酵母こうぼ

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酵母こうぼ
S.cerevisiae : みぎじょう出芽しゅつがちゅう
分類ぶんるい
ドメイン : かく生物せいぶつ Eukaryota
さかい : きんかい Fungi
もん
  • 嚢菌もん
    • サッカロマイセスぞく Saccharomyces
    • カンジダぞく Candida
    • トルロプシスぞく Torulopsis
    • ジゴサッカロマイセスぞく Zygosaccharomyces
    • シゾサッカロマイセスぞく Schizosaccharomyces
    • ピチアぞく Pichia
    • ヤロウィアぞく Yarrowia
    • ハンセヌラぞく Hansenula
    • クルイウェロマイセスぞく Kluyveromyces
    • デバリオマイセスぞく Debaryomyces
    • ゲオトリクムぞく Geotrichum
    • ウィッケルハミアぞく Wickerhamia
    • フェロマイセスぞく Fellomyces
  • 担子きんもん
    • スポロボロマイセスぞく Sporobolomyces

酵母こうぼ(こうぼ)またはイーストえい: yeast)は、広義こうぎには生活せいかつたまき一定いってい期間きかんにおいて栄養えいようたい単細胞たんさいぼうせいしめ菌類きんるい総称そうしょうである。

狭義きょうぎには、食品しょくひんなどにもちいられて馴染なじみのある出芽しゅつが酵母こうぼ一種いっしゅSaccharomyces cerevisiaeサッカロミセス・セレビシエえいみ: サカロウマイシーズ・セレヴィシエみ: サッカロミュケス・ケレウィシアエ)をし、一般いっぱんにはこちらの意味いみ使つかわれ、酵母こうぼきん俗称ぞくしょうされている。

名称めいしょうについて[編集へんしゅう]

広義こうぎの「酵母こうぼ」は正式せいしき分類ぶんるいぐんではなく、いわば生活せいかつがたしめ名称めいしょうであり、系統的けいとうてきことなるたねふくんでいる。

狭義きょうぎの「酵母こうぼ」は、発酵はっこうもちいられるなど工業こうぎょうてき重要じゅうようであり、遺伝子いでんし工学こうがく主要しゅよう研究けんきゅう対象たいしょうの1つでもある。

日本語にほんごでは、明治めいじ時代じだいビール製法せいほう輸入ゆにゅうされたときに、yeast のわけとして発酵はっこうみなもと意味いみするてられたのが語源ごげん微生物びせいぶつがく発展はってんとともに、その意味いみするところが拡大かくだいしていった。

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

基本きほんてきにはかく単細胞たんさいぼうせい微生物びせいぶつで、運動うんどうせいはなく、細胞さいぼうかべっている。光合成こうごうせいのうはなく、栄養えいよう外部がいぶ有機物ゆうきぶつ分解ぶんかい吸収きゅうしゅうすることによる。形態けいたいてきには特徴とくちょうすくない円形えんけい楕円だえんがたをしている。このような性質せいしつ微生物びせいぶつは、ひとまずは酵母こうぼかんがえられる。これらは出芽しゅつがまたは分裂ぶんれつによってえる。また、それによって増殖ぞうしょくした細胞さいぼうが、たがいに不完全ふかんぜんにくっついてえだじょうていする場合ばあいもある。

おおくの酵母こうぼは、嚢菌もんぞくしている。嚢菌もんはん嚢菌つなには、酵母こうぼ仲間なかま酵母こうぼてき性質せいしつつよカビなどがふくまれる。このるいぞくする酵母こうぼは、細胞さいぼうそのものが融合ゆうごうするかたち接合せつごうおこない、その結果けっか融合ゆうごう細胞さいぼう減数げんすう分裂ぶんれつによって細胞さいぼうない胞子ほうし形成けいせいする。つまり、減数げんすう分裂ぶんれつによってうちせい胞子ほうししょうじるので、細胞さいぼうそのものを嚢となすわけである。

