経済けいざい

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インフレーションアレゴリー幕末ばくまつ、1868ねんよりまえ

経済けいざいけいざいまれ: οικονομία: oeconomiaえい: economy〈エコノミー〉)とは、社会しゃかいものおよびざい生産せいさん流通りゅうつう消費しょうひ活動かつどう調整ちょうせいするシステムそのものである[1]。さらに貨幣かへい経済けいざいのもとにおいては、社会しゃかいざい生産せいさん活動かつどうくわえ、貨幣かへいつうじたざい交換こうかん分配ぶんぱいそして貨幣かへいそのものの供給きょうきゅう流通りゅうつう活動かつどう経済けいざいばれる。

概要がいよう[編集へんしゅう]

人々ひとびとゆたかな生活せいかつおくるためには、需要じゅようおうじてざいサービス生産せいさんし、その需要じゅよう過不足かふそくなくたせる精度せいどたかいシステムが必要ひつようである。なかにある資源しげん一部いちぶ例外れいがいのぞ有限ゆうげんのものであり(希少きしょうせいぶ)、もしなんらかのざい・サービスをれるためには、ざい・サービスもしくは資源しげん入手にゅうしゅあきらめなければならない。経済けいざいとは人間にんげんざいやサービスの生産せいさん消費しょうひそして交換こうかんとう活動かつどう経済けいざい活動かつどう)を調整ちょうせいするシステムであり、経済けいざいがくとはそのシステムを研究けんきゅうする学問がくもんである。

人間にんげんによる重要じゅうよう経済けいざい活動かつどうひとつに、交換こうかん過程かてい交換こうかん)がある。あまった財物ざいぶつ不足ふそくしている財物ざいぶつとの交換こうかん物々交換ぶつぶつこうかん)は、貨幣かへい登場とうじょうまえ共同きょうどうたい社会しゃかいから存在そんざいし、交換こうかんつうじでざいやサービスの不足ふそくめられ、同時どうじ供給きょうきゅう過剰かじょう解消かいしょうされる。貨幣かへい経済けいざいになると、貨幣かへい財物ざいぶつ・サービスとうえられ、社会しゃかいにおいて財物ざいぶつと『える』価値かちがあるとされる貨幣かへいにより財物ざいぶつ交換こうかん物々交換ぶつぶつこうかんよりもはるかに容易よういになり[2]貨幣かへい交換こうかん機能きのう強化きょうかしていった。また貨幣かへいとみ蓄積ちくせき表象ひょうしょうとしての側面そくめんち、貨幣かへいもちいて価値かち貯蔵ちょぞうされるようになった。また貨幣かへいは、商品しょうひんたる財物ざいぶつ価値かち計算けいさんする尺度しゃくどとなり、財物ざいぶつ交換こうかん機能きのう円滑えんかつおこなうのにくてはならないものとなった。これら貨幣かへいのはたらきも、経済けいざいがく重要じゅうよう研究けんきゅう対象たいしょうとなっている。

語源ごげん[編集へんしゅう]

日本語にほんごの「経済けいざい」は英語えいごの "economy"の訳語やくごとなっているが、このeconomyというかたり古典こてんギリシアοικονομία家政かせいじゅつ)に由来ゆらいする[3]οικοςいえ意味いみし、νομος規則きそく管理かんり意味いみする[3]したがって、economy本来ほんらい意味いみ家計かけいであるが、近代きんだいになってこれを国家こっか統治とうち単位たんいにまで拡張かくちょうし、以前いぜん意味いみ区別くべつして政治せいじ経済けいざいがくpolitical economy)という名称めいしょう登場とうじょうする(この名称めいしょうのちアルフレッド・マーシャルによって economicsあらためられた。)。

近代きんだい以降いこう日本にっぽんのみならず中国ちゅうごくなど漢字かんじ文化ぶんかけんくにで、上記じょうきのような "economy" を意味いみする「経済けいざい」のかたり普及ふきゅうしたが、それ以前いぜん政治せいじてき倫理りんりてき意味いみふくむ「経世済民けいせいさいみん」の略語りゃくごとしてもちいられていた[4]日本にっぽん西洋せいよう過程かていで "economy" の和訳わやくとして「経済けいざい」の用語ようご借用しゃくようされ、現代げんだいにおいて「経済けいざい」は "economy" の訳語やくごとして漢字かんじ文化ぶんかけん一般いっぱん通用つうようする用語ようごとなった[4](pp169–170)>。

