キャラバン

キャラバン（英えい: caravan）とは、隊たいを組くんで砂漠さばくを行いく商人しょうにんの一団いちだんのことである。ペルシア語ごの「カールヴァーン」（کاروان、kârvân）に由来ゆらいする言葉ことばで、日本語にほんごでは隊商たいしょうとも言いう。アラビア語ご由来ゆらいの単語たんごとしてはカーフィラ（قافلة、qāfila）、イール（عير、ʿīr）、キタール（قطار、qiṭār）などとも呼よばれる^[1]。中国ちゅうごくでは「商しょう隊たい」と自衛じえい能力のうりょくを持もった「馬うま幇」（まほう）とで区別くべつされる。

概要がいよう[編集へんしゅう]

キャラバンは商品しょうひんの輸送ゆそう中ちゅうに盗賊とうぞく団だんなどの略奪りゃくだつ、暴行ぼうこうなどの危険きけんから集団しゅうだん的てきに身みを守まもり、商品しょうひんの安全あんぜんやいざというときの保険ほけんのために、複数ふくすうの商人しょうにんや輸送ゆそうを営いとなむ者ものが共同きょうどう出資しゅっしして契約けいやくを結むすぶことによって組織そしきされていた。

そのためキャラバンは、その指揮しき者しゃ、事実じじつ上じょうの「隊長たいちょう」の指揮しきのもとに隊列たいれつを組くんで一貫いっかんした統一とういつ行動こうどうをとることが要求ようきゅうされ、「隊長たいちょう」が、水みず場じょうや旅程りょてい、停泊ていはくなどを日程にっていを決定けっていし、キャラバン隊たいは全員ぜんいんそれに従したがった。

西にしアジアのキャラバン交易こうえきは砂漠さばくの気温きおんが極端きょくたんにあがる夏なつは避さけられ、年間ねんかん3～4回かい程度ていど、春はると秋あきに行おこなわれた。主おもにイスラム地方ちほうを回まわる商人しょうにんが多おおかったが、キャラバンはさまざまな文化ぶんかが交流こうりゅう・融合ゆうごうするきっかけともなった。

ムハンマドが初代しょだいカリフのアブー・バクルに巡礼じゅんれいキャラバンの編成へんせいを命めいじて以来いらい、西にしアジアのムスリム国家こっかは伝統でんとうとしてメッカを目的もくてき地ちとした国営こくえいの巡礼じゅんれいキャラバンを組織そしきした。国営こくえいのキャラバンは王室おうしつのメンバーもしくはその代理人だいりにんが指揮しきし、国軍こくぐんによって護衛ごえいされるため民間みんかんのキャラバンよりも比較的ひかくてき安全あんぜんな旅たびが可能かのうだった^[2]。

20世紀せいきになり自動車じどうしゃが普及ふきゅうすると、商品しょうひんの輸送ゆそうには屋根やねのある貨物かもつ自動車じどうしゃが使用しようされるようになったが、「キャラバン」の名称めいしょうは継承けいしょうされており、それを省略しょうりゃくした「バン」の略称りゃくしょうも多用たようされている。

輸送ゆそう用ようの動物どうぶつ[編集へんしゅう]

「駄だ獣しし」も参照さんしょう

輸送ゆそうに使用しようされる動物どうぶつはラクダをはじめとして、馬うま、ラバ、ロバなどがその特性とくせいやキャラバンの目的もくてきに応おうじて使つかい分わけられた。

馬うまは足あしが速はやいものの重おもい荷物にもつの輸送ゆそうには適てきさないため、荷物にもつの運搬うんぱんには用もちいられずに旅程りょていの先導せんどう役やくに使つかわれた。ロバも体からだが小ちいさいため荷物にもつがつめず長距離ちょうきょりの交易こうえきには使つかわれず、結局けっきょくえさなどの維持いじ費用ひようも廉価れんかで、長距離ちょうきょりを歩あるけて力ちからも強つよいラクダやラバが長距離ちょうきょりの交易こうえきに使用しようされることになった。

