(Translated by https://www.hiragana.jp/)
アーケゾア - Wikipedia コンテンツにスキップ

アーケゾア

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
アーケゾア
分類ぶんるい
ドメイン : かく生物せいぶつ Eukaryota
うえかい : アーケゾアうえかい Archezoa
さかい : アーケゾアかい Archezoa
学名がくめい
Archezoa
Haeckel1894 emend. Cavalier-Smith, 1983[1]

アーケゾア (Archezoa) は、かく生物せいぶつのうちミトコンドリア獲得かくとくしていない原始げんしてき生物せいぶつぐんをさす用語ようごである。「ふるい(arche-)動物どうぶつ(zoa)」を意味いみする。トーマス・キャバリエ=スミスが1983ねん提唱ていしょうし、その構成こうせいえながら検討けんとうつづけられた仮説かせつてき分類ぶんるいぐんであったが、20世紀せいきすえまでに否定ひていされた。

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

アーケゾアは、かく生物せいぶつでありながら、ミトコンドリアをっていない。さらにペルオキシソームもなく、ゴルジたい発達はったつしない。

仮説かせつ[編集へんしゅう]

当時とうじ注目ちゅうもくあつめ、いまではひろれられている細胞さいぼうない共生きょうせいせつによれば、細胞さいぼうかくたない原核げんかく生物せいぶつべつ原核げんかく生物せいぶつ共生きょうせいすることによってかく生物せいぶつ誕生たんじょうしたとかんがえられる。こうした共生きょうせい由来ゆらいオルガネラのうち、ミトコンドリアは非常ひじょうおおくのかく生物せいぶつ共通きょうつうしているが、嫌気いやけてき環境かんきょうにはミトコンドリアをたない各種かくしゅかく生物せいぶつ存在そんざいしている。そこでかく生物せいぶつ成立せいりつしたさいに、まず細胞さいぼうかく獲得かくとくした原始げんしてきかく生物せいぶつ(protoeukaryote)がのちこう気性きしょうバクテリアを共生きょうせいさせてミトコンドリアを獲得かくとくしたという仮説かせつかんがえることができる。ミトコンドリアをたないかく生物せいぶつ「アーケゾア」は、その中途ちゅうと段階だんかい子孫しそんであり、この仮説かせつ支持しじする証拠しょうこだとかんがえるのである。しかもこうしたアーケゾアは、当時とうじ分子ぶんし系統けいとう解析かいせきではかく生物せいぶつ系統けいとうじゅ基部きぶ位置いちづけられていたことも、この仮説かせつ支持しじしていた。

この「アーケゾア仮説かせつ」は、以下いかの2つの主張しゅちょうから構成こうせいされる[2]

  1. すでに細胞さいぼうかく原始げんしてきかく生物せいぶつ(=アーケゾア)が細胞さいぼうない共生きょうせいによってミトコンドリアを獲得かくとくした。
  2. ミトコンドリアを獲得かくとくするまえ原始げんしてきかく生物せいぶつ子孫しそん現生げんなまのアーケゾアである。

この後者こうしゃ(2)の主張しゅちょうについては21世紀せいきたずに、アーケゾアとされたすべての生物せいぶつが、ミトコンドリアを生物せいぶつ祖先そせんち2てきにミトコンドリアをうしなったことが明確めいかくになっている。またアーケゾアがかく生物せいぶつ系統けいとうじゅ基部きぶめるという解析かいせき結果けっかも、手法しゅほう発達はったつであったことによる人工じんこう産物さんぶつだとかんがえられている。

もっとも、これにより前者ぜんしゃ(1)の主張しゅちょう自動的じどうてき否定ひていされるわけではない。原核げんかく生物せいぶつ原核げんかく生物せいぶつ現象げんしょうられていないうちは、ある程度ていど発達はったつした原始げんしてきかく生物せいぶつがミトコンドリアを獲得かくとくしたとかんがえるのが自然しぜんだからである[2]。2010年代ねんだい後半こうはんになってようやく、一部いちぶ細菌さいきんアスガルド細菌さいきん)がかく生物せいぶつ細胞さいぼう骨格こっかくうちまくけい関連かんれんした遺伝子いでんしつことがあきらかになり[3][4]、またあるしゅ真正しんしょう細菌さいきん実際じっさいしょく作用さよう(のようなみ)をおこなうことがしめされた[5][注釈ちゅうしゃく 1]

構成こうせい変遷へんせん[編集へんしゅう]

