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生物せいぶつがく

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

生物せいぶつがく(せいぶつがく、えい: biology: biologia[注釈ちゅうしゃく 1])とは、生命せいめい現象げんしょう研究けんきゅうする、自然しぜん科学かがくいち分野ぶんやである[1]

広義こうぎには医学いがく農学のうがくなど応用おうよう科学かがく総合そうごう科学かがくふく[よう出典しゅってん]狭義きょうぎには基礎きそ科学かがく理学りがく)の部分ぶぶん[よう出典しゅってん]一般いっぱんてきには後者こうしゃ意味いみもちいられることがおおい。

類義語るいぎごとして生命せいめい科学かがく生物せいぶつ科学かがくがある(後述こうじゅつ#「生物せいぶつがく」と「生命せいめい科学かがく参照さんしょう)。

概要がいよう[編集へんしゅう]

生物せいぶつがくとは、生命せいめい現象げんしょう研究けんきゅうする分野ぶんやである。 日本にっぽんの『生化学せいかがく辞典じてん』によると、生物せいぶつがく生物せいぶつやその存在そんざい様式ようしき研究けんきゅう対象たいしょうとしている[2]、となっており、 Aquarena Wetlands Project glossary of termsの定義ていぎでは、生物せいぶつがく研究けんきゅう対象たいしょうには構造こうぞう機能きのう成長せいちょう発生はっせい進化しんか分布ぶんぷ分類ぶんるいふく[3]としている。

あつか対象たいしょうおおきさは、いち分子生物学ぶんしせいぶつがくにおける「細胞さいぼううちいち分子ぶんし挙動きょどう」から、生態せいたいがくにおける「生物せいぶつけんレベルの現象げんしょう」までのレベルにおいても、具体ぐたいてき生物せいぶつしゅかずおおさにおいても、きわめて幅広はばひろい。

歴史れきし[編集へんしゅう]

現代げんだい生物せいぶつがく成立せいりつしたのは比較的ひかくてき最近さいきんだが、関連かんれんふくまれていた科学かがく古代こだいから存在そんざいした。自然しぜん哲学てつがくメソポタミア古代こだいエジプト古代こだいインド、古代こだい中国ちゅうごく研究けんきゅうされていた。しかし、現在げんざいつながる生物せいぶつがく自然しぜん研究けんきゅう萌芽ほうが古代こだいギリシアにられる[4]

一般いっぱんに、しょ研究けんきゅう先駆せんくしているという意味いみで、古代こだいギリシアアリストテレスをもって生物せいぶつがくはじめとする[5][1]。「アリストテレスは実証じっしょうてき観察かんさつ創始そうしした[6]」「ぜん時代じだいつうじてもっと観察かんさつちからするど博物学はくぶつがくしゃ一人ひとり[7]」などとされ、生物せいぶつ分類ぶんるい提示ていじするなどし、後世こうせいいたるまで多大ただいなる影響えいきょうおよぼしたのである。アリストテレスの動物どうぶつがくじょう著作ちょさくとしてのこっているものとしてはHistoria animalium動物どうぶつ』、De generatione animalium動物どうぶつ発生はっせいろん』、De partibus animalium動物どうぶつ部分ぶぶんろん』、De animaしんについて』(『霊魂れいこんろん』とも)がある。[8]動物どうぶつ』では、500をえるたね動物どうぶつやく120しゅ魚類ぎょるいやく60しゅ昆虫こんちゅうふくむ)をあつかっており、随所ずいしょすぐれた観察かんさつ発揮はっきしている[9]植物しょくぶつかんする研究けんきゅうおこな著作ちょさくもあったとされるが、現在げんざいではのこっていないとされる。アリストテレスの生物せいぶつかんする研究けんきゅうなかでも動物どうぶつかんする研究けんきゅうひいでており、とく動物どうぶつがく始原しげんとされる。分類ぶんるい生殖せいしょく発生はっせい、その分野ぶんやにおいて先駆せんくてき研究けんきゅうおこない、その生命せいめいろん発生はっせいろんは17世紀せいきや18世紀せいき学者がくしゃにまで影響えいきょうあたえた。

ただし、アリストテレスの生物せいぶつがくは、今日きょう視点してんかられば生気せいきろん目的もくてきろんてきであり、その意味いみでは哲学てつがくてき思弁しべんてきといえる[10]

古代こだいギリシアの哲学てつがくしゃたちゆう生物せいぶつ無生物むせいぶつ区別くべつする原理げんりとして「プシュケー」という用語ようごもちいて説明せつめいしていたが、アリストテレスはこのプシュケーを、デュミナス可能かのうたい)において生命せいめい自然しぜんてき物体ぶったい形相ぎょうそう(エイドス)と定義ていぎし、プシュケーは「生命せいめい本質ほんしつをなしており、自己じこ目的もくてき機能きのうであり起動きどういんだ」と記述きじゅつした[11]

中世ちゅうせいには、イスラム世界せかいジャーヒズ(781ねん-869ねん)やAbū Ḥanīfa Dīnawarī(828ねん-896ねん)らが植物しょくぶつがく著作ちょさくのこした[12]

現代げんだい生物せいぶつがくは、アントニ・ファン・レーウェンフック発明はつめいした顕微鏡けんびきょう普及ふきゅうとともに発展はってんした。科学かがくしゃらによる精子せいし細菌さいきんしずくむしるい、そして生命せいめいおどろくべき奇妙きみょうさと多様たようせい次々つぎつぎあきらかにされた。ヤン・スワンメルダムの調査ちょうさ昆虫こんちゅうがくたいする関心かんしんあらたにし、顕微鏡けんびきょうもちいた解剖かいぼう標本ひょうほんよう染色せんしょく技術ぎじゅつ向上こうじょうさせた[13]