ラクダは起伏きふくの激はげしい地形ちけいを歩あるくのが苦手にがてなため、必然ひつぜん的てきにラクダの隊商たいしょうルートは、平坦へいたんなステップや砂漠さばく地帯ちたいになった。金きむと岩塩がんえんを交換こうかんするサハラ超こえの交易こうえきのラクダ=キャラバンは数すう千せん頭とう規模きぼに及およんで、スーダンのガーナ王国おうこく、マリ帝国ていこく、ソンガイ帝国ていこくの繁栄はんえいの基礎きそとなった。

一方いっぽうでラバは、荷物にもつの積載せきさい量りょうはラクダの1頭とうあたり130kgに比くらべ80kgとやや劣おとるものの、高低こうてい差さの激はげしい地形ちけいには強つよいことから中央ちゅうおうアジア、トルコ、イランなどの高原こうげん地帯ちたいや山岳さんがく部ぶのキャラバンで用もちいられた。

輸送ゆそう力りょくは、水運すいうんと比くらべると大おおきく劣おとる。ラクダ500頭とうによって運はこべる量りょうは、標準ひょうじゅん的てきなビザンツ帝国ていこくの商しょう帆船はんせん1隻せきで運はこべる量りょうの半分はんぶんから三さん分ぶんの一いち程度ていどに相当そうとうする。

キャラバンの輸送ゆそう（エジプト・1918年ねん）

中国ちゅうごく[編集へんしゅう]

商人しょうにんが大半たいはんな商しょう隊たいと、盗賊とうぞくから自衛じえいできる能力のうりょくをもった馬うま幫（馬うま幇、まほう）とで区別くべつされる。馬うま幇の長ちょうは、大鍋おおなべ頭あたま（リーダー）、二に鍋なべ頭あたま（副ふくリーダー）、管かん事ごと（総そう雑務ざつむ長ちょう）で構成こうせいされ、軍規ぐんきにも似にた厳格げんかくなルールで組織そしきされた。タクラマカン砂漠さばくや茶ちゃ馬ば古道ふるみちなどの交易こうえき路ろを使用しようした。

駝鈴 - 中国ちゅうごくで使つかわれたキャラバン最さい後尾こうびのラクダに付つける鈴すず。ロープが切きれたり、隊列たいれつに異常いじょうが起おきたことがわかり、逃にげたラクダを音おとを頼たよりに見みつけることができる。また荷物にもつに付つけられる鈴すずも駝鈴の一種いっしゅとされ、こちらは音色ねいろが異ことなり、荷物にもつが崩くずれると鳴なる仕組しくみとなっていた。
銅鑼どら - 山道さんどうで獣ししを威嚇いかくしたり、緊急きんきゅう事態じたいの発生はっせいを知しらせたり、狭せまい道みち側がわの人間にんげんが広ひろい道みち側がわの人ひとに道みちを譲ゆずるよう交信こうしんするのに使用しようされる。使用しようするには一定いっていのルールがあり、ルール外がいで使用しようすると様々さまざまなペナルティが発生はっせいする。

行程こうてい[編集へんしゅう]

シルクロード、サハラ交易こうえきなどの交易こうえき路ろで盗賊とうぞくなどの襲撃しゅうげきを撃退げきたいするためにキャラバンが組くまれた。

中継ちゅうけい地ちには、砂漠さばく城塞じょうさい群ぐん（英語えいご版ばん）、キャラバンサライ（隊商たいしょう宿やど、中国ちゅうごくでは馬うま店てんとも呼よばれる）が置おかれ、休憩きゅうけいだけでなく、宗教しゅうきょう儀式ぎしきが行おこなえる場ばの提供ていきょうや駄だ獣しし用ようの食料しょくりょう調達ちょうたつ、情報じょうほうや商品しょうひんのやり取とりが行おこなわれた。