しかし、担子きんもんぞくするものもられている。同種どうしゅきんであっても生活せいかつなか酵母こうぼがた菌糸きんしたいかた双方そうほうかたちをとることすらある。たとえばシロキクラゲは担子胞子ほうしから発芽はつがすると酵母こうぼとして増殖ぞうしょくし、せいことなる相手あいて接合せつごうすると菌糸きんしたい状態じょうたい増殖ぞうしょくするかく菌糸きんしとなる。有性ゆうせい生殖せいしょくられていない酵母こうぼすくなくない。それらは不完全ふかんぜん酵母こうぼばれる。

自然しぜん環境かんきょうでは、果汁かじゅう樹液じゅえきまるところに多産たさんするほか、淡水たんすい海水かいすいなかにもひろ分布ぶんぷすることがられている。

類似るいじ生物せいぶつ[編集へんしゅう]

単細胞たんさいぼう運動うんどうせいく、周囲しゅうい栄養えいよう吸収きゅうしゅうして増殖ぞうしょくするものは酵母こうぼなされることがある。たとえばプロトテカはそれであり、現在げんざいではこれはクロレラきんえんで、緑藻りょくそうみどりたいうしなったものとかんがえられている。

系統けいとう問題もんだい[編集へんしゅう]

酵母こうぼ単細胞たんさいぼうであるために菌類きんるいなか原始げんしてきなものとの判断はんだんもかつてはあった。しかし、上記じょうきのように酵母こうぼとされる生物せいぶつ複数ふくすうぐん分類ぶんるいされ、酵母こうぼはむしろ生活せいかつのありかたたいする適応てきおうによるかたちひとつとなされる。

他方たほう嚢菌るいでははん嚢菌、および生子おいご嚢菌分類ぶんるいされるものに酵母こうぼがた、および酵母こうぼがたちか糸状いとじょうきんといった特殊とくしゅなものがおおく、嚢菌るいや担子菌類きんるい祖先そせんがやはり酵母こうぼであった可能かのうせい指摘してきされている。

歴史れきし[編集へんしゅう]

微生物びせいぶつがく酵母こうぼが「発見はっけん」されるまえから、人類じんるい空気くうきちゅうなど自然しぜんかい存在そんざいする酵母こうぼさけパンづくりに利用りようしてきた[1]

酵母こうぼ発見はっけんは、アントニ・ファン・レーウェンフックさかのぼるとされる。かれ手作てづくりの顕微鏡けんびきょう微生物びせいぶつ最初さいしょ発見はっけんし、その様々さまざま微生物びせいぶつ観察かんさつしているが、発酵はっこうちゅうビール調しらべてそのなか微粒子びりゅうしじょうのものをたことを記録きろくしている。かれ球形きゅうけいないし楕円だえんがたのもののスケッチをのこしており、これがおそらく酵母こうぼであろうとされている。そのこれがパンなどの発酵はっこうさいにもられることがかり、これと発酵はっこうとの関連かんれんろんじられ、ルイ・パスツールによって発酵はっこう酵母こうぼ生理せいり作用さようであり、酸素さんそ条件下じょうけんかでの呼吸こきゅうであることがしめされた。これについては発酵はっこう該当がいとう項目こうもく参照さんしょうされたい。なお、パスツールは酵母こうぼ純粋じゅんすい培養ばいよう最初さいしょったことでもられる。

生物せいぶつとしての酵母こうぼ研究けんきゅうかんしては、19世紀せいきまでにはほとんど進歩しんぽかった。1825ねんころより酵母こうぼ研究けんきゅうおこなわれるようになった。シャルル・カニャール・ド・ラ・トゥールフリードリヒ・トラウゴット・キュツィングテオドール・シュワンらは発酵はっこうしているえきうすめて観察かんさつしたり、観察かんさつちゅう乾燥かんそうふせぐためにカバーガラスけ、周囲しゅういパラフィンふうじる、あるいはホールグラスを使つかうなどの方法ほうほう使つかい、酵母こうぼ出芽しゅつがによって増殖ぞうしょくする単細胞たんさいぼう生物せいぶつであることをしめした。