17世紀せいきロバート・フック顕微鏡けんびきょうもちいた観察かんさつ細胞さいぼう発見はっけんし、18世紀せいきカール・フォン・リンネによる生物せいぶつ分類ぶんるい発表はっぴょうて、チャールズ・ダーウィン進化しんかろんグレゴール・ヨハン・メンデルメンデルの法則ほうそくなどがみとめられるにおよび、それまでの博物学はくぶつがくいち領域りょういきぎなかった生物せいぶつについての知識ちしきが、ひとつの学問がくもん分野ぶんやりたせるに充分じゅうぶんにまで蓄積ちくせきされたこと成立せいりつした[2]。19世紀せいき前半ぜんはんには、細胞さいぼう中心ちゅうしん組織そしき重要じゅうよう役割やくわりつという認識にんしきひろがった。1838ねんと1839ねんマティアス・ヤーコプ・シュライデンテオドール・シュワンは、 (1)有機ゆうきたい基本きほん単位たんい細胞さいぼうであり、 (2)個別こべつ細胞さいぼうがそれぞれきて、おおくの否定ひていてき意見いけんがあったが、(3)すべての細胞さいぼう分裂ぶんれつによってしょうじるというかんがえを促進そくしんする役割やくわりたした。1860年代ねんだいには、ロベルト・レーマクルドルフ・ルートヴィヒ・カール・フィルヒョウ仕事しごとによって細胞さいぼうせつとしてられる上記じょうき3せつおおくの支持しじけるようになった[14]

20世紀せいきになると、生物せいぶつがくてき知識ちしき膨大ぼうだいかつ複雑ふくざつになったため、これらを統一とういつてき理解りかいしようとするこころみが重視じゅうしされるようになった。さらに、生物せいぶつ高度こうど組織そしきされた分子ぶんし集合しゅうごうたいとらえ、環境かんきょうなかからどのように自己じこ秩序ちつじょ維持いじたすかという視点してんから、分子ぶんし工学こうがくてき理解りかいつよめる傾向けいこうにある。そのため、従来じゅうらい記述きじゅつ主体しゅたいとした学問がくもんから、原理げんりてきそして実体じったいろんてき学問がくもんへと変貌へんぼうしつつある[2]。1990ねんには一般いっぱんてきなヒトゲノムを図像ずぞうする計画けいかくヒトゲノム計画けいかく)が実行じっこううつされ、2003ねん完成かんせいした[15]

名称めいしょう[編集へんしゅう]

英語えいごの biology はギリシアβίος(bios、生命せいめい)に接尾せつび -λογία(-logia、〜の学問がくもん)である[16]。これは、K.F.ブルダッハ(1800ねん)、ゴットフリート・ラインホルト・トレフィラヌス(1802ねん)、ジャン=バティスト・ラマルク(1802ねん)らによって、それぞれ独立どくりつもちいられはじめ[5][17][18]ひろまることになった(→#「生物せいぶつがく」と「生命せいめい科学かがく)。

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

人体じんたい:現代げんだい生物せいぶつがくにおいて、ヒトは「万物ばんぶつちょう」とはされないが、ヒト研究けんきゅう重要じゅうよう位置いちめる

現代げんだい生物せいぶつ学者がくしゃは、基本きほんてき唯物ゆいぶつろんあるいは機械きかいろん立場たちばり、生物せいぶつ有機ゆうき化合かごうぶつなどの物質ぶっしつから構成こうせいされた複雑ふくざつ機械きかいであるとなす。ひとひとつの要素ようそ解明かいめいしていく還元かんげん主義しゅぎ有効ゆうこうである場面ばめん依然いぜん存在そんざいするが、還元かんげん主義しゅぎだけで複雑ふくざつ生命せいめい現象げんしょう理解りかいするこころみには限界げんかいがあることが理解りかいされはじめたため、生物せいぶつ複雑ふくざつけいとしてあつかかんがえかたも発展はってんしてきている。

生物せいぶつがくでは、一般いっぱんてきにヒトを特別とくべつたねとしてはあつかわない。しかし、我々われわれ自身じしんがヒトであり、その研究けんきゅう医療いりょう産業さんぎょうなどと関連かんれんしているため、生物せいぶつがくなかでヒト研究けんきゅう重要じゅうようであり関心かんしんたかい。生物せいぶつがく研究けんきゅう成果せいか医療いりょう農業のうぎょうにおける基礎きそ提供ていきょうし、応用おうようめん人類じんるいおおきな利益りえきをもたらしている。生物せいぶつがく関連かんれんする産業さんぎょうバイオ産業さんぎょうばれ、IT産業さんぎょうなら発展はってんせいのあるおおきな市場いちば形成けいせいし、経済けいざいまとにも重要じゅうよう位置いちにあるとされる。生物せいぶつがく知見ちけん技術ぎじゅつ生命せいめい根幹こんかんおおきくかかわるようになり、倫理りんりてき社会しゃかいてき影響えいきょう注目ちゅうもくされている。

生物せいぶつがく研究けんきゅう[編集へんしゅう]

ドイツの植物しょくぶつ学者がくしゃオットー・ヴィルヘルム・トーメによるシダ植物しょくぶつ記載きさい(1885ねん

生物せいぶつがくでは、自然しぜん科学かがく分野ぶんや同様どうように、記載きさい実験じっけん理論りろんといった科学かがくてき方法ほうほうによって研究けんきゅうおこなわれる(ここでの「理論りろん」は方法ほうほうろんとしての理論りろんす)。これらは独立どくりつしたものではなく、それぞれが関連かんれんって一連いちれん研究けんきゅう形作かたちづくる。

記載きさいとは、詳細しょうさい観察かんさつもとづいて基礎きそとなる事象じしょうあきらかにすることであり、研究けんきゅうにおいてもっとはじめにおこなわれる。生物せいぶつしゅ同定どうていするための形態けいたいがくてき観察かんさつをはじめとして、実験じっけん操作そうさくわえない状態じょうたいでの発生はっせい現象げんしょう細胞さいぼう構造こうぞう観察かんさつ生理せいり条件下じょうけんかでの生理せいり活性かっせい物質ぶっしつ測定そくてい、ひいてはゲノムの解読かいどく記載きさいえる。

