クロミズム

クロミズム (chromism) は物質ぶっしつの光物ひかりもの性せい（色いろ・蛍光けいこうなど）が外部がいぶからの刺激しげきによって可逆かぎゃく的てきに変化へんかする現象げんしょうをさす。クロミズムを示しめす物質ぶっしつのことをクロミック物質ぶっしつ（あるいはクロミック材料ざいりょう、chromic material）という。

多おおくの場合ばあい、クロミズムは分子ぶんしのπぱい軌道きどうやd軌道きどうの電子でんし状態じょうたいが変化へんかするために引ひき起おこされる。クロミズムを示しめす物質ぶっしつは天然てんねんにも存在そんざいしており、また目的もくてきとする色いろ変化へんかを示しめすように分子ぶんし設計せっけいされた人工じんこう物質ぶっしつも多おおく合成ごうせいされている。

クロミズムを起おこす原因げんいんとしては、熱ねつ・光ひかり・電気でんき・溶媒ようばい和わ・圧力あつりょくなどが知しられている。

金属きんぞく錯体さくたいなどが、環境かんきょうや外部がいぶ刺激しげきにより可逆かぎゃく的てきに変色へんしょくする場合ばあいを、クロモトロピズム (chromotropism) と呼よぶこともある。

サーモクロミズム

サーモクロミズム (thermochromism) は温度おんどによって引ひき起おこされるクロミズムで、最もっとも一般いっぱん的てきである。この現象げんしょうを利用りようして、「気温きおんが上あがると自動的じどうてきに日光にっこうを通とおさなくするガラス」などが開発かいはつされている。

フォトクロミズム

フォトクロミズム (photochromism) は光ひかりによって引ひき起おこされるクロミズムである。多おおくの場合ばあい、光ひかりによって分子ぶんしが異性いせい化かすることによって生しょうじる。

フォトクロミック物質ぶっしつは、光ひかりディスクなどの記憶きおく材料ざいりょうへの応用おうようが可能かのうであるため、盛さかんに研究けんきゅうが行おこなわれている。アゾベンゼン・スピロピラン・ジアリールエテンが有名ゆうめいである。

エレクトロクロミズム

エレクトロクロミズム (electrochromism) は電気でんき的てきに引ひき起おこされる酸化さんか還元かんげん反応はんのうによって生しょうじるクロミズムである。金属きんぞくイオンなどのレドックス活性かっせい部位ぶいをもつ物質ぶっしつで見みられる。

エレクトロクロミック物質ぶっしつは、電気でんき的てきに色いろを変かえられるので、記憶きおく材料ざいりょうやディスプレイ材料ざいりょうなどのへの応用おうよう研究けんきゅうが行おこなわれている。実用じつよう例れいは少すくなかったが、ボーイング787の窓まどで、従来じゅうらいのシェード（日除ひよけ）に代かわって採用さいようされたことで広ひろく知しられるようになった。

ソルバトクロミズム

Reichardt's Dye

ソルバトクロミズム (solvatochromism) は、色素しきそ、あるいは金属きんぞく錯体さくたいの溶液ようえきについて、溶媒ようばい (solvent) の種類しゅるいによりその色いろが変かわるクロミズムのことである。この現象げんしょうは、溶質ようしつ分子ぶんしの電子でんし軌道きどうのエネルギー準じゅん位いが、溶媒ようばい分子ぶんしの極性きょくせいや屈折くっせつ率りつ、水素すいそ結合けつごうなどの分子ぶんし間あいだ相互そうご作用さようの強弱きょうじゃくにより影響えいきょうを受うけて安定あんてい化かもしくは不安定ふあんてい化かし、吸収きゅうしゅうされる光ひかりの波長はちょうが変かわることであらわれる。金属きんぞく錯体さくたいのソルバトクロミズムでは、溶媒ようばい和わ（溶媒ようばい分子ぶんしが金属きんぞくに配はい位いすること）の有無うむや電子でんしのスピン状態じょうたいの変化へんか、それらにともなう配はい位い場じょうの変化へんかによることも多おおい。

また、ソルバトクロミズムが特とくに顕著けんちょな色素しきそを、ソルバトクロミック色素しきそと呼よぶ。代表だいひょう例れいの一ひとつとして、1960年代ねんだいに Reichardt らにより詳くわしく調しらべられた Reichardt's dye (2,6-diphenyl-4-(2,4,6-tripheynylpyidinio)phenolate) が挙あげられる。ベタイン構造こうぞうを持もつこの分子ぶんしは、以下いかのようなソルバトクロミズム特性とくせいを示しめす。この色素しきそは、溶媒ようばいの性質せいしつを調しらべる目的もくてきでも用もちいられる。

Reichardt's dye の色いろ変化へんか

溶媒ようばい	色いろ
25 %エタノール水溶液すいようえき	橙だいだい
メタノール	赤あか
エタノール	紫むらさき
アセトン	青あお
ジクロロメタン	青あお緑みどり
ベンゼン	黄き緑みどり

ソルバトクロミズムを示しめす金属きんぞく錯体さくたいとしては、ニッケル錯体さくたいの一種いっしゅである [Ni(acac)(tmen)]BPh₄ が挙あげられる（acac = アセチルアセトナート（アセチルアセトンの共役きょうやく塩基えんき）、tmen = テトラメチルエチレンジアミン）。この化合かごう物ぶつは、アセトン中ちゅうでは褐色かっしょく、ジクロロメタン中ちゅうでは赤色あかいろ、メタノール中ちゅうでは青色あおいろを呈ていする（室温しつおん）。この色いろ変化へんかは、溶媒ようばい分子ぶんしの配はい位いによる錯体さくたいの構造こうぞう変化へんかに由来ゆらいする。

身近みぢかなソルバトクロミック物質ぶっしつとしては、脱水だっすい剤ざいなどに含ふくまれている塩化えんかコバルト(II) がある。塩化えんかコバルト(II) は無水むすい状態じょうたいあるいは有機ゆうき溶媒ようばい中ちゅうでは青あおいが、水みずが存在そんざいすると赤あかくなるため、湿度しつどを知しる目安めやすとして広ひろく利用りようされている。

これら 2種しゅの金属きんぞく錯体さくたいは、ともに有機ゆうき溶媒ようばい中ちゅうにおいてサーモクロミズム特性とくせいをも示しめす。

その他た

上記じょうきのほかに、圧あつ力りょくにより色いろが変かわるピエゾクロミズム、溶媒ようばい蒸気じょうきの作用さようにより色いろが変かわるベイポクロミズムなども、それらの特性とくせいを有ゆうする物質ぶっしつが知しられている。