ピーターの法則ほうそく

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

ピーターの法則ほうそく(ピーターのほうそく、えい: Peter Principle)とは組織そしき構成こうせいいん労働ろうどうかんする社会しゃかいがく法則ほうそく

  1. 能力のうりょく主義しゅぎ階層かいそう社会しゃかいでは、人間にんげん能力のうりょく極限きょくげんまで出世しゅっせする。したがって、有能ゆうのうたいら(ひら)構成こうせいいんは、無能むのうなかあいだ管理かんりしょくになる。
  2. つにつれて、人間にんげんはみな出世しゅっせしていく。無能むのうひら構成こうせいいんは、そのままひら構成こうせいいん地位ちいく。また、有能ゆうのうひら構成こうせいいん無能むのうなかあいだ管理かんりしょく地位ちいく。その結果けっかかく階層かいそうは、無能むのう人間にんげんくされる。
  3. その組織そしき仕事しごとは、まだ出世しゅっせ余地よちのある人間にんげんによって遂行すいこうされる。

1969ねんみなみカリフォルニア大学だいがく教授きょうじゅ教育きょういく学者がくしゃローレンス・J・ピーター(Laurence J. Peter)によりレイモンド・ハル(Raymond Hull)との共著きょうちょ THE PETER PRINCIPLEなか提唱ていしょうされた。日本にっぽんでは1969ねん、『ピーターの法則ほうそく―〈創造そうぞうてき無能むのうのすすめ―(ローレンス・J・ピーター/レイモンド・ハル 田中たなか融二ゆうじやく)』がダイヤモンド社だいやもんどしゃより出版しゅっぱんされた(2003ねん再版さいはん新訳しんやく渡辺わたなべ伸也しんや)。

この論文ろんぶんで、ピーターは「ためになる階層かいそう社会しゃかいがく」を「うっかり創設そうせつしてしまった」としている。この原理げんり理論りろんてき妥当だとうせい検証けんしょうするため、モデルによる研究けんきゅうおこなわれている [1] [2]

概論がいろん[編集へんしゅう]

ピーターの法則ほうそくは、「あらゆる有効ゆうこう手段しゅだんは、より困難こんなん問題もんだい次々つぎつぎ応用おうようされ、やがては失敗しっぱいする」という、ありふれた現象げんしょう特別とくべつ事例じれいである。

この「一般いっぱんピーターの法則ほうそく」ともえる法則ほうそくは、ウィリアム・R・コルコラン(William R. Corcoran博士はかせが、原子力げんしりょく発電はつでんしょおこなわれた是正ぜせい処置しょちプログラムにおいて見出みいだした[よう出典しゅってん]

コルコランの場合ばあい、この法則ほうそくもの適用てきようされている。たとえば、掃除そうじ吸引きゅういんわりとして使つかわれたり、「安全あんぜんせい評価ひょうか」といった管理かんりのためのマニュアルが、経営けいえい評価ひょうか適用てきようされていた。たとえ有効ゆうこう範囲はんいえているかもしれないとしても、ひとは、以前いぜんなにかに有効ゆうこうだったものを使つかいたくなる誘惑ゆうわくられる。ピーター博士はかせは、この現象げんしょう人間にんげん関係かんけいした。

ピーターの法則ほうそく実社会じっしゃかい組織そしき適用てきようすると、現在げんざい仕事しごと業績ぎょうせきもとづいて、ある人材じんざい今後こんご昇進しょうしんできるかどうか判断はんだんすることができる。すなわち、階層かいそう組織そしき構成こうせいいんはやがて有効ゆうこう仕事しごとができる最高さいこう地位ちいまでたっし、そのさらに昇進しょうしんすると無能むのうになる。この地位ちいはその人材じんざいにとって「適当てきとう地位ちい」であり、もはやさらなる昇進しょうしんのぞめない。

このようにして、ある人材じんざいはその組織そしきない昇進しょうしんできる限界げんかいてんたっする。ひと昇進しょうしんつづけてやがて無能むのうになるが、かならずしもたか地位ちいがよりむずかしい仕事しごとであるという意味いみではない。単純たんじゅんに、以前いぜん優秀ゆうしゅうであった仕事しごと仕事しごと内容ないようことなるだけである。要求ようきゅうされる技術ぎじゅつをその人材じんざいちあわせていないだけである。

たとえば、工場こうじょう勤務きんむ優秀ゆうしゅう職工しょっこう昇進しょうしんして管理かんりしょくになると、これまで技術ぎじゅつあたらしい仕事しごと役立やくだたず無能むのうになる。このようにして、仕事しごとは「まだ『無能むのうになる』地位ちいまでたっしていない人材じんざい」によってなされることになる。

解決かいけつ方法ほうほう[編集へんしゅう]

この問題もんだい回避かいひするために組織そしきがとりうる手段しゅだんとして、つぎ段階だんかい仕事しごとをこなせる技術ぎじゅつ仕事しごとのやりかたにつけるまで人材じんざい昇進しょうしんひかえる方法ほうほうげられる。たとえば、管理かんり能力のうりょくしめさないかぎりは部下ぶか管理かんりする地位ちい昇進しょうしんさせない、などである。

  • だい1の帰結きけつは、現在げんざい仕事しごと専念せんねんしているもの昇進しょうしんさせず(ディルバートの法則ほうそく類似るいじ)、わりに昇給しょうきゅうさせるべきである。
  • だい2の帰結きけつは、あらたな地位ちいたいして、十分じゅうぶん訓練くんれんけた場合ばあいにだけ、そのもの昇進しょうしんさせるべきである。これにより、昇進しょうしんの(うしろではなく)まえ管理かんり能力のうりょくけるもの発見はっけんすることができる。