また、個々ここ事例じれい記載きさい基礎きそとし、それらを比較ひかくすることからより一般いっぱんてき知見ちけんることは、とく生物せいぶつがくでは重視じゅうしされてきた。これはひとつにはその構造こうぞう現象げんしょう複雑ふくざつで,研究けんきゅう初期しょきにおいて実験じっけんけいつくりにくかったこと、他方たほう生物せいぶつ多様たようであり、その背後はいご進化しんかがあることからそれを比較ひかくによってあぶりすことにおおきな意味いみがあったからである。たとえば比較ひかく解剖かいぼうがく比較ひかく発生はっせいがくはそれぞれの分野ぶんや発展はってんなかではおおきな意味いみち、それらは直接ちょくせつ進化しんかろん発展はってんむすびついた。

実験じっけん人為じんいてき操作そうさくわえることにより通常つうじょうことなる条件じょうけんつくし、その変化へんか観察かんさつ観測かんそくすることで、生物せいぶつそなわっている機構きこう解明かいめいしようとする実証じっしょう主義しゅぎてきこころみである。突然変異とつぜんへんい誘発ゆうはつや、遺伝子いでんし導入どうにゅう移植いしょく実験じっけんなどさまざまな手法しゅほう使つかう。現代げんだい生物せいぶつがく実験じっけん生物せいぶつがく性質せいしつつよくなっている。実験じっけん操作そうさ科学かがくてき方法ほうほうもとづき、対照たいしょう実験じっけん再現さいげんせい確認かくにんなどにより、実験じっけんしゃ主観しゅかんのぞかれる必要ひつようがある。

さん葉虫はむし化石かせき: 化石かせき生物せいぶつ進化しんかさぐがかりである

一方いっぽう進化しんか生物せいぶつけんレベルの生態せいたいがく研究けんきゅうのように実験じっけんによる証明しょうめい困難こんなんである場合ばあいは、様々さまざま観測かんそくデータや生物せいぶつ化石かせきなどをもちい、比較ひかく構造こうぞうなど理論りろんによる説明せつめいこころみる。またバイオインフォマティクスのように膨大ぼうだいなデータを統合とうごうして理解りかいしようとする場合ばあいも、理論りろんによるアプローチに重点じゅうてんかれる。実験じっけんおこなまえ仮説かせつ結果けっか予想よそうしたり、実験じっけん結果けっか解釈かいしゃくして抽象ちゅうしょう普遍ふへんさせて法則ほうそく規則きそくせいいだしたりすることも理論りろん一部いちぶである。このような理論りろんめん重点じゅうてんいた分野ぶんや理論りろん生物せいぶつがく数理すうりモデルもちいる分野ぶんや数理すうり生物せいぶつがくとよぶ。これらの分野ぶんや高度こうど抽象ちゅうしょうするため、対象たいしょう生物せいぶつがくてき階層かいそうにはとらわれない性質せいしつがある。

あらたな方法ほうほうろんとして、蓄積ちくせきしたデータにもとづいてコンピュータうえ仮想かそうシステムを構築こうちくすることで構造こうぞう理解りかいしたり、そのパラメータを変化へんかさせるシミュレーションにより実験じっけんわりとするシステム生物せいぶつがく登場とうじょうしている。

還元かんげん主義しゅぎ複雑ふくざつけい[編集へんしゅう]

共生きょうせい関係かんけいにあるクマノミイソギンチャク: 生物せいぶつ環境かんきょうつく生態せいたいけい複雑ふくざつである

20世紀せいきなかばの分子生物学ぶんしせいぶつがく台頭たいとう以降いこう、その周辺しゅうへん分野ぶんやでは、ひとつの遺伝子いでんしタンパク質たんぱくしつ機能きのう注目ちゅうもくする還元かんげん主義しゅぎてきなアプローチが主体しゅたいだった。この手法しゅほう強力きょうりょくで、さまざまな生命せいめい現象げんしょうかしてきた。しかし、分子ぶんしレベルであきらかにしたことをわせるだけでは、のう活動かつどう行動こうどうなど複雑ふくざつ現象げんしょう理解りかいしがたく、還元かんげん主義しゅぎのみでは限界げんかいがあることもわかってきた。このことへの反省はんせいもあり、物理ぶつりがくてき還元かんげん主義しゅぎへの傾倒けいとうからし、21世紀せいきはいってからは生物せいぶつ複雑ふくざつけいとしてそのままあつかうオーミクスシステム生物せいぶつがくひとしのアプローチもさかんになっている。一方いっぽう生物せいぶつ多様たようせいをあつかう伝統でんとうてき生物せいぶつがく生態せいたいがくでは、生物せいぶつつくりだすけい複雑ふくざつであることは自明じめいだったため、複雑ふくざつけいのような全体ぜんたいろん目新めあたらしいものではない。生物せいぶつがく両輪りょうりんである、生物せいぶつ多様たようせい普遍ふへんせいかんする知見ちけんは、ゲノム解析かいせきによってむすびつけられつつある。

おおきなパラダイムシフト[編集へんしゅう]

生物せいぶつがくパラダイムおおきくえたものには細胞さいぼう発見はっけん進化しんか提唱ていしょう遺伝子いでんし示唆しさDNA の構造こうぞう決定けっていセントラルドグマ否定ひていゲノムプロジェクト実現じつげんなどがある。細胞さいぼう発見はっけんやゲノムプロジェクトはおも技術ぎじゅつ進歩しんぽによってもたらされ、進化しんか遺伝子いでんし発見はっけん個人こじんふか洞察どうさつによるところがおおきい。

ボツリヌスきん: 顕微鏡けんびきょうは、微生物びせいぶつ細胞さいぼうる「」となった

17世紀せいき発明はつめいされた顕微鏡けんびきょうによる細胞さいぼう発見はっけんは、微生物びせいぶつ発見はっけんをはじめとして、動物どうぶつ植物しょくぶつがいずれもおな構造こうぞう単位たんいからっていることを認識にんしきさせ、動物どうぶつがく植物しょくぶつがく上位じょうい分野ぶんやとして生物せいぶつがく誕生たんじょうさせることになった。また自然しぜん発生はっせいせつ否定ひていによって、いかなる細胞さいぼう既存きそん細胞さいぼうからしょうじることがしめされ、生命せいめい起源きげんという現在げんざい解明かいめいおおきな問題もんだい提示ていじにつながっている。

