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膜構造 - Wikipedia

まく構造こうぞう(まくこうぞうmembrane structure)は、その材料ざいりょうによって分類ぶんるいした場合ばあい建築けんちく構造こうぞうひとつ。もっぱ引張ひっぱざいであるまく材料ざいりょうとその圧縮あっしゅく部材ぶざいわせて構成こうせいするという手法しゅほうであり、おも形式けいしきとしてつるし構造こうぞう(サスペンション構造こうぞう)骨組ほねぐみまく構造こうぞう空気くうきまく構造こうぞう(エアサポート構造こうぞう、ニューマチック構造こうぞう) がある。博覧はくらんかいのパビリオン・倉庫そうこ・ショッピングモール・競技きょうぎじょう駅舎えきしゃホーム上屋うわやふくむ)などに使つかわれ、とくだい空間くうかん建築けんちくぶつでその利点りてん発揮はっきする。

東京とうきょうドーム (空気くうきまく構造こうぞう)
ミュンヘン・オリンピアシュタディオン (つるし構造こうぞう)
アメリカ・デンバー国際こくさい空港くうこう
えきホーム上屋うわや(神奈川かながわけん江田えだえき)

歴史れきし 編集へんしゅう

ぬの皮革ひかくなどのまくじょう部材ぶざいロープったり、骨組ほねぐみけたりして雨露うろをしのぐという行為こうい自体じたいは、古来こらいよりテント天幕てんまくというかたち世界せかい各地かくちにみられたものである。しかし、これが建築けんちくがく構造こうぞう力学りきがく文脈ぶんみゃくあつかわれるようになったのはごく最近さいきん20世紀せいき以降いこうのことであった。それまで学問がくもんとしてあつかわれてきた建築けんちくぶつは、かたく、頑丈がんじょうなものばかりであった。

まく構造こうぞう本格ほんかくてき構造こうぞう形式けいしきとして確立かくりつした人物じんぶつとして、建築けんちくフライ・オットーげられる。20世紀せいき後半こうはんかれ石鹸せっけんまく使つかった実験じっけんなどをかさねながら、かろやかでだいらかな建築けんちくぶつ設計せっけいしていった。「建築けんちくぶつ」として評価ひょうかされ、もちいられるようになったまく構造こうぞうは、煉瓦れんがはがねコンクリートなどで工夫くふうかさねて実現じつげんしてきただいスパン構への、ひとつのあたらしいかいとなった。とくに、100m以上いじょうのスパンをはしらなしでばすことのできる技術ぎじゅつとして、競技きょうぎじょう屋根やねなどにこのんでもちいられる。

分類ぶんるい 編集へんしゅう

まく構造こうぞう建築けんちくぶつには、以下いかのような形式けいしきがある。まく引張ひっぱのみに部材ぶざいであり、まく単独たんどく構造こうぞうりたせることは不可能ふかのうである。まくはしら骨組ほねぐみ内気うちきなどの圧縮あっしゅく部材ぶざいわせることになる。なお、以下いかのように厳密げんみつ分類ぶんるいできるとはかぎらない。空気くうきまく構造こうぞう形態けいたいでありながら骨組ほねぐみつもの、マストでったものなど、これらのふくあい構造こうぞう存在そんざいする。

つるし構造こうぞう 編集へんしゅう

サスペンション(suspension)構造こうぞうともいう。マストとうててケーブルり、まく材料ざいりょう上方かみがたからるという、「テント」のような構造こうぞう重力じゅうりょく自然しぜんかんじさせるしなやかな曲面きょくめんかした意匠いしょう実現じつげん可能かのうである。ごうきょうかべなどのうえ屋根やねをかけるものもある一方いっぽう博覧はくらんかい広場ひろば鉄道てつどうえき屋根やね競技きょうぎじょうのスタンドのように、つよしきょう構造こうぞうをもたず自由じゆう出入でいりの可能かのうなものもある。そのにも設営せつえい容易たやすさをかした仮設かせつ倉庫そうこやイベント会場かいじょう (テントにちかい) といった具合ぐあいに、用途ようとひろい。ミュンヘン・オリンピック競技きょうぎじょうおよび公園こうえん (設計せっけい:フライ・オットー) などのれいがある。
※なお、「つるし構造こうぞう自体じたいまく以外いがい材料ざいりょうにも使つかわれる構造こうぞう形態けいたいであり、そのれいとして代々木よよぎだいいち体育館たいいくかん(設計せっけい:丹下たんげ健三けんぞう)がある。

