最高さいこう神祇官じんぎかん

トーガで頭あたまを覆おおう、ポンティフェクス・マクシムスの装よそおいをしたアウグストゥス帝みかど（ラビカナ街道かいどうのアウグストゥス）

最高さいこう神祇官じんぎかん（さいこうじんぎかん）またはポンティフェクス・マクシムス（ラテン語らてんご: Pontifex Maximus）は、古代こだいローマの国家こっか官職かんしょくの一ひとつである。神官しんかん団長だんちょう^[1]^[2]、大だい神官しんかん^[1]^[2]、神官しんかん長ちょう^[1]、大だい神祇官じんぎかん長ちょう^[3] などとも訳やくされ、全すべての神職しんしょくの長ちょうとして神官しんかん団だん (Pontifices) を統括とうかつし、暦こよみを作成さくせいした^[4]。任期にんきは終身しゅうしんで、他たの官職かんしょくとの兼任けんにんも可能かのう。

概要がいよう[編集へんしゅう]

伝説でんせつによると、王政おうせいローマ二に代目だいめの王おうヌマ・ポンピリウスが、王おうが出征しゅっせいした場合ばあいなどでも、務つとめである儀式ぎしきが行おこなえるように、常任じょうにんのユーピテルやマールス、クゥイリーヌス神かみに仕つかえる神官しんかん (フラーメン) や、ウェスタの処女しょじょ、神かみに奉献ほうけんする踊おどりを行おこなうサリイーなどを設置せっちした^[5]。更さらに全すべての儀式ぎしきの詳細しょうさいな手順てじゅんや経費けいひを管理かんりし、葬儀そうぎや鎮魂ちんこんの方法ほうほうを教示きょうしする職しょくとして神祇官じんぎかん (ポンティフェクス) を定さだめたという^[6]。

宗教しゅうきょう的てき権威けんいを司つかさどる最高さいこう神祇官じんぎかんの地位ちいは他たの官職かんしょくと同おなじく選挙せんきょによって決きめられるものの終身しゅうしん制せいであり、また、最高さいこう神祇官じんぎかんにはフォルム・ロマヌムにあった公邸こうてい (レギア) が与あたえられ、イタリア本土ほんどから出でることを禁きんじられた。

紀元前きげんぜん300年ねんのオグルニウス法ほうによって、神祇官じんぎかんにプレプス（平民へいみん）が就任しゅうにん出来できるようになり^[7]、紀元前きげんぜん254年ねんに初はつのプレプス出身しゅっしんの最高さいこう神祇官じんぎかんが生うまれた^[8]。

ローマ帝政ていせいの基礎きそを築きずいたガイウス・ユリウス・カエサルは自みずからの政治せいじ的てき成功せいこうのために最高さいこう神祇官じんぎかんの権威けんいを利用りようしようと目論もくろみ、大量たいりょうの借金しゃっきんで行おこなった買収ばいしゅう工作こうさくにより異例いれいの若わかさでこの神職しんしょくに就任しゅうにんしている。この後のち、ユリウス・カエサルの権威けんいを継承けいしょうしたアウグストゥスもマルクス・アエミリウス・レピドゥスの死後しごに最高さいこう神祇官じんぎかんに就任しゅうにんし、その神聖しんせいな権威けんいを元首げんしゅ政せいの確立かくりつに利用りようした。

アウグストゥス以後いごのローマ皇帝こうていもその位いを兼かねるのを常つねとしたが、キリスト教きりすときょうが公認こうにんされるようになると皇帝こうていは最高さいこう神祇官じんぎかんへの就任しゅうにんを拒こばむことが多おおくなり^{[注釈ちゅうしゃく 1]}、その地位ちいを西方せいほう教会きょうかいの総そう主教しゅきょう（ローマ教皇きょうこう）に譲ゆずるようになった。中世ちゅうせい以降いこう、ポンティフェクス・マクシムス (Pontifex Maximus) は西方せいほう教会きょうかいの総そう主教しゅきょうの呼称こしょうの一ひとつとして定着ていちゃくしていった^[9]。