進化しんかチャールズ・ダーウィンをはじめとするすうにん博物学はくぶつがくしゃによって19世紀せいき提唱ていしょうされた概念がいねんである。それまでは経験けいけんてきにも宗教しゅうきょうまとにも、生物せいぶつしゅ固定こていしたものとされていたが、現在げんざいでは、おなしゅなかでも形質けいしつ多様たようせいがあり、生物せいぶつ形質けいしつ変化へんかするものとされ、たね区別くべつ困難こんなんなものもあるという指摘してきがされている。単純たんじゅん生物せいぶつから多様たようすることで現在げんざいのような多様たよう生物せいぶつ存在そんざいするとかんがえることが可能かのうになり、生命せいめい起源きげん研究けんきゅう可能かのうなテーマとすることができるようになった。進化しんかろん社会しゃかい思想しそうにもおおきな影響えいきょうあたえ、近代きんだいもっとおおきなパラダイムシフトの1つであった。

複製ふくせいされるDNA: じゅうらせんがほどけて複製ふくせいされることは、遺伝いでんもっと根源こんげんにある物理ぶつりてき現象げんしょうである

遺伝いでん自体じたいふるくから経験けいけんてきられていた現象げんしょうである。しかし、19世紀せいき後半こうはんメンデル交雑こうざつ実験じっけんから遺伝いでん法則ほうそく発見はっけんし、世代せだいのちにも分離ぶんり可能かのう因子いんし、すなわち遺伝子いでんし存在そんざいすることを証明しょうめいした。さらに染色せんしょくたい発見はっけんされ、20世紀せいき前半ぜんはん遺伝いでんがく細胞さいぼうがくによる研究けんきゅうから、染色せんしょくたい遺伝子いでんしの担体であることが確証かくしょうづけられた。この過程かていにおいて古典こてんてき遺伝いでんがく発展はってんし、その分子生物学ぶんしせいぶつがく誕生たんじょうにもつながった。

1953ねんジェームズ・ワトソンフランシス・クリックらが、Xせん回折かいせつ結果けっかから、立体りったい模型もけいもちいた推論すいろんにより遺伝いでん物質ぶっしつ DNAじゅうらせん構造こうぞうあきらかにした。DNA構造こうぞう解明かいめいは、分子生物学ぶんしせいぶつがく構造こうぞう学派がくはにとって最大さいだい成功せいこうである。相補そうほてきな2ほん分子ぶんしくさりぎゃくきにらせんじょう構造こうぞうをとっているというモデルは、染色せんしょくたい分配ぶんぱいによる遺伝いでんのメカニズムを見事みごと説明せつめいしており、その分子生物学ぶんしせいぶつがく爆発ばくはつてき発展はってんさせた。

DNAからRNAへの転写てんしゃ、RNAからタンパク質たんぱくしつへの翻訳ほんやく遺伝いでん暗号あんごうなどの解明かいめいにより、セントラルドグマばれる「DNARNAタンパク質たんぱくしつ」といった一方向いちほうこう情報じょうほう伝達でんたつがまるで教義きょうぎのようにおもわれた時期じきもあったが、これを裏切うらぎるかのようにぎゃく転写てんしゃ酵素こうそリボザイムといった発見はっけんも20世紀せいき後半こうはん相次あいついだ。

ゲノムという概念がいねんは、ある生物せいぶつしゅにおける遺伝いでん情報じょうほう総和そうわとして提唱ていしょうされた。ゲノム genome というかたり遺伝子いでんし gene と、総体そうたいあらわ接尾せつび -ome合成ごうせいである。技術ぎじゅつ発展はってんによりゲノムプロジェクト可能かのうになり、ゲノム研究けんきゅうは、生物せいぶつがくにおける還元かんげんろん全体ぜんたいろん普遍ふへんせい多様たようせいむすびつける役割やくわりをもつようになった。生物せいぶつしゅあいだでのゲノムの比較ひかくにより普遍ふへんせい多様たようせい理解りかいへの糸口いとぐちあたえ、還元かんげんてき研究けんきゅう因子いんし有限ゆうげんせいあたえることで、個々ここ研究けんきゅう全体ぜんたいろんなかかたることを可能かのうにした。ほかにも様々さまざま総体そうたいたいする研究けんきゅうはじまっている。

Vernon L.が1995ねん主張しゅちょうしたところところによると、([いつ?]生物せいぶつがくにおいては)とく重要じゅうよう題材だいざいは、以下いかげる5つの原則げんそくで、それらは「基本きほん公理こうりともえる」とう:[19]

  1. 生命せいめい基本きほん単位たんい細胞さいぼうである
  2. あたらしいたね遺伝いでんてき特徴とくちょう進化しんかによってもたらされる
  3. 遺伝子いでんし形質けいしつ遺伝いでん基礎きそである
  4. 生物せいぶつ体内たいない環境かんきょう調整ちょうせいし、一定いってい状態じょうたい安定あんていして維持いじする
  5. きている生物せいぶつエネルギー消費しょうひ変換へんかんする

生物せいぶつがく今後こんご[編集へんしゅう]

生物せいぶつがく自然しぜん史学しがく一部いちぶだった時代じだいには、記載きさい生物せいぶつがく主体しゅたいだった。現代げんだい生物せいぶつがくは、実験じっけん主体しゅたいになっている。さらに将来しょうらいは、ゲノムやプロテオーム研究けんきゅうなどで蓄積ちくせきされた膨大ぼうだいなデータをコンピュータ処理しょりし、そこから生命せいめい原理げんりせま生物せいぶつ情報じょうほうがく主体しゅたいになるかもしれない。急激きゅうげきなコンピュータの高速こうそく並行へいこうして、実験じっけん観察かんさつ技術ぎじゅつあらたな分析ぶんせき手法しゅほう発見はっけんなど技術ぎじゅつ発展はってんすすむだろう。

