ニコラス・ベーコン

サー・ニコラス・ベーコン（作者さくしゃ不明ふめい、1579年ねん）

サー・ニコラス・ベーコン（英語えいご: Sir Nicholas Bacon, PC, 1510年ねん12月28日にち - 1579年ねん2月がつ20日はつか）は、16世紀せいきイングランド王国おうこくの政治せいじ家か。エリザベス1世せいの下したで大だい法官ほうかん兼けん庶民しょみん院いん議長ぎちょう兼けん国璽尚書こくじしょうしょを務つとめた。哲学てつがく者しゃ、政治せいじ家かのフランシス・ベーコンの父ちちでもある。

生涯しょうがい

ロバート・ベーコン（1479年ねん - 1548年ねん）と妻つまエレノア（イザベル）・ケージの次男じなんとして、ケントのチズルハーストに生うまれた。ケンブリッジ大学けんぶりっじだいがくを構成こうせいする学寮がくりょうの1つのコーパス・クリスティ・カレッジを1527年ねんに卒業そつぎょうし、パリでの滞在たいざいの後のち、1532年ねんにグレイ法曹ほうそう院いんに入はいり弁護士べんごしの資格しかくを得えた。

やがてトマス・クロムウェルに見みいだされて増収ぞうしゅう裁判所さいばんしょに勤務きんむ、宗教しゅうきょう改革かいかくの一環いっかんとして行おこなわれた修道院しゅうどういん解散かいさんで、解体かいたいされた修道院しゅうどういんの財産ざいさん管理かんりに携たずさわった。1540年ねんに増収ぞうしゅう裁判所さいばんしょの検事けんじとなり、1542年ねんにウェストモーランド選挙せんきょ区くから庶民しょみん院いん議員ぎいんに選出せんしゅつされた。

修道院しゅうどういん解散かいさん後ご、ヘンリー8世せいからサフォークのレッドグレイヴ、ボーテスゲイル、ギスリンガム、ハートフォードシャーのゴランベリーに領地りょうちを与あたえられた。ゴランベリーはハートフォードシャー南部なんぶのセント・オールバンズにある場所ばしょで、セント・オールバンズ大だい聖堂せいどうに属ぞくしており、ヴェルーラミウムと呼よばれるローマの消滅しょうめつした都市としの近ちかくにあった。1563年ねんから1568年ねんにかけてここにオールド・ゴランベリー・ハウス（現在げんざいは史跡しせき）と呼よばれる新あたらしい家いえを建たて、これは後のちに息子むすこのフランシス・ベーコンの家いえとなった。

1545年ねんにダートマス選挙せんきょ区くから選出せんしゅつ、1547年ねんには後見こうけん裁判所さいばんしょの検事けんじとなり、1552年ねんにはグレイ法曹ほうそう院いんの出納すいとう官かんにまで昇格しょうかくした。ベーコンはプロテスタントであったので、カトリックであったメアリー1世せいの戴冠たいかんによってこれらの昇進しょうしんを失うしなったが、メアリー1世せいからは地位ちい保全ほぜんを黙認もくにんされた。この時期じきに信仰しんこうを内面ないめんにとどめ、外面がいめん的てきに信仰しんこうの異ことなる主君しゅくんに服従ふくじゅうした経験けいけんはベーコンの性格せいかくに影響えいきょうを与あたえたといわれる。1558年ねんにメアリー1世せいが死去しきょ、異母いぼ妹いもうとエリザベス1世せいが即位そくいしたことで、ベーコンにとっては義兄ぎけい（後妻ごさいの姉あねミルドレッド・クックの夫おっと）であるウィリアム・セシルの大おおきな影響えいきょうで、国璽尚書こくじしょうしょと枢密すうみつ顧問こもん官かんに任命にんめいされた。大だい法官ほうかんニコラス・ヒースがエリザベス1世せいと対立たいりつして蟄居ちっきょさせられていたため大だい法官ほうかん代理だいりも務つとめることになり、雄弁ゆうべんさを買かわれ庶民しょみん院いん議長ぎちょうも兼任けんにん、議会ぎかい運営うんえいに力ちからを振ふるうことになった。その少すこし後ご、ベーコンは騎士きし（Knight Bachelor）となった。

