(おおやけ)になっている知識ちしきであり、もしくはおおよそ社会しゃかい一般いっぱん不文ふぶんりつてき了解りょうかいされている知識ちしきである。

思想しそう史上しじょう秘教ひきょう

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宗教しゅうきょうがく思想しそうなどの学術がくじゅつてき文脈ぶんみゃくにおいては、エソテリシズムはグノーシス主義しゅぎヘルメス主義しゅぎ魔術まじゅつ占星術せんせいじゅつ錬金術れんきんじゅつ薔薇ばらじゅう思想しそう (Rosicrucianism)、ヤーコプ・ベーメとその追従ついしょうしゃたちのキリスト教きりすときょうかみ智学ちがく、18世紀せいきフランスで盛行せいこうしたイリュミニスムフランス語ふらんすごばんメスメリズム (Mesmerism)、スウェーデンボルグせつ心霊しんれい主義しゅぎブラヴァツキー夫人ふじんとその追従ついしょうしゃたちにむすけられる神智しんちがくしょ思潮しちょうなどをふくむ、歴史れきしてき関連かんれんした一連いちれん宗教しゅうきょうてきしょ潮流ちょうりゅうしめす。これらのしょ潮流ちょうりゅうむすびつけている共通きょうつうてき特徴とくちょうかんしてはさまざまな意見いけんがあるが、いずれの意見いけんも「内奥ないおうせい」(れいせい)、神秘しんぴせい秘密ひみつせいといったものを決定的けっていてき特徴とくちょうげていない。オカルティズムかくれがく)はエソテリシズムとは区別くべつされるべき概念がいねんであるが、実際じっさいにはエソテリシズムとおな意味いみ言葉ことばとして使つかわれていることが多々たたある[1]

日本にっぽんでは一般いっぱんにエソテリシズムのかたり秘教ひきょうという訳語やくごてられるが、密教みっきょうやくされることもある(たとえばユダヤきょう神知しんちろんであるカバラをユダヤ密教みっきょう場合ばあいがある)。一般いっぱん日本にっぽんでは密教みっきょうという言葉ことばは「秘密ひみつ仏教ぶっきょう」のことをし、その英訳えいやくEsoteric Buddhism である。

かたり起源きげん

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プラトン対話たいわへん『アルキビアデス』(紀元前きげんぜん390ねんごろ)において「うちなるもの」を意味いみする ta esô (タ・エソー)という表現ひょうげん使つかい、対話たいわへん『テアイテトス』(紀元前きげんぜん360ねんごろ)では「そとなるもの」の意味いみta eksô (タ・エクソー)をもちいた。 ギリシャ形容詞けいようし esôterikos (エソーテリコス)の最初さいしょ用例ようれいおもわれるのは紀元きげん166ねんごろかれたルキアノスの「いのち競売きょうばい」26しょう(「哲学てつがく諸派しょはて」ともばれる)にある。

「エソテリック」 (esoteric) というかたり英語えいごにおける初出しょしゅつは、1701ねん、トーマス・スタンリーによる『哲学てつがく』での、ピュタゴラス神秘しんぴ主義しゅぎ学派がくはについての記述きじゅつである。その記述きじゅつによればピュタゴラス教団きょうだんは、教育きょういくちゅうexotericそとひと)と、「内部ないぶの」サークルのなかはいることをゆるされる esotericうちひと)にけられていた。フランス語ふらんすごにおける形容詞けいようしのエゾテリック(ésotérique)に対応たいおうする名詞めいし「エゾテリスム」 (ésotérisme) は、ジャック・マテール (Jacques Matter) が1828ねん造語ぞうごしたもので[2]エリファス・レヴィが1850年代ねんだいにこれをもちいたことにより普及ふきゅうした[3]。その英語えいごがた「エソテリシズム」 (esotericism) は、1880年代ねんだい神智しんち学者がくしゃアルフレッド・シネット (Alfred Percy Sinnett) の著作ちょさくつうじて英語えいごけん導入どうにゅうされた。日本にっぽんにおいてはフランス語ふらんすご文献ぶんけんによる紹介しょうかいおおかったこともあり、「エゾテリスム」のかたちおおもちいられている。

