ラジャ・ビル

ラージャ・ビル（英えい: Raja Biru、泰やすし: ราฌา บีรู, ? - 1624年ねん）は、パタニ王国おうこくの女王じょおう（在位ざいい：1616年ねん - 1624年ねん）。

略歴りゃくれき

姉あねのラジャ・ヒジャウの後のちを継ついで即位そくいしたラジャ・ビル（青あおの女王じょおう）の事績じせきとしては、2門もんの巨大きょだいな真鍮しんちゅう製せいの大砲たいほうを作つくらせたことが知しられている。一時いちじ衰微すいびしていたタイのアユタヤ王朝おうちょうはエーカートッサロット王おう（在位ざいい1605年ねん－1610年ねん）の代だいに貿易ぼうえき港こうとして発展はってんし、1608年ねんにはオランダ、1612年ねんにはイギリスの商館しょうかんが設置せっちされている。パタニとアユタヤは貿易ぼうえき港こうとしてライバル関係かんけいになったため、アユタヤ軍ぐんパタニ来襲らいしゅうの噂うわさが絶たえなかった。さらに、名目めいもく上じょうはパタニがアユタヤの朝貢ちょうこう国こくであったことがパタニのさらに立場たちばを弱よわくしていた。そこで女王じょおうはパタニの防衛ぼうえいを強化きょうかするため、巨きょ大砲たいほうの製造せいぞうを命めいじた。

この大砲たいほうの製造せいぞうを請うけ負おったのは、トク・カヤンという華人かじんイスラム教徒きょうとだった。パタニには中国ちゅうごく商船しょうせんの来航らいこうが多おおかったので、パタニに住すみ着つき、イスラムに改宗かいしゅうする華人かじんも多おおかったが、トク・カヤンは華はな語ご名めいを林道りんどう乾いぬいといったと伝つたえられる。おそらく福建ふっけん省しょうか広東かんとん省しょうの出身しゅっしんだろう。トク・カヤンの数ヶ月すうかげつの努力どりょくによって2門もんの真鍮しんちゅう製せい巨きょ大砲たいほうと1門もんの小型こがた砲ほうが完成かんせいする。女王じょおうは巨きょ大砲たいほうをスリ・ネガラとスリ・パタニと命名めいめいし、小型こがた砲ほうはマハレラと名付なづけられた。女王じょおうの治世ちせいにはアユタヤ軍ぐんの来襲らいしゅうはなかったが、後のちにこれらの大砲たいほうは大だい活躍かつやくすることになる。このうちスリ・パタニは後のちにタイ領りょうに編入へんにゅうされた後のちにパッターニー県けんの県けん章あきらとなった（右みぎの画像がぞう）。（スリはサンスクリットの借用しゃくよう語ごで吉祥きっしょうの意い）

ところでオランダ東ひがしインド会社かいしゃとイギリス東ひがしインド会社かいしゃは東南とうなんアジアの香料こうりょう貿易ぼうえきをめぐって次第しだいに対立たいりつを深ふかめていた。1619年ねんパタニに入港にゅうこうしたイギリス船せん2隻せきが突如とつじょオランダ船せんの攻撃こうげきを受うけ降伏ごうぶくするという事件じけんが起おこる。英国えいこく人じん乗員じょういんはオランダの捕虜ほりょとなり、積荷つみには没収ぼっしゅう、船ふねは焼やき捨すてられた。女王じょおうはオランダ人じんの戦争せんそう行為こういをきびしく禁止きんしし、港みなとの安全あんぜんを確保かくほしようとしたが、オランダ人じんはその後ごも来き港みなとするイギリス人じんを剣けんなどで脅おどかし、1623年ねんにはイギリス人じんはパタニから撤収てっしゅうしてしまう。こうしてパタニはしばらくオランダ人じんの天下てんかとなった。

17世紀せいき初はじめ東南とうなんアジアに進出しんしゅつしたオランダ人じんは香辛料こうしんりょう貿易ぼうえきの拠点きょてんとしてジャワ島じゃわとう西部せいぶのバンテンを拠点きょてんにしたが、その次つぎに重視じゅうししていたのが、中国ちゅうごく船せんとの出会であい貿易ぼうえきの場ばとなるパタニであった。というのも、ポルトガルのマカオのように中国ちゅうごく沿岸えんがんに拠点きょてんをもたないオランダはパタニに来航らいこうする中国ちゅうごく船せんから絹きぬなどの中国ちゅうごく商品しょうひんを買かい付つけていたからである。ラジャ・ビルの治世ちせいはまだまだパタニの繁栄はんえい期きだったといえる。

ラジャ・ビルは後継あとつぎがいないため、パハン国王こくおうと結婚けっこんしていた妹いもうとのラジャ・ウングが未亡人みぼうじんになったので帰国きこくさせた。1624年ねんラジャ・ビルが崩御ほうぎょすると、このラジャ・ウングが即位そくいすることになる。