エンコミエンダ制せい

エンコミエンダ制せい（エンコミエンダせい、スペイン語ご: encomienda）は、スペインがアメリカ大陸あめりかたいりく・フィリピンを植民しょくみん地ち支配しはいする上じょうで採用さいようした植民しょくみん地ち住民じゅうみん支配しはい制度せいど。

エンコミエンダの成立せいりつ

エンコミエンダは、スペイン王室おうしつがスペイン人じん入植にゅうしょく者しゃに、その功績こうせきに対たいする王室おうしつからの下賜かしとして、一定いってい地域ちいきの先住民せんじゅうみんを「委託いたくする（エンコメンダール）」という制度せいどであり、エンコミエンダの信託しんたくを受うけた個人こじんをエンコメンデーロ（スペイン語ご: encomendero）と呼よんだ。征服せいふく者しゃや入植にゅうしょく者しゃにその功績こうせきや身分みぶんに応おうじて一いち定数ていすうのインディオを割わり当あてて、一定いってい期間きかんその労働ろうどう力りょくを利用りようし、貢みつぎ納おさめ物ぶつを受うけ取とる権利けんりを与あたえるとともに、彼かれらを保護ほごしキリスト教徒きりすときょうとに改宗かいしゅうさせることを義務付ぎむづけた。

エンコミエンダと呼よばれる仕組しくみは、レコンキスタ時代じだいのイベリア半島はんとうにもすでに存在そんざいし、やがてカナリア諸島かなりあしょとうに導入どうにゅうされたのち、コロンブスによってカリブ海かりぶかいのイスパニョーラ島とうで実施じっしされている。しかし、コロンブス時代じだいに実施じっしされたエンコミエンダは、土地とちを配分はいぶんする仕組しくみであり、上述じょうじゅつした制度せいどとは内容ないようが異ことなっている。

土地とちではなく、先住民せんじゅうみんの信託しんたくを主軸しゅじくにおいたエンコミエンダ制度せいどは1502年ねん、イスパニョーラ（ハイチ・ドミニカ）総督そうとくとして赴任ふにんしたニコラス・デ・オバンドが、イサベル女王じょおうに提案ていあんして、その許可きょかを受うけたことで始はじまった。

制度せいどの概要がいよう

「ブルゴス法ほう」および「カシケ」も参照さんしょう

エンコメンデーロの多おおくはコンキスタドールであった。遠隔えんかく地ちの広大こうだいな領域りょういきを確保かくほするために、スペイン王権おうけんはコンキスタドールを活用かつようした。彼かれらが信託しんたくを受うけた地域ちいきは、中世ちゅうせいにおける領地りょうちのような地域ちいきを構成こうせいしたが、住民じゅうみんの身分みぶんはスペイン国王こくおうの臣民しんみんであった。この点てんでエンコミエンダ制せいは奴隷どれい制せいと異ことなった。

インディオはエンコミエンダ制せいに支ささえられた強制きょうせい労働ろうどうによる鉱山こうざんやプランテーションでの酷使こくしや、ヨーロッパから入はいってきた疫病えきびょうにより、激減げきげんした。西にしインド諸島しょとうの先住民せんじゅうみんの数かずも急激きゅうげきに減へり、エンコミエンダ制せいは自然しぜん消滅しょうめつに向むかったが、1521年ねんにエルナン・コルテスがメキシコを征服せいふくした後のち、部下ぶかに多数たすうの先住民せんじゅうみんを分配ぶんぱいしたことで、エンコミエンダ制せいは大陸たいりく部ぶで大だい規模きぼに展開てんかいすることになった。

エンコメンデーロの数かずは、メキシコ、ペルーで各かく500人にん程度ていどで、そのほとんどが征服せいふく後ご数すう年ねんで分配ぶんぱいを受うけた。エンコミエンダの信託しんたくには土地とち所有しょゆう権けんは含ふくまれず、エンコメンデーロ自みずからが農園のうえんを営いとなんだ例れいはこの時代じだい少すくなかった。先住民せんじゅうみんは、兵役へいえきや人夫にんぷ、建築けんちく作業さぎょうや砂金さきん採取さいしゅ、糸いと紡つむぎ、機織はたおりなどの非ひ農のう牧まき生産せいさんの賦役ふえきに用もちいるのが実態じったいであった。

エンコミエンダの衰退すいたい

「インディアス法ほう」、「インディアス新法しんぽう」、および「プリンキパリア」も参照さんしょう

16世紀せいき半なかばには、早はやくもエンコミエンダ制せいの没落ぼつらくが始はじまった。エンコメンデーロたちは封建ほうけん時代じだいのような世襲せしゅう制せいがあるものと考かんがえていたが、スペイン王権おうけんは、俸給ほうきゅう制せいに基もとづく官吏かんりによる新大陸しんたいりくの統治とうちの見通みとおしがつき、この制度せいどの撤回てっかいに着手ちゃくしゅするようになった。

カスティーリャ女王じょおうイザベラ1世せいは先住民せんじゅうみんの奴隷どれい化かを禁止きんしし、先住民せんじゅうみんを「王家おうけの自由じゆうな臣下しんか」とみなした。1512年ねんに発布はっぷされたブルゴス法ほう以降いこう、様々さまざまな「インディアス法ほう」が制定せいていされ、入植にゅうしょく者しゃと先住民せんじゅうみんとの交流こうりゅうを規制きせいした。先住民せんじゅうみんとスペイン人じんは、エンコミエンダ制度せいどに基もとづいて救済きゅうさいを求もとめるためにアウディエンシアに訴うったえることができた。

