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ヒドロゲナーゼ

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ヒドロゲナーゼ (hydrogenase) は、分子ぶんしがた水素すいそ (H2) の可逆かぎゃくてき酸化さんか還元かんげん反応はんのう触媒しょくばいする酵素こうそである。この酵素こうそ嫌気いやけせい代謝たいしゃにおいて重要じゅうよう役割やくわりたしている。

概要がいよう[編集へんしゅう]

ヒドロゲナーゼが触媒しょくばいする水素すいそ酸化さんか反応はんのう(2 H+ 生成せいせい) (1) は、酸素さんそ硝酸しょうさん硫酸りゅうさん二酸化炭素にさんかたんそフマルさんなどの電子でんし受容じゅようたい還元かんげん対応たいおうするはんおうである。一方いっぽうプロトン還元かんげん反応はんのう(H2 生成せいせい) (2) は、かいとうけいにおけるピルビンさん発酵はっこうや、過剰かじょう電子でんし処理しょりする過程かてい不可欠ふかけつ反応はんのうである。ヒドロゲナーゼにたいして生理学せいりがくじょう電子でんし供与きょうよたい (D) もしくは受容じゅようたい (A) として作用さようすることが可能かのうである物質ぶっしつには、フェレドキシンチトクロムc3、チトクロムc6 などのタンパク質たんぱくしつてい分子ぶんし化合かごうぶつがある。これらの関係かんけい反応はんのうしきあらわすと以下いかのようになる。

H2 + Aox → 2 H+ + Ared (1)
2 H+ + Dred → H2 + Dox (2)

ここに、添字そえじoxは添字そえじけられた物質ぶっしつ酸化さんかたいを、また、redは還元かんげんたいあらわす。

ヒドロゲナーゼがはじめて発見はっけんされたのは1930年代ねんだいのことであった。水素すいそ酸化さんか還元かんげん反応はんのう触媒しょくばいするこの酵素こうそぐんおおくの研究けんきゅうしゃ関心かんしんあつめた。ヒドロゲナーゼによる触媒しょくばい作用さようのメカニズムは現在げんざい水素すいそ分子ぶんし生産せいさんするクリーンな生物せいぶつがくてきエネルギーみなもと藻類そうるいなど)を科学かがくしゃがデザインするさい手助てだすけとして期待きたいされている[1]。2014ねんには燃料ねんりょう電池でんち白金はっきんの637ばい活性かっせいしめ水素すいそ酵素こうそヒドロゲナーゼS–77が阿蘇山あそさん発見はっけんされ、燃料ねんりょう電池でんちのアノード触媒しょくばいとして開発かいはつ成功せいこうした[2]

生化学せいかがくじょう分類ぶんるい[編集へんしゅう]

EC 1.12.1.2 だつ水素すいそ酵素こうそ水素すいそ:NAD+ 酸化さんか還元かんげん酵素こうそ

H2 + NAD+ → H+ + NADH

EC 1.12.1.3 だつ水素すいそ酵素こうそ (NADP) (水素すいそ:NADPH+ 酸化さんか還元かんげん酵素こうそ

H2 + NADP+ → H+ + NADPH

EC 1.12.2.1 チトクロム-c3ヒドロゲナーゼ(水素すいそ:フェリチトクロム-c3 酸化さんか還元かんげん酵素こうそ

2H2 + ferricytochrome c3 → 4 H+ + ferrocytochrome c3

EC 1.12.7.2 フェレドキシンヒドロゲナーゼ(水素すいそ:フェレドキシン 酸化さんか還元かんげん酵素こうそ

H2 + oxidized ferredoxin → 2 H+ + reduced ferredoxin

EC 1.12.98.1 コエンザイム F420 ヒドロゲナーゼ (水素すいそ:コエンザイム F420 酸化さんか還元かんげん酵素こうそ

H2 + coenzyme F420 → reduced coenzyme F420

EC 1.12.99.6 ヒドロゲナーゼ (受容じゅようたい)(水素すいそ受容じゅようたい 酸化さんか還元かんげん酵素こうそ

H2 + A → AH2

EC 1.12.5.1水素すいそ:キノン 酸化さんか還元かんげん酵素こうそ

H2 + menaquinone → menaquinol

EC 1.12.98.2 5,10-メテニルテトラヒドロメタノプテリンヒドロゲナーゼ (水素すいそ:5,10-メテニルテトラヒドロメタノプテリン 酸化さんか還元かんげん酵素こうそ

H2 + 5,10-methenyltetrahydromethanopterin → H+ + 5,10-methylenetetrahydromethanopterin

