アンバイ

アンバイ（Ambai、生なま没年ぼつねん不ふ詳しょう）は、大だい元もとウルスに仕つかえたタングート人じん将軍しょうぐんの一人ひとり。『元もと史し』などの漢文かんぶん史料しりょうでは暗くら伯はく(ànbǎi)、『集しゅう史し』などのペルシア語ご史料しりょうではタングートのアンバイ（Ambāī az tangqūt/امبای از تنگقوت）と記しるされる。

概要がいよう

アンバイの祖父そふは僧そう吉きち陀という人物じんぶつで、チンギス・カンに仕つかえてビチクチ（書記官しょきかん）・ケレメチ（通訳つうやく官かん）となった人物じんぶつであった。その息子むすこのトルチ（禿かぶろ児じ赤あか）は後ごを継ついでモンケ・カアンに仕つかえ、後のちには文ぶん州しゅう礼れい店てん元帥げんすい府ふダルガチとなった。

アンバイは若わかくしてケシク（親衛隊しんえいたい）に入はいり、厳いむ重剛しげたけ果はてなことで知しられていた。帝位ていい継承けいしょう戦争せんそうの前後ぜんご、アンバイは敦煌とんこうに赴おもむいたが内乱ないらんで帰路きろを阻はばまれチャガタイ・ウルス君主くんしゅアルグの支配しはいするホータンに止とめられることになった。後のちにクビライ（セチェン・カアン）がセチェゲンを使者ししゃとしてアルグの下したに派遣はけんした時とき、アルグは数すう年ねんにわたってセチェゲンをクビライの下したに帰きさなかったため、アンバイは馬うま・駱駝らくだを手配てはいしてセチェゲンを逃にがした。セチェゲンの報告ほうこくを聞きいたクビライはブカ・テムル元帥げんすいに命めいじてホータンに遠征えんせいさせ、隙すきを見みて逃のがれたアンバイはブカ・テムル軍ぐんの下したに逃のがれそこでセチェゲンとも再開さいかいした。ブカ・テムルはクビライの命いのちにより枢密院すうみついん客きゃく省しょう使しに任にんじ、妻子さいしとともにクビライの送おくらせた。これ以後いご、アンバイはクビライ側近そっきんの軍人ぐんじん（枢密院すうみついん所属しょぞくの官吏かんり）として活躍かつやくすることとなる。

1287年ねんにナヤン・カダアンの乱らんが勃発ぼっぱつすると、アンバイもまたクビライの親おや征せいに加くわわった。この時とき、アンバイはバヤン丞相じょうしょうを筆頭ひっとうとする軍団ぐんだんに所属しょぞくしていたと見みられる。諸王しょおう哈魯・駙馬トゥメンダル率ひきいる反乱はんらん軍ぐんが迫せまった時ときには、アンバイが克かつ流速りゅうそく石せき巴ともえ禿かぶろで迎むかえ撃うった。アンバイは身中しんちゅうに7箇所かしょの傷きずを負おい、乗馬じょうばも2本ほんの矢やを受うける激戦げきせんの中なかで敵てき軍ぐんを撃うち破やぶり、トゥメンダルを刺さし殺ころして諸王しょおう哈魯を捕虜ほりょとした。クビライはアンバイの軍功ぐんこうを大おおいに評価ひょうかし、タングート衛まもる（唐から兀衛）の長官ちょうかん兼けん僉枢密院すうみついん事ごととした。

『集あつまり史し』「テムル・カアン紀き」によると、クビライの死後しご上うえ都とで開催かいさいされたクリルタイにアンバイも参加さんかし、他たの参加さんか者しゃとともにクビライの孫まごのテムルを新あらたなカアンに推戴すいたいしたという。最終さいしゅう的てきに、アンバイは同どう僉・副ふく枢くるる・同どう知ちを歴任れきにんし、知ち枢密院すうみついん事ごと（枢密院すうみついんの長ちょう）となって亡なくなった。息子むすこには知ち枢密院すうみついん事ごととなった阿おもね乞剌、湖みずうみ広こう省しょう左ひだり丞すすむとなった亦また憐真班はんらがいる。

参考さんこう文献ぶんけん

• 志茂しも碩せき敏さとし『モンゴル帝国ていこく史し研究けんきゅう 正篇せいへん』東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱん会かい、2013年ねん
• 本田ほんだ實みのる信しんじ『モンゴル時代じだい史し研究けんきゅう』東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱん会かい、1991年ねん
• 吉野よしの正史せいし「ナヤンの乱らんにおける元朝がんちょう軍ぐんの陣容じんよう」『早稲田大学わせだだいがく大学院だいがくいん文学ぶんがく研究けんきゅう科か紀要きよう』、2008年ねん
• 吉野よしの正史せいし「元朝がんちょうにとってのナヤン・カダアンの乱らん: 二ふたつの乱らんにおける元朝がんちょう軍ぐんの編成へんせいを手てがかりとして」『史觀しかん』第だい161冊さつ、2009年ねん
• 『元もと史し』巻まき133列伝れつでん20