ペンシラー

ペンシラーのウィルス・ポータシオがコミック・コンベンションでスケッチしている。

ペンシラー（英えい: penciller, penciler）とは、コミックブックや同様どうようの視覚しかく芸術げいじゅつが分業ぶんぎょう体制たいせいで制作せいさくされるとき、主おもに鉛筆えんぴつによる下した描えがきを行おこなう役やくをいう。

アメリカのコミックブック業界ぎょうかいでは、ストーリーを絵えに移うつし変かえる作業さぎょうを担当たんとうするのがペンシラーであり、時ときにはライター（原作げんさく者しゃ）とフィードバックを交かわしながら作業さぎょうを進すすめることが求もとめられる。原稿げんこう上じょうでコマ割わり（プロットをいくつのシーンに分わけて描えがくか、各かくシーンを紙上しじょうでどのように配列はいれつしてどんな構図こうずで描えがくか）を行おこなうのはペンシラーである。

道具どうぐと方法ほうほう

ペンシラーの作業さぎょうは鉛筆えんぴつで行おこなう。それ以上いじょうの詳細しょうさいはアーティストごとに異ことなり、多種たしゅ多様たような道具どうぐが用もちいられる。多おおくのアーティストは昔むかしからある木きの鉛筆えんぴつを使つかうが、シャープペンシルや芯しんホルダーを好このむ者ものもいる。芯しんの硬かたさに決きまりはないが、薄うすい線せんで最初さいしょの下絵したえを描えがくときには硬かための芯しん（2Hなど）を用もちい、最後さいごの仕上しあげには少すこし柔やわらかめの芯しん（HBなど）を用もちいる例れいが多おおい。そのほか、最初さいしょのコマ割わりを行おこなうときには複写ふくしゃ機きに写うつらない薄うすい青あおの色鉛筆いろえんぴつを用もちいるアーティストもいる。

一般いっぱん的てきに、米国べいこくのコミックブック用ようの原稿げんこうはブリストル紙し（滑なめらかな厚手あつでの板紙いたがみ）などに描えがかれる。メインストリーム・コミック界かいの慣例かんれいでは、原稿げんこう用紙ようしサイズは11×17インチ（約やく28×43センチメートル）であり、これは実際じっさいの印刷いんさつサイズの1.5倍ばいである。ペン入いれ担当たんとうのインカーは鉛筆えんぴつ画が原稿げんこうに直接ちょくせつ描えがきこんでいくのが一般いっぱん的てきだが、ペンシラーの原画げんがを保存ほぞんする場合ばあいには、ベラム紙かみ（paper vellum）などの透明とうめいな紙かみを重かさねてトレースする。完成かんせいした原稿げんこうは、印刷いんさつの工程こうてい中ちゅうに縮小しゅくしょう複写ふくしゃされる。Photoshopのようなデジタル描画びょうがソフトが現あらわれてからは、原稿げんこう制作せいさくの一部いちぶもしくは全体ぜんたいをデジタル化かする動うごきが進すすめられている。

スタイル

ルース・ペンシリング、すなわち「ざっくりした描えがき方かた」と呼よばれる流儀りゅうぎでは、鉛筆えんぴつ画がに特有とくゆうのあいまいさをあえて残のこしておき、インカーに意図いとを解釈かいしゃくさせる。この場合ばあい、クレジット表記ひょうきではペンシラーが「ブレークダウン」もしくは「レイアウト」を行おこなったと記しるされ、インカーは「エンベリッシャー」もしくは「フィニッシャー」と呼よばれるのが通例つうれいである。これに対たいし、原稿げんこうを細部さいぶまで描えがき込こんでペン画がに反映はんえいされるべきニュアンスをすべて指定していすることを好このむペンシラーもいる。この流儀りゅうぎはタイト・ペンシリング、すなわち「かっちりした描えがき方かた」と呼よばれる。

ワークフロー

通常つうじょう、コミックブックのペンシラーは編集へんしゅう者しゃとの密みつな連携れんけいのもとで作業さぎょうを行おこない、編集へんしゅう者しゃはライターに依頼いらいしたスクリプトをペンシラーに伝つたえる。

コミックブックのスクリプトの形式けいしきはさまざまである。ライターの中なかでもアラン・ムーアなどは、ページごとに精緻せいちな長文ちょうぶんによる完全かんぜんな梗概こうがいを作成さくせいする。逆ぎゃくにプロットの概略がいりゃくしか伝つたえないライターは、重要じゅうようなシーンを短みじかく描写びょうしゃするだけで、セリフも断片だんぺん的てきだったり書かかないこともある。後者こうしゃの形式けいしきは、マーベル・コミックの編集へんしゅう長ちょうを長ながく務つとめたスタン・リーが好このんでいたことから、マーベル・メソッドという名なで知しられるようになった。

ライターやほかのアーティスト（アートディレクターなど）がスクリプトに「ブレークダウン」と呼よばれるコマ割わり案あんを付つける場合ばあいがあり、ペンシラーはそれにならってシーンの描えがき方かたを決きめる。ブレークダウンがなければ、各かくページのコマ割わりを、たとえばコマの数かずや形かたちと配置はいちを決定けっていするのはペンシラーの役目やくめとなる。スクリプトが作画さくがの細部さいぶを指定していしていても、ペンシラーがもっといい構図こうずの取とり方かたがあると感かんじ、スクリプトを無視むしすることがある。ただし、それには編集へんしゅう者しゃやライターとの協議きょうぎが必要ひつようなのが一般いっぱん的てきである。

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