アルコール発酵はっこう

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

アルコール発酵はっこう (アルコールはっこう、えい: alcohol fermentation, ethanol fermentation) は、グルコースフルクトースショとうなどのとう分解ぶんかいして、エタノール二酸化炭素にさんかたんそ生成せいせいし、エネルギーを代謝たいしゃプロセスであり、酸素さんそ必要ひつようとしない嫌気いやけてきはんおうである。酵母こうぼ酸素さんそがないところで、とうもちいてアルコール発酵はっこうする代表だいひょうてき生物せいぶつである。その応用おうよう範囲はんいは、燃料ねんりょうとしてのエタノールバイオエタノール)の大量たいりょう生産せいさんアルコール飲料いんりょう、パンなど食品しょくひん生産せいさんなど多岐たきわたる。

酵母こうぼによらない発酵はっこうは、「カーボニック・マセレーション」とばれる反応はんのうであり、こう濃度のうど二酸化炭素にさんかたんそまたは窒素ちっそガスちゅうてい酸素さんそ雰囲気ふんいき)にかれたブドウの果実かじつちゅうこる嫌気いやけてき反応はんのうで、酵素こうそ作用さようによりとうがアルコールに変化へんかする。この手法しゅほうボジョレー・ヌーヴォー醸造じょうぞうさいもちいられている。

化学かがくてき変化へんか[編集へんしゅう]

アルコール発酵はっこう全体ぜんたいとおしてみると、反応はんのう以下いか化学かがくしきしめすように、1分子ぶんしのグルコースからエタノールと二酸化炭素にさんかたんそが2分子ぶんしずつできる。この反応はんのうおおきくみっつの段階だんかいけることが出来できる。

だいいち段階だんかいで、1分子ぶんしのグルコースがかいとうけい複数ふくすう酵素こうそによって2分子ぶんしピルビンさん分解ぶんかいされる。この反応はんのうは、同時どうじに、正味しょうみ2分子ぶんしADPATPに、2分子ぶんしNAD+NADH変換へんかんする。この段階だんかいは、動物どうぶつ植物しょくぶつかいとう経路けいろおなじで、酸素さんそ呼吸こきゅう経路けいろとも共通きょうつうしている。

だい段階だんかいからがアルコール発酵はっこう特有とくゆう反応はんのうになる。1分子ぶんしのピルビンさんから1分子ぶんし二酸化炭素にさんかたんそのぞかれ、アセトアルデヒドがつくられる。この反応はんのうは、ピルビンさんデカルボキシラーゼEC 4.1.1.1)が触媒しょくばいする。

その、アセトアルデヒドは還元かんげんがたNADHの電子でんしによってすみやかに還元かんげんされエタノールとなる。この反応はんのうは、アルコール脱水だっすいもと酵素こうそEC 1.1.1.1)が触媒しょくばいする。

おおくの酵母こうぼでは、アルコール発酵はっこう嫌気いやけ条件じょうけんでのみ進行しんこうし、酸素さんそがあるとピルビンさん完全かんぜん分解ぶんかいしてみず二酸化炭素にさんかたんそえる(酸素さんそ呼吸こきゅう)。しかし、よく使つかわれる出芽しゅつが酵母こうぼ(Saccharomyces cerevisiae)や分裂ぶんれつ酵母こうぼ(S. pombe)は酸素さんそがあっても発酵はっこうこのむため、適当てきとう培養ばいよう条件じょうけんえらぶとこう条件じょうけんでもエタノールを生産せいさんする。

出芽しゅつが酵母こうぼによる発酵はっこう結果けっか糖度とうどけいによる計測けいそく糖度とうどやく半分はんぶんのアルコールが生成せいせいされる。つまり、糖度とうど20ならば、アルコール度数どすうやく10になるとうことである。

利用りよう方法ほうほう[編集へんしゅう]

