エリオット・ネス

エリオット・ネス

エリオット・ネス（Eliot Ness、1903年ねん4月がつ19日にち - 1957年ねん5月16日にち）は、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく財務省ざいむしょう（のち司法省しほうしょうに移管いかん）の酒類しゅるい取締とりしまり局きょくの捜査そうさ官かん。シカゴで巨大きょだいな勢力せいりょくとなっていたアル・カポネの犯罪はんざい組織そしきを壊滅かいめつするため特別とくべつ捜査そうさ班はんの結成けっせいを提言ていげん。特別とくべつ捜査そうさ班はんが組織そしきされるとリーダーとなり、アル・カポネ逮捕たいほに貢献こうけんしたといわれている。自伝じでん「アンタッチャブル」はベストセラーとなり、同名どうめいのテレビドラマが制作せいさくされて一大いちだいブームを巻まき起おこした。

経歴けいれき

若年じゃくねん期き

両親りょうしんはノルウェー移民いみんのピーターとエマ。ネス家かはパン屋やを経営けいえいしており、暮くらしは裕福ゆうふくではなかったが、貧まずしくもなかった。シカゴ大学だいがくで法律ほうりつ・商業しょうぎょうを学まなんで会社かいしゃの信用しんよう調査ちょうさをしていたが大学だいがくに戻もどって犯罪はんざい学がくの修士しゅうしをとり成績せいせき優秀ゆうしゅうで卒業そつぎょう。テニスが趣味しゅみだった。

1926年ねん、捜査そうさ局きょく（現在げんざいの連邦れんぽう捜査そうさ局きょく (FBI)）に勤つとめる義兄ぎけいの Alexander Jamie から警察けいさつ関係かんけいの仕事しごとに就つくよう勧すすめられたため、1927年ねんに財務省ざいむしょう酒類しゅるい取締とりしまり局きょくに入局にゅうきょく。

カポネとの戦たたかい

ハーバート・フーヴァーは大統領だいとうりょう就任しゅうにん後ご、財務ざいむ長官ちょうかんアンドリュー・メロンに対たいしギャングのアル・カポネを摘発てきはつするよう厳命げんめいした。連邦れんぽう政府せいふはこれについて、二に方向ほうこうからのアプローチを試こころみた。すなわち所得しょとく税ぜいの脱税だつぜいと、ボルステッド法ほう違反いはんである。ネスは後者こうしゃ、具体ぐたい的てきにはカポネの酒さけの密造みつぞうと違法いほう流通りゅうつうに関かんする特別とくべつ捜査そうさ班はんの編成へんせい・統括とうかつを任まかされた。目的もくてきはカポネの酒さけの密造みつぞうと違法いほう流通りゅうつうを摘発てきはつし、カポネの収入しゅうにゅう源げんを断たつことだった。

シカゴ役人やくにんならではの綱紀こうきの緩ゆるみのなかで、ネスは酒類しゅるい取締とりしまり局きょくの全ぜん職員しょくいんの記録きろくを調しらべ、信頼しんらいに足たるチームを作つくった。当初とうしょは50名めいあったものが、のちに15名めい、最後さいごには11名めいに選えりすぐられた。違法いほうな蒸留酒じょうりゅうしゅ製造せいぞう所しょや醸造じょうぞう所ところへの手入ていれが直ただちに開始かいしされた。6ヶ月かげつのうちに、価値かちにして100万まんドル相当そうとうの醸造じょうぞう所しょを摘発てきはつしたとネスは主張しゅちょうした。手入ていれにあたり、主おもに情報じょうほう源げんとなったのは広範囲こうはんいにわたる電話でんわ盗聴とうちょうだった。ネスの部下ぶかを買収ばいしゅうしようとしたカポネの試こころみは、ネスに阻はばまれたうえ公こうにされ、メディアは彼かれらに「アンタッチャブル」（手出てだし出来できない奴やつら）という渾名あだなをつけるに至いたった。ネスは何なん度どか命いのちを狙ねらわれ、彼かれの親友しんゆうが一人ひとり命いのちを落おとしている。なおカポネとの戦たたかいについては、あくまで彼かれの自伝じでんにもとづくもので、裏付うらづけがある訳わけではない。

