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サイケデリック体験たいけん

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

サイケデリック体験たいけん(psychedelic experience)とは、サイケデリックス幻覚げんかくざい英単語えいたんご)に誘導ゆうどうされる一時いちじてき変性へんせい意識いしき状態じょうたいである。典型てんけいてき幻覚げんかくざいには、LSDメスカリンシロシビン2C-IDMT5-MeO-DMTなどがある。アシッド・トリップはLSDによるサイケデリック体験たいけんす。

サイケデリックかたりは、「しんをあらわにする」という意味いみのギリシャ由来ゆらいする。サイケデリック体験たいけんは、探索たんさくてきに、あるいは学習がくしゅう娯楽ごらく英語えいごばん宗教しゅうきょうてき神秘しんぴてき、また治療ちりょう英語えいごばん文脈ぶんみゃくもちいられる。

定義ていぎ

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サイケデリック体験たいけんとは、(幻覚げんかくざい英語えいごの)サイケデリックス誘導ゆうどうされる一時いちじてき変性へんせい意識いしき状態じょうたいである[注釈ちゅうしゃく 1]意識いしきのサイケデリックな変性へんせい状態じょうたいとは、一般いっぱんてき普通ふつうの(シラフの)状態じょうたいくらべて、高次こうじの(たかい、超越ちょうえつてきな)状態じょうたいといった特徴とくちょうがある。たとえば、心理しんり学者がくしゃベニー・シャノン英語えいごばんはアヤワスカによるトリップの報告ほうこくから、中毒ちゅうどくちゅうきていることが真実しんじつとみなされ、普段ふだん認識にんしきしている世界せかい幻想げんそうとする評価ひょうか一般いっぱんてきであるとべている[1]

同様どうように、心理しんり学者がくしゃスタニスラフ・グロフはLSDの体験たいけんをこう説明せつめいする。「存在そんざい本質ほんしつへの複雑ふくざつ啓示けいじてき洞察どうさつ…それは典型てんけいてきには、日々ひび生活せいかつにおいて共有きょうゆうされている認識にんしき信念しんねんよりも、この知識ちしきには究極きゅうきょくてき意味いみがあり『真実しんじつ』であるというかく実感じっかんともな[2]哲学てつがくしゃアラン・ワッツによれば、サイケデリック体験たいけん道教どうきょうぜんでの意識いしき変容へんようているものであり、こう説明せつめいする。「不完全ふかんぜん知覚ちかく矯正きょうせいあるいは病気びょうき治療ちりょうちかく…さらなる事実じじつりたい、よりたか技術ぎじゅつたいという欲望よくぼう進展しんてんではなく、むしろあやまった習慣しゅうかん見方みかたるということです[3]

ティモシー・リアリーらによる1964ねんの『チベット死者ししゃしょサイケデリック・バージョン』(原題げんだい The Psychedelic Experience)では、サイケデリック体験たいけんとは、規模きぼ内容ないよう制限せいげんのない体験たいけんだが、言語げんごてき概念がいねん時間じかん空間くうかん超越ちょうえつ自我じがやアイデンティティの超越ちょうえつだとされる[4]レスター・グリンスプーンらによる『サイケデリック・ドラッグ』のだい4しょうは「サイケデリック体験たいけん特性とくせい」であり、ある逸話いつわ一般いっぱんてき体験たいけんであるかのように誤解ごかいされやすいが、その体験たいけん幅広はばひろゆめ神話しんわのように多様たようであり、すうじゅう体験たいけん直接ちょくせつ引用いんようされている[5]。4000以上いじょうのセッションをおこなってきたスタニスラフ・グロフの『深層しんそうからの回帰かいき』も、膨大ぼうだい多様たよう体験たいけん記録きろくである[2]

語源ごげん

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psychedelic(サイケデリック)という言葉ことばは、ハンフリー・オズモンドがつくしたもので、意味いみは「しんをあらわにする」ということで、psyche(しん)に作用さようする幻覚げんかくざい能力のうりょく由来ゆらいである[6]。アシッド・トリップはLSDによるサイケデリック体験たいけんしている[7]

「トリップ」という言葉ことばはアメリカぐん科学かがくしゃんだもので、1950年代ねんだいにLSDの実験じっけんしていた[8]

バッド・トリップ

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バッド・トリップ(bad trip、薬物やくぶつによる一時いちじてき精神病せいしんびょうなど)はしんみだし、不快ふかいで、おそろしく、サイケデリック体験たいけんをトラウマとえうる。よりつよ作用さようしょうじるこう用量ようりょう摂取せっしゅによりこりやすい。