EC 1.12.98.3 Methanosarcinaメタン生成せいせい細菌さいきん)のフェナジンヒドロゲナーゼ (水素すいそ:2-(2,3-ジヒドロペンタプレニロキシ)フェナジン 酸化さんか還元かんげん酵素こうそ

H2 + 2-(2,3-dihydropentaprenyloxy)phenazine → 2-dihydropentaprenyloxyphenazine

構造こうぞうによる分類ぶんるい[編集へんしゅう]

2004ねんまでヒドロゲナーゼは酵素こうそ活性かっせい中心ちゅうしんである金属きんぞく種類しゅるいによって分類ぶんるいされていた。この分類ぶんるいほうでは、ヒドロゲナーゼはてつのみをふくぐんてつヒドロゲナーゼ、Fe-only)、ニッケルてつふくぐん(ニッケル・てつヒドロゲナーゼ、NiFe)、メタルフリーのぐん(メタルフリーヒドロゲナーゼ、金属きんぞくふくまないもの)の3種類しゅるいけられていたが、2004ねんにタウアー(Thauer)らによってメタルフリーヒドロゲナーゼが実質じっしつてきてつふくむことがしめされた。そのため従来じゅうらいメタルフリーとばれていたヒドロゲナーゼぐんは、現在げんざいではてつ硫黄いおうフリーヒドロゲナーゼとばれている。これは、てつ硫黄いおうフリーヒドロゲナーゼをてつヒドロゲナーゼと比較ひかくした場合ばあいてつ硫黄いおうフリーヒドロゲナーゼには無機むき硫化りゅうかぶつまったふくまれていないためである。

すうしゅのニッケル・てつヒドロゲナーゼでは、ニッケルとシステインざんもととの結合けつごうの1つがセレノシステインへとえられている。しかしながら、配列はいれつ類似るいじせいもとづいてかんがえた場合ばあい、ニッケル・てつヒドロゲナーゼとニッケル・てつ・セレンヒドロゲナーゼは同一どういつのスーパーファミリーと判断はんだんするべきである。ニッケル・てつヒドロゲナーゼは、だいサブユニット (L) としょうサブユニット (S) から構成こうせいされるヘテロりょうからだタンパク質たんぱくしつである。しょうサブユニットは3つのてつ硫黄いおうクラスタふくんでいるのにたいし、だいサブユニットはニッケル・てつクラスタ中央ちゅうおうふくんでいる。ニッケル・てつヒドロゲナーゼは、2 H+ 生成せいせいと H2 生成せいせいりょう反応はんのう触媒しょくばいすることがられているが、この触媒しょくばい作用さようチトクロムc3 などのてい電位でんいなマルチヘム (multihaem) チトクロムが、酸化さんか状態じょうたいおうじて電子でんし供与きょうよたい受容じゅようたいのいずれかとして機能きのうすることで発現はつげんする。なお、現在げんざいまでに、周辺しゅうへんしつ細胞さいぼうしつ細胞さいぼうしつまく結合けつごうするニッケル・てつヒドロゲナーゼが発見はっけんされている。

てつ以外いがい金属きんぞくふくまないヒドロゲナーゼはてつヒドロゲナーゼ(Fe-Hases もしくは Fe-only hydrogenases)とばれている。 このぐんおおきくけて3つに分類ぶんるいされている。

  1. Clostridium pasteurianumMegasphaera elsdenii などの嫌気いやけせいきんから発見はっけんされた細胞さいぼうしつ存在そんざいする水溶すいようせいたんりょうたいてつヒドロゲナーゼ。これらのきん酸素さんそ (O2) による活性かっせいたいして非常ひじょう敏感びんかんである。このてつヒドロゲナーゼは 2 H+ 生成せいせいと H2 生成せいせいりょう反応はんのう触媒しょくばいする。
  2. Desulfovibrio たねから発見はっけんされた周辺しゅうへんしつ存在そんざいするヘテロりょうからだてつヒドロゲナーゼ。このたねきんへんせい嫌気いやけせい細菌さいきんである。このてつヒドロゲナーゼはおもに H2 酸化さんか反応はんのう触媒しょくばいする。
  3. 緑藻りょくそう Scenedesmus obliquusみどりたいから発見はっけんされた水溶すいようせいたんりょうたいてつヒドロゲナーゼ。このヒドロゲナーゼは H2 生成せいせい反応はんのう触媒しょくばいする。なお、[Fe2S2] フェレドキシンは酸化さんか還元かんげん電位でんいひくいため、光合成こうごうせいさいにヒドロゲナーゼに電子でんし伝達でんたつおこな電子でんし供与きょうよたいとして機能きのうする。

