ビールゲーム

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ビールゲーム英語えいご:The Beer Game、 The Beergame またはThe Beer Distribution Game)は、マサチュまさちゅセッツ工科大学せっつこうかだいがくスローン経営けいえい大学院だいがくいん教授きょうじゅグループが、サプライチェーン・マネジメントかんする重要じゅうようないくつかの原理げんり実際じっさいせるために、1960年代ねんだい考案こうあんしたシミュレーションゲームである。ゲームのテーマは、ビールを流通りゅうつうさせて市場いちば顧客こきゃく需要じゅようこたえることである。ビールはいくつかの組織そしきがつらなるサプライチェーンをつうじて供給きょうきゅうされ、1チームがひとつのサプライチェーンとしてプレーする。このサプライチェーンを運営うんえいし、受注じゅちゅうざん在庫ざいこのコストを最小限さいしょうげんにすることを目指めざす。1チームは4にんかそれ以上いじょう人数にんずうからなり、しばしばはげしいきそいとなる。1あいだから1あいだはん程度ていどわる。このゲームは教育きょういく研究けんきゅう一環いっかんとしておこなわれることもおおく、通常つうじょう、そのゲームとおなじくらいの時間じかんをかけて経過けいか報告ほうこくかいおこない、それぞれのチームの結果けっかのレビューと反省はんせいてんはなう。このゲームをおこなうことにより、システムダイナミクスの基本きほん原則げんそくや、システム思考しこう重要じゅうようせい学習がくしゅうすることができる[1]

ゲームの進行しんこう勝敗しょうはい[ソースを編集へんしゅう]

ゲームはおおむねつぎのようにすすめられる[2]

ビールゲームの概要がいよう: これはゲームの説明せつめいのための略式りゃくしき一般いっぱんのゲームボードではプレーしやすいように工夫くふうがほどこされている。

4にん以上いじょうで1チームを構成こうせいする。チームのメンバーはそれぞれ、小売こうり(Retailer)、おろし(Wholesale)、いちおろし(Distributor)、工場こうじょう(Factory)の4つのユニットを[3]。それぞれのユニットを1人ひとりつことにすれば1チーム4にんとなり、4にん以上いじょう場合ばあいは、1つのユニットを複数ふくすうのプレーヤーでつ。1チームをひとつのサプライチェーンと見立みたてて、かくユニットはサプライチェーンじょう企業きぎょう組織そしき見立みたてている。通常つうじょう、このほかかくチームから独立どくりつしたゲームリーダーとばれるゲームの進行しんこうがかりがいる。教育きょういく研究けんきゅうなどの目的もくてきで、プレーヤーがまったくの初心者しょしんしゃである場合ばあい、このゲームリーダーがルールを説明せつめいし、プレーヤーがただしくプレーしているかどうか確認かくにんすることになる。必要ひつよう道具どうぐは、ゲームボード(57cm×180cm[4])とトークン、記録きろく用紙ようしかみ(カード)、筆記用具ひっきようぐ電卓でんたくなどである[5]。トークンはコイン、マッチぼうなどなんでもよい。1つのトークンがビール1ケースと見立みたてられている。トークンは400から500ケースぶん用意よういする(10ケースをあらわすべつのトークンを併用へいようすることもできる)。

最初さいしょにそれぞれのユニットにいくつかめられたかずのトークンをいておく。ゲームは1ターンごとに区切くぎられ、35~50ターンって勝敗しょうはいめる。1ターンのなかでプレーヤーはつぎのことをおこなう。

  1. 受領じゅりょう: 右側みぎがわ自分じぶんのユニットにかってくるがわ)の輸送ゆそう(Transport)のコマにあるトークンを自分じぶんのユニットにうつす。
  2. 受注じゅちゅう: 自分じぶんのひとつ下流かりゅうのユニットからの注文ちゅうもん(Order)を確認かくにんする。
  3. 発送はっそう: 注文ちゅうもんかずのトークンをひだり輸送ゆそうのコマにうつす。らなければそれば受注じゅちゅうざんとしてのちのターンでそのかずくわえてうつす。
  4. 発注はっちゅう: 将来しょうらい注文ちゅうもん予想よそうして、自分じぶんのひとつ上流じょうりゅうのユニットにたいする発注はっちゅうすうめる。

工場こうじょう発注はっちゅうすう上流じょうりゅうわたわりに、生産せいさん指示しじしたとして、製造せいぞう(Manufacturing)に自分じぶんめたかずのトークンをく。小売こうり注文ちゅうもんは、あらかじめ用意よういされた発注はっちゅうカードのやまからる。発注はっちゅうカードのやまなかの、発注はっちゅうすうとその順番じゅんばんかくチームでおなじである。プレーちゅうにチームないほかのユニットの在庫ざいこることはかまわないが、のユニットのプレーヤー同士どうし情報じょうほう交換こうかんをしたり、方針ほうしん相談そうだんしたりしてはいけない。ひとつ下流かりゅうのユニットのす オーダーだけが、自分じぶん情報じょうほうである。

ゲームの勝敗しょうはいめる点数てんすうはコストに見立みたてられる。たとえば、在庫ざいこ1トークンにたいして0.5ドル、受注じゅちゅうざん1トークンにたいして1ドルというように、あらかじめ在庫ざいこ受注じゅちゅうざんたいするコストをめておく。かくターンごとに在庫ざいこないし受注じゅちゅうざんかず記録きろくし、ゲームがわったのちでチーム全体ぜんたいでかかったコストを計算けいさんする。そうコストがもっとすくないチームがちとなる。

ゲームの展開てんかい[ソースを編集へんしゅう]