財政ざいせい知識ちしきを活いかして財政ざいせい・社会しゃかい問題もんだいに取とり組くみ、1561年ねん10月にヘンリー8世せいの時代じだいから続つづいていた貨幣かへい改鋳かいちゅうを終おわらせ、1563年ねんに職人しょくにん法ほう（職人しょくにん規制きせい法ほう、徒弟とてい法ほうとも）の立案りつあん・執行しっこうに尽力じんりょくした。また議会ぎかいでは女王じょおうと打うち合あわせて彼女かのじょの意向いこうを議会ぎかいに伝つたえる役割やくわりを果はたし、1559年ねんの議会ぎかいの開会かいかい式しきの演説えんぜつで国教こっきょうをカトリックからプロテスタント（イングランド国教こっきょう会かい）へ戻もどすこと、フランス・スコットランドとの戦争せんそう費用ひよう調達ちょうたつの審議しんぎを訴うったえ、合あわせて宗教しゅうきょう的てき熱狂ねっきょうを避さけて穏健おんけん・中庸ちゅうような宗教しゅうきょうを望のぞみ、表向おもてむきは服従ふくじゅうすれば内心ないしん信仰しんこうが異ことなる場合ばあいは構かまわないとする女王じょおうの意向いこうに沿そって、国王こくおう至上しじょう法ほうと礼拝れいはい統一とういつ法ほうの制定せいていで成立せいりつした中庸ちゅうよう体制たいせいをセシルらと共ともに維持いじする役割やくわりも負おった。1570年ねんでも星ほし室しつ庁ちょうでその旨むねを繰くり返かえし述のべた触ふれを出だしたり、1572年ねんにスコットランド女王じょおうメアリーの扱あつかいで動揺どうようする議会ぎかいを女王じょおうの代かわりに閉会へいかいを宣言せんげん、将来しょうらいのイングランド王位おうい継承けいしょうも絡からんだ複雑ふくざつな問題もんだいを打うち切きったりしている。

ベーコンは友人ゆうじんマシュー・パーカーのために、エリザベス1世せいが最初さいしょの議会ぎかいを開ひらいた際さいの貴族きぞく院いんでの公的こうてき立場たちばを利用りようし、カンタベリー大司教だいしきょうの地位ちいを安定あんていさせることを手助てだすけした。敵てきであるスコットランド女王じょおうメアリーの存在そんざいにもかかわらず、フランスに対たいするセシルの戦争せんそう政策せいさくに財政ざいせい的てき側面そくめんから反対はんたいした。しかしベーコンは他国たこくのプロテスタントとの近ちかしい繋つながりを大事だいじにしており、フランスとスコットランドの同盟どうめいにイングランドに対たいする脅威きょういを感かんじていた。

1559年ねん、ベーコンは大だい法官ほうかんの完全かんぜんな司法しほう権けんを行使こうしすることを認みとめられた。しかし1564年ねんに彼かれは王室おうしつの不興ふきょうを一時いちじ的てきに買かったと感かんじ、王室おうしつから退しりぞいた。というのも、エリザベス1世せいがジョン・ヘイルズによって書かかれた "A Declaration of the Succession of the Crowne Imperial of Ingland" の出版しゅっぱんに彼かれが関かかわったと考かんがえていたからである。この文章ぶんしょうではジェーン・グレイの妹いもうとであるキャサリン・グレイがイングランドの王位おうい継承けいしょう権けんを持もつと主張しゅちょうしていた。ベーコンの無実むじつが認みとめられ、彼かれは再ふたたび引ひき立たてられた。また、彼かれはキャサリンの属ぞくするサフォーク議会ぎかいの権利けんりを再ふたたび訴うったえたアンソニー・ブラウンの手紙てがみに返信へんしんした。

ベーコンは徹底的てっていてきにスコットランド女王じょおうメアリーを疑うたがい彼女かのじょをダーンリー卿きょうヘンリーと結婚けっこんさせることに反対はんたいし、イングランドに対たいする深刻しんこくな影響えいきょうがメアリーの復権ふっけん後ごに起おこるであろうとエリザベス1世せいに警告けいこくした。また女王じょおうとアンジュー公こうフランソワの結婚けっこんの計画けいかくを好このんでいなかったようであり、カトリックとフランスに対たいする懸念けねんはサン・バルテルミの虐殺ぎゃくさつによって大おおきくなった。イングランド国教こっきょう会かいの人間にんげんとして、ベーコンは聖職せいしょく的てきな問題もんだいに大おおきな関心かんしんを持もっており、教会きょうかいでのより良よい教義きょうぎと戒律かいりつの観察かんさつを提案ていあんしていた。

