ロバート・グリーン (劇げき作家さっか)

経帷子きょうかたびらをまとって書かくグリーンのアレゴリー的てき図像ずぞう。ジョン・ディッケンソンの『思おもいをめぐらすグリーン』(1598)

ロバート・グリーン（1558年ねん6月11日にち - 1592年ねん9月3日にち）はイングランドの作家さっかであり、死後しごにグリーン作さくとして出版しゅっぱんされた『三文さんもんの知恵ちえ』が最もっともよく知しられた作品さくひんである。この著作ちょさくはウィリアム・シェイクスピアに対たいする論難ろんなんを含ふくんでいると広ひろく信しんじられている。グリーンはノリッジで生うまれ、ケンブリッジ大学けんぶりっじだいがくで学まなんで1580年ねんに学士がくし号ごうを、1583年ねんに修士しゅうし号ごうを取得しゅとくした。そののちにロンドンに引ひっ越こし、おそらくはイングランド最初さいしょの職業しょくぎょう作家さっかのひとりとなった。大学だいがく才人さいじんの一人ひとりでもある。グリーンは自伝じでん、戯曲ぎきょく、ロマンスを含ふくむ多数たすうのジャンルで出版しゅっぱん活動かつどうを行おこなっており、スキャンダラスな世評せひょうを得えてそれを利用りようもしていた。

生涯しょうがい

グリーンは1558年ねんにノリッジで生うまれたが、伝記でんき作家さっかの間あいだでは零細れいさいな馬具ばぐ屋やの息子むすこであったのか、もっと富裕ふゆうで地主じぬしの親戚しんせきもいた宿屋やどやの息子むすこだったのかについて意見いけんの相違そういがある。グリーンはケンブリッジ大学けんぶりっじだいがくのセント・ジョンズ・カレッジで1580年ねんに学士がくし号ごう、1583年ねんに修士しゅうし号ごうを取得しゅとくし、1588年ねんにオクスフォードで修士しゅうしとなった。グリーンはドルという名なの富裕ふゆうな女性じょせいと結婚けっこんしていたが、妻つまの金かねを相当そうとう額がく使つかい果はたした後のちに妻つまを見捨みすてたと言いっていた。

ロンドンではグリーンは書かくことで生計せいけいを立たてていた。悪名あくめい高たかき知識ちしき人じん兼けんごろつきとして暮くらしており、エリザベス1世せい治世ちせい下かのイングランドのくだけた雰囲気ふんいきのただ中なかで自分じぶんが繰くり広ひろげた冒険ぼうけんをパンフレットに書かいたり、また流行りゅうこうの服装ふくそうにとがった赤あかヒゲという忘わすれられない姿すがたで人前ひとまえに出でたりして自みずから悪評あくひょうを広ひろめていた。

グリーンは1592年ねん9月がつ3日にちに亡なくなった。トマス・ナッシュによるとこれは「ラインワインとニシン漬づけの宴うたげ」のせいであった。グリーンはおそらく死しの床ゆかで有名ゆうめいな『百ひゃく万まんの後悔こうかいによって購あがなわれたグリーンの三文さんもんの知恵ちえ』を書かき、妻つまに自分じぶんを許ゆるして借金しゃっきんを片付かたづけてくれるよう頼たのむ手紙てがみを送おくった。

著作ちょさく

グリーンの『ベイコンとバンゲイ』(1594年版ねんばん)のタイトルページ

1583年ねんまでにグリーンは作家さっかとしてのキャリアを築きずき始はじめていた。1580年ねんには長大ちょうだいなロマンス『マミリア』の認可にんかを得えており、出版しゅっぱんしていた。非常ひじょうによく作つくり込こまれた文体ぶんたいで書かかれたロマンスを書かき続つづけ、『パンドスト』(1588)と『メナフォン』(1589)でそれは頂点ちょうてんに達たっした。短みじかい詩しや歌うたもロマンスに組くみ込こむことがあり、これによりグリーンは抒情詩じょじょうし人じんとしても高たかい評価ひょうかを受うけた。こうした作品さくひんを迅速じんそくに仕上しあげることで、グリーンはイングランドではじめて、ペンによって生計せいけいを立たてる作家さっかのひとりとなった。『メナフォン』にある一いち曲きょく、「僕ぼくのいたずら娘むすめさん、泣なかないで僕ぼくの膝下ひざもとで笑わらってよ」は大変たいへんな成功せいこうを収おさめ、おそらく今いまではグリーンの最もっともよく知しられた作品さくひんである。

グリーンは多作たさくであり、職業しょくぎょう作家さっかというものが事実じじつ上じょうほとんど知しられていなかった時代じだいに生計せいけいを立たてるために(かつ好すきな娯楽ごらくを楽たのしむために)苦闘くとうしていた。悪名あくめい高たかい「イカサマ」のパンフレットのおかげでグリーンは世間せけんでもよく知しられた人物じんぶつとなったが、このパンフレットは堅気かたぎの市民しみんから汗水あせみず垂たらして稼かせいだ金かねをまきあげる道楽者どうらくものやごろつきの裏話うらばなしを鮮あざやかに語かたるものであった。