ゲームが終了しゅうりょうしたのちかくユニットの在庫ざいこりょう発注はっちゅうりょう受注じゅちゅうざんをグラフにしてみると興味深きょうみぶかいことがかる。実際じっさい小売こうり顧客こきゃくからの注文ちゅうもんすうたいして変化へんかがないのに、チームのかくユニットのかく指標しひょうはげしく変動へんどうする[6]上流じょうりゅう工場こうじょう工場こうじょうちかほう)で変動へんどうおおきくなるという、ブルウィップ効果こうか見出みいだすこともできる。プレーヤーは自分じぶんのチーム(サプライチェーン)で受注じゅちゅうざん在庫ざいこ過剰かじょうになっている状態じょうたいをなんとかもともどそうと必死ひっしこころみ、プレーヤー同士どうし様子ようすながらプレーをすすめる。たがいに情報じょうほう交換こうかんをできないので、それぞれが「いったいチームのほかのメンバーは、このゲームをかってやってるんだろうか?」「市場いちば顧客こきゃく需要じゅようが、受注じゅちゅうざん在庫ざいこ巨大きょだいふくがらせるくらいに不安定ふあんていなんだろう」というようなことをかんがえるものである。

システムダイナミクス[ソースを編集へんしゅう]

チームによって数量すうりょう大小だいしょうはあっても、変化へんか様子ようすはどのチームもほとんわらないことから、変化へんかはシステムのプロセスからもたらされていることがわかる[7]実際じっさい顧客こきゃくからの注文ちゅうもんしゅうによってわらなく、しかもプレーヤーにそれをらせておいても、やはり下流かりゅう変動へんどう観察かんさつされる[8]かくユニットのしょ指標しひょう変動へんどうは、顧客こきゃく注文ちゅうもんすう個々ここのプレーヤーのいがしゅたる原因げんいんではなく、システムの構造こうぞうから必然ひつぜんてきこされているのである[7]。よく調しらべてみると、プレーヤーは意思いし決定けっていさい発注はっちゅうすうめるさい)、フィードバックの誤認ごにんこしている[9]。つまり、アクションをこしたが、その結果けっかあらわれていない、ということをかんがえにれないのである。さらにえば、自分じぶん決定けっていまわりの状況じょうきょう影響えいきょうあたえていることにがつかない。自分じぶん外的がいてき要因よういん対応たいおうして在庫ざいこをコントロールしているだけのつもりでいるのだが、現実げんじつには、そのシステムを構成こうせいしているプレーヤーがシステム全体ぜんたい(サプライチェーン)につよ影響えいきょうおよぼしているのである。実際じっさい、サプライチェーン全体ぜんたい考慮こうりょし、発注はっちゅうから納入のうにゅうまでの時間じかん考慮こうりょして発注はっちゅうすう決定けっていするチームはいパフォーマンスをしめ[9]

マサチュまさちゅセッツ工科大学せっつこうかだいがくスローン経営けいえい大学院だいがくいんのスターマンは、このような、ビールゲームの場合ばあいうところの需要じゅよう予測よそく発注はっちゅうすう決定けっていするというような、システムにたいする反応はんのう(フィードバック)の特徴とくちょう天気てんき予報よほう対比たいひさせて説明せつめいしている[10]。つまり、天気てんき予想よそうし、その結果けっかもとづいて天気てんき予報よほう精度せいどたかめようすることは、天気てんきたいしてなん影響えいきょうももたらさない。しかし、システムのなか状況じょうきょう反応はんのうすることは、そのこと自体じたいがシステム全体ぜんたい影響えいきょうおよぼし、状況じょうきょう変化へんかさせているのである。

注釈ちゅうしゃく[ソースを編集へんしゅう]

  1. ^ 「ビールゲーム(Beer Game)の説明せつめい」、p.1
  2. ^ 実際じっさいにプレーするためのくわしいルールは、たとえばシステム・ダイナミックス学会がっかい日本にっぽん支部しぶのウェブサイト参照さんしょうのこと。
  3. ^ この役割やくわり分担ぶんたん名称めいしょうについては、日本語にほんごはシステム・ダイナミックス学会がっかい日本にっぽん支部しぶのビールゲームによった。英語えいごMITのウェブサイト使つかわれている名称めいしょう参照さんしょうした。
  4. ^ これはシステム・ダイナミックス学会がっかい日本にっぽん支部しぶ作成さくせいしたボードのサイズ。アメリカのオリジナルのサイズはがたてやく76cm×よこやく257cmである。
  5. ^ ゲームボードと記録きろく用紙ようしはシステム・ダイナミックス学会がっかい日本にっぽん支部しぶのサイトからダウンロードできる
  6. ^ The Beergame Potalに、かくユニットの発注はっちゅうすうのグラフが紹介しょうかいされている。このれいでは、顧客こきゃくからの注文ちゅうもん最初さいしょの5週間しゅうかんが4ケースずつ、6しゅうからしゅう8ケースとなり、以後いごまったわらないのに、工場こうじょう生産せいさん指示しじが0ケースから最大さいだい60ケースまで変動へんどうしている。
  7. ^ a b 「ビールゲーム(Beer Game)の説明せつめい」、p.4
  8. ^ G.Dogan, J. Sterman
  9. ^ a b Sterman
  10. ^ 黒野くろの

参考さんこう文献ぶんけん[ソースを編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[ソースを編集へんしゅう]

パソコンじょうはしるビールゲームのためのツール

パソコンなしでビールゲームをプレーするためのゲームセット

関連かんれん項目こうもく[ソースを編集へんしゅう]