スーク (市し)

スーク（souq, アラビア語ご: سوق‎ sūq）とは、アラブ人じんやベルベル人じんの世界せかいで、商業しょうぎょう地区ちくを言いう。

概要がいよう

スーク（sūq）は市場いちばを意味いみし、語源ごげんは、送おくる、運はこぶ、手渡てわたすという意味いみの動詞どうしساق (sāqa) からの派生はせいにあたる。総体そうたいとしての市場いちばを指さす場合ばあいと、特定とくていの商品しょうひんを扱あつかう個々ここの市場いちばの用法ようほうがある。

元来がんらい、キャラバン（隊商たいしょう）の通とおる街まち外はずれに定期ていき的てきに立たつ交易こうえきの市しで、祝祭しゅくさいの場ばでもあり、部族ぶぞく紛争ふんそうのときも中立ちゅうりつ性せいが担保たんぽされていた。やがて恒久こうきゅう的てきなスークが登場とうじょうし、現在げんざいのアラブ世界せかいでは、英語えいごの「マーケット (market) 」とほぼ同おなじ意味いみで用もちいられ、物理ぶつり的てきな意味いみと抽象ちゅうしょう的てきな意味いみの両方りょうほうを含ふくむ。

種類しゅるい

スークは以下いかの5種類しゅるいに大別たいべつされる^[1]。

一般いっぱん的てきスーク（伝統でんとう的てき市場いちば）
スーク・ル＝ハール（政府せいふ公認こうにん青物あおもの市場いちば）
スーク・ル＝ジュムア（定期ていき市し）
季き節ぶし市し
スーク・ル＝インタージュ（年とし一いち度どの地場じば産品うぶしな市し）

季き節ぶし的てきなスーク

スークは元来がんらい、街まち外はずれにある年とし、ある月つき、ある週しゅうにだけ立たつ市しであった。たとえばメッカにはヒジュラ暦れきの戦たたかいが禁きんじられていた神聖しんせいなズー・アル＝カアダ月つきにだけ毎年まいとし立たつスークがあった。家畜かちくや農作物のうさくもつ、工芸こうげい品ひんが売うられるだけでなく詩歌しかの出来できを競きそったりした。街まち中ちゅうの空あき地ちで、毎週まいしゅう決きまった曜日ようびにだけ開ひらかれるスークは現在げんざいでもアラブ世界せかいでは珍めずらしくない。アンマンの「水曜すいようスーク」は毎週まいしゅう水曜すいようだけ開ひらかれ中古ちゅうこ品ひんを売買ばいばいする。バグダードの「金曜きんようスーク」はペットを、マラケシュのスークは歌うたやアクロバット、サーカスで有名ゆうめいである。

恒久こうきゅう的てきなスーク

娯楽ごらくに重点じゅうてんが置おかれておらず、売買ばいばいの場ばとなる。今日きょうではこのタイプのスークが一般いっぱん的てきとなっている。ウマイヤ朝あさの時代じだいまでは、恒久こうきゅう的てきといっても、広場ひろばに商人しょうにんが屋台やたいを運はこび入いれ、日にち中ちゅうのみ商あきないをして夜よるには屋台やたいを撤収てっしゅうしていた。先着せんちゃく順じゅんで、誰だれも広場ひろばの決きまった場所ばしょを占有せんゆうする権利けんりはなかった。ウマイヤ朝あさになってはじめて、個々ここの商人しょうにんに特定とくていの場所ばしょが貸かし出だされた。こうして広場ひろばに小屋こやが建たてられ、そこに夜間やかん、商品しょうひんをストックするようになり、スークの姿すがたが一変いっぺんした。当初とうしょ、スークには多おおくの規制きせいがあった。スークの中なかに「ゴールドスーク」、「スパイススーク」、というように同おなじ商品しょうひんを扱あつかう者ものごとに狭せまい一角いっかくにまとめて押おし込こめられ、それぞれをまた「スーク」と呼よんだ。

スークはやがて契約けいやくや課税かぜいという点てんからも街まちの行政ぎょうせいの中心ちゅうしんへ成長せいちょうした。市しの中心ちゅうしん部ぶへと位置いちしたスークは、取とり引ひきの場ば、行政ぎょうせい・司法しほうの座ざ、ハーン（キャラバンサライ）、モスク、マドラサ、ハンマーム等ひとしを内包ないほうする地区ちくを形成けいせいした。外部がいぶから来きた商人しょうにんは、荷物にもつをキャラバンサライの倉庫そうこに入いれて数すう日間にちかん宿泊しゅくはくした。

アフリカでは今いまなお、人々ひとびとはただ座すわって時ときを過すごしたり、語かたらうためにだけスークに集あつまってくる。アラブ世界せかいの美うつくしく典型てんけい的てきなスークとして、モロッコのフェス、シリアのアレッポにあるアル＝マディーナ・スーク、イエメンのサナアの3つがあげられる^[2]。ただし、アレッポについては2011年ねんよりシリアで続つづく内戦ないせんの影響えいきょうで歴史れきし的てきな店舗てんぽの大半たいはんは焼失しょうしつした^[3]。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

^ 黒田くろだ美代子みよこ『商人しょうにんたちの共和きょうわ国こく』第だい2章しょう
^ 黒田くろだ美代子みよこ『商人しょうにんたちの共和きょうわ国こく』序じょ
^ “世界せかい遺産いさん「古代こだい都市としアレッポ」大半たいはん焼失しょうしつ…戦闘せんとうで”. 読売新聞よみうりしんぶん. (2012年ねん9月がつ30日にち) 2012年ねん9月がつ30日にち閲覧えつらん。

参考さんこう文献ぶんけん

イブン・ジュバイル『イブン・ジュバイルの旅行りょこう記き』藤本ふじもと勝次かつじ・池田いけだ修おさむ監訳かんやく、講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、2009年ねん。
イブン・バットゥータ『大だい旅行りょこう記き』全ぜん8巻かんイブン・ジュザイイ編へん、家島いえじま彦一ひこいち訳わけ、平凡社へいぼんしゃ〈平凡社へいぼんしゃ東洋文庫とうようぶんこ〉、1996-2002年ねん。 - 14世紀せいきのスークについての記述きじゅつがある。
黒田くろだ美代子みよこ『商人しょうにんたちの共和きょうわ国こく』藤原ふじわら書店しょてん、1995年ねん。 - アレッポを中心ちゅうしんにスークを研究けんきゅうした書しょ。