ヴィルヘルム・バウアー

ヴィルヘルム・バウアー

ヴィルヘルム・バウアー（Wilhelm Bauer, 1833年ねん12月23日にち - 1875年ねん6月がつ20日はつか）は、ドイツの発明はつめい家か、技術ぎじゅつ者しゃ。人力じんりき推進すいしんの潜水せんすい艦かん「ブラントタオハー」を製作せいさくした。

前ぜん半生はんせい

ブラントタオハー

バウアーはドイツ連邦れんぽう、バイエルン王国おうこく（現げんバイエルン州しゅう）のディリンゲン（Dillingen）で生うまれた。父親ちちおやは当地とうちの騎兵きへい連隊れんたいの軍曹ぐんそうであった。そのため、ヴィルヘルムも木工もっこう旋盤せんばん工こうの見習みならい期間きかんを終おえた後のち、軍隊ぐんたいに入隊にゅうたいした。火器かきの整備せいび兵へいとして、彼かれは第だい一いち次じシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン戦争せんそう（1848-51年ねん）に従軍じゅうぐんした。

ドイツの北きた海岸かいがんがデンマーク海軍かいぐんに封鎖ふうさされている様子ようすを見みたバウアーは、即座そくざに、封鎖ふうさを突破とっぱする新あたらしい種類しゅるいの船ふね（すなわち潜水艦せんすいかん）の開発かいはつに取とり掛かかった。その目的もくてきを達成たっせいするためにバウアーは水みず理学りがくと造船ぞうせんを学まなび始はじめた。しかし、それが実みを結むすぶ前まえにドイツ連邦れんぽうはシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン公国こうこくから撤退てったいし、戦争せんそうは終おわった。バウアーは何なにとしても研究けんきゅうを続つづけることを決意けついし、ドイツ軍ぐんを除隊じょたいしてシュレースヴィヒ＝ホルシュタインの軍隊ぐんたいに加くわわった。

軍隊ぐんたい組織そしきの中なかにあって、彼かれのような低ひくい階級かいきゅうの人間にんげんが独自どくじの新しん兵器へいき開発かいはつを行おこなうことは極きわめて困難こんなんであった。バウアーは最終さいしゅう的てきにはヴェルナー・フォン・ジーメンスらの援助えんじょを受うけることに成功せいこうし、潜水せんすい艦かんの実用じつよう模型もけいを試作しさくする資金しきんを辛かろうじて得えることができた。

ブラントタオハー号ごう

ブラントタオハー号ごうカットモデル

当時とうじ、火ひ船せんは封鎖ふうさ破やぶりに有効ゆうこうな方法ほうほうとしてよく知しられていた。火ひ船せんとは爆発ばくはつ物ぶつを積つんで敵てき船せんに体当たいあたりする船ふねである。ブラントタオハー（Brandtaucher；"Brand"は「火ひ」、"taucher"は「潜くぐるもの」を意味いみする）、すなわち「潜水せんすい火ひ船せん」も同様どうようの設計せっけい思想しそうで作つくられた。敵てき船せんの下したに潜もぐり込こみ、船底ふなそこに電気でんき起爆きばく式しきの機雷きらいを取とり付つけて、安全あんぜんな距離きょりまで逃にげてから機雷きらいに点火てんかするという構想こうそうであった。ほぼ同様どうようの技術ぎじゅつが当時とうじの各国かっこくの海軍かいぐんで研究けんきゅうされていた。その例れいとしてはユリウス・クレール（Julius Kröhl）の「エクスプローラー」、ブリューテュス・ド・ヴィルロワ（Brutus de Villeroi）の「アリゲーター」、かの有名ゆうめいな「ハンリー」（敵てき船せんを沈しずめた史上しじょう最初さいしょの潜水せんすい艦かん）などが挙あげられる。

バウアー本人ほんにん製作せいさくの実用じつよう模型もけいの機能きのうが証明しょうめいされた後のち、フルサイズの潜水せんすい艦かんを作つくる資金しきんを与あたえられた。しかし海軍かいぐんの上層じょうそう部ぶはバウアーの計画けいかくにいまだに反対はんたいしており、予算よさんを減へらすためバウアーに設計せっけいの変更へんこうを強しいた。バウアー本来ほんらいの設計せっけいでは複数ふくすうのバラストランクを持もつはずであったが、「船ふね殻から自体じたいに海水かいすいを入いれる」構造こうぞうへと変更へんこうがなされたため、この潜水せんすい艦かんは危険きけんかつ不安定ふあんていなものとなったのである。また船ふね殻からの厚あつさと排水はいすいポンプの性能せいのうも大幅おおはばに落おとされた。

ブラントタウハーはアウグスト・ホーヴァルト（August Howaldt）の造船ぞうせん会社かいしゃに発注はっちゅうされ、製作せいさくされた。全長ぜんちょう28フィート、重量じゅうりょうは約やく7万まんポンドであった。当時とうじでは適切てきせつな動力どうりょくシステムが手てに入はいらなかったため、人力じんりき駆動くどうが採用さいようされた（水夫すいふ2人にんが手てと足あしでクランクを回まわした）。3人にん目めの乗組のりくみ員いんが船長せんちょうであり、船尾せんびで操舵そうだその他たを受うけもった。標的ひょうてきの下したに到達とうたつできた場合ばあい、船ふね殻からを貫つらぬいて取とり付つけられたグッタ・ペルカ製せい手袋てぶくろに手てを入いれて、敵艦てきかんに機雷きらいを取とり付つけるのも船長せんちょうの役目やくめだった。

最初さいしょの試験しけんは1850年ねん12月に行おこなわれた。バウアーは何なん点てんか改良かいりょうを施ほどこすことを希望きぼうしたが、軍ぐんは翌よく52年ねん2月がつ1日にちに公開こうかい試験しけんを行おこなうよう命令めいれいした。