骨組ほねぐみまく構造こうぞう 編集へんしゅう

鉄骨てっこつづくり木造もくぞうなどの骨組ほねぐみつくってまくる。「提灯ちょうちん」をイメージするといだろう。北京ぺきんオリンピック水泳すいえい競技きょうぎようスタジアム「北京ぺきん国家こっか水泳すいえいセンター」(「みず立方りっぽう」の愛称あいしょうばれる)は、はがねせいのフレームにはん透明とうめいまくってふくらませ、水泡すいほうつつまれたような空間くうかん創出そうしゅつしている。簡易かんい骨組ほねぐみまくけた鉄道てつどうえき上屋うわや競技きょうぎじょうのキャノピーなどのれいおおくみられる。

空気くうきまく構造こうぞう 編集へんしゅう

エアサポート(air-supported)構造こうぞう、ニューマチック(pneumatic)構造こうぞうともいう。まく材料ざいりょうまたはまく材料ざいりょうおよび補強ほきょうケーブルで屋根やね構成こうせいし、屋内おくない気圧きあつそとよりわずかにたかくすることによって支持しじする、もしくは、そうまくをキルティングじょうふくらませ、なか空気くうきわせて剛性ごうせいったかべのようにあつかう、おおきな「風船ふうせん」のような形状けいじょう。しかし、風船ふうせん空気くうき充填じゅうてんしてせんをする密閉みっぺいがた構造こうぞうであることにたいし、この構造こうぞう送風そうふうとう常時じょうじ空気くうきまくない供給きょうきゅうまくない気圧きあつ維持いじするという、風船ふうせんとはあきらかにちがうものである。この構造こうぞうもちいる材料ざいりょうには、とくに気密きみつせい要求ようきゅうされる。広大こうだいはしら空間くうかんをつくれるため、とく屋内おくない競技きょうぎじょう屋根やねとしてこのんでもちいられる。内外ないがい圧力あつりょく屋根やねげる形式けいしきには東京とうきょうドーム(日本にっぽん東京とうきょう)、剛性ごうせいったかべとしてもちいた形式けいしきにはアリアンツ・アレナ(ドイツミュンヘン)などのれいがある。

材質ざいしつ 編集へんしゅう

材質ざいしつおも人工じんこう繊維せんいであり、ガラス繊維せんいポリエステル繊維せんいまくなどさまざまな種類しゅるい使つかわれている。ただし、これらの材料ざいりょう単独たんどくでは紫外線しがいせん曝露ばくろなどにより劣化れっかしょうじる。恒久こうきゅうてき使用しようされる建築けんちくぶつ場合ばあいは、とくたいこうせい重視じゅうしして合成ごうせい樹脂じゅし (ポリ塩化えんかビニル樹脂じゅし、4フッエチレン樹脂じゅしとう) で繊維せんいをコーティングした コーテッドファブリックもちいる。耐用たいよう年数ねんすうとしてはポリ塩化えんかビニル樹脂じゅしせいのコーテッドファブリックのほうみじかい。その一方いっぽうで4フッエチレンコーテッドファブリックは、アメリカでは40年間ねんかんじゃく長期ちょうきにわたりたいこうせい維持いじしている事例じれいもある。

構造こうぞう維持いじするためにもとめられるのは引張ひっぱ強度きょうどである。その性能せいのうとして防水ぼうすいせい耐火たいかせいなどが要求ようきゅうされるほか、とおるひかりせい材料ざいりょうもちいる場合ばあいは、紫外線しがいせんのカットなどを考慮こうりょする必要ひつようがあり、空気くうきまく構造こうぞうではとくに、構造こうぞうじょう気密きみつせい重要じゅうようとなる。

