単式たんしき蒸留じょうりゅう器き

スコットランド、グレンフィディック蒸溜じょうりゅう所しょの単式たんしき蒸留じょうりゅう器き

単式たんしき蒸留じょうりゅう器き（たんしきじょうりゅうき：ポットスチル、英えい: Pot still）は、蒸留じょうりゅうするたびにアルコール発酵はっこうした酒さけのもろみなどの蒸留じょうりゅうを行おこなう溶液ようえきを入いれ、エタノールの蒸留じょうりゅうが終了しゅうりょうしたあとに、溶液ようえきを排出はいしゅつする方式ほうしきの蒸留じょうりゅう器きである。日本にっぽんの酒税しゅぜい法ほうでは連続れんぞく式しき蒸留じょうりゅう機き以外いがいの蒸留じょうりゅう機きは単式たんしき蒸留じょうりゅう機きと表記ひょうきされている。

特徴とくちょう

単式たんしき蒸留じょうりゅう器きの大おおまかな構造こうぞうは、発酵はっこうしたもろみを加熱かねつする蒸留じょうりゅう缶かん、発生はっせいした蒸気じょうきを冷却れいきゃく槽そうに送おくる導管どうかん、蒸気じょうきを冷却れいきゃく・凝縮ぎょうしゅくさせアルコールを取とり出だす冷却れいきゃく蛇管じゃかんからなる。

単式たんしき蒸留じょうりゅう器きの最大さいだいの特徴とくちょうは、原料げんりょうである発酵はっこうもろみを連続れんぞく的てきに蒸留じょうりゅうする事ことができない事ことであり、連続れんぞく式しき蒸留じょうりゅう器きとの最大さいだいの違ちがいである。 連続れんぞく式しき蒸留じょうりゅう機きとは、連続れんぞくして供給きょうきゅうされるアルコール含有がんゆう物ぶつを蒸留じょうりゅうしつつ、フーゼル油ゆ、アルデヒドその他た不純物ふじゅんぶつを取とり除のぞくことができる蒸留じょうりゅう器きである。そのため、単式たんしき蒸留じょうりゅう器きとは蒸留じょうりゅう器きの単純たんじゅんさや複雑ふくざつさに関係かんけいなく、非常ひじょうに広範こうはんな蒸留じょうりゅう器きを指さす。

単式たんしき蒸留じょうりゅう器き

蒸留酒じょうりゅうしゅ製造せいぞう分野ぶんやでは通常つうじょう、単式たんしき蒸留じょうりゅう器きはポットスチルのことを指さす。ポットスチルは、一般いっぱん的てきには棚たな段だん塔とう、充填じゅうてん塔とうや還流かんりゅう冷却れいきゃく器きなどのエタノールの分離ぶんり能力のうりょくを向上こうじょうさせる仕組しくみを有ゆうさず、自然しぜん還流かんりゅうのみを行おこなう蒸留じょうりゅう器きを指さす。伝統でんとう的てきなポットスチルは、ポット（pot: 原料げんりょうを加熱かねつする）、スワンネック（swan neck: 蒸気じょうきが登のぼっていき還流かんりゅうを行おこなう）、ラインアーム（lyne arm: 蒸気じょうきを凝縮ぎょうしゅく器きに送おくる）、凝縮ぎょうしゅく器き（condenser: 蒸気じょうきを冷ひやし、留とめ分ぶんを得える）の4つのパーツで構成こうせいされている。それ故ゆえに、単式たんしき蒸留じょうりゅう器きでのエタノールの精製せいせい度どは連続れんぞく式しき蒸留じょうりゅう器きと比くらべると低ひくいが、その反面はんめん発酵はっこうにおいて生しょうじた風味ふうみが残のこるという特徴とくちょうもあり、本格ほんかく焼酎しょうちゅう（旧名きゅうめい・焼酎しょうちゅう乙おつ類るい）をはじめ、ブランデー・ウイスキー（モルトウィスキー）・ラム酒しゅ等ひとしの製造せいぞうに用もちいられる。特とくに、国内こくないの本格ほんかく焼酎しょうちゅうの製造せいぞうにおいては酒税しゅぜい法ほうの規定きていにより単式たんしき蒸留じょうりゅう器きを用もちいて製造せいぞうしなければならない。

回かい分ぶん式しき蒸留じょうりゅう器き

法律ほうりつの意味いみする蒸留じょうりゅう器きを文字通もじどおり解釈かいしゃくした場合ばあい、単式たんしき蒸留じょうりゅう器きに相当そうとうする蒸留じょうりゅう器き（連続れんぞく式しき蒸留じょうりゅう器きではない蒸留じょうりゅう器き）は回かい分ぶん式しき蒸留じょうりゅう器き（バッチ式しき蒸留じょうりゅう器き）英えい：Batch distillationである。2種類しゅるい以上いじょうの液体えきたいの混合こんごう物ぶつである原料げんりょうを蒸留じょうりゅうし、その各かく成分せいぶんを分離ぶんりした後のちは蒸留じょうりゅうを中断ちゅうだんし、その後ご、原料げんりょうを入いれ替かえた後のち、同おなじプロセスを繰くり返かえすという運用うんようを行おこなう蒸留じょうりゅう器きの事ことである。連続れんぞく式しき蒸留じょうりゅう器きでは蒸留じょうりゅうを中断ちゅうだんせずに原料げんりょうを投入とうにゅうできるため対照たいしょう的てきである。季き節ぶし性せい、低てい容量ようりょう、高こう純度じゅんどの化学かがく物質ぶっしつの生産せいさんにおいて重要じゅうようであり、製薬せいやく業界ぎょうかいでは頻繁ひんぱんに使用しようされる蒸留じょうりゅう方法ほうほうである。また、得えられるエタノール濃度のうどはその蒸留じょうりゅう器きが持もつ理論りろん段数だんすうに依存いぞんし、得えられる成分せいぶんの純度じゅんどが低ひくい事ことを意味いみしない。