共和きょうわ政せいローマの最高さいこう神祇官じんぎかん一覧いちらん[編集へんしゅう]

紀元前きげんぜん509年ねん：ガイウス・パピリウス^[10]
紀元前きげんぜん449年ねん：クィントゥス・フリウス (ガイウス・フリウス・パキルス・フスス？) ^[11]
紀元前きげんぜん431年ねん：アウルス・コルネリウス (アウルス・コルネリウス・コッスス？) ^[12]
紀元前きげんぜん420年ねん：スプリウス・ミヌキウス^[13]
紀元前きげんぜん390年ねん：マルクス・フォリウス (マルクス・フォリウス・フラッキナトル？) ^[14]
紀元前きげんぜん332年ねん：プブリウス・コルネリウス・カルッサ^[15]
紀元前きげんぜん304年ねん：？・コルネリウス・バルバトゥス^[16]
紀元前きげんぜん254年ねん：ティベリウス・コルンカニウス (初はつの平民へいみん出身しゅっしん最高さいこう神祇官じんぎかん) ^[17]
紀元前きげんぜん243年ねん：ルキウス・カエキリウス・メテッルス (紀元前きげんぜん251年ねんの執政しっせい官かん)^[18]
紀元前きげんぜん221年ねん：ルキウス・コルネリウス・レントゥルス・カウディヌス^[19]
紀元前きげんぜん213年ねん：プブリウス・リキニウス・クラッスス・ディウェス^[20]
紀元前きげんぜん183年ねん：ガイウス・セルウィリウス・ゲミヌス^[21]
紀元前きげんぜん180年ねん：マルクス・アエミリウス・レピドゥス (紀元前きげんぜん187年ねんの執政しっせい官かん)^[22]
紀元前きげんぜん150年ねん：プブリウス・コルネリウス・スキピオ・ナシカ・コルクルム^[23]
紀元前きげんぜん141年ねん：プブリウス・コルネリウス・スキピオ・ナシカ・セラピオ^[24]
紀元前きげんぜん132年ねん：プブリウス・リキニウス・クラッスス・ディウェス・ムキアヌス^[25]
紀元前きげんぜん130年ねん：プブリウス・ムキウス・スカエウォラ (紀元前きげんぜん133年ねんの執政しっせい官かん)^[26]
紀元前きげんぜん115年ねん：ルキウス・カエキリウス・メテッルス・ダルマティクス^[27]
紀元前きげんぜん103年ねん：グナエウス・ドミティウス・アヘノバルブス (紀元前きげんぜん96年ねんの執政しっせい官かん)^[28]
紀元前きげんぜん89年ねん：クィントゥス・ムキウス・スカエウォラ (紀元前きげんぜん95年ねんの執政しっせい官かん)^[29]
紀元前きげんぜん81年ねん：クィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ピウス^[30]
紀元前きげんぜん63年ねん：ガイウス・ユリウス・カエサル^[31]
紀元前きげんぜん44年ねん：マルクス・アエミリウス・レピドゥス^[32]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

^ 例たとえばキリスト教きりすときょうを国教こっきょう化かしたテオドシウス1世せい。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