ラス・カサスやドミニコ会かいを始はじめとしたスペインの修道しゅうどう士し、知識ちしき人じんらは、制度せいどの導入どうにゅう以来いらい、その惨状さんじょうから撤廃てっぱいと先住民せんじゅうみん保護ほごを訴うったえ続つづけていた。彼かれらはエンコミエンダ制せいを名指なざしで非難ひなんし、いくつかの奴隷どれい解放かいほうについての勅みことのり令れいがあった後のち、最終さいしゅう的てきに1542年ねん、インディアス新法しんぽうが公布こうふされた。この法律ほうりつによりエンコミエンダ制せいは公式こうしきに撤廃てっぱいされた、再ふたたび奴隷どれい化かを禁止きんししただけではなく、すでに奴隷どれいになっている者ものも解放かいほうするように命めいじた。

エンコメンデロの没落ぼつらくには地域ちいき差さがあり、かなり後ごまで実力じつりょくを保持ほじした地域ちいきもある。実際じっさいには、エンコミエンダは18世紀せいき後半こうはんまで残のこった。資源しげんに乏とぼしいユカタン半島はんとうでは法的ほうてきに特例とくれいを認みとめられて18世紀せいき末まつまでエンコミエンダが残のこった。

奴隷どれい制せいとの関連かんれん

新大陸しんたいりくの征服せいふく当初とうしょから、スペイン人じんはインディオを労働ろうどう力りょくとして奴隷どれい化かしていた。征服せいふく戦争せんそうや反乱はんらんの鎮圧ちんあつで捕虜ほりょにした奴隷どれいと、インディオ社会しゃかいからすでに奴隷どれいであったレスカテ奴隷どれいがあったが、平和へいわに暮くらすインディオを反乱はんらんインディオと称しょうして奴隷どれい化かしたり、パヌコ地方ちほうやヌエバ・ガリシアではあからさまに奴隷どれい化かする例れいもあった。征服せいふく以前いぜんから奴隷どれいが貨幣かへい代かわりに使つかわれたり、貢みつぎ納おさめされたりしていたため、エンコメンデロに奴隷どれいが貢みつぎ納おさめされる例れいもあった。

奴隷どれいを認みとめない最初さいしょの勅みことのり令れいが1530年ねんにコルテスに届とどいた時とき、すでにエンコミエンダ制せいは既成きせい事実じじつであった。征服せいふく者しゃらの訴うったえにより1534年ねんには戦争せんそう捕虜ほりょとレスカテ奴隷どれいはいったん認みとめられたが、1542年ねんのインディアス新法しんぽうによって奴隷どれい解放かいほうが命めいぜられ、1548年ねんには女性じょせいと子供こどもの奴隷どれいは無条件むじょうけんで、成年せいねん男性だんせいの奴隷どれいは身分みぶんを証明しょうめいできない限かぎり解放かいほうという命令めいれいが下おりた。

通常つうじょう、エンコメンデーロはスペイン人じん町まちに居住きょじゅうし、インディオは自分じぶんの村むらで貢みつぎ納おさめ用ようの作さく地ちを無償むしょうで耕作こうさくし、時々ときどきエンコメンデロの土地とちに行いき無償むしょうで働はたらくという状況じょうきょうであった。このため、農村のうそんに住すむインディオは使つかい勝手がってが悪わるいとエンコメンデロは感かんじ、恒常こうじょう的てきに定着ていちゃくして労働ろうどうするインディオもしくは黒人こくじん奴隷どれいを求もとめた。1549年ねんにはエンコミエンダのインディオをいかなる理由りゆうでも私的してき賦役ふえきに用もちいることを禁きんじられ、エンコミエンダ制せいはこれ以降いこう、単たんに貢みつぎ納おさめを徴収ちょうしゅうするだけの制度せいどになった。

労働ろうどう制度せいどのその後ご

エンコミエンダ制度せいどは、徐々じょじょに王室おうしつが管理かんりするレパルティミエント制度せいどとアシエンダに取とって代かわった。そこで労働ろうどう者しゃは、アシエンダの所有しょゆう者しゃに直接ちょくせつ雇用こようされた。エンコミエンダと同様どうように、レパルティミエントでも土地とちは誰だれにも帰属きぞくせず、先住民せんじゅうみん労働ろうどう力りょくの割わり当あてだけが与あたえられた。しかし労働ろうどう力りょくが、スペイン王権おうけんに直接ちょくせつ割わり当あてられたという点てんで異ことなった。王室おうしつは、地方ちほうの官吏かんりを通つうじて、一定いっていの時間じかん (通常つうじょうは数すう週間しゅうかん) 入植にゅうしょく者しゃのために働はたらく彼かれらを割わり当あてた。レパルティミエントは「強制きょうせい労働ろうどうの弊害へいがいを減へらす」試こころみであった。17世紀せいき、先住民せんじゅうみんの数かずが減少げんしょうし、採掘さいくつが農業のうぎょうへと代かわると、労働ろうどう力りょくの獲得かくとくよりも土地とちの所有しょゆうのほうがより有益ゆうえきになったため、アシエンダが発達はったつした。

参考さんこう文献ぶんけん

• 大貫おおぬき良夫よしお、落合おちあい一はじめ泰たい、国本くにもと伊代いよ、恒川つねかわ恵市けいいち、福嶋ふくしま正徳まさのり、松下まつした洋ひろし『ラテン・アメリカを知しる事典じてん』平凡社へいぼんしゃ、1987年ねん。ISBN 4582126251。 
• 染田そめだ秀しゅう藤ふじ 編へん『ラテン・アメリカ史し 植民しょくみん地ち時代じだいの実像じつぞう』世界せかい思想しそう社しゃ、1989年ねん。ISBN 4790703509。 

関連かんれん項目こうもく

• ミタ制せい
• ブルゴス法ほう
• インディアス新法しんぽう
• インディアス法ほう
• カシケ
• プリンキパリア
• スブリミス・デウス