症状しょうじょうはぼんやりした不安ふあんかん疎外そがいかんから、おさまらない恐怖きょうふ完全かんぜん狂気きょうき、または宇宙うちゅう崩壊ほうかい英語えいごばんまでである。精神療法せいしんりょうほうにおけるサイケデリックにかんする専門せんもん英語えいごばんは、不快ふかい体験たいけん有害ゆうがいこのましくない不要ふようなものであるとみなされるのではなく、適切てきせつ対処たいしょされた場合ばあいおおきな恩恵おんけい可能かのうせいもあるものだと説明せつめいしている。バッドトリップは、不慣ふなれだったり、薬物やくぶつ使用しようしゃ無責任むせきにんであったり、トリップのための適切てきせつ心構こころがまえや環境かんきょうがないといったことでよりわるくなり、体験たいけん過程かていでの対処たいしょされていない心理しんりてき葛藤かっとうがきっかけとなりそれが反映はんえいされる[9]

シロシビンの用量ようりょう体験たいけんかんする研究けんきゅう実施じっしされ[10]研究けんきゅうしゃ半分はんぶんてい用量ようりょうでも神秘しんぴてき体験たいけんだという特徴とくちょうしょうじることにわりはないが、不安ふあん恐怖きょうふかんじることが5ぶんの1に減少げんしょうするとしている[11]

その適用てきよう

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神秘しんぴてき宗教しゅうきょうてき体験たいけん

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サイケデリック体験たいけんには、神秘しんぴてき宗教しゅうきょうてき経験けいけんてき現象げんしょうのあらゆる側面そくめんふくまれる。シロシビンマジックマッシュルーム成分せいぶん)による2つの研究けんきゅうは、確実かくじつ神秘しんぴてき種類しゅるい経験けいけんのきっかけになると結論けつろんしている[12]。ジョンズ・ホプキンス大学だいがくにおけるよりあたらしい研究けんきゅうは、「神秘しんぴ主義しゅぎ尺度しゃくど」(mysticism scale)とばれる質問しつもんひょうふくまれている、日常にちじょう体験たいけんである変性へんせい状態じょうたいのために設計せっけいされたいくつかの質問しつもんひょうによって神秘しんぴ体験たいけん識別しきべつした[12]

また幻覚げんかくざいには、世界中せかいじゅう宗教しゅうきょうてき使用しようされたなが歴史れきしがあり、しばしばエンセオジェンばれており、それはこうした種類しゅるい体験たいけんしょうじさせる傾向けいこう理由りゆうである[13]

現代げんだい宗教しゅうきょうにおいても、ネイティブ・アメリカン・チャーチサント・ダイミのように、サイケデリック体験たいけん中心ちゅうしんとした信仰しんこう宗教しゅうきょうてき活動かつどう存在そんざいしている。れい祖先そせん世界せかい対話たいわする方法ほうほうだとなされる[14]

個人こじん発達はったつ

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サイケデリック体験たいけんには、あきらかにグノーシスのような性質せいしつがあり、意識いしきたか個人こじんてき発達はったつふか貢献こうけんするような学習がくしゅう体験たいけんである。このため、アヤワスカやシロシビン含有がんゆうキノコのような一部いちぶ植物しょくぶつ由来ゆらいする幻覚げんかくざいは、ときに「植物しょくぶつ先生せんせい」(plant teacher)とばれる[15]同様どうように、シロシビンと神秘しんぴ主義しゅぎかんする研究けんきゅう追跡ついせき調査ちょうさおこなった研究けんきゅうしゃによれば、シロシビンは、行動こうどう態度たいど価値かちかんにおける長期ちょうきてき変化へんか予測よそくできるような、個人こじんてきでスピリチュアルな重要じゅうよう神秘しんぴ体験たいけんこすものである[12][16]

オルダス・ハクスリーの遍在へんざい精神せいしんせつ

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内的ないてき探索たんさくしゃ英語えいごばんであるオルダス・ハクスリーのその著書ちょしょ知覚ちかくとびら』では、サイケデリック体験たいけん重要じゅうようせい説明せつめいするために、遍在へんざい精神せいしんせつ英語えいごばんげている。社会しゃかい規範きはんまなぶことや、とく生物せいぶつてきなことが原因げんいんで、人間にんげん遍在へんざい精神せいしん状態じょうたいには通常つうじょうがつかない。ハクスリーによれば、中枢ちゅうすう神経しんけいけいおも機能きのうとしてわたしたちが知覚ちかくしているもののだい部分ぶぶん遮断しゃだんされている[17]。 ハクスリーによれば、のこるためにのうはこうした知覚ちかく選別せんべつしている。社会しゃかい記号きごうシステムをし、わたしたちの現実げんじつ構造こうぞうし、づきをらすために、このフィルターをささえている[17]