1983ねん提唱ていしょうしたさいには原生動物げんせいどうぶつかいぞくするかいとしており、そこにはミトコンドリアを生物せいぶつぐんとしてパラバサリアメタモナスほろ胞子ほうしちゅうアーケアメーバの4もんふくめていた[1]。このうちアーケアメーバは新設しんせつ分類ぶんるいぐんであるが、その構成こうせい要素ようそ明確めいかくにされたのは1987ねんである[6]同年どうねん、アーケゾアはさかいならびにうえかい昇格しょうかくさせられ、すべてのかく生物せいぶつMetakaryotaうえかい所属しょぞくさせる)とは根本こんぽんてきことなる位置付いちづけをあたえられた[7]。しかしこのおな論文ろんぶん端緒たんしょに、ミトコンドリアをてき喪失そうしつしたと判断はんだんされた生物せいぶつぐんのぞかれていき、最終さいしゅうてきすべてがてきにミトコンドリアをうしなったことが判明はんめいした。かく生物せいぶつをアーケゾアうえかいMetakaryotaうえかいとに二分にぶんする枠組わくぐみは1998ねん破棄はきされた[8]。なおその提唱ていしょう当初とうしょおな原生動物げんせいどうぶつかいアーケゾアかいという分類ぶんるいぐんのこされたが、もはやミトコンドリアの起源きげんとは関係かんけいがなくなり、2003ねんにはそれも放棄ほうきされた[9]

パラバサリア[編集へんしゅう]

最初さいしょのぞかれたのはパラバサリアもんで、これはちょうむち毛虫けむしるいトリコモナスるいからなっていた。そもそもアーケゾア仮説かせつ提唱ていしょうより以前いぜんに、トリコモナスにヒドロゲノソーム発見はっけんされており、それがミトコンドリア由来ゆらいしている可能かのうせい議論ぎろんされていた[10]。これにくわえて、パラバサリアるいには明瞭めいりょうゴルジたいかくがい紡錘ぼうすいいと存在そんざいしていることも「原始げんしてきかく生物せいぶつ」としてはつかわしくないとされた[11]。そこで1987ねんにアーケゾアをさかい昇格しょうかくさせたさいにパラバサリアはのぞかれた[7][注釈ちゅうしゃく 2]。なおトリコモナスのヒドロゲノソームがミトコンドリア由来ゆらいであることが確実かくじつとなったのは1996ねんである[12]

アーケアメーバ[編集へんしゅう]

つぎ検討けんとう対象たいしょうになったのはアーケアメーバもんで、その構成こうせい要素ようそエントアメーバペロミクサマスチゴアメーバの3ぐんである[注釈ちゅうしゃく 3]。まずエントアメーバ動物どうぶつ腸管ちょうかん寄生きせい(またはかた共生きょうせい)しており、パラバサリア同様どうよう嫌気いやけてき環境かんきょうへの適応てきおうとしててきにミトコンドリアを喪失そうしつした可能かのうせい問題もんだいとなった。しかも1989ねんのリボソームRNA遺伝子いでんしもちいたごく初期しょき分子ぶんし系統けいとう解析かいせきで、エントアメーバ赤痢せきりアメーバかく生物せいぶつ基部きぶ位置いちしていないという結果けっかられた[13]。そこで1991ねんにエントアメーバのぞかれた[14]つづいてのこる2ぐんについても分子ぶんし系統けいとう解析かいせきおこなわれ、いずれもかく生物せいぶつ基部きぶ位置いちしないことから1996ねんのぞかれた[15][16]。なお赤痢せきりアメーバがかつてミトコンドリアをっていたことは1995ねん[17]、ミトコンドリア由来ゆらいマイトソームっていることは1999ねんしめされている[18][19]

ほろ胞子ほうしちゅう[編集へんしゅう]

ほろ胞子ほうしむしもんすべてが寄生きせいせいであることから、同様どうようてきにミトコンドリアを喪失そうしつした可能かのうせいかんがえられた。パラバサリアとはちがって、ほろ胞子ほうしちゅうはヒドロゲノソームや発達はったつしたゴルジたいっていないじょうリソソームむち中心ちゅうしん小体こていをもいていて、微細びさい構造こうぞう観点かんてんからはかなり単純たんじゅんだといえるが、これも寄生きせい適応てきおううしなったとかんがえること可能かのうである。1993ねんごろよりイントロンスプライシング装置そうち存在そんざいすることがられるようになり、これもより派生はせいてき生物せいぶつ寄生きせい適応てきおうにより縮退しゅくたいした可能かのうせい示唆しさした[20]。1997ねんにはミトコンドリアがたシャペロン存在そんざいあきらかとなった[21]タンパク質たんぱくしつアミノ酸あみのさん配列はいれつもちいた系統けいとう解析かいせきによってきんとのきんえんせい強固きょうこしめされ、これはキチンしつ細胞さいぼうかべことなど様々さまざま共通きょうつうせいによって支持しじされることから、1998ねんほろ胞子ほうしちゅうはアーケゾアからのぞかれた[8]。そのほろ胞子ほうしちゅうもマイトソームをことが2002ねんしめされている[22]