晩年ばんねんは後妻ごさいの2人ふたりの息子むすこアンソニーとフランシスの教育きょういくに力ちからを注そそぎ、1573年ねん4月がつに2人ふたりをケンブリッジ大学けんぶりっじだいがくトリニティ・カレッジへ、1576年ねん6月がつにグレイ法曹ほうそう院いんへと自分じぶんが通かよっていた教育きょういく機関きかんへ送おくり出だした（9月がつにフランシスが駐ちゅう仏ふつ大使たいしエイミアス・ポーレットに随行ずいこうしてフランス留学りゅうがくした件けんもベーコンの計はからいとされている）。1577年ねんにゴランベリーへ巡幸じゅんこうに訪おとずれた女王じょおうを歓待かんたいし最高さいこうの栄誉えいよを与あたえられたが、2年ねん後ごの1579年ねん、大雪おおゆきの日ひに窓まどを開あけたままうたた寝ねかしてしまい、肺炎はいえんにかかり2月がつ20日はつかに68歳さいでゴランベリーで死亡しぼう、セント・ポール大だい聖堂せいどうに埋葬まいそうされた。

ベーコンは雄弁ゆうべんな話者わしゃ、教養きょうようある法律ほうりつ家か、そして気前きまえの良よい友人ゆうじんであった。教育きょういくへの関心かんしんによって、教育きょういくにレッドグレイヴ文学ぶんがく校こうなどのいくつかの遺産いさんを残のこした。

家族かぞく

ベーコンは2度ど結婚けっこんしている。最初さいしょの妻つまJane Ferneleyと3人にんの息子むすこと3人にんの娘むすめをもった。長男ちょうなんニコラス（1540年ねん - 1624年ねん）はサフォーク議会ぎかいの議員ぎいんで、1611年ねんには準じゅん男爵だんしゃくとされた。この称号しょうごうは今いまなお子孫しそんたちに引ひき継つがれている。2人ふたり目めと3人にん目めの息子むすこ、ナサニエル（1550年ねん - 1622年ねん）とエドワード（1550年ねん - 1618年ねん）も公おおやけに身みを捧ささげ、ナサニエルの娘むすめのアンを通つうじてタウンゼンド侯爵こうしゃくの血族けつぞくとなった。

1553年ねんにベーコンはアンソニー・クック卿きょうの娘むすめアン・クック（1528年ねん - 1610年ねん）と2度目どめの結婚けっこんをし、2人ふたりの息子むすこを得えた。アンソニー（1558年ねん - 1601年ねん）と、後のちに大だい法官ほうかん、哲学てつがく者しゃ、作家さっか、科学かがく者しゃとなるフランシス（1561年ねん - 1626年ねん）である。

脚注きゃくちゅう

• Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Bacon, Sir Nicholas" . Encyclopædia Britannica (英語えいご) (11th ed.). Cambridge University Press.
• Kimber, Edward (1771). The Baronetage of England: containing a genealogical and historical account of all the English Baronets now existing, with their descents, marriages, and memorable actions both in war and peace. London: G. Woodfall. vol. 1, pp. 2–4 

参考さんこう文献ぶんけん

• 塚田つかだ富治とみはる『イギリス思想しそう叢書そうしょ2 ベイコン』研究けんきゅう社しゃ出版しゅっぱん、1996年ねん。
• 石井いしい美樹子みきこ『エリザベス 華麗かれいなる孤独こどく』中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ、2009年ねん。
• 石井いしい栄一えいいち『ベーコン 人ひとと思想しそう43』清水しみず書院しょいん、1977年ねん（新装しんそう版ばん2016年ねん）。

公職こうしょく
先代せんだい 初代しょだいパジェット男爵だんしゃく	王おう璽尚書しょ 1558年ねん - 1571年ねん	次代じだい 初代しょだいバーリー男爵だんしゃく
先代せんだい ニコラス・ヒース (Lord Chancellor)	大だい法官ほうかん 1558年ねん - 1579年ねん	次代じだい サー・トマス・ブロムリー (Lord Chancellor)