シクロピロクス

シクロピロクス（INN：ciclopirox）とは、ピドロキシピリドン系けい抗こう真ま菌きん薬やくとして知しられる、人工じんこう的てきに合成ごうせいされた有機ゆうき化合かごう物ぶつである。ciclopiroxを、CPXと略記りゃっきする場合ばあいがある。また、2-アミノエタノールはオラミン（olamine）と呼よばれる場合ばあいもあり、シクロピロクスは製剤せいざい化かの際さいに、しばしば2-アミノエタノールとの塩しおにされるため、シクロピロクス オラミン（ciclopirox olamine）の名称めいしょうで呼よばれる場合ばあいもある。

なぜ真ま菌きんに対たいして、シクロピロクスが打撃だげきを与あたえるのかについては、21世紀せいき初頭しょとう時点じてんにおいても、あまり解明かいめいが進すすんでいない。

構造こうぞう

シクロピロクスの構造こうぞう。

シクロピロクスの分子ぶんし式しきはC₁₂H₁₇NO₂であり、したがって、モル質量しつりょうは約やく 207.27 (g/mol)である。

抗こう真ま菌きん薬やくは、その化学かがく構造こうぞうによって分類ぶんるいされる場合ばあいがある。シクロピロクスの場合ばあいは、ヒドロキシピリジン（hydroxypyridine）を構造こうぞう中ちゅうに有ゆうする抗こう真ま菌きん薬やくだとか、N-ヒドロキシ-2-ピリドン（N-Hydroxy-2-pyridone）を構造こうぞう中ちゅうに有ゆうする抗こう真ま菌きん薬やくだとか言いわれたりもする。時ときに、2-ピリドン系けい抗こう真ま菌きん薬やく（2-pyridone antifungal agent）と呼よばれたりもする。

ただ、本稿ほんこうでは、日本語にほんご書籍しょせきの『治療ちりょう薬やくマニュアル』で用もちいられていた「ピドロキシピリドン系けい抗こう真ま菌きん薬やく」という分類ぶんるいに従したがった。

薬理やくり

2003年ねん時点じてんにおいて、アゾール系けい抗こう真ま菌きん薬やくなどの他ほかの系統けいとうの抗こう真ま菌きん薬やくと比くらべると、ピドロキシピリドン系けい抗こう真ま菌きん薬やくであるシクロピロクスの作用さよう機き序じょは充分じゅうぶんに判わかっていない。

もっとも、Malassezia furfurによる皮膚ひふの感染かんせん症しょうの治療ちりょうにシクロピロクスを用もちいてみた結果けっか、皮膚ひふの炎症えんしょうを抑おさえるという点てんにおいて、アゾール系けい抗こう真ま菌きん薬やくのケトコナゾールと似にているのではないかという報告ほうこくも出だされた。

しかし、シクロピロクスには、その作用さよう機き序じょに関かんして、多様たような仮説かせつが出だされてきた。例たとえば、真ま菌きんの細胞さいぼう内ないで物質ぶっしつの代謝たいしゃを行おこなっているカタラーゼやペルオキシダーゼの機能きのうを低下ていかさせている可能かのう性せいが示唆しさされた。また、Saccharomyces cerevisiaeの幾いくつかの菌株きんしゅで試験しけんした結果けっか、真ま菌きんが核分裂かくぶんれつを行おこなう際さいに、真ま菌きんが行おこなう場合ばあいのあるDNAの修復しゅうふくにシクロピロクスが影響えいきょうを及およぼし、DNAに異常いじょうを引ひき起おこす可能かのう性せいも示唆しさされた。これとは別べつに、真ま菌きんの細胞さいぼう膜まくに作用さようして、真ま菌きんの増殖ぞうしょくや生存せいぞんに必要ひつような物質ぶっしつの輸送ゆそうを妨害ぼうがいしているのではないかとの説せつも存在そんざいする。他たに、真ま菌きんの細胞さいぼうの形態けいたいなどに影響えいきょうを与あたえている可能かのう性せいも示唆しさされている。

このように、シクロピロクスが有ゆうする抗こう真ま菌きん作用さように関かんしては、諸説しょせつ見みられるものの、決きめ手てに欠かいている状況じょうきょうにある。

製剤せいざい

シクロピロクスは製剤せいざい化かの際さいに、しばしば2-アミノエタノールとの塩しおの形かたちにされる。シクロピロクスの製剤せいざいは、外用がいよう剤ざいとして用もちいられ、表おもて在ざい性せいのカンジダ症しょうや白癬はくせんの治療ちりょうのために外用がいようする。クリーム剤ざい、シャンプー、外用がいよう液剤えきざいなど、多様たような剤ざい形がたの製剤せいざいが開発かいはつされてきた。

なお、多おおくの地域ちいきで販売はんばいされてきた製剤せいざいであり、その製品せいひん名めいは多様たようである。

用途ようと

表おもて在ざい性せいのカンジダ症しょうや白癬はくせんの治療ちりょうのために、シクロピロクスを外用がいようする場合ばあいがある。さらに、表おもて在ざい性せいのマラセチア感染かんせん症しょうの治療ちりょうのために外用がいようする場合ばあいもある。

また、通常つうじょうの皮膚ひふの白癬はくせんに比くらべて治療ちりょうが難むずかしい、爪つま白癬はくせんの治療ちりょうにも外用がいようする場合ばあいがある。シクロピロクス オラミンとプラセボを比較ひかくした場合ばあいには、48週間しゅうかんの治療ちりょうを行おこなった結果けっか、シクロピロクス オラミンを用もちいた群ぐんが、61パーセントから64パーセントで、プラセボよりは良よい治療ちりょう効果こうかが見みられた。シクロピロクス オラミンを、通常つうじょうよりも高こう濃度のうど、8パーセント含有がんゆうした外用がいよう剤ざいで爪つま白癬はくせんの治療ちりょうを行おこなった結果けっか、69.2パーセントで有効ゆうこうだったという。これ以外いがいに、爪つま白癬はくせんに対たいしては、モルホリン系けい抗こう真ま菌きん薬やくのアモロルフィンの外用がいよう剤ざいよりも有効ゆうこうのように見みえるとの報告ほうこくは出だされたものの、そもそもサンプル数すうが少すくないという問題もんだいが有あり、シクロピロクスの方ほうが勝かっているという報告ほうこくは、信頼しんらい性せいに欠かける。さらに、シクロピロクスで爪つま白癬はくせんを完かん治なおさせる事ことは、難むずかしいともされる。

なお、試験しけん的てきに女性じょせい器きのカンジダ感染かんせん症しょうに外用がいようで用もちいた事例じれいは報告ほうこくされたものの、基本きほん的てきに、眼めと女性じょせい器きのカンジダなどの真ま菌きん感染かんせん症しょうに、シクロピロクスは使用しようしない。また、使用しようしたシクロピロクスが乳汁にゅうじゅうへ移行いこうするかどうかに関かんする充分じゅうぶんなデータが無ないため、授乳じゅにゅう中ちゅうの女性じょせいが使用しようする場合ばあいには、事前じぜんに医師いしなどに相談そうだんするべきである。

有害ゆうがい作用さよう

シクロピロクスを含ふくんだ製剤せいざいを皮膚ひふに外用がいようした直後ちょくごに、皮膚ひふの灼熱しゃくねつ感かんが出でる場合ばあいがある。