特徴とくちょう 編集へんしゅう

 
メトロドーム屋根やね
とおるひかりせいのある素材そざい使つかえる
はん透明とうめい材料ざいりょうおおきな面積めんせきをカバーすることが可能かのうである。自然しぜんこうれたあかるい大空おおぞらあいだ構成こうせいするのにてきしている。また、ぎゃくに、夜間やかん屋内おくない照明しょうめい透過とうかさせ、屋根やね全体ぜんたい巨大きょだい提灯ちょうちんのようにライトアップするという演出えんしゅつ可能かのうである。
安全あんぜんせい
コンクリートやかわらなどにくらべ、屋根やね荷重かじゅう圧倒的あっとうてきちいさいため、地震じしんなどで倒壊とうかいしにくい。まんいち倒壊とうかいした場合ばあいでも、おもかべ屋根やね下敷したじきになる危険きけんせいひくく、人的じんてき物的ぶってき被害ひがい発生はっせいしにくい。
デザインの柔軟じゅうなん
はしらはりおおれる必要ひつようがない。軽量けいりょうこう強度きょうどかして、だいスパンの構が可能かのうである。また、曲面きょくめんもちいた意匠いしょうにもてきしている。
経済けいざいせいたか設計せっけい施工しこう
ていコストの材料ざいりょう大空おおぞらあいだ実現じつげんすることができ、また、工期こうき構造こうぞうくらべて短縮たんしゅくすることができる。まく構造こうぞう普及ふきゅうする以前いぜんは、スパンがおおきくなるほどにだい断面だんめんはり必要ひつようとなり、「コストはスパンのじょう比例ひれいする」というのが定説ていせつであった。軽量けいりょうであり、かさらないため、輸送ゆそうコストもおさえることができる。仮設かせつ倉庫そうこなどにもてきしている。一方いっぽうで、意匠いしょうてきにもったものにはコストをかける必要ひつようがある。ドイツアリアンツ・アレナ(ヘルツォーク&ド・ムーロン設計せっけい)はそう工費こうひやく370おくえんとうじて建造けんぞうされた。また、恒久こうきゅうてきもちいる建築けんちくぶつたいこうせいおと材料ざいりょうもちいてしまうと、紫外線しがいせん曝露ばくろなどで劣化れっかしたまく材料ざいりょう交換こうかんする必要ひつようることがある。

短所たんしょ 編集へんしゅう

まく構造こうぞう建築けんちくぶつには、がいして以下いかのような問題もんだいてんがある。これらを解消かいしょうするか、これらが問題もんだいとならない用途ようと立地りっちもちいる必要ひつようがある。

  • 開口かいこうがとりにくい。
  • 断熱だんねつ防音ぼうおん遮音しゃおん性能せいのうをもつそう構成こうせいするのが困難こんなんまく単体たんたいではこれらの性能せいのう十分じゅうぶん期待きたいできない。
  • たたえすいのダメージをけやすいので、積雪せきせつ荷重かじゅうふう荷重におもたい慎重しんちょう設計せっけいもとめられる。雨水あまみずゆき適切てきせつ排除はいじょされずにまくじょうみずたまりを形成けいせいすると、おおきな荷重かじゅうがかかってまく破壊はかいする。ニューマチック構造こうぞうミネソタメトロドームは、積雪せきせつまくやぶれ、しぼんでしまうという事故じここした。