メタモナス[編集へんしゅう]

最後さいごのこったのがメタモナスもんであるが、しかしランブルむち毛虫けむしがかつてミトコンドリアをっていた可能かのうせいは1994ねんにすでに示唆しさされており[23]生物せいぶつぐん同様どうようにより強固きょうこ証拠しょうこ出揃でそろうのは時間じかん問題もんだいかんがえられるようになった。キャバリエ=スミスは1998ねんほろ胞子ほうしちゅうをアーケゾアからのぞくと同時どうじに、かつてのぞいたパラバサリアもん復帰ふっきさせた。この意味いみでのアーケゾアかいは、ミトコンドリアを獲得かくとくする以前いぜん祖先そせんてきかく生物せいぶつではなく、ペルオキシソームとイントロンをたないかく生物せいぶつというまった定義ていぎことなる生物せいぶつぐんである[8]。これも2003ねんにパラバサリアるいをメタモナスもんふくめるとともに、アーケゾアは放棄ほうきされた[9]。なおランブルむち毛虫けむしには2002ねんにイントロンの存在そんざい[24]、2003ねんにはマイトソームの存在そんざい[25]、2018ねんにはペルオキシソームの存在そんざいしめされている[26]一方いっぽうこのぐんふくまれるMonocercomonoides exilisは2016ねんにミトコンドリアを(マイトソームなど縮退しゅくたいしたものをふくめて)完全かんぜんいていることがしめされているが、これもてき喪失そうしつである[27]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ この細菌さいきんCa. Uab amorphumかく生物せいぶつしょく作用さよう関連かんれん遺伝子いでんしたないので、この「しょく作用さよう」は収斂しゅうれんでありミトコンドリアの起源きげん直接ちょくせつ関係かんけいはない。
  2. ^ その1998ねんふたたびアーケゾアにふくめられたことがある[8]
  3. ^ さらにPhreatamoebidaeられていたが、これはのちマスチゴアメーバれられたのでここでは同一どういつする。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b Cavalier-Smith, T. (1983). “A six-kingdom classification and a unified phylogeny”. In Schenk & Schwemmler (eds.). Intracellular space as oligogenetic ecosystem. Endocytobiology. 2. de Gruyter. pp. 1027–1034. doi:10.1515/9783110841237-104. ISBN 978-3-11-084123-7 
  2. ^ a b Poole & Penny (2007). “Engulfed by speculation”. Nature 447: 913. doi:10.1038/447913a. 
  3. ^ Spang, et al. (2015). “Complex archaea that bridge the gap between prokaryotes and eukaryotes”. Nature 521: 173–179. doi:10.1038/nature14447. 
  4. ^ Zaremba-Niedzwiedzka, et al. (2017). “Asgard archaea illuminate the origin of eukaryotic cellular complexity”. Nature 541 (7637): 353–358. doi:10.1038/nature21031. 
  5. ^ Shiratori et al. (2019). “Phagocytosis-like cell engulfment by a planctomycete bacterium”. Nat. Commun. 10: 5529. doi:10.1038/s41467-019-13499-2. 
  6. ^ Cavalier-Smith, T. (1987). “The origin of eukaryote and archaebacterial cells”. Ann. NY Acad. Sci. 503 (1): 17-54. doi:10.1111/j.1749-6632.1987.tb40596.x. 
  7. ^ a b Cavalier-Smith, T. (1987). “The Origin of Cells: A Symbiosis between Genes, Catalysts, and Membranes”. Evolution of Catalytic Function. Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology. 52. Cold Spring Harbor Laboratory. pp. 805-824. doi:10.1101/SQB.1987.052.01.089. ISBN 0879690542 
  8. ^ a b c d Cavalier-Smith, T. (1998). “A revised six-kingdom system of life”. Biol. Rev. Camb. Philos. Soc. 73: 203-266. doi:10.1111/j.1469-185X.1998.tb00030.x. 
  9. ^ a b Cavalier-Smith, T. (2003). “The excavate protozoan phyla Metamonada Grassé emend. (Anaeromonadea, Parabasalia, Carpediemonas, Eopharyngia) and Loukozoa emend. (Jakobea, Malawimonas): Their evolutionary affinities and new higher taxa”. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 53 (6): 1741-1758. doi:10.1099/ijs.0.02548-0. 
  10. ^ Muller, M. (1980). “The hydrogenosome”. In Gooday, G.W., et al. (eds.). The eukaryotic microbial cell. Cambridge University Press. pp. 127-142. ISBN 052122974X 
  11. ^ Cavalier-Smith, T. (1987). “The simultaneous symbiotic origin of mitochondria, chloroplasts, and microbodies”. Ann. NY Acad. Sci. 503 (1): 55-71. doi:10.1111/j.1749-6632.1987.tb40597.x. 
