出典 しゅってん : フリー百科 ひゃっか 事典 じてん 『ウィキペディア(Wikipedia)』
タンのシナゴーグ (フランス語 ふらんすご 版 ばん ) (フランス ・タン にあるシナゴーグ (会堂 かいどう ))で発行 はっこう された文書 ぶんしょ (1849年 ねん )
公正 こうせい 証書 しょうしょ (こうせいしょうしょ、英 えい :notarial deed 、独 どく :notariellen Beurkundung 、仏 ふつ :acte notarié 、韓 かん :공정 증서 )とは、ある人 ひと が法的 ほうてき に意味 いみ のある行為 こうい をしたという事実 じじつ を証明 しょうめい する文書 ぶんしょ であって、そのような証明 しょうめい 文書 ぶんしょ を作成 さくせい するために必要 ひつよう な公的 こうてき 資格 しかく を持 も つ専門 せんもん 家 か (公証 こうしょう 人 じん notary public )が、行為 こうい 者 しゃ の依頼 いらい に基 もと づく職務 しょくむ として作成 さくせい するものをいう。なお、日本語 にほんご の「公正 こうせい 証書 しょうしょ 」には「公務員 こうむいん が作成 さくせい する証明 しょうめい 文書 ぶんしょ 」という広 ひろ い意味 いみ もあるが(例 たと えば、日本 にっぽん の刑法 けいほう 157条 じょう 。フランス語 ふらんすご の公 おおやけ 署 しょ 行為 こうい acte authentique に近 ちか い。)、本稿 ほんこう では公証 こうしょう 人 じん が作成 さくせい する公正 こうせい 証書 しょうしょ のみを説明 せつめい する。[ 1]
公証 こうしょう 人 じん の資格 しかく 要件 ようけん 、職務 しょくむ 範囲 はんい 、人数 にんずう 、社会 しゃかい 的 てき 地位 ちい などは法域 ほういき ごとに様々 さまざま であるが、大別 たいべつ すると、ラテン系 けい 公証 こうしょう 人 じん 制度 せいど を採用 さいよう する法域 ほういき (日本 にっぽん 、韓国 かんこく 、ドイツ 、フランス 、イタリア 、ギリシャ 、スペイン 、メキシコ など)の公証 こうしょう 人 じん は、公正 こうせい 証書 しょうしょ を作成 さくせい することを主要 しゅよう な職務 しょくむ の一 ひと つとし、[ 2] [ 3] [ 4] アメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく (ルイジアナ州 しゅう 及 およ びプエルトリコ を除 のぞ く。)などの公証 こうしょう 人 じん は、認証 にんしょう certification (他人 たにん が作成 さくせい した文書 ぶんしょ を、確 たし かにその他人 たにん が作成 さくせい したと証明 しょうめい すること)に特 とく 化 か している。[ 5] 非 ひ 英語 えいご 圏 けん では「公正 こうせい 証書 しょうしょ 」に当 あ たる語 かたり の英訳 えいやく として notarial act を当 あ てることも多 おお く、現 げん にこの辞典 じてん の日本語 にほんご 版 ばん 、スペイン語 ご 版 ばん 、フランス語 ふらんすご 版 ばん 、ポルトガル語 ご 版 ばん なども言語 げんご 間 あいだ リンクを英語 えいご 版 ばん の Notarial act との間 あいだ に設定 せってい している。しかし、notarial act には正式 せいしき 書式 しょしき public form と簡約 かんやく 書式 しょしき private form とがあるという説明 せつめい が一般 いっぱん 的 てき であり、[ 6] このうち簡約 かんやく 書式 しょしき の notarial act は他人 たにん が作成 さくせい した文書 ぶんしょ を引用 いんよう 添付 てんぷ する方法 ほうほう で作成 さくせい されるから、[ 7] 日本語 にほんご でいう公正 こうせい 証書 しょうしょ というよりは、むしろ認証 にんしょう に近 ちか い。そこで本 ほん 記事 きじ では、公正 こうせい 証書 しょうしょ の英語 えいご 訳 やく として notarial deed を当 あ てる。
