ピアノ協奏曲きょうそうきょく (バーバー)

ピアノ協奏曲きょうそうきょく（英語えいご: Piano Concerto）作品さくひん38は、サミュエル・バーバーの協奏曲きょうそうきょくの一ひとつ。独奏どくそう楽器がっきと管弦楽かんげんがくのために作曲さっきょくされた3つある協奏曲きょうそうきょくの中なかで、最後さいごの作品さくひんである。

概要がいよう

楽譜がくふ出版しゅっぱん社しゃシャーマーから創立そうりつ100周年しゅうねん記念きねん作品さくひんの依よ嘱しょくを受うけ、1960年ねん3月がつに着手ちゃくしゅされた。当初とうしょより、初演しょえん予定よてい者しゃのジョン・ブラウニングを意図いとし、その格別かくべつの鍵盤けんばん技巧ぎこうを念頭ねんとうにおいて創つくられた。最初さいしょの2つの楽章がくしょうは1960年ねんの暮くれまでに完成かんせいしたが、終おわり楽章がくしょうは、世界せかい初演しょえんの15日にち前まえになるまで仕上しあがらなかった。1962年ねん9月24日にちに、リンカーンセンターのエイヴリー・フィッシャー・ホール（当時とうじはフィルハーモニック・ホール）の杮落としの音楽おんがく祭さいでブラウニングのピアノと、エーリヒ・ラインスドルフの指揮しき、ボストン交響こうきょう楽団がくだんによって初演しょえんされた。ただし、ブラウニングはフィナーレを指示しじされたテンポ通どおりには演奏えんそうできなかったという（1991年ねんのRCAの録音ろくおんのライナーノートより）。ウラジーミル・ホロヴィッツもテンポ通どおりに演奏えんそうできなかったのを見みて、バーバーはようやくフィナーレのピアノパートを改定かいていした。批評ひひょう家かからの大だい絶賛ぜっさんに遭あい、1963年ねん度どピュリッツァー賞しょうの第だい2等とうを受賞じゅしょうして、1964年ねんには音楽おんがく評論ひょうろん家かサークル賞しょうを授与じゅよされた。

第だい2楽章がくしょうは、1957年ねん頃ころに知しり合あったドイツ人じんの学生がくせいマンフレート・イベル（Manfred Ibel）のために作曲さっきょくしたフルートとピアノのための『エレジー』（1959年ねん）が元もととなっている。このこともあり、本ほん曲きょくはブラウニングではなくイベルに献呈けんていされている。バーバーは第だい2楽章がくしょうをフルートとピアノのために再度さいど編曲へんきょくし、『カンツォーネ』作品さくひん38aとして本ほん曲きょくと同時どうじに出版しゅっぱんした。さらに、最さい晩年ばんねんに『カンツォネッタ』の名なでオーボエと弦楽げんがくのためにも編曲へんきょくを試こころみたが未完みかんに終おわり、死後しごに補筆ほひつされて作品さくひん48として出版しゅっぱんされた。

楽器がっき編成へんせい

ピッコロ1、フルート2、オーボエ2、イングリッシュホルン1、クラリネット2、バスクラリネット1、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ、打楽器だがっき、ハープ、弦楽げんがく五ご部ぶ。

楽章がくしょう構成こうせい

下記かきの3楽章がくしょうから成なる。演奏えんそう時間じかんは約やく25分ふん。

1. アレグロ・アパッショナート
2. カンツォーネ。モデラート
3. アレグロ・モルト

開始かいし楽章がくしょう

初はじめは調しらべ号ごうが無ないが、主部しゅぶ以降いこうはホ短調たんちょうに終始しゅうしする。ソナタ形式けいしき。ピアノ独奏どくそうが主要しゅよう主題しゅだいの一ひとつを呈示ていじしながら第だい1楽章がくしょうが始はじまりを告つげると、やがて激情げきじょう的てきな全ぜん奏そうに進すすむ。この開始かいし部ぶでは、楽章がくしょうの主立おもだった旋律せんりつが搾しぼり出だされる。バーバーはこれらの旋律せんりつの、反はん行くだり形がたや逆行ぎゃっこう形がたなどの対位法たいいほう的てきな変形へんけいによって、楽章がくしょう全体ぜんたいを長大ちょうだいなものにするとともに、その変形へんけいされた旋律せんりつを後ごの楽章がくしょうに循環じゅんかんさせている。

中間ちゅうかん楽章がくしょう

嬰ハ短調たんちょうが支配しはい的てきな緩徐かんじょ楽章がくしょうで、先行せんこう楽章がくしょうよりもはるかに和やわらいだ調子ちょうしである。もっぱら甘あまく切せつない旋律せんりつに基もとづいており、随所ずいしょで聞きこえるヴァイオリンやチェロ、ホルン、フルート、オーボエ、ハープのソロ楽らく句くが趣おもむきを添そえる。曲想きょくそうや楽章がくしょうの構成こうせい、旋律せんりつ主題しゅだいの素朴そぼくな性格せいかくから、ラヴェルの協奏曲きょうそうきょくの前例ぜんれいを髣髴ほうふつさせずにおかない（一方いっぽう、両りょう端はし楽章がくしょうは、その激烈げきれつな性格せいかくやモダンな響ひびきと驀進ばくしんするリズムから、ブラウニングが得意とくいとしたプロコフィエフの協奏曲きょうそうきょくを連想れんそうさせる）。メインの主題しゅだいが変形へんけいされるコーダ付つきの三さん部ぶ形式けいしき。

最終さいしゅう楽章がくしょう

ほぼ変へんロ短調たんちょう。ロンド形式けいしき。凄すさまじく速はやい5/8拍子ひょうしの楽章がくしょうで、不協和音ふきょうわおんを駆使くしし、ガンガンと打うち込こまれるオスティナートもあって、どちらかといえば忌いまわしい響ひびきがする。金管楽器きんかんがっきを重用じゅうようする楽章がくしょうだが、最後さいごはピアニストが目めも眩くらむような演奏えんそう技巧ぎこうの限かぎりを尽つくし、劇的げきてきなピアノによって締しめ括くくる。

音源おんげん

初演しょえん者しゃブラウニングは、1964年ねんにジョージ・セル指揮しきクリーヴランド管弦楽かんげんがく団だんと、1991年ねんにはレナード・スラットキン指揮しきセントルイス交響こうきょう楽団がくだんとの共演きょうえんで本ほん作品さくひんを録音ろくおんしている。その他たの録音ろくおんに、1976年ねんにマサチュまさちゅーセッツ工科大学せっつこうかだいがく交響こうきょう楽団がくだんによるものや、マリン・オールソップ指揮しきロイヤル・スコティッシュ管弦楽かんげんがく団だんとスティーヴン・プルツマンの独奏どくそうによるもの、アンドルー・シェンク指揮しきロンドン交響こうきょう楽団がくだんとテッド・ヨセルソンの独奏どくそうによるものがある。