まく構造こうぞう建築けんちくぶつ設計せっけい施工しこう 編集へんしゅう

まく材料ざいりょうには以下いかのような特性とくせいがある。

  • まく圧縮あっしゅく応力おうりょくつたえない。
  • まく応力おうりょくつたえない。
  • まく自重じちょうつ。

まく構造こうぞう建築けんちくぶつ設計せっけいにおいてとく重要じゅうようとなるのは、まく材料ざいりょうあたえる張力ちょうりょく調整ちょうせいである。れいとして、水平すいへいいたシーツのようなぬのゆび一本いっぽんしたからいてげる様子ようすおもかべてみるとい。そのぬのがぴんとられた状態じょうたい (初期しょき張力ちょうりょくおおきい) であれば、ぬのよん角錐かくすいちか形状けいじょうていしながらがる。しかしぬのがたるんだ状態じょうたい (初期しょき張力ちょうりょくちいさい) でおなじような動作どうさをすれば、今度こんどぬのゆるやかな曲面きょくめんえがくようにがる。このようにまくあたえる張力ちょうりょく変化へんかさせることで、その形態けいたいおおいに変化へんかする。想定そうていする形状けいじょう実現じつげんするには、必要ひつよう張力ちょうりょく算定さんていし、厳密げんみつ初期しょき張力ちょうりょくくわえる必要ひつようがある。

施工しこうにおいては、徐々じょじょかたち出来上できあがって完成かんせいがたちかづいてゆく木造もくぞう石造せきぞう・コンクリートづくりなどの建築けんちくぶつとはことなり、まく構造こうぞう建築けんちくぶつでは最終さいしゅう段階だんかいまでその形状けいじょうあらわれてこない場合ばあいもある。とくにエアサポート構造こうぞうでは、加圧かあつして屋根やねふくらませる「インフレート」という工程こうてい最後さいごのわずか数時間すうじかんおこなう。競技きょうぎじょうとして著名ちょめい東京とうきょうドームは、1987ねん6月28にち早朝そうちょう、2あいだはんほどでふくらまされた。[1]

まく構造こうぞう設備せつび 編集へんしゅう

まく構造こうぞう建築けんちくぶつでも、構造こうぞう形式けいしき同様どうよう空調くうちょう温熱おんねつ給排水きゅうはいすいなどの設備せつびもとめられるが、以下いかではまく構造こうぞう建築けんちくぶつ特有とくゆう設備せつびげる。

空気くうきまく構造こうぞう維持いじのための空調くうちょう 編集へんしゅう

空気くうきまく構造こうぞうでは、内外ないがい気圧きあつたもたなければ構造こうぞうりたなくなるため、屋根やねかべともに開口かいこうもうけることが困難こんなんとなる。屋内おくないがい気圧きあつ不足ふそくすれば、屋根やねはたちまちしぼんでしまうのである。そのため自然しぜん換気かんきむずかしく、空調くうちょうはもっぱら機械きかいたよらなければならない。気圧きあつ調整ちょうせいのための大型おおがた送風そうふうもうけたり、出入でいぐち回転かいてんドアもちいるなど、設備せつび特別とくべつなものが必要ひつようとなる。

融雪ゆうせつ設備せつび 編集へんしゅう

もともと材料ざいりょう自体じたいうす屋根やね荷重かじゅうちいさいのがまく構造こうぞう特徴とくちょうでもあるが、ゆきもった場合ばあいにはそれが通常つうじょうすうばいすうじゅうばいし、構造こうぞうてき致命ちめいてきとなる場合ばあいがある。とくにエアサポート構造こうぞうは、屋根やね全体ぜんたい陥没かんぼつという結果けっかをもたらす。もったゆきがとどまりにくく滑落すべりおちしやすい形状けいじょうをデザインするほか、とく降雪こうせつのある地域ちいき建設けんせつする場合ばあいには融雪ゆうせつよう電熱でんねつせんなどをむことがある。また空気くうきまく構造こうぞうでは、そうまくあいだあたためた空気くうきおくむことにより融雪ゆうせつおこなうという手法しゅほうもちいられる。

代表だいひょうてき事例じれい 編集へんしゅう

脚注きゃくちゅう 編集へんしゅう

  1. ^ 東京とうきょうドームシティ公式こうしきサイトにて、インフレートのプロセスを記録きろくした写真しゃしん公開こうかいされている。

関連かんれん項目こうもく 編集へんしゅう

外部がいぶリンク 編集へんしゅう