公正 こうせい 証書 しょうしょ は、公的 こうてき 資格 しかく を持 も つ専門 せんもん 家 か である公証 こうしょう 人 じん が作成 さくせい した証明 しょうめい 文書 ぶんしょ であり、原本 げんぽん を当事 とうじ 者 しゃ から中立 ちゅうりつ の公証 こうしょう 人 じん が保管 ほかん するため、行為 こうい の存否 そんぴ や瑕疵 かし の有無 うむ が争 あらそ われる危険 きけん 性 せい が低 ひく い。つまり、「契約 けいやく に関 かか わっていない」、「検討 けんとう 不十分 ふじゅうぶん なまま契約 けいやく をした」、「誤解 ごかい をしたまま契約 けいやく をした」、「脅 おど されて契約 けいやく をした」、「日付 ひづけ が不正確 ふせいかく である」などの主張 しゅちょう は覆 くつがえ される可能 かのう 性 せい が高 たか いため、そもそもそのような主張 しゅちょう が出 で ないことが多 おお い。つまり、公正 こうせい 証書 しょうしょ は事実 じじつ 上 じょう (時 とき には法律 ほうりつ 上 じょう [ 注 ちゅう 1] )高 たか い証明 しょうめい 力 りょく を有 ゆう している。
公正 こうせい 証書 しょうしょ として代表 だいひょう 的 てき なものは、契約 けいやく 公正 こうせい 証書 しょうしょ 、遺言 ゆいごん 公正 こうせい 証書 しょうしょ 、事実 じじつ 実験 じっけん 公正 こうせい 証書 しょうしょ (じじつじっけんこうせいしょうしょ)である。[ 8] 契約 けいやく 公正 こうせい 証書 しょうしょ とは、当事 とうじ 者 しゃ 間 あいだ の契約 けいやく 内容 ないよう を記載 きさい した公正 こうせい 証書 しょうしょ である。遺言 ゆいごん 公正 こうせい 証書 しょうしょ とは、遺言 ゆいごん 者 しゃ の遺言 ゆいごん 内容 ないよう を記載 きさい した公正 こうせい 証書 しょうしょ であって、当該 とうがい 法域 ほういき で正規 せいき の方式 ほうしき の遺言 ゆいごん と認 みと められるものである。事実 じじつ 実験 じっけん 公正 こうせい 証書 しょうしょ とは、公証 こうしょう 人 じん が自 みずか ら体験 たいけん した事実 じじつ を記載 きさい した公正 こうせい 証書 しょうしょ であり、英語 えいご に直訳 ちょくやく すると notarial record of experience などとなる。
契約 けいやく 公正 こうせい 証書 しょうしょ が広 ひろ く用 もち いられる契約 けいやく 類型 るいけい の一 ひと つに、不動産 ふどうさん 取引 とりひき がある。ドイツでは、不動産 ふどうさん 所有 しょゆう 権 けん を譲 ゆず り渡 わた すこと又 また は譲 ゆず り受 う けることを約束 やくそく する契約 けいやく は公正 こうせい 証書 しょうしょ によらなければならない(民法 みんぽう 311b条 じょう 1項 こう )。フランスでは、不動産 ふどうさん 登記 とうき 所 しょ において公示 こうじ される契約 けいやく は公 おおやけ 署 しょ 方式 ほうしき forme authentique によらなければならず(1955年 ねん 1月 がつ 4日 にち のデクレ第 だい 55-22号 ごう 4条 じょう 1項 こう )、公 おおやけ 署 しょ 方式 ほうしき の大 だい 部分 ぶぶん は公正 こうせい 証書 しょうしょ である。[ 9] ブラジルでは、不動産 ふどうさん 所有 しょゆう 者 しゃ が他人 たにん に所有 しょゆう 地 ち の使用 しよう 権 けん を設定 せってい するには、公正 こうせい 証書 しょうしょ により契約 けいやく し、不動産 ふどうさん 登記 とうき 所 しょ で登記 とうき しなければならない(民法 みんぽう 1369条 じょう 1項 こう )。日本 にっぽん では、事業 じぎょう 用 よう 定期 ていき 借地 しゃくち 権 けん [ 注 ちゅう 2] を設定 せってい する契約 けいやく は、公正 こうせい 証書 しょうしょ によらなければならない(借地 しゃくち 借家 しゃくや 法 ほう 23条 じょう )。
日本 にっぽん (民事 みんじ 執行 しっこう 法 ほう 22条 じょう 5号 ごう )やドイツ(民事 みんじ 訴訟 そしょう 法 ほう 794条 じょう 5号 ごう )では、一定 いってい の様式 ようしき の契約 けいやく 公正 こうせい 証書 しょうしょ に基 もと づく権利 けんり であれば、裁判所 さいばんしょ の判決 はんけつ がなくても強制 きょうせい 執行 しっこう が可能 かのう になる。公正 こうせい 証書 しょうしょ にこのような優遇 ゆうぐう を与 あた える伝統 でんとう は、シャルルマーニュ の時代 じだい にまで遡 さかのぼ ることができる。[ 10]