まず江戸えど時代じだい後期こうき日本にっぽんにおいて、「経済けいざい」という言葉ことば人民じんみん生活せいかつかかわる生産せいさん支出ししゅつ分配ぶんぱいなどの意味いみふくんで使つかわれるようになり、幕末ばくまつ維新いしんに(古典こてん経済けいざいがくにおける)"political economy" の訳語やくごとしてもちいられるようになった[4](pp165–166,169)。たとえば、1862ねん発行はっこう辞書じしょ英和えいわ対訳たいやく袖珍しゅうちん辞典じてん』が political economy訳語やくごとして「経済けいざい」「経済けいざいがく」の訳語やくごげており、おなねん西にしあまね手紙てがみなかで「経済けいざいがく」のかたりもちいている[4](pp169–170)。「経済けいざい」のかたりひろまったのは、どう時期じき福澤ふくさわ諭吉ゆきちが「経済けいざい」のかたりもちいていたことがおおきく影響えいきょうしているとされ[4](p1171)、この訳語やくご考案こうあんしゃ福沢ふくさわ諭吉ゆきちとする文献ぶんけんもある[3] 。political economyの訳語やくごとしては、どう時期じきに『えきけい』に由来ゆらいするせいなども提唱ていしょうされたが、こちらはあまり普及ふきゅうしなかった。

"(political) economy" の訳語やくごとしての「経済けいざい」の語法ごほうは、やがて翻訳ほんやくつうじて「経世済民けいせいさいみん」のかたりんだ中国ちゅうごくきよし)にぎゃく輸入ゆにゅうされたが、はじめは訳語やくごとしてあまりもちいられず、富国ふこくさくせいがくといった用語ようごもちいられていた。その中華民国ちゅうかみんこく初期しょきまごぶん革命かくめいが「経済けいざい」をもちいた影響えいきょうもあり、訳語やくごとして定着ていちゃくしていった[4](pp176–182)

経済けいざい体制たいせい[編集へんしゅう]

江戸えど時代じだい貨幣かへい(1714ねん

経済けいざい活動かつどう法律ほうりつをはじめとする様々さまざま条件じょうけんによって制約せいやくされている。それらの制約せいやくのもとで、社会しゃかい人々ひとびとのニーズを満足まんぞくさせるように供給きょうきゅう組織そしきする。この組織そしきされた供給きょうきゅう仕組しくみを経済けいざい体制たいせい[5] (Economic system) という。代表だいひょうてき経済けいざい体制たいせいとして以下いかの3つがげられる。

伝統でんとう経済けいざい[編集へんしゅう]

伝統でんとう経済けいざい (Traditional economy) とは生産せいさんさい配分はいぶんなどの主要しゅよう経済けいざい活動かつどう慣習かんしゅう文化ぶんかによっておおきく規定きていされた経済けいざいである。集落しゅうらく村落そんらくなどの比較ひかくてき小規模しょうきぼ集団しゅうだん経済けいざいにしばしばられる形態けいたいであり、生産せいさん活動かつどう個人こじん家柄いえがら集団しゅうだん文化ぶんかによってさだめられているために予測よそく可能かのうせいたかく、継続けいぞくてきかつ安定あんていてき供給きょうきゅう維持いじされる。

商品しょうひん経済けいざい[編集へんしゅう]

商品しょうひん経済けいざいとはざい・サービスの生産せいさん消費しょうひ分配ぶんぱい他社たしゃとの分業ぶんぎょうもとづく交換こうかんによって成立せいりつしている経済けいざいである。生産せいさん活動かつどうにおいて余剰よじょうとなった生産せいさんぶつ商品しょうひんとなり他者たしゃ需要じゅようたすために交換こうかんされ消費しょうひされる。交換こうかん媒介ばいかい貨幣かへいもちいなくとも商品しょうひん経済けいざい成立せいりつするが、貨幣かへい登場とうじょうにより貨幣かへい経済けいざいとなって商品しょうひん経済けいざい発達はったつ加速かそくした。

市場いちば経済けいざい[編集へんしゅう]