公開こうかい試験しけんは大だい失敗しっぱいに終おわった。30フィートの深度しんどに達たっした後のち、ブラントタオハーは船尾せんびから沈しずみ始はじめたのである。そして、薄うすい外壁がいへきは水圧すいあつに耐たえ切きれず、壊こわれ始はじめた。貧弱ひんじゃくな排水はいすいポンプでは浸水しんすいに対応たいおうできず、さらに転覆てんぷくによってスクリューも損傷そんしょうを受うけた。ブラントタオハーはキール港こうの海底かいていに向むかってゆっくりと沈しずんで行いった。バウアーと乗員じょういんたちは海底かいていで6時じ間あいだほど持もちこたえ、浸水しんすいによって船内せんないの気圧きあつが上あがりハッチを開あけるようになると潜水艦せんすいかんを捨すてて脱出だっしゅつした。

海底かいていのブラントタオハーは1887年ねんに引ひき上あげられた。現在げんざいではドレスデンのドイツ連邦れんぽう軍事ぐんじ博物館はくぶつかん（Militärhistorisches Museum der Bundeswehr）に展示てんじされている。

ゼートイフェル号ごう

ブラントタオハーの沈没ちんぼつの後のち、バウアーはすぐに次つぎの計画けいかくに取とり掛かかった。より大型おおがたで、改良かいりょう型がたの潜水せんすい艦かんである。しかし前回ぜんかいの失敗しっぱいに懲こりたシュレスヴィヒ＝ホルシュタイン政府せいふは援助えんじょを拒否きょひした。

バウアーはシュレスヴィヒ＝ホルシュタイン公国こうこくを後のちにした。その後ごの数すう年間ねんかん、彼かれはオーストリア＝ハンガリー帝国ていこく、イギリス、フランスなど数すうヶ国かこくにスポンサーを求もとめ続つづけ、55年ねんにロシアの大公たいこうと接触せっしょく。その年としのうちにサンクトペテルブルクで第だい二にの潜水せんすい艦かんゼートイフェル（Seeteufel）を製作せいさくした。

前まえのものと比くらべて、こちらの潜水せんすい艦かんについては情報じょうほうが少すくない。全長ぜんちょうはこちらのほうが2倍ばいほど大おおきかったと言いわれる。鉄製てつせいの船ふね殻からは厚あつさ2分ぶんの1インチで、窓まどが21個いっこあった。バラストタンクは3つあり、12人にんが乗のり組くむよう設計せっけいされていた。

前回ぜんかいの失敗しっぱいを踏ふまえ、バウアーはゼートイフェルに新しん発明はつめいの救命きゅうめい装置そうちを装備そうびした。一種いっしゅの潜水せんすい鐘がねである。これはエアロックとして機能きのうし、艦かんが水中すいちゅうにある時ときも人ひとの出入でいりが可能かのうとなった。

ゼートイフェルの設計せっけいの優秀ゆうしゅうさは証明しょうめいされた。4ヶ月かげつで133回かいの潜水せんすい航行こうこうが成功裏せいこうりになされた。しかし134回かい目めの潜行せんこう時じ、海底かいていの砂すなに座礁ざしょうしてしまった。バラストタンクが空そらになるまで排水はいすいし、辛かろうじて海面かいめんまで浮上ふじょうすることができた。バウアーを含ふくむ全ぜん乗員じょういんが救助きゅうじょされたが、ゼートイフェルは再ふたたび海底かいていに沈しずんだ。

その後ご

ゼートイフェルの沈没ちんぼつ後ご、バウアーは速すみやかにロシアを後のちにした。潜水せんすい艦かんのスポンサーが見みつからないと悟さとった彼かれは、別べつの発明はつめいに取とり掛かかった。例たとえば1863年ねん、気球ききゅうで沈没ちんぼつ船せんを引ひき上あげる計画けいかくを立たてている。しかし彼かれの野心やしん的てきな発明はつめいの全すべては失敗しっぱいに終おわった。資金しきん不足ふそくのためである。失意しついのバウアーは1875年ねんにミュンヘンで死亡しぼうした。

世界せかい大戦たいせんにおけるドイツの潜水せんすい艦かん艦隊かんたいがバウアーの試作しさく品ひんの直系ちょっけいの子孫しそんである、という主張しゅちょうは正ただしいとは言いえない。現代げんだいにつながる潜水せんすい艦かんの歴史れきしは、サイモン・レイク（Simon Lake）とジョン・フィリップ・ホランドに始はじまった。とは言いえ19世紀せいきの先駆せんく者しゃたち（すなわちド・ヴィルロワ、ナルシス・ムントリオル、ホレース・ハンリーその他たの人々ひとびと）はバウアーの発明はつめいに注目ちゅうもくしており、アイディアの多おおくを彼かれから得えている。また彼かれら無なしでは、今日きょうの潜水せんすい艦かんは存在そんざいしなかっただろう。

1960年ねん、ドイツ海軍かいぐんはUボートXXI型がたをヴィルヘルム・バウアーと改称かいしょうした。2008年ねんには彼かれの生涯しょうがいと業績ぎょうせきを描えがいた映画えいが"Submarine Ingenieur"（潜水せんすい艦かん技術ぎじゅつ者しゃ）がキールで公開こうかいされた。

参考さんこう資料しりょう

• Oskar G. Foerster: Wilhelm Bauers Kampf um das erste deutsche Tauchboot (Wilhelm Bauer’s struggle for the first German submarine), Berlin 1937
• Hanns Peugler: Sie formten das Antlitz der Erde (They formed the face of earth), Verlag Albert Pröpster KG. 1961