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マルチリンクしきサスペンション

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

マルチリンクしきサスペンション(マルチリンクしきサスペンション、えい: Multi-link suspension)は、自動車じどうしゃようサスペンション形式けいしきひとつ。4ほん以上いじょう運動うんどう方向ほうこう拘束こうそくがない自在じざいアームをさん次元じげんはいしてアップライト支持しじする構造こうぞうである。

ここではとく独立どくりつ懸架けんか方式ほうしき一種いっしゅとしてのマルチリンクについて記述きじゅつする。固定こてい車軸しゃじく方式ほうしきのものについては「リンクしきサスペンション」を参照さんしょう

前後ぜんご
平面へいめん

概要がいよう

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ロータス・49のリアサスペンション。アップライトをうえIかたちしもぎゃくAかたちのラテラルリンクと、バルクヘッドからの上下じょうげラジアスリンクが支持しじしている。

1960年代ねんだいから1970年代ねんだいにかけて、レーシングカー[注釈ちゅうしゃく 1]スポーツカー4リンク構成こうせいのリアサスペンション (駆動くどう懸架けんか) がおおもちいられた。これはうえIアームとしたリバースAアームで保持ほじされるアップライト上下じょうげはいした2ほんながいトレーリングリンクで前後ぜんご位置決いちぎめするもので、当時とうじフォード・モーターはこれをマルチリンクサスペンションしょうしていた[1]

1982ねんダイムラー・ベンツセミトレーリングアームしきサスペンション限界げんかい打破だはすべく5リンク構成こうせいのリアサスペンションを開発かいはつし、メルセデス・ベンツ 190Eはつ採用さいようした。ダイムラー・ベンツではこのサスペンションをラウムレンカーアハゼ (Raumlenkerachse, 空間くうかん接続せつぞく車軸しゃじく≒スペースリンクしきサスペンション) としょうし、以後いごその構成こうせいおおきくえることなく、おもなメルセデス・ベンツ乗用車じょうようしゃのリアサスペンションに採用さいようされている[2]

マルチリンクしき明確めいかく定義ていぎいが、一般いっぱんには5ほんリンクもちいてホイールのつ6自由じゆう運動うんどう直交ちょっこう3じく方向ほうこう直線ちょくせん運動うんどう直交ちょっこう3じくまわりの回転かいてん運動うんどう)のうち1自由じゆう(1方向ほうこう直線ちょくせん運動うんどうまたは1じくまわりの回転かいてん運動うんどう、すなわちホイールストローク)をのこして5自由じゆう拘束こうそくしたものである[3]とするせつがある。実際じっさいには2ほんまはた3ほんのリンクをごうゆいしたAがたアームによってリンクを置換ちかんしたもの(1アーム+3リンク、2アーム+1リンク)といったバリエーションも存在そんざいする(ダブルウィッシュボーンや996がたポルシェ・911のようなIアームとセミトレーリングアームをわせたようなもの)。マルチリンクの本質ほんしつ理解りかいひろがっていなかったころには、サスペンション設計せっけいしゃですら「仮想かそうてんかじじく仮想かそうキングピンじく)をった構造こうぞう」といった漠然ばくぜんとした理解りかいしかできていなかったこともあった。登場とうじょうとしては理解りかい設計せっけい容易よういなダブルウィッシュボーンのほうはやかったため、「ダブルウィッシュボーンの延長線えんちょうせんじょうにありキャンバーやトーインとうのコントロールせい重視じゅうしした形式けいしき」とする資料しりょうもある[よう出典しゅってん]

基本きほんてきにはレーシングカーのようにかくピローボールジョイントで接続せつぞくしたダブルウィッシュボーンでも理想りそうてきなトーイン、キャンバーを実現じつげんすることは可能かのうだが、一般いっぱん自動車じどうしゃにおいてはNVH遮断しゃだんのためにゴムブッシュをったジョイントを使用しようすることが不可避ふかひである。しかしこの場合ばあい予期よきせぬブッシュの変形へんけいによってアライメントが変化へんかし、コーナリングちゅう自動車じどうしゃ挙動きょどう不安定ふあんていとなる場合ばあいがある。とくにコーナリングのリア外側そとがわ車輪しゃりんがトーアウトとなることで危険きけんなオーバーステアからスピンにいた可能かのうせいがある。現代げんだいのマルチリンクはさまざまな挙動きょどうによるブッシュの変形へんけいがあったとしてもつねにアライメントをコントロールして操縦そうじゅう安定あんていせいたもつこととNVHの遮断しゃだん両立りょうりつさせることが目的もくてきとなっている。

ねらった1自由じゆう運動うんどう実現じつげんするための設計せっけいむずかしい(膨大ぼうだいなリンク配置はいちわせからしぼ必要ひつようがある)が、まさしく設計せっけいされていればキャンバーをつね適切てきせつたもつことでタイヤを路面ろめんまさしく接地せっちさせるとともに、コーナリングで外側そとがわ車輪しゃりんをトーインとしてブレークをふせぐとともにすぐれた心地ごこち実現じつげんすることができる。そのため、挙動きょどう不安定ふあんていになりやすいハイパワー駆動くどうしゃのトラクションを確保かくほする目的もくてきでリアサスペンションに採用さいようされる[注釈ちゅうしゃく 2]ことがおおいが、こう出力しゅつりょくなFFしゃのフロントサスペンションに採用さいようされるケースもある[注釈ちゅうしゃく 3]