ピーターは、階級かいきゅうシステム、もしくはカースト身分みぶん制度せいど)は適当てきとう配置はいちけられるので、より効率こうりつてきである、と指摘してきした。

上級じょうきゅうしょく階級かいきゅう高位こういものによりめられているので、てい階層かいそう有能ゆうのう労働ろうどうしゃは、適切てきせつ地位ちい以上いじょうには昇進しょうしんすることがない。「かり底辺ていへんからはじめさせられたとすると到底とうてい到達とうたつできないような優位ゆういの(高位こういの)しゃのグループにとっては、ピラミッドの頂上ちょうじょう付近ふきん地位ちいからはじめられる有利ゆうりさから、階層かいそうせい魅力みりょくてきであろう。」

このように、階層かいそうせいは「階級かいきゅうのない社会しゃかい、もしくは平等びょうどう主義しゅぎ社会しゃかいより効率こうりつてきである」。同様どうようにして、実社会じっしゃかいでの組織そしきでは技術ぎじゅつった人々ひとびとは、その技術ぎじゅつゆえに無能むのう管理かんりしょくよりもずっと価値かちがあるともえるので、ほとんどの組織そしきでは、管理かんりしょくのための賃金ちんぎん役職やくしょくすぐれた技術ぎじゅつしゃあたえるような、事務じむけい平行へいこうした昇進しょうしんみち技術ぎじゅつしゃたいして用意よういしている。

プルチーノらは、計算けいさん使つかってその動向どうこうをモデルし、様々さまざま昇進しょうしんルールを比較ひかくした。すると、もっと優秀ゆうしゅうものもっと無能むのうもの交互こうご昇進しょうしんさせる方法ほうほうと、作為さくいえらばれたもの昇進しょうしんさせる方法ほうほうが、ピーターの法則ほうそく影響えいきょうからのがれ、組織そしき効率こうりつもっとたかくすることができた[2]

プルチーノは、この論文ろんぶんにより、2010ねんイグノーベル経営けいえいがくしょう受賞じゅしょうした。

ピーターの法則ほうそくのがれる手段しゅだんとしては、契約けいやく社員しゃいん採用さいようげられる。たとえば、IT企業きぎょうにおける契約けいやく社員しゃいんは、これまでの雇用こようしゃ経験けいけん裏打うらうちされた能力のうりょくによってえらばれ、一定いってい期間きかんごとに契約けいやく更新こうしんされる。ある時点じてん適当てきとうさがられれば、契約けいやく更新こうしんしないことで容易ようい解雇かいこされる。

契約けいやく社員しゃいんは、ヒエラルキーにはまれず、組織そしき昇進しょうしんシステムとは通常つうじょう無関係むかんけいである。現実げんじつには、雇用こよう不安ふあんなどの欠点けってんしょうじるが、原理げんりてきには報酬ほうしゅうさえ十分じゅうぶんであれば、雇用こようしゃ契約けいやく社員しゃいん地位ちい満足まんぞくすることになる。

階層かいそう社会しゃかいがく[編集へんしゅう]

ピーター博士はかせは、ピーターの法則ほうそく同時どうじに、人間にんげん社会しゃかいられる、階層かいそうてき組織そしきされたシステムの基本きほん原理げんりかんする社会しゃかい科学かがくとして、「階層かいそう社会しゃかいがく」というあたらしい言葉ことばつくした。

この原理げんり形作かたちづく過程かていで、わたし偶発ぐうはつてき階層かいそうかんするあたらしい学問がくもん階層かいそう社会しゃかいがく創設そうせつしていたことにいた。階層かいそう(ヒエラルキー)という言葉ことばは、元来がんらいランクけされた司祭しさいによる教会きょうかい統治とうち組織そしき表現ひょうげんするためにもちいられていた。現在げんざい意味いみには、その構成こうせいいん雇用こようしゃがランク、等級とうきゅう階級かいきゅうじゅん配置はいちされているすべての組織そしきふくむ。比較的ひかくてき最近さいきん分野ぶんやではあるが、階層かいそう社会しゃかいがくは、公共こうきょう民間みんかん管理かんり統治とうち現場げんばで、幅広はばひろ適用てきようせいゆうしているようにえる。 — Dr. Laurence J. Peter and Raymond HullThe Peter Principle: Why Things Always Go Wrong

大衆たいしゅう文化ぶんかへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

ユーモラスではあるが、ピーターの著書ちょしょは、現実げんじつ世界せかいれいと、人間にんげん行動こうどうについて示唆しさんだ解釈かいしゃく多数たすうふくんでいる。同様どうよう適当てきとうさにかんする観察かんさつ漫画まんがディルバート』(のディルバートの法則ほうそくなど)、映画えいがリストラ・マン』、テレビドラマ『The Office』にもられる。とくにディルバートの法則ほうそくはピーターの法則ほうそく拡大かくだい解釈かいしゃくにもおもえる。

ピーターの法則ほうそくによれば、あるもの過去かこのどこかの地位ちいでは有能ゆうのうであったとされる。一方いっぽう、ディルバートの法則ほうそくは、過去かこ一切いっさい有能ゆうのうであったことがないものでも、管理かんりしょく昇進しょうしんする可能かのうせいがあるとしている。

もちろん、両方りょうほう法則ほうそくおな組織そしきない同時どうじちうる。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Pluchino, Alessandro; Rapisarda, Andrea; Garofalo, Cesare (2009), “The Peter Principle Revisited: A Computational Study”, ArXiv, http://arxiv.org/abs/0907.0455 2009ねん8がつ26にち閲覧えつらん 
  2. ^ a b Pluchino, Alessandro; Rapisarda, Andrea; Garofalo, Cesare (2010). “The Peter Principle Revisited: A Computational Study”. Physica a 389 (2010) 467. 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]