アルコール飲料いんりょう
ほとんどすべてのアルコール飲料いんりょう生産せいさんには、酵母こうぼによるアルコール発酵はっこうもちいるが、この酵母こうぼはデンプンをとう分解ぶんかいできない。ワインブランデーは、ブドウにふくまれるとう発酵はっこうによってつくられる。一方いっぽうビールウィスキー日本酒にほんしゅなどは穀物こくもつからつくられるが、そのためにはまずデンプンの糖化とうか必要ひつようである。ビールでは、麦芽ばくがふくまれる酵素こうそアミラーゼ)によって糖化とうかする。日本酒にほんしゅでは、こめ精米せいまいするためアミラーゼをふく胚芽はいが除去じょきょされるので、コウジカビ作用さよう糖化とうかする。こののち酵母こうぼによってアルコール発酵はっこうおこなう。
パン
パンはパン酵母こうぼスト菌すときん)のアルコール発酵はっこうによって、パン生地ぱんきじふくらませる。スト菌すときんは、パン生地ぱんきじふくまれる砂糖さとう分解ぶんかいし、エタノールと二酸化炭素にさんかたんそつくる。分解ぶんかい発生はっせいする二酸化炭素にさんかたんそによってパン生地ぱんきじふくらませる。また、ほとんどのエタノールは加熱かねつなどによって生地きじから蒸発じょうはつする。
バイオエタノール
バイオエタノールは、トウモロコシやサトウキビをアルコール発酵はっこうさせエタノールをつくる。バイオマスエタノールは、再生さいせい可能かのう自然しぜんエネルギーであること、および、その燃焼ねんしょうによって大気たいきちゅう二酸化炭素にさんかたんそりょうやさないてんから、エネルギーげんとしての将来しょうらいせい期待きたいされている。他方たほう生産せいさん過程かてい全体ぜんたいとおしてみた場合ばあい二酸化炭素にさんかたんそ削減さくげん効果こうか、エネルギー生産せいさん手段しゅだんとしての効率こうりつせい食料しょくりょうとの競合きょうごう、といった問題もんだいてん指摘してきされている。
バイオマスエタノール項目こうもくくわしい。
デング熱でんぐねつ感染かんせん予防よぼう
アルコールを利用りようしたものではなく二酸化炭素にさんかたんそ生成せいせい応用おうようしたれいで、呼気こきなどの二酸化炭素にさんかたんそあつまる習性しゅうせい利用りようし、ペットボトルを加工かこうした容器ようきにブラウンシュガー、おスト菌すときんれることにより人間にんげん以外いがい場所ばしょ簡易かんい二酸化炭素にさんかたんそ生成せいせいし、をおびきせる「り」として使用しようし、感染かんせんびょう媒介ばいかいとなるあつめる。この「りペットボトル」の効果こうか絶大ぜつだいで、フィリピンではりペットボトルを利用りようしたとしからデング熱でんぐねつ感染かんせん前年ぜんねんより55%も減少げんしょうしたという[1]

自然しぜんかいにおけるアルコール発酵はっこう[編集へんしゅう]

さるほらいわなどにれた果実かじつ発酵はっこうしてさけになったとされるものをさるしゅという[2]