純粋じゅんすい生物せいぶつがくのこされたおおきなテーマには生命せいめい起源きげん、ヒトの精神せいしんあるいは心理しんり過程かてい地球ちきゅうがい生命せいめいたいなどがある。すでにきてしまった生命せいめい起源きげん進化しんかは、実験じっけん再現さいげんできない。ただし、生物せいぶつ物理ぶつりがくてき生化学せいかがくてき生命せいめい細胞さいぼう)の誕生たんじょう再現さいげんするこころみはある。

心理しんりがくはヒトやほかの動物どうぶつ行動こうどう心理しんり過程かてい研究けんきゅうしているが、生物せいぶつがく心理しんりがくとは、従来じゅうらいよりおもに神経しんけいメカニズムという観点かんてんから関係かんけいをもってきた。しかし、とくにヒトの高次こうじ心理しんり過程かていは、いまだ現在げんざい生物せいぶつがく知見ちけんえる部分ぶぶんおおきい。今後こんご、そういった高次こうじ心理しんり過程かていも、心理しんりがくにおける行動こうどう認知にんちレベルの研究けんきゅうくわえて、生物せいぶつがくにおける分子ぶんしレベルの、細胞さいぼうレベルの、皮質ひしつのグローバルなレベルでの研究けんきゅうすすめることにより、りょう分野ぶんやのあいだで統合とうごうてき説明せつめいできるようになるかもしれない。

地球ちきゅう以外いがい生命せいめい存在そんざいするかという問題もんだいは、まだ生物せいぶつがくのテーマではないと、現在げんざいおおくの生物せいぶつ学者がくしゃかんがえている。しかし、火星かせいやその惑星わくせい衛星えいせい探索たんさくすすみ、生命せいめいやその痕跡こんせき発見はっけんされれば、重要じゅうようなテーマのひとつとなり、現在げんざい生物せいぶつがくおおきな改変かいへんせまられる可能かのうせいがある[2]

また、医学いがく農学のうがく薬学やくがく化学かがく工学こうがくなどへの重要じゅうようせいし、応用おうよう今後こんごもますます増加ぞうかしていく[2]

生物せいぶつがくしょ分野ぶんや[編集へんしゅう]

生物せいぶつがくしょ分野ぶんやは、各論かくろん方法ほうほうろん理論りろん視点してんから分類ぶんるいできる。各論かくろん研究けんきゅう対象たいしょうによって、方法ほうほうろん手法しゅほうによって、理論りろん普遍ふへんされた学説がくせつによって分野ぶんやめいがつけられる。ただしいずれの分野ぶんやも、程度ていどはあれ3つすべての性質せいしつをあわせもっているため、分類ぶんるい便宜べんぎてきなものになる。たとえば、細胞さいぼう生物せいぶつがく微生物びせいぶつがく生物せいぶつ物理ぶつりがく生化学せいかがく

各論かくろん[編集へんしゅう]

生物せいぶつがくてき階層かいそうせい分野ぶんや範囲はんい: 分野ぶんや代表だいひょうてきなものをしめした。

生物せいぶつがくおおきくふたつにける場合ばあい個体こたい内部ないぶ生命せいめい現象げんしょう解析かいせきする方向ほうこう(=広義こうぎ生理学せいりがく)と、個体こたいあいだたねあいだ個体こたい環境かんきょうなど関係かんけい個体こたいそともとめてゆく方向ほうこう(=広義こうぎ生態せいたいがく)がある[20]

また、生物せいぶつがく各論かくろんには、生物せいぶつ系統けいとう分類ぶんるい生物せいぶつがくてき階層かいそうせいというおおきな2つのじくがあるとされる。前者ぜんしゃによって分類ぶんるいする場合ばあい代表だいひょうてき分野ぶんやは、動物どうぶつがく植物しょくぶつがく微生物びせいぶつがくの3つである[2]。それぞれは系統けいとう分類ぶんるいにしたがってさらに細分さいぶんできる。動物どうぶつがく下位かいには原生動物げんせいどうぶつがく昆虫こんちゅうがく魚類ぎょるいがく脊椎動物せきついどうぶつがくなどがある。同様どうように、植物しょくぶつがくしたには顕花植物けんかしょくぶつがく樹木ききまなぶなど、微生物びせいぶつがくしたにはウイルスがく細菌さいきんがくなどがある[2]。これらの分野ぶんやでは、生物せいぶつ特異とくいせい多様たようせい重視じゅうしするながれがある。

一方いっぽう対象たいしょうおおきさ、つまり生物せいぶつがくてき階層かいそうせい(すなわち現象げんしょう[2])をじくにすると、代表だいひょうてき分野ぶんやは、分子生物学ぶんしせいぶつがく生化学せいかがく細胞さいぼう生物せいぶつがく発生はっせい生物せいぶつがく動物どうぶつ行動こうどうがく生態せいたいがくなどがある()。生態せいたいがく生物せいぶつぐんおおきさによって個体こたいぐん生態せいたいがく群集ぐんしゅう生態せいたいがくなどにけられるほか対象たいしょうとする場所ばしょ重視じゅうしする場合ばあい森林しんりん生態せいたいがく海洋かいよう生態せいたいがく極地きょくち生態せいたいがくなどの名称めいしょうもちいられる。生物せいぶつがくてき階層かいそうせい生物せいぶつ分類ぶんるいたいして横断おうだんてきであり、生物せいぶつ普遍ふへんせい注目ちゅうもくされる。このじくでは個体こたいレベルをさかいとしておおきく2つにけることができる。この視点してんからしょ分野ぶんやると、個体こたいレベル以下いかあつか分野ぶんや分子生物学ぶんしせいぶつがく影響えいきょうつよ還元かんげん主義しゅぎてき傾向けいこうがあり、個体こたいレベル以上いじょうあつか分野ぶんや全体ぜんたいろんてき傾向けいこうがある。動物どうぶつ発生はっせいがく植物しょくぶつ細胞さいぼうがくなどの分野ぶんやは、この2つのじくかんがえるとその領域りょういき把握はあくしやすい。

方法ほうほうろん理論りろん[編集へんしゅう]

