タキーヤ

タキーヤ（アラビア語ご: تقیة‎ taqiyyah、ペルシア語ご: تقیه‎ taqiyye タキーイェ）とは、イスラームにおいて、自身じしんや家族かぞくの、生命せいめい、財産ざいさん、名誉めいよ（特とくに近親きんしん女性じょせいの保護ほごに関かかわる名誉めいよ）、あるいは信仰しんこう共同きょうどう体たいの安全あんぜんに関かかわる重大じゅうだいな危険きけんに際さいし、自みずからの信仰しんこうを隠かくすこと。タキーヤはシーア派は諸派しょはのみならず、スンナ派はにおいても許容きょようされうる行為こういである。しかし、一般いっぱんにはシーア派は、なかんずく十じゅう二にイマーム派はに特徴とくちょう的てきな教義きょうぎとして語かたられる。

十じゅう二にイマーム派はにおけるタキーヤ

同派どうはにとってタキーヤとは、『クルアーン』の章句しょうく（Q3:28, Q16:106など）や、預言よげん者しゃ、イマームたちの言行げんこうを根拠こんきょとする正統せいとうな行為こういである。とくにイマームたちは彼かれら自身じしんがタキーヤを行おこなっていたと考かんがえられており、このことが重要じゅうような典拠てんきょとされている。

タキーヤは勇気ゆうきという一般いっぱん的てき徳目とくもくに反はんし、殉教じゅんきょう精神せいしんとも矛盾むじゅんするが、これに対たいしては、打うち克かちうる可能かのう性せいのない脅威きょういにあえて立たち向むかうのはたんなる蛮勇ばんゆうであるという説明せつめいがなされる。したがって、対抗たいこうできる可能かのう性せいがないことが確実かくじつで、かつ生命せいめいに関かかわるような大おおきな脅威きょういに際さいして、タキーヤは義務ぎむ行為こういでさえありうる。例たとえば『イランのシーア派はイスラーム学がく教科書きょうかしょ』において、タキーヤは、「闘争とうそうから手てを引ひくことの意味いみではなく、これを活用かつようすることで、より多おおくの打撃だげきを［敵てきに］与あたえ、より少すくなく打撃だげきを受うけるという意味いみである」と説明せつめいされている。

また、ダール・アル＝イスラームのうち、十じゅう二にイマーム派はの支配しはい下かにない地域ちいきでのタキーヤを義務ぎむとし、そのような地域ちいきをダール・アッ＝タキーヤと表現ひょうげんすることもある。イマームたちによるタキーヤの実践じっせんは、相あい矛盾むじゅんする内容ないようの伝承でんしょうが存在そんざいする際さいに、その矛盾むじゅんの理由りゆうを、一方いっぽうがタキーヤによるものであるから、と説明せつめいすることを可能かのうとするが、そのような伝承でんしょうを法ほう源げんとしていかに取捨選択しゅしゃせんたくするかは、アフバール学派がくはとウスール学派がくはの論争ろんそう点てんの一ひとつであった。