市場いちば経済けいざい (Market economy) とは企業きぎょう個人こじん自己じこ利益りえきさい優先ゆうせんしてざい・サービスを生産せいさんし、市場いちば仕組しくみによって配分はいぶんする形態けいたい経済けいざいである。規範きはん指令しれいもなく、市場いちばにおける消費しょうひ動向どうこうによって生産せいさん活動かつどう規定きていされる特徴とくちょうがあり、個人こじん自由じゆうたかく、意思いし決定けってい分散ぶんさんてきであり、また希少きしょうせい変化へんか柔軟じゅうなん反応はんのうできる長所ちょうしょがある。ただし経済けいざいがく保証ほしょうする市場いちば経済けいざい効率こうりつせいは、財産ざいさんけん取引とりひき自由じゆう参入さんにゅう脱退だったいにかかる障壁しょうへきがないなど経済けいざい活動かつどうにかかる参入さんにゅう退出たいしゅつ自由じゆう完全かんぜん情報じょうほう情報じょうほう非対称ひたいしょうせいがないこと)などの条件じょうけん必要ひつようであり、これらの条件じょうけんたされない場合ばあいには市場いちば失敗しっぱいしょうじる。

計画けいかく経済けいざい[編集へんしゅう]

計画けいかく経済けいざい[ちゅう 1] (Command economy) とは中央ちゅうおう当局とうきょくによってあらゆる経済けいざい活動かつどう運営うんえいされている形態けいたい経済けいざいである。指令しれい経済けいざいともう。産業さんぎょうへの必要ひつよう物資ぶっし生産せいさん目標もくひょう生産せいさんてなどがさだめられ、その計画けいかくもとづいて経済けいざい活動かつどう遂行すいこうされる。経済けいざい資源しげん労働ろうどうりょく計画けいかくてき運用うんようすることができるために特定とくてい産業さんぎょう集中しゅうちゅうてき発展はってんできるとされる。一方いっぽうで、計画けいかく経済けいざいしたでは労働ろうどうしゃインセンティブ欠如けつじょしやすいという欠点けってんがある。また、計画けいかく経済けいざい存立そんりつ可能かのうせいをめぐってなされた議論ぎろんとして経済けいざい計算けいさん論争ろんそうがある。

経済けいざい成長せいちょう[編集へんしゅう]

経済けいざい成長せいちょうとは、経済けいざい規模きぼ拡大かくだい生産せいさんせい向上こうじょうといった経済けいざいりょくびをしめ概念がいねんである[6]くに経済けいざい規模きぼは、国内こくないそう生産せいさん(GDP)によってはかられる。これら産出さんしゅつりょう変化へんかりつ実質じっしつ経済けいざい成長せいちょうりつであり、狭義きょうぎにはこの変化へんかりつ上昇じょうしょう傾向けいこうして経済けいざい成長せいちょう[7][8][9]経済けいざい成長せいちょう決定けっていづける要因よういんや、実質じっしつ経済けいざい成長せいちょうりつ物価ぶっか失業しつぎょうなどとの関連かんれん分析ぶんせきする経済けいざいがく分野ぶんやとしてマクロ経済けいざいがくがある。

経済けいざい」の派生はせいてき用法ようほう[編集へんしゅう]

金銭きんせんてき[編集へんしゅう]

効率こうりつてき経済けいざい活動かつどうであることからてんじて、商品しょうひん購入こうにゅうさいして金銭きんせん負担ふたんすくなくてすむことを「経済けいざいてき」または「エコノミカル(Economical)」という。飛行機ひこうきもっとてい価格かかく座席ざせき等級とうきゅうを「エコノミークラス」とぶのもこうした用法ようほうの1つである。

地理ちりてき[編集へんしゅう]