方法ほうほうろん各論かくろん分野ぶんや必要ひつようおうじて導入どうにゅうされ、実際じっさい研究けんきゅう発展はってんさせるために必須ひっすなものである。理論りろん抽象ちゅうしょうにより総合そうごうてき普遍ふへんてき視点してん各論かくろん提供ていきょうする。

もっとふるくからある方法ほうほうろんひとつは、生物せいぶつ分類ぶんるいあつか分類ぶんるいがくである。分類ぶんるい生物せいぶつがく基礎きそであり、進化しんか研究けんきゅうがかりにもなる。伝統でんとうてきには形態けいたい注目ちゅうもくして分類ぶんるいされていたが、近年きんねんでは分子生物学ぶんしせいぶつがく手法しゅほうれた分子ぶんし系統けいとう分類ぶんるいがさかんである。生化学せいかがく化学かがくてき手法しゅほう分子生物学ぶんしせいぶつがくDNA 操作そうさ使つか方法ほうほうろんでもある。分子ぶんし遺伝いでんがくぎゃく遺伝いでんがくから発展はってんしたゲノムプロジェクトバイオインフォマティクスは、あらたな方法ほうほうろんとして脚光きゃっこうびている。

生物せいぶつがく理論りろんとしては、遺伝いでんがく進化しんかがく代表だいひょうてきである。遺伝いでんがくは、遺伝子いでんし機能きのう間接かんせつてき観察かんさつするという方法ほうほうろんでもある。遺伝いでん進化しんか理論りろんは、具体ぐたいてきなレベルではいま議論ぎろんがあるが、総論そうろんとしては生物せいぶつがく必要ひつよう不可欠ふかけつ基盤きばんとなっている。

歴史れきし展開てんかいによる分類ぶんるい[編集へんしゅう]

生物せいぶつがく分類ぶんるいとして、記載きさい生物せいぶつがく比較ひかく生物せいぶつがく実験じっけん生物せいぶつがくといった類型るいけいもある。記載きさい比較ひかく実験じっけん上記じょうきのように生物せいぶつがく基本きほんてき手法しゅほうなので、このような区分くぶん成立せいりつしないことがおおいが、むしろ歴史れきしてき展開てんかいなかでのかく部分ぶぶんたいしてこの使つかわれることがある。それも個々ここ分野ぶんやめいにこのかぶせるれいおおい。

記載きさい生物せいぶつがくは、生物せいぶつかたち構造こうぞう把握はあくし、ぶん記載きさいすることをおこなうのをおも目的もくてきとする。比較ひかく生物せいぶつがくはそれによってられるようになったものを生物せいぶつのそれと比較ひかくすることからなにかをえようとする。実験じっけん生物せいぶつがく記載きさい比較ひかくではられない知識ちしきを、生物せいぶつ操作そうさすることでようとする。したがって、生物せいぶつがくはこの順番じゅんばん発展はってんする。ただし記載きさいはあまりにも最低限さいていげん基本きほんてき操作そうさなので、これをかんするれいはない。記載きさいをしなければそれは科学かがく以前いぜんである。

たとえば近世きんせいから近代きんだい生物せいぶつがく発展はってん初期しょき比較ひかく解剖かいぼうがくきわめて重要じゅうよう分野ぶんやとして独立どくりつしていた。これは発生はっせいがくむすびついて比較ひかく発生はっせいがくながれをつくり、両者りょうしゃ融合ゆうごうして比較ひかく形態けいたいがくばれた。しかしこの分野ぶんや内部ないぶ造反ぞうはんてき実験じっけんてき手法しゅほうたよ実験じっけん発生はっせいがくす。

あいまいになるしょ分野ぶんや境界きょうかい[編集へんしゅう]

20世紀せいきはいるまで、かく分野ぶんやはそれぞれ独自どくじ手法しゅほう観点かんてんことなる対象たいしょう研究けんきゅうし、内容ないよう重複じゅうふくはわずかだった。しかし、20世紀せいき後半こうはん分子生物学ぶんしせいぶつがく爆発ばくはつてき発展はってん顕微鏡けんびきょうなどの技術ぎじゅつ発展はってんにより、研究けんきゅう分野ぶんやはさらに細分さいぶんされつつも、それらの境界きょうかいはあいまいになり、分野ぶんや名称めいしょう便宜べんぎてき主観しゅかんてきなものになってきている。たとえば、イモリのあし再生さいせい研究けんきゅうし「再生さいせい生物せいぶつがく」という名称めいしょう使つかったとしても、再生さいせいにかかわる遺伝子いでんし遺伝いでんがく分子生物学ぶんしせいぶつがく、その遺伝子いでんしつく化学かがく物質ぶっしつ性質せいしつ生化学せいかがく再生さいせいする細胞さいぼう挙動きょどう細胞さいぼう生物せいぶつがく組織そしき正確せいかく再生さいせいする仕組しくみは発生はっせい生物せいぶつがく、などさまざまな分野ぶんや関連かんれんする。このような経緯けいいから、「〜がく」という古典こてんてき名称めいしょうを、「〜生物せいぶつがく」や「〜科学かがく」にえることもおおい。

生物せいぶつがく関連かんれんする分野ぶんや[編集へんしゅう]

生物せいぶつがくは、さまざまなかたち学問がくもん分野ぶんや関係かんけいしている[2]概念がいねん理論りろん研究けんきゅう手法しゅほうなどのめん生物せいぶつがく影響えいきょうあたえた自然しぜん科学かがく分野ぶんやとしては、さき発展はってんしていた物理ぶつりがく化学かがくげられる。とく分子生物学ぶんしせいぶつがく以降いこう物理ぶつりがく影響えいきょうつよい。生化学せいかがく生物せいぶつ物理ぶつりがくなどはこれらの境界きょうかい領域りょういき分野ぶんやえる。応用おうよう科学かがくでは医学いがくにおける生化学せいかがく生理学せいりがく解剖かいぼうがくは、動物どうぶつがく発生はっせいがく関連かんれんし、農学のうがくにおける育種いくしゅがく遺伝いでんがく誕生たんじょう寄与きよし、その過程かてい近代きんだいてき推測すいそく統計とうけいがく醸成じょうせいした。また、数学すうがく自然しぜん科学かがく基礎きそとして生物せいぶつがく影響えいきょうあたえているほか、とく数理すうり生物せいぶつがく集団しゅうだん遺伝いでんがくなどでは高度こうど数学すうがくてき概念がいねん分析ぶんせき手法しゅほうもちいられる。