果実かじつ発酵はっこうするケース
カボチャ、リンゴ、発酵はっこうしやすいマルーラなどが確認かくにんされている[3]。それにたいして、果実かじつ摂取せっしゅする哺乳類ほにゅうるいおおくは、アルコール分解ぶんかい関連かんれんする遺伝子いでんしADH7英語えいごばん[4]
樹液じゅえき発酵はっこうするケース
ヒマラヤスギの発酵はっこうした樹液じゅえきには、タヌキやハクビシンや昆虫こんちゅうあつまって摂取せっしゅしていた[5]。ギニアのチンパンジーは、ヤシの樹液じゅえきがアルコール発酵はっこうしたものをこのんで摂取せっしゅする[6][7]
タンザニアでは、竹藪たけやぶあつまるとり異常いじょう行動こうどうをすることからつかったとされるたけ樹液じゅえきがアルコール発酵はっこうしたウランジ(ulanji)というたけしゅがある[8][9]
体内たいない発酵はっこうするケース(酩酊めいていしょうちょう発酵はっこう症候群しょうこうぐん自家じか醸造じょうぞう症候群しょうこうぐん
消化しょうか管内かんない糖分とうぶん発酵はっこうしてしまいアルコールをんでもいないのにたしなんだような症状しょうじょうとなる[10]
酸素さんそ状態じょうたいのフナるい
フナるいこおりいけ表面ひょうめんじられ酸素さんそ状態じょうたいになった水中すいちゅうで、体内たいない乳酸にゅうさんをエタノールにすることでのこ機能きのう獲得かくとくした[11]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ すうまんにんいのちすくった「とりボトル」とは? ペットボトルで簡単かんたん撃退げきたいする方法ほうほう”. grape. 2017ねん4がつ12にち閲覧えつらん
  2. ^ さるしゅ. コトバンクより。
  3. ^ みのりのあき暴走ぼうそう注意ちゅうい。リスが、ハトが、動物どうぶつたちが発酵はっこうした果実かじつぱらっちまっただー”. カラパイア. 2022ねん9がつ22にち閲覧えつらん
  4. ^ Analysis of 85 animals reveals which are best at holding their alcohol” (英語えいご). New Scientist. 2022ねん9がつ22にち閲覧えつらん
  5. ^ 発酵はっこうした樹液じゅえきくヒマラヤスギ | わたしかかわったものたち-東邦大学とうほうだいがく薬草やくそうえん技術ぎじゅついん40ねん日記にっきより”. www.mnc.toho-u.ac.jp. 2023ねん11月27にち閲覧えつらん
  6. ^ Hockings, Kimberley J.; Bryson-Morrison, Nicola; Carvalho, Susana; Fujisawa, Michiko; Humle, Tatyana; McGrew, William C.; Nakamura, Miho; Ohashi, Gaku et al. (2015-06). “Tools to tipple: ethanol ingestion by wild chimpanzees using leaf-sponges” (英語えいご). Royal Society Open Science 2 (6): 150150. doi:10.1098/rsos.150150. ISSN 2054-5703. PMC PMC4632552. PMID 26543588. https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.150150. 
  7. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2015ねん6がつ12にち). “じょうで「ちょっといちはいさけむチンパンジー 京都大きょうとだいなど発見はっけん”. 産経さんけいニュース. 2023ねん11月27にち閲覧えつらん
  8. ^ swhallgren, Author (2018ねん7がつ22にち). “Ulanzi: The Miracle Drink of Tanzania” (英語えいご). Teaching High School Biology in Tanzania: A Peace Corps Volunteer Experience. 2023ねん11月27にち閲覧えつらん
  9. ^ タンザニアにおけるタケしゅ商品しょうひん開発かいはつ環境かんきょう保全ほぜん”. KAKEN. 2023ねん11月27にち閲覧えつらん
  10. ^ 榊山さかきやま 悠紀ゆき白松しらまつ こうなんじ戸塚とつか 守夫もりお鈴木すずき あきら消化しょうかかん()ないアルコール発酵はっこうによる酩酊めいていしょう」『日本にっぽん臨床りんしょう外科医げかい学会がっかい雑誌ざっしだい32かんだい4ごう、1971ねん、434–438ぺーじdoi:10.3919/ringe1963.32.434ISSN 0386-9776 
  11. ^ Fagernes, Cathrine E. (2017ねん8がつ11にち). “Extreme anoxia tolerance in crucian carp and goldfish through neofunctionalization of duplicated genes creating a new ethanol-producing pyruvate decarboxylase pathway” (英語えいご). Scientific Reports. pp. 7884. doi:10.1038/s41598-017-07385-4. 2022ねん9がつ25にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]