こうした物語ものがたりは常つねに改悛かいしゅんしたかつてのごろつきの視点してんから語かたられており、グリーンは一応いちおうはフィクションとしてぼかしつつも自身じしんの暮くらしの多おおくの事実じじつを組くみ込こんでいる。自分じぶんの若わかき日ひの荒あらっぽい暮くらしぶり、結婚けっこん、ロンドンの暗部あんぶで悪名あくめい高たかい人物じんぶつの姉妹しまいのために妻子さいしを見捨みすてたこと、役者やくしゃたちとのつきあい、芝居しばい製作せいさくの成功せいこうなどを描えがいているのである。

グリーンは多様たようなジャンルで著作ちょさくした。散文さんぶんのロマンスに加くわえて、多おおくの道徳どうとく的てきな対話たいわ編へんや、鉱物こうぶつをはじめとした物質ぶっしつの性質せいしつについての科学かがく的てき著作ちょさくまで書かいていた。

グリーンの戯曲ぎきょくとしては『ジェームズ四よん世せいのロマンス』、『アルフォンサス』、最もっとも有名ゆうめいな成功せいこう作さくである『ベイコンとバンゲイ』(1589年ねん頃ごろ)、またルドヴィーコ・アリオストの『狂きょうえるオルランド』に基もとづく『狂きょうえるオルランド』などがある。他ほかにもたくさんの戯曲ぎきょくについてグリーンの手てが入はいっているかもしれないと疑うたがわれており、『ボルドーのジョン』として現在げんざいに残のこっている『ベイコンとバンゲイ』第だい二に部ぶの著者ちょしゃかもしれない。

グリーン作さくであると一般いっぱんに認みとめられている戯曲ぎきょくに加くわえて、さまざまな他ほかの戯曲ぎきょくについても著者ちょしゃとしてグリーンが取とり沙汰ざたされており、こうした戯曲ぎきょくには『ジョン王おうの乱世らんせい』、『ジョージ・ア・グリーン』、『フェア・エム』、『悪党あくとうを見分みわけるコツ』、『ロークラインの悲劇ひげき』、『セリマス』、『エドワード三さん世せい』などがあり、とくにシェイクスピアの『タイタス・アンドロニカス』も含ふくまれる。

グリーンとシェイクスピア

『三文さんもんの知恵ちえ』

劇げき作家さっかグリーンはシェイクスピア研究けんきゅう者しゃの間あいだでは『三文さんもんの知恵ちえ』(正式せいしきなタイトルは『百ひゃく万まんの後悔こうかいによって購あがなわれたグリーンの三文さんもんの知恵ちえ』)というパンフレットで最もっともよく知しられている。この作品さくひんについて、多おおくの研究けんきゅう者しゃはエリザベス朝ちょうロンドンの演劇えんげきコミュニティの一員いちいんとしてのシェイクスピアに関かんする最もっとも初期しょきの言及げんきゅうを含ふくんでいるということで意見いけんが一致いっちしている。この中なかで、グリーンはシェイクスピアを向むこう見みずにも芝居しばいを書かいている役者やくしゃであり、剽窃ひょうせつをしているとけなしている。この文章ぶんしょうはシェイクスピアの芝居しばい『ヘンリー六ろく世せい 第だい3部ぶ』からとってきたのではないかと考かんがえられている行くだりを引用いんようしているが、この謎なぞめいたほのめかしが正確せいかくには何なにを意味いみしているのかについて研究けんきゅう者しゃたちは意見いけんの一致いっちを見みていない。

役者やくしゃの皮かわを被こうむってはいるが心しんは虎とらも同然どうぜんの、我々われわれの羽毛うもうで着飾きかざった成なり上あがりのカラスが近ちかごろ現あらわれ、諸君しょくんの中なかでも最良さいりょうの書かき手てと同おなじくらい優すぐれたブランク・ヴァースを自分じぶんも紡つむぎうると慢心まんしんしている。たかが何なんでも屋やの分際ぶんざいで、自分じぶんこそが国内こくないで唯一ゆいいつの舞台ぶたいを揺ゆるがす者もの (Shake-scene) であると自惚うぬぼれている。