用法ようほうの混乱こんらん

この言葉ことばの使用しようは、若干じゃっかんの混乱こんらんが見みられる。使用しようや解釈かいしゃくに際さいしては注意ちゅういが必要ひつようだろう。

法律ほうりつ用語ようごとしての単式たんしき蒸留じょうりゅう器きは、単たんなる原料げんりょうの供給きょうきゅう方法ほうほうに関かんしてであり、蒸留じょうりゅう器きの性能せいのうには全まったく関係かんけいない。 フラッシュ蒸留じょうりゅう器き 英えい：Flash evaporationなどは連続れんぞく式しき蒸留じょうりゅう器きであるが単たん蒸留じょうりゅう (simple distillation)であるため成分せいぶんを分離ぶんりする能力のうりょくが低ひくい。

科学かがく・工学こうがく分野ぶんやでは単式たんしき蒸留じょうりゅう器きはポットスチルだが、法律ほうりつ用語ようごが指さし示しめすものを文字通もじどおり解釈かいしゃくすると回かい分ぶん式しき蒸留じょうりゅう器きを指さしており、混乱こんらんを避さけるためか"単式たんしき蒸留じょうりゅう器き（ポットスチル）"などと但ただし書がき付つきで言及げんきゅうされることが多おおい。科学かがく・工学こうがく、法律ほうりつの各かく分野ぶんやによって、意味いみするものが違ちがう事ことに注意ちゅういが必要ひつようである。

歴史れきし的てきには、単式たんしき蒸留じょうりゅう器きは複式ふくしき蒸留じょうりゅう器きと区別くべつするために生しょうじた用語ようごであろう。したがって、蒸留じょうりゅう缶かん（ポット）を一ひとつだけ有ゆうする蒸留じょうりゅう器きの事ことを単式たんしき蒸留じょうりゅう器き、または単たん缶かん式しき蒸留じょうりゅう器きと呼称こしょうし、蒸留じょうりゅう缶かんを複数ふくすう有ゆうする蒸留じょうりゅう器きの事ことを復ふく式しき蒸留じょうりゅう器きと呼称こしょうしていたと思おもわれるが、現在げんざいの法ほう制度せいど上じょう、複式ふくしき蒸留じょうりゅう器きは単式たんしき蒸留じょうりゅう器きと分類ぶんるいされる。

更さらにややこしいのは、化学かがく工学こうがくにおいて単たん蒸留じょうりゅう(simple distillation)や連続れんぞく蒸留じょうりゅう(successive distillations)といった全まったく別べつの概念がいねんが存在そんざいし、かつ、単式たんしき蒸留じょうりゅう器きや連続れんぞく式しき蒸留じょうりゅう器きのことを単たん蒸留じょうりゅう、連続れんぞく蒸留じょうりゅうと言及げんきゅうする例れいが存在そんざいする事ことである。ポットスチルにおいても、スワンネックは還流かんりゅうを企図きとしており、スワンネックの表面積ひょうめんせき、形状けいじょうを変化へんかすることにより還流かんりゅう比ひを変かえる事ことができる。そのため、ポットスチルは単たん蒸留じょうりゅう(simple distillation)にはあたらない。

また英語えいごでのポットスチル自体じたいも、何なんらかの厳密げんみつな蒸留じょうりゅう器きのデザインを指さしているということはないと思おもわれ、法令ほうれい上じょうは蒸留じょうりゅうした結果けっか得えられる蒸留酒じょうりゅうしゅのアルコール濃度のうどが規定きていされているのみである。例たとえば、カリフォルニアブランデーでは蒸留じょうりゅうし得えられた蒸留酒じょうりゅうしゅ（加水かすいする前まえの蒸留酒じょうりゅうしゅ）のアルコール濃度のうどが85%以下いかでなければならない、コニャックでは、アルコール濃度のうどが72%以下いかでなければならない。ともかく、何なんらかの機能きのうやデザイン上じょうの分類ぶんるいというよりは規定きていされた手続てつづきで法的ほうてきに認みとめられたアルコール濃度のうどを実現じつげんするための蒸留じょうりゅう器きということができるかもしれない。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『焼酎しょうちゅうの事典じてん』菅間すがま誠之助せいのすけ編著へんちょ、三省堂さんせいどう、1985年ねん。ISBN 4-385-15574-7。 

関連かんれん項目こうもく

• 蒸留じょうりゅう塔とう