ニッケル・てつヒドロゲナーゼとてつヒドロゲナーゼには構造こうぞうじょういくつかの共通きょうつうする特徴とくちょうがある。このりょう酵素こうそには活性かっせい中心ちゅうしんがあり、また、タンパク質たんぱくしつなか若干じゃっかんてつ硫黄いおうクラスタをっている。活性かっせい中心ちゅうしん金属きんぞくクラスタで構成こうせいされており、このクラスタ部分ぶぶん触媒しょくばい作用さようこるとかんがえられている。なお、これらの金属きんぞく一酸化いっさんか炭素たんそ (CO) やシアン化物ばけものイオン (CN) がはいとなることで安定あんていされている。

5,10-メテニルテトラヒドロメタノプテリンヒドロゲナーゼ (EC 1.12.98.2) は、メタン生成せいせい細菌さいきんから発見はっけんされた。このヒドロゲナーゼはニッケルもてつ硫黄いおうクラスタもふくまれておらず、わりにピリドンGMP派生はせいぶつであるてつ含有がんゆう補助ほじょ因子いんしふくまれると推測すいそくされている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • Volbeda, A., Charon, M.-H., Piras, C., Hatchikian, E.C., Frey, M. and Fontecilla-Camps, J.C. (1995). “Crystal structure of the nickel-iron hydrogenase from Desulfovibrio gigas”. Nature 373: 580–587. 
  • Peters, J.W., Lanzilotta, W.N., Lemon, B.J. and Seefeldt, L.C. (1998). “X-ray crystal structure of the Fe-only hydrogenase (CpI) from Clostridium pasteurianum to 1.8 Å resolution”. Science 282: 1853–1858. 
  • Adams, M.W.W. and Stiefel, E.I. (1998). “Biological hydrogen production: Not so elementary”. Science 282: 1842–1843. 
  • Nicolet, Y., Piras, C., Legrand, P., Hatchikian, E.C. and Fontecilla-Camps, J.C. (1999). “Desulfovibrio desulfuricans iron hydrogenase: the structure shows unusual coordination to an active site Fe binuclear center”. Structure Fold. Des. 7: 13–23. 
  • Nicolet, Y., Lemon, B.J., Fontecilla-Camps, J.C. and Peters, J.W. (2000). “A novel FeS cluster in Fe-only hydrogenases”. Trends Biochem.Sci. 25: 138–143. 
  • Vignais, P.M., Billoud, B. and Meyer, J. (2001). “Classification and phylogeny of hydrogenases”. FEMS Microbiol. Rev. 25: 455–501. 
  • Florin, L., Tsokoglou, A. and Happe, T. (2001). “A novel type of iron hydrogenase in the green alga Scenedesmus obliquus is linked to the photosynthetic electron transport chain”. J. Biol. Chem. 276: 6125–6132. 
  • Frey, M. (2002). “Hydrogenases: hydrogen-activating enzymes”. ChemBioChem 3: 153–160. 
  • Lyon, E.J., Shima, S., Boecher, R., Thauer, R.K., Grevels, F.-W., Bill, E., Roseboom, W. and Albracht, S.P.J. (2004). “Carbon monoxide as an intrinsic ligand to iron in the active site of the iron-sulfur-cluster-free hydrogenase H2-forming methylenetetrahydromethanopterin dehydrogenase as revealed by infrared spectroscopy”. J. Am. Chem. Soc. 126: 14239–14248. 

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

  • 2B0J - PDB Methanothermococcus jannaschii からられたてつ硫黄いおうフリーヒドロゲナーゼのアポ酵素こうそ構造こうぞうについて英語えいご
  • 1HFE - PDB Desulfovibrio desulfuricans からられたてつヒドロゲナーゼの構造こうぞうについて英語えいご
  • 1C4A - PDB Clostridium pasteurianum からられたてつヒドロゲナーゼの構造こうぞうについて英語えいご
  • 1UBR - PDB Desulfovibrio vulgaris からられたニッケル・てつヒドロゲナーゼの構造こうぞうについて英語えいご
  • 1CC1 - PDB Desulfomicrobium baculatum からられたニッケル・てつ・セレンヒドロゲナーゼの構造こうぞうについて英語えいご
  • Animation - ニッケル・てつヒドロゲナーゼの構造こうぞうについて
  • 九州大学きゅうしゅうだいがく大学院だいがくいん工学こうがく研究けんきゅういん 小江こえ研究けんきゅうしつ