近年きんねんでは、ゲノムプロテオーム解析かいせきからられる膨大ぼうだいなデータを処理しょりする必要ひつようがあるため、バイオインフォマティクス生物せいぶつ情報じょうほうがく)とばれる分野ぶんやでは情報じょうほうがく方法ほうほうろんれられ、ゲノミクスやプロテオミクスでもちいられている。また、生命せいめい現象げんしょうをシステムとして理解りかいすることを目的もくてきとするシステム生物せいぶつがく発展はってんしつつある。

生物せいぶつがく相互そうご影響えいきょうしあっている分野ぶんや数多かずおおい。生態せいたいがく理論りろんめん経済けいざいがくつよ関連かんれんがあり、地球ちきゅう科学かがく観測かんそく技術ぎじゅつ共有きょうゆうしている。これらの影響えいきょうは、一方いっぽう通行つうこうではなく相互そうごてきである。

人文じんぶん科学かがくけい分野ぶんやなかでは、自然しぜん哲学てつがくいち分野ぶんやである生物せいぶつ哲学てつがく方法ほうほうろんとしては科学かがく哲学てつがく倫理りんりめん研究けんきゅうする生命せいめい倫理りんりがくなどが生物せいぶつがく対象たいしょう共有きょうゆうしている。科学かがくいち分野ぶんやである生物せいぶつがくは、生物せいぶつがく歴史れきし研究けんきゅう対象たいしょうである。

生物せいぶつがくからおおくの影響えいきょうけた分野ぶんやに、理論りろん社会しゃかいがく社会しゃかい思想しそうがある。ダーウィンとどう時代じだいき、適者生存てきしゃせいぞんなどのかたり発案はつあんしゃでもあるハーバート・スペンサーや、エミール・デュルケームは、社会しゃかい変化へんかとく分業ぶんぎょう発達はったつ構成こうせい要素ようそ多様たよう生物せいぶつ進化しんかになぞらえて考察こうさつする理論りろんちたてた。かれらの学問がくもん社会しゃかいがくなかでもおおられているが、スペンサーをのぞけば、生物せいぶつがくから影響えいきょうけるりょうおおく、生物せいぶつがくへの影響えいきょうかぎられている。また、生物せいぶつをメタファーとして社会しゃかい説明せつめいする理論りろんにはほかに、マーシャル・マクルーハンによるメディアろん梅棹うめさお忠夫ただおによる情報じょうほう産業さんぎょうろんなど、ひろられたものがおおくある。

システム理論りろんサイバネティックスは、生物せいぶつがくによる生命せいめいたい理解りかいがかりに、秩序ちつじょ変化へんかについての一般いっぱん理論りろん構築こうちくしている。これは社会しゃかいがくにも社会しゃかいシステムろんとして影響えいきょうあたえている。

生物せいぶつがく応用おうよう社会しゃかいてき責任せきにん[編集へんしゅう]

生物せいぶつがく知見ちけん技術ぎじゅつ応用おうようもちいる分野ぶんやは、バイオテクノロジーまたは生物せいぶつ工学こうがくばれる。遺伝子いでんし操作そうさ重点じゅうてんかれる場合ばあい遺伝子いでんし工学こうがく発生はっせい過程かてい重点じゅうてんかれる場合ばあい発生はっせい工学こうがくともいう。生物せいぶつがく成果せいか実業じつぎょう活用かつようする産業さんぎょうバイオ産業さんぎょうばれ、ITとならんでいきおいのある市場いちばであり、ベンチャー企業きぎょう次々つぎつぎ誕生たんじょうしている。アメリカでは大学だいがく研究けんきゅうしゃ起業きぎょうすることもおおい。遺伝子いでんし治療ちりょうみき細胞さいぼうもちいた再生さいせい医学いがくいち塩基えんきがた (SNPs) をもちいたオーダメイド医療いりょうゲノムそうやくなどが注目ちゅうもくされている。農業のうぎょう畜産ちくさん関連かんれんでもバイオテクノロジーがかされており、これらをささえる基礎きそ研究けんきゅう重要じゅうようである。政府せいふ企業きぎょう多大ただい資金しきん提供ていきょうし、その発展はってんうながしている。

応用おうよう分野ぶんやかがやかしい貢献こうけんをすると同時どうじに、現代げんだい生物せいぶつがくはさまざまな倫理りんりてき問題もんだいかかえている。それらはゲノム情報じょうほう遺伝子いでんし操作そうさクローン技術ぎじゅつなど、生命せいめい根幹こんかんかかわる技術ぎじゅつ情報じょうほうによりもたらされた。これらは、臨床りんしょう医療いりょうにおいては恩恵おんけいをもたらす一方いっぽうで、差別さべつ生命せいめい軽視けいしなど深刻しんこく社会しゃかい問題もんだいこしつつある。このような課題かだい生命せいめい倫理りんりがくによってあつかわれる。また、遺伝子いでんし操作そうさによってつくられた遺伝子いでんし作物さくもつ(GM作物さくもつ)の環境かんきょうへの影響えいきょう遺伝子いでんし汚染おせん)という問題もんだい提起ていきがなされており、議論ぎろんおこなわれている。近代きんだいから現代げんだいにかけて、人間にんげん活動かつどうによって環境かんきょう破壊はかいこり、生物せいぶつ多様たようせい急速きゅうそくうしなわれている。生物せいぶつがく観測かんそくおこない、科学かがくてき裏付うらづけのあるデータにもとづいた提唱ていしょうをしたり、生態せいたいけい生物せいぶつ多様たようせいについてただしい情報じょうほう発信はっしんするなどのみも必要ひつようである。