自伝じでんでは、ネスの妥協だきょうない捜査そうさはカポネを慌あわてさせたと語かたられている。これについては、「カポネ側がわの記録きろくにネスの名前なまえは出でて来こない」と懐疑かいぎ的てきな意見いけんもあり、一方いっぽうで「ネスの功績こうせきを過小かしょう評価ひょうかすべきではない」と擁護ようごする意見いけんもある。裁判さいばんで本命ほんめいとなったのはフランク・ウィルスンやエルマ・アイリー (en) らの脱税だつぜい捜査そうさチームの方ほうだった。1931年ねんの連邦れんぽう大だい陪審ばいしんで、カポネは22件けんの脱税だつぜい、5,000件けんのボルステッド法ほう違反いはんで告発こくはつされると、同年どうねん10月がつ17日にち、脱税だつぜい証拠しょうこ22件けんのうちの5件けんによって懲役ちょうえき11年ねん刑けいが宣告せんこくされ、翌年よくねん収監しゅうかんされた。ネスの集あつめた5000件けんの証拠しょうこは最終さいしゅう的てきにすべて却下きゃっかされ、罪状ざいじょうに無関係むかんけいだった。ネスの旺盛おうせいな摘発てきはつ行為こういは、極秘ごくひ裏うらに進すすめられた脱税だつぜい捜査そうさを気付きづかれないための囮おとりだったと言いわれた。なお、脱税だつぜいの決定的けっていてき証拠しょうことなった組織そしきの売上うりあげ金きん明細めいさいをウィルスンにリークしたカポネ組織そしきのエドワード・J・オヘアは後年こうねん、カポネを継ついだシカゴギャングに暗殺あんさつされた。

カポネ逮捕たいほ後ご

カポネ逮捕たいほ後ごは、FBIの採用さいようを待まったが、ネスの夢ゆめはジョン・エドガー・フーヴァー長官ちょうかんに阻はばまれる。元もと上司じょうしでシカゴ連邦れんぽう検事けんじのジョージ・E・Q・ジョンソン（George E. Q. Johnson）に推薦すいせん状じょうを書かいてもらうが、ネスもジョンソンもフーヴァーに嫌きらわれていた。FBIが捕つかまえられなかったカポネを捕つかまえたネスたちにフーヴァーが嫉妬しっとしていたことも不ふ採用さいようの理由りゆうと言いわれている。

その後ごはシカゴおよびオハイオ酒類しゅるい取締とりしまり局きょくの首席しゅせき捜査そうさ官かんを歴任れきにんし、禁酒きんしゅ法ほう廃止はいし後ごの1935年ねん12月12日にちにはクリーブランド地方ちほう政府せいふの公共こうきょう治安ちあん本部ほんぶ長ちょうに就任しゅうにんした。クリーブランド市しはアル・カポネを負まかした立役者たてやくしゃと喧伝けんでんし、新聞しんぶんの見出みだしにもなる。当時とうじのクリーヴランドはギャングスター天国てんごくだった。ナイトクラブや賭博とばく場じょうの手入ていれを演出えんしゅつし、再ふたたび人気にんき者しゃになり、警察けいさつや消防しょうぼうの汚職おしょく一掃いっそうを陣頭じんとう指揮しきしたが、当時とうじ発生はっせいしていた「キングズベリー・ランの屠殺とさつ者しゃ（Mad Butcher of Kingsbury Run）」とよばれる悪名あくめい高たかき連続れんぞく猟奇りょうき殺人さつじん事件じけんを解決かいけつできず、そのことになると記者きしゃからの質問しつもんをはぐらかした。この事件じけんは引退いんたい後ごも捜査そうさし続つづけていた。また、犯行はんこうを事前じぜんに防ふせぐという名目めいもくで、治安ちあんが悪わるくホームレスなどが居住きょじゅうしている一帯いったいを焼やき払はらっている。1938年ねんには妻つまのエドナと離婚りこんし、彼かれの評価ひょうかは下落げらくした。1938年ねん後半こうはん、エヴァリン・マカンドールズ（Evaline Michelow）とケンタッキー州しゅうのグリーナップで極秘ごくひに結婚式けっこんしきを挙あげた。1942年ねんに飲酒いんしゅ運転うんてんで当あて逃にげ事故じこを起おこし、治安ちあん本部ほんぶ長ちょう職しょくを辞任じにん。