学問がくもんてき意味いみでのエソテリシズム、すなわち「秘教ひきょう」という言葉ことばしめ種々しゅじゅしょ潮流ちょうりゅう一元化いちげんかするものはなにであるかということにかんしてはあらそいがあり、様々さまざま見解けんかいがあるが、なかでももっと影響えいきょうりょくのある見解けんかいはけだしアントワーヌ・フェーヴル英語えいごばん提案ていあんしたものであろう。かれ定義ていぎは、これらのしょ潮流ちょうりゅうなかつぎの4つの本質ほんしつてき特徴とくちょうそんすることにもとづいている[4]

  • 照応しょうおう(コレスポンダンス)の理論りろん
  • 自然しぜんきている全体ぜんたいであるという信念しんねん
  • 想像そうぞうりょく媒体ばいたい - 霊的れいてき知識ちしきせっするために(シンボルあるいはビジョンのような)要素ようそ媒体ばいたいとしようとするような想像そうぞうりょく
  • この知識ちしき到達とうたつするときの個人こじんてき変成へんせい(トランスミュタシオン、Transmutation)の感覚かんかく

これに2つのこれほど決定的けっていてきでない特徴とくちょうくわえられる。

  • 和協わきょう(コンコルダンス)の実践じっせん - ことなった伝統でんとうあいだ一致いっちする共通きょうつう要素ようそがあることをしめし、より知識ちしき獲得かくとくしようとするうごき。
  • 伝授でんじゅ重要じゅうようせい強調きょうちょう - 秘教ひきょうはしばしばイニシエーション要素ようそくわえ、伝授でんじゅされた知識ちしきこそ有効ゆうこうで、それにはみちびしゅ必要ひつようであるとかんがえる。

しかしながらフェーヴルの定義ていぎも、言葉ことば最適さいてき用法ようほうについていくつかある多様たよう見解けんかいのひとつである、ということは強調きょうちょうしておかねばならない。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ アントワーヌ・フェーブル「オカルティズムとはなにか」『エリアーデ・オカルト事典じてん』 13-14ぺーじ
  2. ^ 竹下たけした節子せつこかみろん - せんねん混沌こんとん相克そうこくえて』 中央公論ちゅうおうこうろんしんしゃ、2010ねん、124ぺーじ
  3. ^ ミルチャ・エリアーデぬしへん 『エリアーデ・オカルト事典じてん』 pp. 75–76 (アントワーヌ・フェーヴル「エソテリシズム」)
  4. ^ 『エゾテリスム思想しそう』、17-25ぺーじ

参考さんこう文献ぶんけん

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  • アントワーヌ・フェーヴル(田中たなか義廣よしひろやく)『エゾテリスム思想しそう白水しろみずしゃ文庫ぶんこクセジュ、1995ねん。(Antoine Faivre, L'ésotérisme , Paris, PUF, "Que Sais-je ?", 1992)

関連かんれん文献ぶんけん

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  • 岡部おかべ雄三ゆうぞう 『ヤコブ・ベーメと神智しんちがく展開てんかい岩波書店いわなみしょてん、2010ねん
  • 田中たなか千惠子ちえこ 『『フランケンシュタイン』とヘルメス思想しそう - 自然しぜん魔術まじゅつ崇高すうこう・ゴシック』 水声すいせいしゃ、2015ねん
  • フリッチョフ・シュオン 『形而上学けいじじょうがくとエゾテリスム』 漆原うるしばらけんやく春秋しゅんじゅうしゃ、2015ねん
  • 大田おおた俊寛としひろ現代げんだいオカルトの根源こんげん - れいせい進化しんかろんひかりやみ筑摩書房ちくましょぼう〈ちくま新書しんしょ〉、2013ねん ISBN 978-4-480-06725-8

関連かんれん項目こうもく

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秘教ひきょう思想家しそうか

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秘教ひきょう史家しか

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外部がいぶリンク

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