1839ねんにはシュワンがうちなま胞子ほうし観察かんさつした。かれはそれが胞子ほうしであり、体外たいがいあらたな酵母こうぼとなることにはづいたが、その分類ぶんるいじょう意味いみにはづかなかった。これをあきらかにしたのがアントン・ド・バリーで、かれは1839ねんに、このうちなま胞子ほうし嚢菌ぞくするカビ胞子ほうし比較ひかくしている。さらにリース(Reess)は1868ねん以降いこうおおくの種類しゅるい酵母こうぼについてうちせい胞子ほうし観察かんさつし、それが原始げんしてき嚢菌の嚢胞のうほうたることをみとめた。パスツールによる純粋じゅんすい培養ばいよう確立かくりつもあって、それ以降いこう酵母こうぼ研究けんきゅう格段かくだんすすみ、とくエミール・クリスティアン・ハンセン研究けんきゅうほう改善かいぜんふくめ、30ねんにわたって各種かくしゅ酵母こうぼについて研究けんきゅうおこない、この分野ぶんや開祖かいそともわれている。また、かれ酵母こうぼ系統けいとう問題もんだい分類ぶんるい生活せいかつたまき重視じゅうしした。

利害りがい[編集へんしゅう]

サッカロマイセスぞく(Saccharomyces)やシゾサッカロマイセスぞく(Schizosaccharomyces)は発酵はっこうによりアルコールしょうじ、食品しょくひん加工かこうふるくから利用りようされており、また生物せいぶつがく研究けんきゅう材料ざいりょうとしてももちいられている。とくに、出芽しゅつが酵母こうぼ分裂ぶんれつ酵母こうぼかく細胞さいぼう基本きほんメカニズムの解明かいめい貢献こうけんしている。一方いっぽうで、デバリオミケスぞく(Debaryomyces)のように、発酵はっこうおこなうものとおこなわないものの両方りょうほうふくぞくもある。

特殊とくしゅれいでは、ミジンコ寄生きせいするメチニコービアは、イリヤ・メチニコフがその観察かんさつつうじてしょく細胞さいぼう発見はっけんしたことでられている。

ヒトの病気びょうき原因げんいんになるものとして、白癬はくせんきん水虫みずむし)、ちつえん皮膚ひふえん原因げんいんとなるカンジダアスペルギルスしょうこすコウジカビぞくきんニキビあぶらせい湿疹しっしんなどの原因げんいんとなるマラセチアぞく英語えいごばん[2]などがある。カリニ肺炎はいえんニューモシスチス肺炎はいえん)の病原びょうげんたいニューモシスチス・ジロヴェチ(Pneumocystis jiroveci) は従来じゅうらい『カリニ原虫げんちゅう』とばれてきたが、現在げんざいでは嚢菌にちかいことがあきらかになっている。

種類しゅるい[編集へんしゅう]

広義こうぎ酵母こうぼふくまれるものとしてはたとえば以下いかたねがあげられる。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 発酵はっこう発見はっけん利用りよう歴史れきし 古代こだいからさけづくりなどに使つかわれた「かみめぐみ」の発酵はっこうサントリー ウィスキーミュージアム(2019ねん11月17にち閲覧えつらん
  2. ^ Malasseziaきんがく (PDF) 日本にっぽんきん学会がっかいきん』48(4),177-190,2007
  3. ^ あずま和男かずお山本やまもとやすしこう久雄ひさおたい塩性えんせい酵母こうぼ微細びさい構造こうぞう」『日本にっぽん釀造じょうぞう協會きょうかい雜誌ざっし』Vol.82 (1987) No.2 P.121-124, doi:10.6013/jbrewsocjapan1915.82.121

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • H.J.Phaff,M.W.Miller&E.M.Mrak (長井ながいすすむやく)『酵母こうぼきん生活せいかつ』1982ねん学会がっかい出版しゅっぱんセンター

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]