  12. ^ Bui, E., et al. (1996). “A common evolutionary origin for mitochondria and hydrogenosomes”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93 (18): 9651-9656. doi:10.1073/pnas.93.18.9651. 
  13. ^ Sogin, M.L. (1989). “Evolution of eukaryotic microorganisms and their small subunit ribosomal RNAs”. Amer. Zool. 29 (2): 487-499. doi:10.1093/icb/29.2.487. 
  14. ^ Cavalier-Smith, T. (1991). “Archamoebae: the ancestral eukaryotes?”. BioSystems 25 (1-2): 25-38. doi:10.1016/0303-2647(91)90010-I. 
  15. ^ Cavalier-Smith, T. & Chao, E.E. (1996). “Molecular phylogeny of the free-living archezoan Trepomonas agilis and the nature of the first eukaryote”. J. Mol. Evol. 43 (6): 551-562. doi:10.1007/BF02202103. 
  16. ^ Cavalier-Smith, T. (1997). “Amoeboflagellates and mitochondrial cristae in eukaryote evolution: megasystematics of the new protozoan subkingdoms Eozoa and Neozoa”. Arch. Protistenkd. 147 (3-4): 237-258. doi:10.1016/S0003-9365(97)80051-6. 
  17. ^ Clark, C.G. & Roger A.J. (1995). “Direct evidence for secondary loss of mitochondria in Entamoeba histolytica”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92 (14): 6518-6521. doi:10.1073/pnas.92.14.6518. 
  18. ^ Tovar, J., et al. (1999). “The mitosome, a novel organelle related to mitochondria in the amitochondrial parasite Entamoeba histolytica”. Mol. Microbiol. 32 (5): 1013–1021. doi:10.1046/j.1365-2958.1999.01414.x. 
  19. ^ Mai, Z., et al. (1999). “Hsp60 Is Targeted to a Cryptic Mitochondrion-Derived Organelle (“Crypton”) in the Microaerophilic Protozoan Parasite Entamoeba histolytica”. Mol. Cell. Biol. 19 (3): 2198-205. 
  20. ^ Cavalier-Smith, T. (1993). “Kingdom protozoa and its 18 phyla” (pdf). Microb. Rev. 57: 953-994. https://mmbr.asm.org/content/57/4/953.full.pdf. 
  21. ^ Germot, A., et al. (1997). “Evidence for loss of mitochondria in Microsporidia from a mitochondrial-type HSP70 in Nosema locustae”. Mol. Biochem. Parasitol. 87 (2): 159-168. doi:10.1016/S0166-6851(97)00064-9. 
  22. ^ Williams, B.A., et al. (2002). “A mitochondrial remnant in the microsporidian Trachipleistophora hominis”. Nature 418 (6900): 865–869. doi:10.1038/nature00949. 
  23. ^ Soltys, B.J. & Gupta, R.S. (1994). “Presence and Cellular Distribution of a 60-kDa Protein Related to Mitochondrial HSP60 in Giardia lamblia”. J. Parasitol. 80 (4): 580-590. doi:10.2307/3283195. 
  24. ^ Nixon, J.E., et al. (2002). “A spliceosomal intron in Giardia lamblia”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99 (6): 3701-3705. doi:10.1073/pnas.042700299. 
  25. ^ Tovar, J., et al. (2003). “Mitochondrial remnant organelles of Giardia function in iron-sulphur protein maturation”. Nature 426 (6963): 172-176. doi:10.1038/nature01945. 
  26. ^ Acosta-Virgen, K., et al. (2018). “Giardia lamblia: Identification of peroxisomal-like proteins”. Exp. Parasitol. 191: 36-43. doi:10.1016/j.exppara.2018.06.006. 
  27. ^ Karnkowska, A., et al. (2016). “A eukaryote without a mitochondrial organelle”. Curr. Biol. 26 (10): 1274-1284. doi:10.1016/j.cub.2016.03.053.