サイケデリック心理しんり療法りょうほう

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サイケデリック療法りょうほうとは、プシュケー(psyche、しん)の有益ゆうえき探索たんさくたすけるための幻覚げんかくざい使用しようかかわる治療ちりょうてき行為こういである。薬物やくぶつともなうそのセッションでは、心理しんり療法りょうほうは、患者かんじゃ内的ないてき体験たいけん探索たんさくできるよう指示しじてき支援しえんする。薬物やくぶつによるセッションのまえに、患者かんじゃには準備じゅんびのための心理しんり療法りょうほうおこなわれ、またセッションののちではその体験たいけん統合とうごうするためにおこなわれる[18] [19]

幻覚げんかくざいもとづく精神せいしん医学いがく初期しょき施術しじゅつしゃは、イギリスの精神せいしんであるハンフリー・オズモンド英語えいごばんであり、かれがサイケデリックという言葉ことば造語ぞうごしている。オズモンド自身じしんのLSDの使用しようは、統合とうごう失調しっちょうしょうゆうするかれ患者かんじゃ内的ないてき精神せいしん状態じょうたい理解りかいたすけたとっている[20]

スタニスラフ・グロフもこの分野ぶんや実践じっせんしゃであり、心理しんり療法りょうほうにおけるLSDの使用しよう開拓かいたくした[21]。 グロフはサイケデリック体験たいけんを「無意識むいしきてき精神せいしん機能きのう非特異ひとくいてき増幅ぞうふく」だと特徴とくちょうづけ、オットー・ランク理論りろんである、解決かいけつ原初げんしょてき出生しゅっしょう外傷がいしょう記憶きおく観点かんてんからLSD体験たいけん現象げんしょうがく分析ぶんせきした[22]

サイケデリック体験たいけんによる自我じがは、末期まっき病気びょうき患者かんじゃ末期まっきがん患者かんじゃなど)が自身じしん通常つうじょう自分勝手じぶんがって価値かちかんそとから、理性りせいてきちかづくことを可能かのうとする。せまる、けられない苦痛くつう対処たいしょ理解りかいできるものとすることを研究けんきゅう証明しょうめいしている。せいからへの移行いこうが、たん人生じんせいのひとつのあゆみだと理解りかいできる。こうしたみは、ハーバーUCLA医療いりょうセンターのチャールズ・グロフによって積極せっきょくてきすすめられている。

関連かんれん項目こうもく

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ よくられた幻覚げんかくざいにはLSDやシロシビン含有がんゆうのマジックマッシュルームなどがある