グリーンは明あきらかに大学だいがく出での劇げき作家さっかたちと同おなじくらい書かけると自分じぶんで信しんじ込こんでいる役者やくしゃについて愚痴ぐちっており、シェイクスピアの芝居しばいを引用いんようしてその役者やくしゃに触ふれており、'Shake-scene'というグリーンの一節いっせつの前まえにも後のちにも一いち度ども用例ようれいのない特異とくいな単語たんごを用もちいている。シェイクスピア別人べつじん説せつの論者ろんしゃたちはグリーンの言葉ことばは時代じだいが早はやすぎてシェイクスピアへの言及げんきゅうではないように見みえると主張しゅちょうしているが(シェイクスピアは1592年ねんの時点じてんで自著じちょとして作品さくひんを刊行かんこうしていなかった)、ほとんどの研究けんきゅう者しゃはグリーンのコメントはシェイクスピアへの言及げんきゅうであり、シェイクスピアはこの時期じきには『ヘンリー六ろく世せい 第だい1部ぶ』や『ジョン王おう』のような戯曲ぎきょくに著者ちょしゃとして参加さんかしていた「成なり上あがりの」役者やくしゃであったのだろうと考かんがえている。こうした戯曲ぎきょくは刊行かんこうはされていなかったが、グリーンの死しの前まえに書かかれて上演じょうえんされていたようである。これは他たの役者やくしゃエドワード・アレンへの言及げんきゅうであると考かんがえる研究けんきゅう者しゃもおり、グリーンはこれより前まえのパンフレットでよく似にた表現ひょうげんを用もちいてアレンを攻撃こうげきしていた。

『三文さんもんの知恵ちえ』の一部いちぶあるいは全体ぜんたいがグリーンの死しの直後ちょくごに仲間なかまの作家さっかの誰だれかによって書かかれたのではないかと考かんがえる研究けんきゅう者しゃもおり、死しの床ゆかでの改悛かいしゅんというきわどい物語ものがたりから利益りえきを得えようと望のぞんでそのようなことをしたのではないかと論ろんじている(パンフレットの印刷いんさつ業者ぎょうしゃであるヘンリー・チェトルが有力ゆうりょくな候補こうほである)。ハンスペーター・ボルンはグリーンが『三文さんもんの知恵ちえ』を全部ぜんぶ書かいたのであり、死しの床ゆかでの「成なり上あがりのカラス」に対たいする攻撃こうげきはシェイクスピアがグリーンの芝居しばい『悪党あくとうを見分みわけるコツ』に介入かいにゅうしたことで起おこったのであると論ろんじている。

グリーンは鮮あざやかで無責任むせきにんな性格せいかくであったため、スティーヴン・グリーンブラットなど数すう人にんの論者ろんしゃはグリーンはシェイクスピアのフォルスタッフのモデルであったのかもしれないと推測すいそくしている。

作品さくひん

戯曲ぎきょく

• Friar Bacon and Friar Bungay『ベイコンとバンゲイ』 (1590年ねん頃ごろ)
• The History of Orlando Furioso 『狂きょうえるオルランド』(1590年ねん頃ごろ)
• A Looking Glass for London and England (トマス・ロッジと) (1590年ねん頃ごろ)
• The Scottish History of James the Fourth 『ジェームズ四よん世せいのロマンス』(1590年ねん頃ごろ)
• The Comical History of Alphonsus, King of Aragon (1590年ねん頃ごろ)
• Selimus, Emperor of the Turks (1594)

その他たの著作ちょさく

• Mamillia(pt. 1) (1580年ねん頃ごろ)
• Mamillia: The Triumph of Pallas(pt. 2)(1583)
• The Myrrour of Modestie (1584)
• The History of Arbasto, King of Denmarke (1584)
• Gwydonius (1584)
• Morando, the Tritameron of Love (1584)
• Planetomachia (1585)
• Morando, the Tritameron of Love (pt. 2)(1586)
• Euphues: His Censure to Philautus (1587)
• Greene's Farewell to Folly (circa 1587)
• Penelope’s Web (1587)
• Alcida (1588)
• Greenes Orpharion (1588)
• Pandosto (1588)
• Perimedes (1588)
• Ciceronis Amor (1589)
• Menaphon (1589)
• The Spanish Masquerado (1589)
• Greene's Mourning Garment (1590)
• Greene's Never Too Late (pts. 1&2)(1590)
• Greene's Vision (1590)
• The Royal Exchange* (1590)
• A Notable Discovery of Coosnage (1591)
• The Second Part of Conycatching (1591)
• The Black Books Messenger (1592)
• A Disputation Between a Hee Conny-Catcher and a Shee Conny-Catcher (1592)
• A Groatsworth of Wit Bought with a Million of Repentance『三文さんもんの知恵ちえ』(1592)
• Philomela (1592)
• A Quip for an Upstart Courtier (1592)
• The Third and Last Part of Conycatching (1592)

参考さんこう文献ぶんけん

• Baskervill, Charles Read, ed. Elizabethan and Stuart Plays. New York: Henry Holt and Company, 1934.
• Crupi, Charles. Robert Greene (1986) ISBN 0-8057-6905-6
• Dickenson, Thomas H. "Introduction" from The Complete Plays of Robert Greene (New Mermaid Edition, 1907)
• Greenblatt, Stephen. Will in the World (2005)
• Melnikoff, Kirk, ed.. "Robert Greene" (Ashgate, 2011)
• Melnikoff, Kirk and Edward Gieskes, eds. "Writing Robert Greene: Essays on England's First Notorious Professional Writer" (Ashgate, 2008)
• Logan, Terence P., and Denzell S. Smith, eds. The Predecessors of Shakespeare: A Survey and Bibliography of Recent Studies in English Renaissance Drama. Lincoln, NE, University of Nebraska Press, 1973.