遺言 ゆいごん 公正 こうせい 証書 しょうしょ は、多 おお くの法域 ほういき で認 みと められている(例 たと えば、イタリアの民法 みんぽう 典 てん 603条 じょう )。上述 じょうじゅつ したとおり、遺言 ゆいごん 公正 こうせい 証書 しょうしょ は公証 こうしょう 人 じん が遺言 ゆいごん 者 しゃ の遺言 ゆいごん 内容 ないよう を証明 しょうめい する文書 ぶんしょ であるため、遺言 ゆいごん の有効 ゆうこう 性 せい を争 あらそ われるおそれが小 ちい さい。また、公正 こうせい 証書 しょうしょ による遺言 ゆいごん が他 た の方式 ほうしき による遺言 ゆいごん と比較 ひかく して一定 いってい の優遇 ゆうぐう を与 あた えられていることも多 おお い。例 たと えば日本 にっぽん 及 およ び韓国 かんこく では、他 た の方式 ほうしき による遺言 ゆいごん とは異 こと なり裁判所 さいばんしょ での検 けん 認 みとめ が不要 ふよう である(日本 にっぽん の民法 みんぽう 1004条 じょう 2項 こう 、韓国 かんこく の民法 みんぽう 1091条 じょう 2項 こう )。
事実 じじつ 実験 じっけん 公正 こうせい 証書 しょうしょ という概念 がいねん が用 もち いられることが比較的 ひかくてき 多 おお い法域 ほういき は、日本 にっぽん である。日本 にっぽん では、特許 とっきょ 権 けん に対 たい して先 さき 使用 しよう 権 けん prior user rights で対抗 たいこう できる範囲 はんい が比較的 ひかくてき 広 ひろ いため、[ 11] 営業 えいぎょう 上 じょう の秘訣 ひけつ (ノウハウ)の出願 しゅつがん 公開 こうかい を避 さ けたいときは、時期 じき の改 かい ざんを疑 うたが われにくい方法 ほうほう で先 さき 使用 しよう の事実 じじつ を証拠 しょうこ 化 か することの費用 ひよう 対 たい 効果 こうか が高 たか い。公証 こうしょう 人 じん は厳格 げんかく な守秘 しゅひ 義務 ぎむ を課 か せられ、裁判所 さいばんしょ からの信頼 しんらい も厚 あつ いため、先 さき 使用 しよう の事実 じじつ を目撃 もくげき させるのに適 てき すると考 かんが えられたのである。もっとも、日本 にっぽん 以外 いがい の法域 ほういき では、このような用途 ようと で公正 こうせい 証書 しょうしょ を用 もち いることはあまりないようである。[ 12]
^ 例 たと えば日本 にっぽん (任意 にんい 後見 こうけん 契約 けいやく に関 かん する法律 ほうりつ 3条 じょう )や韓国 かんこく (民法 みんぽう 959条 じょう の14第 だい 2項 こう )では、任意 にんい 後見 こうけん 契約 けいやく 후견계약 は公正 こうせい 証書 しょうしょ によって契約 けいやく をしなければ無効 むこう になる。任意 にんい 後見 こうけん 契約 けいやく は公正 こうせい 証書 しょうしょ によらなければ証明 しょうめい できないと扱 あつか われていることになる。
^ 事業 じぎょう 用 よう 建物 たてもの を所有 しょゆう する目的 もくてき で設定 せってい される土地 とち 賃借 ちんしゃく 権 けん 又 また は地上 ちじょう 権 けん であって、賃借 ちんしゃく 人 じん に更新 こうしん 権 けん 及 およ び建物 たてもの 買取 かいとり 請求 せいきゅう 権 けん を放棄 ほうき させるものをいう。なお、日本 にっぽん では、土地 とち とその上 うえ の建物 たてもの とは別個 べっこ の不動産 ふどうさん と取 と り扱 あつか われるが、他人 たにん の土地 とち に勝手 かって に建物 たてもの を建 た ててもその建物 たてもの が当然 とうぜん に土地 とち 所有 しょゆう 者 しゃ の物 もの になる(附 ふ 合 あい )わけではないという点 てん を除 のぞ けば、西欧 せいおう 諸国 しょこく の不動産 ふどうさん 法制 ほうせい との間 あいだ に本質 ほんしつ 的 てき な差異 さい はない。