出典しゅってん

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  1. ^ Shanon, Benny (2002). The antipodes of the mind : charting the phenomenology of the Ayahuasca experience (Reprinted ed.). New York: Oxford University Press. p. 205. ISBN 978-0-19-925292-3 
  2. ^ a b Bennett, Stanislav Grof with Hal Zina (2006). The holotropic mind : the three levels of human consciousness and how they shape our lives (1st paperback ed., [Nachdr.] ed.). San Francisco, Calif.: HarperSanFrancisco. pp. 38. ISBN 9780062506597  訳書やくしょ深層しんそうからの回帰かいき』は原著げんちょ1992年版ねんばん翻訳ほんやく
  3. ^ Leary, Alan W. Watts ; with a new introduction by Daniel Pinchbeck ; foreword by Timothy; PhD; PhD, Richard Alpert, (2013). The joyous cosmology : adventures in the chemistry of consciousness (Second ed.). pp. 15. ISBN 9781608682041 
  4. ^ ティモシー・リアリーリチャード・アルパートラルフ・メツナー しるかん靖彦やすひこ わけ『チベットの死者ししゃしょ―サイケデリック・バージョン』八幡やはた書店しょてん、1994ねん、13ぺーじISBN 4-89350-319-7  The Psychedelic Experience: A Manual Based on the Tibetan Book of the Dead, 1964. この著書ちょしょ日本語にほんごやくには「サイケデリック体験たいけん」という訳語やくごなん登場とうじょうする。
  5. ^ レスター・グリンスプーン、ジェームズ・B. バカラー ちょきねふち幸子こうじ妙木みょうき浩之ひろゆき やく『サイケデリック・ドラッグ―こう精神せいしん物質ぶっしつ科学かがく文化ぶんか工作こうさくしゃ、2000ねんISBN 4-87502-321-9  Psychedelic Drugs Reconsidered, 1979
  6. ^ Goldsmith, Neal. Psychedelic Healing 
  7. ^ Thorne, Tony (2014). Dictionary of Contemporary Slang. A&C Black. p. 21. ISBN 978-1-4081-8180-5. https://books.google.com/books?id=sc-7AgAAQBAJ&pg=PT21 
  8. ^ マーティン・A.リー、ブルース・シュレイン ちょ越智おち道雄みちお やく『アシッド・ドリームズ―CIA、LSD、ヒッピー革命かくめいだいさんしょかん、1992ねん、45ぺーじISBN 4-8074-9203-9 
  9. ^ Stanislav Grof, LSD Psychotherapy; passim
  10. ^ Griffiths, Roland R.; Johnson, Matthew W.; Richards, William A.; et al. (2011). “Psilocybin occasioned mystical-type experiences: immediate and persisting dose-related effects”. Psychopharmacology 218 (4): 649–665. doi:10.1007/s00213-011-2358-5. PMC 3308357. PMID 21674151. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3308357/. 
  11. ^ Maia Szalavitz (2011ねん6がつ16にち). “‘Magic Mushrooms’ Can Improve Psychological Health Long Term”. TIME. http://healthland.time.com/2011/06/16/magic-mushrooms-can-improve-psychological-health-long-term/ 2017ねん4がつ12にち閲覧えつらん 
  12. ^ a b c MacLean, Katherine A.; Johnson, Matthew W.; Griffiths, Roland R. (2011). “Mystical experiences occasioned by the hallucinogen psilocybin lead to increases in the personality domain of openness” (PDF). Journal of Psychopharmacology 25 (11): 1453-1461. doi:10.1177/0269881111420188. オリジナルの13 October 2013時点じてんにおけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131013040445/http://www.heffter.org/docs/2013pdf/Openness-psilocybin%202011.pdf. 
  13. ^ Schultes, Richard Evans; Hofmann, Albert; Rätsch, Christian (2001). Plants of the gods : their sacred, healing, and hallucinogenic powers (Rev. and expanded ed.). Rochester, Vt.: Healing Arts Press. ISBN 0892819790  翻訳ほんやく図説ずせつ快楽かいらく植物しょくぶつ大全たいぜん』(東洋とうよう書林しょりん、2007ねんISBN 978-4-88721-726-3
  14. ^ Is psychedelics research closer to theology than to science? – Jules Evans | Aeon Essays” (英語えいご). Aeon. 2019ねん4がつ4にち閲覧えつらん
  15. ^ Luis Eduardo Luna. “The Concept of Plants as Teachers among four Mestizo Shamans of Iquitos, Northeastern Perú”. 2016ねん4がつ19にち閲覧えつらん
  16. ^ Griffiths, Roland R; Johnson, Matthew W; Richards, William A; Richards, Brian D; Jesse, Robert; MacLean, Katherine A; Barrett, Frederick S; Cosimano, Mary P et al. (2018-01-01). “Psilocybin-occasioned mystical-type experience in combination with meditation and other spiritual practices produces enduring positive changes in psychological functioning and in trait measures of prosocial attitudes and behaviors” (英語えいご). Journal of Psychopharmacology 32 (1): 49–69. doi:10.1177/0269881117731279. ISSN 0269-8811. PMC 5772431. PMID 29020861. https://doi.org/10.1177/0269881117731279. 
  17. ^ a b オルダス・ハクスリー ちょ河村かわむらじょう一郎いちろう やく知覚ちかくとびら平凡社へいぼんしゃ平凡社へいぼんしゃライブラリー〉、1995ねん、26-27ぺーじISBN 4-58276-115-1 
  18. ^ A Manual for MDMA-Assisted Psychotherapy in the Treatment of Posttraumatic Stress Disorder”. Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies (4 January 2013). 31 May 2014閲覧えつらん
  19. ^ Sessa, Ben (2015). Psychedelic Drug Treatments. USA: Mercury Learning & Information. pp. 60. ISBN 1936420449 
  20. ^ Erowid Character Vaults : Humphry Osmond”. エロウィド. 2016ねん4がつ19にち閲覧えつらん
  21. ^ Stanislav Grof ; (2008). LSD psychotherapy (4th ed.). Ben Lomond, Calif.?: Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies. ISBN 0979862205 
  22. ^ Grof, Stanislav (1976). Realms of the human unconscious : observations from LSD research. New York: Dutton. pp. 98. ISBN 0-525-47438-2 

さらに

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  • Grinspoon, Lester, & Bakalar, James. B. (Eds.). Psychedelic Reflections. (1983). New York: Human Sciences Press. p. 13-14 ISBN 0-89885-129-7