モリブデン酸さん塩しお

モリブデン酸さん塩しお（モリブデンさんえん、英えい: molybdate）は、モリブデン(VI)のオキソアニオンを含ふくむ化合かごう物ぶつである。モリブデンはさまざまなオキソアニオンを作つくることができる。ただし、ポリオキソアニオンは固体こたい状態じょうたいでのみ存在そんざいする。大おおきめのオキソアニオンはポリオキソメタレート化合かごう物ぶつに分類ぶんるいされ、1種類しゅるいの金属きんぞく原子げんししか含ふくまないものは、特とくにイソポリメタレートに分類ぶんるいされる^[1]。モリブデンの単たん量りょう体たいオキソアニオンの大おおきさは、モリブデン酸さんカリウムに含ふくまれる最もっとも単純たんじゅんな ${\ce {MoO4{}^{2-}}}$ から、Mo を154個こも持もつイソポリモリブデンブルー（英語えいご版ばん）まで、実じつにさまざまである。また、ほかの第だい6族ぞく元素げんそとは異ことなる振ふる舞まいをする。クロムのオキソアニオンは ${\ce {CrO4{}^{2-}}}$ , ${\ce {Cr2O7{}^{2-}}}$ , ${\ce {Cr3O10{}^{2-}}}$ , ${\ce {Cr4O13{}^{2-}}}$ しか存在そんざいせず、これらは全すべて四よん面体めんてい構造こうぞうを基もとにしている。タングステンはモリブデンに似にていて、配はい位い数すう6のタングステンを含ふくむさまざまなタングステン酸さん塩しおを作つくる^[2]。

モリブデン酸さんイオンの例れい

モリブデンのオキソアニオンの例れいは以下いかのとおり。

MoO₄^2- はモリブデン酸さんナトリウム Na₂MoO₄ やパウエル石せき CaMoO₄ に存在そんざいする。
Mo₂O₇^2- はテトラブチルアンモニウム塩しおに、Mo₂O₇^2- のポリマーはアンモニウム塩しおに存在そんざいする^[3]。
Mo₃O₁₀^2- のポリマーはエチレンジアミン塩しおに存在そんざいする^[4]。
Mo₄O₁₃^2- のポリマーはカリウム塩しおに存在そんざいする^[5]。
Mo₅O₁₆^2- のポリマーはアニリン塩しお (C₆H₅NH₃)⁺ に存在そんざいする^[6]。
Mo₆O₁₉^2-（六ろくモリブデン酸さんイオン）はテトラメチルアンモニウム塩しおに存在そんざいする^[7]。
Mo₇O₂₄^6- はモリブデン酸さんアンモニウム (NH₄)₆Mo₇O₂₄•4H₂O に存在そんざいする^[8]。
Mo₈O₂₆^4- はトリメチルアンモニウム塩しおに存在そんざいする^[1]。

モリブデン酸さんイオンを命名めいめいするときは、モリブデン原子げんしの数かずを表あらわす接頭せっとう語ごをつける。たとえば dimolybdate（二にモリブデン酸さんイオン）は2つのモリブデン原子げんしを含ふくみ、trimolybdate（三さんモリブデン酸さんイオン）は3つのモリブデン原子げんしを含ふくむ。ときどき酸化さんか数すうが接尾せつび辞じに加くわえられ、たとえば pentamolybdate(VI)（五ごモリブデン酸さんイオン(VI)）のようになる。七ななモリブデン酸さんイオン Mo₇O₂₄^6- はしばしば“パラモリブデン酸さんイオン”とも呼よばれる。

モリブデン酸さんイオンの構造こうぞう

小ちいさめのイオン、MoO₄^2- や Mo₂O₇^2- は配はい位い数すう4のモリブデンのみを含ふくむ。MoO₄^2- は四よん面体めんていで、Mo₂O₇^2- は1つの角かくを共有きょうゆうする2つの四よん面体めんてい、すなわち1つの酸素さんそ原子げんしが橋渡はしわたしをしている構造こうぞうと考かんがえられる^[1]。大おおき目めのアニオンでは、モリブデン原子げんしのほとんどは配はい位い数すう6を取とっていて、角かくを共有きょうゆうし合あった MoO₆ 八はち面体めんていからなる。八はち面体めんていは歪ゆがめられていて、典型てんけい的てきな M-O 結合けつごう距離きょりは、末端まったん M-O が約やく170 pm、架橋かきょう M-O-M では約やく190 pmである。

Mo₈O₂₆^4- イオンは八はち面体めんていと四よん面体めんていの両方りょうほうを含ふくんでいて、αあるふぁ型がた、βべーた型がたの2つの異性いせい体たいが存在そんざいすることを利用りようして互たがいに分離ぶんりできる^[2]。

以下いかの六ろくモリブデン酸さんイオンの画像がぞうで、多面体ためんたいの配はい位いの様子ようす、酸素さんそ原子げんしが構造こうぞう中ちゅうにぎっしり詰つまっている様子ようすがわかる。酸化さんか物ぶつイオンのイオン半径はんけいは140 pmで、モリブデン(VI)はもっと小ちいさく、59 pmである^[1]。モリブデン酸化さんか物ぶつとモリブデン酸さんイオンの構造こうぞうは非常ひじょうに似にていて（MoO₃, MoO₂、「結晶けっしょう学がく的てきにずれた」構造こうぞうをもつ酸化さんか物ぶつである Mo₉O₂₆, Mo₁₀O₂₉）、これらの酸化さんか物ぶつの構造こうぞうは全すべて、ぎっしり詰つまった酸素さんそイオンを含ふくむ^[9]。


六ろくモリブデン酸さんイオン	七ななモリブデン酸さんイオン

水溶液すいようえき中ちゅうでの平衡へいこう

酸化さんかモリブデン(VI) ${\ce {MoO3}}$ がアルカリ溶液ようえきに溶解ようかいしたとき、単純たんじゅんな ${\ce {MoO4{}^{2-}}}$ が生しょうじる。pH が減少げんしょうするにつれ、小ちいさなイオンよりも七ななモリブデン酸さんイオンのほうが優勢ゆうせいとなってくる。

{\ce {{MoO4{}^{2-}}+8H^{+}<=>{Mo7O24{}^{6-}}+4H2O}}

^[2]

pH がさらに減少げんしょうすると、八はちモリブデン酸さんイオンが生成せいせいする。

{\ce {{Mo7O24{}^{6-}}+3H^{+}<=>{Mo8O26{}^{4-}}+2H2O}}

^[2]

pH がさらに減少げんしょうすると、おそらく16から18個このモリブデン原子げんしを持もったアニオンが生成せいせいする。

工業こうぎょう用途ようと

モリブデン酸さん塩しおは工業こうぎょう用水ようすいに防ぼう錆さび剤ざいとして使つかわれる。当初とうしょは、クロム酸さん塩しおがその有害ゆうがい性せいにより使用しよう禁止きんしになったとき、クロム酸さん塩しおのよい代替だいたい物ぶつとなると考かんがえられていた。しかし、モリブデン酸さん塩しおはおだやかな防ぼう錆さび作用さようしか見みせない^[10]。

モリブデン酸さん塩しお（たいていはカリウム塩しお）はモリブデンブルー法ほうとよばれる、溶液ようえき中ちゅうのシリカの濃度のうどを調しらべる比ひ色しょく定量ていりょう分析ぶんせきに使つかわれる^[11]。加くわえて、マラカイトグリーンとともにリン酸さんの分析ぶんせきにも使つかわれる。