ワシントンD.C.へ移うつって連邦れんぽう政府せいふで働はたらいたのち、1944年ねんに公職こうしょくを辞じして民間みんかん警備けいび会社かいしゃの会長かいちょう職しょくに就つく。1946年ねん1月がつ31日にち、“ベティ”エリザベス・アンダースン（Elizabeth Anderson Seaver）と結婚けっこんする。ネスは3回かい目めの結婚けっこん。息子むすこを1人ひとり、養子ようしに迎むかえた。1947年ねんにクリーブランド市長しちょうに立候補りっこうほし出馬しゅつばするが、民主党みんしゅとう候補こうほの現職げんしょくのトーマス・A・バーク（Thomas A. Burke）の3倍ばいの選挙せんきょ資金しきんを集あつめながら、ネスの2倍ばい近ちかい票ひょうを集あつめたバークに惨敗ざんぱいする。

1951年ねん、警備けいび会社かいしゃの会長かいちょう職しょくを解任かいにんされると電気でんき部品ぶひんのセールスマンや本屋ほんやの店員てんいんなどを転々てんてんとしながら地元じもとの酒場さかばに入いり浸びたり、借金しゃっきん生活せいかつを送おくったが、1953年ねん、特殊とくしゅ紙し材ざいメーカーの職しょくを得えて収入しゅうにゅうを取とり戻もどすと再ふたたび酒場さかばに入いり浸びたった。酒場さかばでは好このんで密輸みつゆ取締とりしまり時代じだいの武勇ぶゆう伝でんを地元じもとの客きゃくに語かたって聞きかせたという。

1956年ねん、当時とうじUPI通信つうしんのスポーツライターだったオスカー・フレイリー（Oscar Fraley）に仕事しごと関係かんけいの友人ゆうじんを通つうじて知しり合あい、武勇ぶゆう伝でんを披露ひろうする。興味きょうみを持もったフレイリーが、「カポネを追おいつめた話はなしを本ほんにしてはどうか」と勧すすめたところ、ネスは「あなたが書かいてくれないか」と応おうじた。自伝じでんの題名だいめいは「The Untouchables」（ジ・アンタッチャブル）に決きまり、ネスへのインタビューと彼かれが保管ほかんしていた資料しりょうに基もとづき、フレイリーが執筆しっぴつした。1957年ねん、この本ほんが出版しゅっぱんされる直前ちょくぜんにネスは心臓しんぞう発作ほっさで亡なくなった。遺体いたいはクリーブランドのレイクビュー墓地ぼちに埋葬まいそうされた。ネスの遺のこした負債ふさいは、「アンタッチャブル」の印税いんぜいにより返済へんさいされたという。

ネスの虚像きょぞうと実像じつぞう

• オスカー・フレイリーの小説しょうせつ「アンタッチャブル」を元もとに多おおくのTVドラマや映画えいがが製作せいさくされたが、ネスがギャングの牙城がじょうに突進とっしんして派手はでな銃撃じゅうげき戦せんを行おこなったり、カポネを監獄かんごく送おくりにしたのをネス一派いっぱの功労こうろうのおかげとするなど多おおくの脚色きゃくしょくがなされ、現実げんじつのネスとは程遠ほどとおい。なお「アンタッチャブル」シリーズ日本語にほんご版ばんのあとがきによれば、真偽しんぎのほどは不明ふめいだが、テレビの「アンタッチャブル」が人気にんきを集あつめている頃ころ、国外こくがいを転々てんてんとしていたニューヨークのギャング、チヤーリー・ラッキー・ルチアーノがホテルのボーイに「エリオット・ネスとは一体いったいどういう人間にんげんか知しってるかね」と尋たずねたという。
• 正義せいぎ感かんは人一倍ひといちばい強つよかったが、ワーカホリックのため結婚けっこん生活せいかつは長続ながつづきせず、また生涯しょうがいを通つうじて重度じゅうどのアルコール依存いぞん症しょうだったため、選挙せんきょに出馬しゅつばしても世間せけんの支持しじを得えることができなかった。

関連かんれん項目こうもく

• アンタッチャブル (テレビドラマ)
• アンタッチャブル (映画えいが)
• シャドウハーツ・フロム・ザ・ニューワールド - 彼かれをモデルにしたキャラクターが登場とうじょうするPlayStation 2専用せんようソフト。担当たんとう声優せいゆうは永野ながの広一ひろかず。