日本にっぽん経済けいざい、アメリカ経済けいざい中国ちゅうごく経済けいざいなどのように、国家こっか経済けいざい活動かつどうを「経済けいざい」とぶことがある。大阪おおさか経済けいざい香港ほんこん経済けいざいなどのように、ローカルの経済けいざい活動かつどうすこともある。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 『アメリカの高校生こうこうせいまな経済けいざいがく 原理げんりから実践じっせん』33-39ぺーじでは経済けいざいシステムを伝統でんとう経済けいざい市場いちば経済けいざい指令しれい経済けいざい分類ぶんるいしているが、指令しれい経済けいざいかんしては計画けいかく経済けいざい表記ひょうきした。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ 経済けいざい-488478』 - コトバンク
  2. ^ スティグリッツ『マクロ経済けいざいがく』 pp.285–292。
  3. ^ a b c 松原まつばらさとし (2000ねん11月). 図解ずかい雑学ざつがく日本にっぽん経済けいざい. 図解ずかい雑学ざつがくシリーズ. ナツメしゃ. p. 26. ISBN 4816328785
  4. ^ a b c d e f 馮天瑜; 咏梅 (2005ねん10がつ). "中国ちゅうごく日本語にほんご西洋せいようあいだ相互そうご伝播でんぱ翻訳ほんやくのプロセスにおける「経済けいざい」という概念がいねん変遷へんせん". 日本にっぽん研究けんきゅう : 国際こくさい日本にっぽん文化ぶんか研究けんきゅうセンター紀要きよう. 国際こくさい日本にっぽん文化ぶんか研究けんきゅうセンター. 31: 159–190. doi:10.15055/00000618. ISSN 0915-0900. NAID 120005681573
  5. ^ 『アメリカの高校生こうこうせいまな経済けいざいがく 原理げんりから実践じっせん』352ぺーじ経済けいざいシステム(Economic system)の定義ていぎ
  6. ^ 『ブリタニカ国際こくさい百科ひゃっか事典じてん 1 - 20』だい6かん351ぺーじ
  7. ^ 『スティグリッツ マクロ経済けいざいがく だい2はん』533―572ぺーじ
  8. ^ 『クルーグマン ミクロ経済けいざいがく用語ようごしゅう
  9. ^ 『ブランシャール マクロ経済けいざいがく』27-35ぺーじ

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • ポール・クルーグマン、ロビン・ウェルスちょ大山おおやま道広みちひろ石橋いしばし孝次たかじ塩沢しおざわ修平しゅうへい白井しらい義昌よしまさ大東おおひがし一郎いちろう玉田たまだ康成やすなり蓬田よもぎた守弘もりひろやく 『クルーグマン ミクロ経済けいざいがく東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ, 2007ねん
  • ゲーリー・E・クレイトンちょ大和証券だいわしょうけん商品しょうひん企画きかくやく大和証券だいわしょうけん教育きょういく事業じぎょう監訳かんやく 『アメリカの高校生こうこうせいまな経済けいざいがく 原理げんりから実践じっせん』 WAVE出版しゅっぱん、2005ねん
  • 金森かなもり久雄ひさおあら憲治けんじろう森口もりぐちちかしつかさへん経済けいざい辞典じてんだいよんはん)』有斐閣ゆうひかく、2006ねん
  • N・グレゴリー・マンキューしる足立あだち英之ひでゆきいし川城かわしろふとし小川おがわ永治えいじ地主じぬし敏樹としき中馬ちゅうま宏之ひろゆき柳川やながわたかしやく 『マンキュー経済けいざいがく1 ミクロへん(だい2はん)』 東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ、2005ねん
  • N・グレゴリー・マンキューちょ足立あだち英之ひでゆき地主じぬし敏樹としき中谷なかたにたけし柳川やながわたかしやく 『マンキューマクロ経済けいざいがく入門にゅうもんへん(だい2はん)』 東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ、2005ねん
  • フランク・B・ギブニーへん 『ブリタニカ国際こくさい百科ひゃっか事典じてん 1 - 20』 ティービーエス・ブリタニカ、1972ねん
  • 伊藤いとう元重もとしげ入門にゅうもん|経済けいざいがく日本にっぽん評論ひょうろんしゃ,1988ねん
  • 新井田あらいだひろし経済けいざいがく入門にゅうもん ---ミクロ・マクロ経済けいざいがくへ』 放送大学ほうそうだいがく教育きょういく振興しんこうかい、2000ねん
  • オリヴィエ・ブランシャールちょ鴇田ときた忠彦ただひこ知野ちの哲朗てつろう中山なかやまいさおりょう中泉なかいずみ真樹まさき渡辺わたなべ愼一しんいちやく 『ブランシャール マクロ経済けいざいがく じょうした東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ、1999ねん
  • ジョセフ・E・スティグリッツしる藪下やぶした史郎しろう秋山あきやま太郎たろう金子かねこのうひろし木立きだちつとむ清野きよの一治いちじやく 『スティグリッツ マクロ経済けいざいがく だい2はん東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ、2001ねん
  • 『コウビルドえいえい辞典じてん 改訂かいてい新版しんぱん桐原書店きりはらしょてん、1995ねん
  • うし致功1998 『から高祖こうそつたえ

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]