現代げんだい生物せいぶつがくおよびそれにたずさわる人々ひとびとは、純粋じゅんすい科学かがくてき研究けんきゅう成果せいかのみならず、このような倫理りんりてき側面そくめんたいしても熟考じゅっこう議論ぎろんふかめ、社会しゃかいてき責任せきにんたすことがもとめられている。

生物せいぶつがく」と「生命せいめい科学かがく[編集へんしゅう]

Biology というかたりは、「生命せいめい」を意味いみするギリシャβίος (bios) と「言葉ことばろん」を意味いみする λόγος (logos) からつくられた。K. F. ブルダッハ(1800ねん)、G. R. トレヴィラヌス(1802ねん)、ジャン=バティスト・ラマルク(1802ねん)らによって独立どくりつもちいられた。生物せいぶつがく様々さまざま生物せいぶつ分類ぶんるい記載きさいする博物学はくぶつがくから発展はってんしたことからもわかるように、生物せいぶつがくには生物せいぶつ多様たようせい理解りかいしようとする伝統でんとうがある。

一方いっぽう生命せいめい科学かがく (Life science) や生物せいぶつ科学かがく (Bioscience, Biological science) というかたりは、分子生物学ぶんしせいぶつがく誕生たんじょうしてからあたらしくつくられたものである[よう出典しゅってん]すべての生物せいぶつ共通きょうつうする「言葉ことば」であるDNA分子生物学ぶんしせいぶつがく提供ていきょうしたことで、分野ぶんやごとに断片だんぺんしていた生物せいぶつがく統合とうごうされつつある。そこであらたに生命せいめい科学かがくという言葉ことばもちいられるようになった。 ただし、生物せいぶつがく生命せいめい科学かがく広義こうぎ解釈かいしゃくすると範囲はんいひろかさなり、実際じっさい生物せいぶつ研究けんきゅうをどちらかにわけることはむずかしいことがある。また「生物せいぶつがく」の意味いみ時代じだいとともに変化へんかしており、しばしば「生物せいぶつ科学かがく」や「生命せいめい科学かがく」とおな意味いみ使つかわれる。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ biologiaはビオロギアとむ。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b 平凡社へいぼんしゃ世界せかいだい百科ひゃっか事典じてんだい15かん、p.418【生物せいぶつがく
  2. ^ a b c d e f g h i 生化学せいかがく辞典じてんだい2はん、p.725 【生物せいぶつがく
  3. ^ Aquarena Wetlands Project glossary of terms.定義ていぎもとづく。
  4. ^ Magner, A History of the Life Sciences
  5. ^ a b 岩波いわなみ生物せいぶつがく事典じてんだいよんはん、p.760
  6. ^ 岩波いわなみ生物せいぶつがく事典じてん』p.33【アリストテレス】
  7. ^ 『ブリタニカ国際こくさいだい百科ひゃっか事典じてんだい11かん、p221【生物せいぶつがく
  8. ^ 岩波いわなみ生物せいぶつがく事典じてん』【生物せいぶつがく
  9. ^ 動物どうぶつ』は、翻訳ほんやく岩波いわなみ文庫ぶんこでもている。うえしたかん大部たいぶで(アリストテレース『動物どうぶつ じょう』1998、ISBN 978-4003860113、および『動物どうぶつ 』1999、ISBN 978-4003860120岩波いわなみ文庫ぶんこ
  10. ^ 『ブリタニカ国際こくさいだい百科ひゃっか事典じてんだい11かん、【生物せいぶつがく】p.220
  11. ^ 岩波いわなみ哲学てつがく思想しそう事典じてん岩波書店いわなみしょてん 1998ねん 1371ぺーじ【プシュケー】。
  12. ^ Fahd, Toufic. “Botany and agriculture”. p. 815. , in Morelon, Régis; Rashed, Roshdi (1996). Encyclopedia of the History of Arabic Science. 3. Routledge. ISBN 0415124107 
  13. ^ Magner, A History of the Life Sciences, pp 133–144
  14. ^ Sapp, Genesis, chapter 7; Coleman, Biology in the Nineteenth Century, chapters 2
  15. ^ Noble, Ivan (2003ねん4がつ14にち). “BBC NEWS | Science/Nature | Human genome finally complete”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/2940601.stm 2006ねん7がつ22にち閲覧えつらん 
  16. ^ Who coined the term biology?”. Info.com. 2012ねん6がつ3にち閲覧えつらん
  17. ^ 平凡社へいぼんしゃ世界せかいだい百科ひゃっか事典じてんだい15かん、p.418【生物せいぶつがく
  18. ^ ブリタニカ国際こくさいだい百科ひゃっか事典じてんだい11かん、p219【生物せいぶつがく
  19. ^ Avila, Vernon L. (1995). Biology: Investigating life on earth. Boston: Jones and Bartlett. pp. 11–18. ISBN 0-86720-942-9 
  20. ^ 平凡社へいぼんしゃ世界せかいだい百科ひゃっか事典じてんだい15かん、【生物せいぶつがく】p.419

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

  • 生物せいぶつがく』 - コトバンク
  • Integbio データベースカタログ - 科学かがく技術ぎじゅつ振興しんこう機構きこう運営うんえいする、文部もんぶ科学かがくしょう厚生こうせい労働省ろうどうしょう農林水産省のうりんすいさんしょう経済けいざい産業さんぎょうしょうによる生命せいめい科学かがくけいデータベースの統合とうごうけた合同ごうどうポータルサイト
  • 生命せいめい科学かがくデータベース横断おうだん検索けんさく - 国立こくりつ研究けんきゅう開発かいはつ法人ほうじん 科学かがく技術ぎじゅつ振興しんこう機構きこう バイオサイエンスデータベースセンターが提供ていきょうする特許とっきょ文献ぶんけん情報じょうほうとあわせて一括いっかつして検索けんさくできるサービス
  • みんなのバイオ学園がくえん - 経済けいざい産業さんぎょうしょう委託いたくより、バイオインダストリー協会きょうかい運営うんえいする、バイオテクノロジーがまなべるサイト。