^ ^a ^b ^c 『世界せかい大だい百科ひゃっか事典じてん第だい２版はん』
^ ^a ^b 『ブリタニカ国際こくさい大だい百科ひゃっか事典じてん』
^ 『日本にっぽん大だい百科全書ひゃっかぜんしょ(ニッポニカ)』
^ 『ポンティフェクス･マクシムス』 - コトバンク
^ リウィウス, 1.20.1-4.
^ リウィウス, 1.20.5-7.
^ Broughton Vol.1, p. 172.
^ Broughton Vol.1, p. 210.
^ "In the matter of hierarchical nomenclature, one of the most striking instances is the adoption of the term pontifex for a bishop" (Paul Pascal: Medieval Uses of Antiquity in The Classical Journal, Vol. 61, No. 5 [Feb., 1966], p. 194).
^ Broughton Vol.1, p.4.
^ Broughton Vol.1, p.49.
^ Broughton Vol.1, p.64.
^ Broughton Vol.1, p.71.
^ Broughton Vol.1, p.96.
^ Broughton Vol.1, p.142.
^ Broughton Vol.1, p.168.
^ Broughton Vol.1, p.210.
^ Broughton Vol.1, p.218.
^ Broughton Vol.1, p.234.
^ Broughton Vol.1, p.268.
^ Broughton Vol.1, p.381.
^ Broughton Vol.1, p.390.
^ Broughton Vol.1, p.457.
^ Broughton Vol.1, p.478.
^ Broughton Vol.1, p.499.
^ Broughton Vol.1, p.503.
^ Broughton Vol.1, p.532.
^ Broughton Vol.1, p.565.
^ Broughton Vol.2, p.37.
^ Broughton Vol.2, p.78.
^ Broughton Vol.2, p.171.
^ Broughton Vol.2, p.333.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

ティトゥス・リウィウス著しる、岩谷いわたに智さとし訳やく『ローマ建国けんこく以来いらいの歴史れきし 1』京都大学きょうとだいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい、2008年ねん。
T. R. S. Broughton (1951). The Magistrates of the Roman Republic Vol.1. American Philological Association
T. R. S. Broughton (1952). The Magistrates of the Roman Republic Vol.2. American Philological Association

[9] 例たとえばキリスト教きりすときょうを国教こっきょう化かしたテオドシウス1世せい。

[『世界大百科事典_第２版』-1] 『世界せかい大だい百科ひゃっか事典じてん第だい２版はん』

[『ブリタニカ国際大百科事典』-2] 『ブリタニカ国際こくさい大だい百科ひゃっか事典じてん』

[3] 『日本にっぽん大だい百科全書ひゃっかぜんしょ(ニッポニカ)』

[4] 『ポンティフェクス･マクシムス』 - コトバンク

[FOOTNOTEリウィウス1.20.1-4-5] リウィウス, 1.20.1-4.

[FOOTNOTEリウィウス1.20.5-7-6] リウィウス, 1.20.5-7.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1172-7] Broughton Vol.1, p. 172.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1210-8] Broughton Vol.1, p. 210.

[10] "In the matter of hierarchical nomenclature, one of the most striking instances is the adoption of the term pontifex for a bishop" (Paul Pascal: Medieval Uses of Antiquity in The Classical Journal, Vol. 61, No. 5 [Feb., 1966], p. 194).

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.4-11] Broughton Vol.1, p.4.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.49-12] Broughton Vol.1, p.49.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.64-13] Broughton Vol.1, p.64.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.71-14] Broughton Vol.1, p.71.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.96-15] Broughton Vol.1, p.96.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.142-16] Broughton Vol.1, p.142.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.168-17] Broughton Vol.1, p.168.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.210-18] Broughton Vol.1, p.210.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.218-19] Broughton Vol.1, p.218.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.234-20] Broughton Vol.1, p.234.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.268-21] Broughton Vol.1, p.268.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.381-22] Broughton Vol.1, p.381.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.390-23] Broughton Vol.1, p.390.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.457-24] Broughton Vol.1, p.457.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.478-25] Broughton Vol.1, p.478.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.499-26] Broughton Vol.1, p.499.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.503-27] Broughton Vol.1, p.503.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.532-28] Broughton Vol.1, p.532.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.1p.565-29] Broughton Vol.1, p.565.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.2p.37-30] Broughton Vol.2, p.37.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.2p.78-31] Broughton Vol.2, p.78.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.2p.171-32] Broughton Vol.2, p.171.

[FOOTNOTEBroughton_Vol.2p.333-33] Broughton Vol.2, p.333.

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