最近さいきんのマルチリンクはメルセデス・ベンツ190シリーズ導入どうにゅうした形式けいしき追随ついずいしたものがおおくをめる。メルセデス・ベンツの特許とっきょUS4,930,804の説明せつめいによれば、1.テンションストラット (通称つうしょうフロントアッパーストラット)2.キャンバーストラット (通称つうしょうリアアッパーストラット)、3.コンプレッションストラット(通称つうしょうトレーリングストラット)、4.タイロッド、5.スプリングリンク(通称つうしょうロワアーム)からなっている。5にはスプリングとダンパーが接続せつぞくされている。形式けいしきとしては1と2をアッパーアーム、5をロアアームとしたダブルウイッシュボーンに前後ぜんご方向ほうこう規制きせいする3と、コーナリングちゅう急速きゅうそく発進はっしんおよびブレーキ車輪しゃりんつねにトーインがわ規制きせいする4を追加ついかしたかたちになっている。なお1と2および3と5は前方ぜんぽうひらいている設定せっていとアームるい前方ぜんぽう後方こうほうより15たか支点してん位置いち設定せっていにより、ブレーキ車体しゃたい後部こうぶげるアンチノーズダイブ特性とくせいおよび加速かそく車体しゃたい後部こうぶしずみをふせアンチスクオット特性とくせいたせてある[4]

このような性能せいのう維持いじするためには、ブッシュるい点検てんけん管理かんりおこな必要ひつようがあり、またアームるいのベアリングのけは車体しゃたい重量じゅうりょうがかかった状態じょうたいでブッシュに無用むようなプリロードがかからないようにおこなう(通称つうしょうワンGけとばれる)。アームとベアリングの箇所かしょおおいことから、分解ぶんかいけ、そのホイールアライメント調整ちょうせいにも時間じかんようし、また変形へんけいによりブッシュの寿命じゅみょうみじかかい傾向けいこうがある。このため、保守ほしゅ費用ひよう懸架けんか方式ほうしきくら高額こうがくになりやすい。

種類しゅるい

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リアサスペンションのマルチリンクでもっともおお形式けいしきとしては、2ほんのロアアーム(もしくは1ほんのAがたアーム)、2ほんのアッパーアーム(もしくは1ほんのAがたアーム)で基本きほんてきにハブを支持しじし、これにハブを前後ぜんご方向ほうこう拘束こうそくするトレーリングアームと、ハブのトーイン規制きせいするアームをくわえた6ほん構成こうせいおおい。これにより、だい馬力ばりきくわわるコーナリングちゅうにタイヤの対地たいちキャンバーをネガティブ方向ほうこうたもつとともにトーアウト方向ほうこう変化へんかしやすい外側そとがわタイヤをトーイン方向ほうこう規制きせいすることで予期よきしないオーバーステアやスピンをふせ設定せっていおおい。また、ロアアームの支点してんじくとアッパーアームの支点してんじく角度かくどをもたせることにより、アンチノーズダイブ特性とくせいアンチスクワット特性とくせいたせているものもおおい。

前輪ぜんりんでは前輪ぜんりん操舵そうだするためにホイールないおおくのアームを設置せっちすることが困難こんなんである。このため車輪しゃりんのハブからタイヤをけながら上方かみがたびるながいアーム(ナックル)を設置せっちし、その上端じょうたんをボールジョイントをみじかいアッパーアームに接続せつぞくするアウトホイールがたマルチリンクの設定せっていおおられる。また仮想かそうキングピンじくをなるべく車輪しゃりん外側そとがわせるために、ハブとロアアームあいだおよびハブとアッパーアームあいだのボールジョイントを2設定せっていするれいがある。

まただい出力しゅつりょくのFFしゃとうでは、トヨタスーパーストラットサスペンションホンダデュアルアクシス・ストラット・サスペンションなどのようにストラットしきサスペンションの変形へんけいとしてストラット下端かたんとハブ上端じょうたんあいだにジョイントを設置せっちするとともにハブ上端じょうたん拘束こうそくするアームを追加ついかすることでマルチリンクにちかいキャスターとキャンバーのコントロールせいたせた変形へんけいストラットが見受みうけられる。この場合ばあいおな車種しゃしゅてい出力しゅつりょくばんでは通常つうじょうのストラットしきとして、こう出力しゅつりょくばんのみ変形へんけいストラットとするなどのグレードを差別さべつしているものがおおい。

関連かんれん項目こうもく

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脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ フォーミュラ座席ざせきレーシングカーなど
  2. ^ FFしゃでもこうのみマルチリンクしき採用さいようする車種しゃしゅれい一部いちぶVWくるま一部いちぶマツダくるまなど)が存在そんざいする。
  3. ^ れい日産にっさん・プリメーラのフロントサスペンション。なお、プリメーラはぜんモデルがフロントにマルチリンクしきサスペンションを採用さいようする一方いっぽうで、リアはストラットしき初代しょだい全車ぜんしゃと2・3代目だいめ4WD)またはマルチリンクビームしき(2・3代目だいめのFF全車ぜんしゃ)を採用さいようしており、フロントのみマルチリンクしき採用さいようするめずらしいれいである。

出典しゅってん

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  1. ^ R. C. Lunn, "The Ford GT sports car," SAE Technical Paper, New York: Society of Automotive Engineers, 1967, p. 10.
  2. ^ Technik der Raumlenkerachse, Revolution an der Hinterachse”. 2019ねん10がつ14にち閲覧えつらん
  3. ^ 福野ふくの礼一れいいちろうのクルマ論評ろんぴょう5」 p.270 株式会社かぶしきがいしゃ三栄さんえい ISBN 978-4-7796-4228-9
  4. ^ United States Patent Patent Number:4,930,804 INDEPENDENT WHEEL SUSPENSION FOR MOTOR VEHICLES by Tattermusch et al.