フィクトセクシュアル

フィクトセクシュアルの旗はた。背景はいけいの縞しま模様もようは架空かくうのもの以外いがいへの無む性愛せいあいを表あらわしており、中央ちゅうおうのピンクは架空かくうのものへの愛あいを表あらわしている。

フィクトセクシュアル（英えい: fictosexuality、中なか: 纸性恋こい）は、架空かくうのキャラクターへ性的せいてきに惹ひかれるセクシュアリティである。「Fセク」と略りゃくされる場合ばあいがある。架空かくうのキャラクターへ恋愛れんあい的てきに惹ひかれることを表あらわす言葉ことばとしては、フィクトロマンティックが用もちいられる。フィクトロマンティックは「Fロマ」と略りゃくされる。いずれも医学いがく的てきな診断しんだんカテゴリーではなく、当事とうじ者しゃのためのアイデンティティのラベルであり、またフィクトセクシュアルを周縁しゅうえん化かする構造こうぞう的てき問題もんだいを指さし示しめすためのカテゴリーである。

概要がいよう

フィクトセクシュアルという言葉ことばは、フィクション（Fiction）のFictから取とられたものでありる。社会しゃかい学者がくしゃの松浦まつうら優ゆうの調査ちょうさによれば、「架空かくうの性的せいてき表現ひょうげんを愛好あいこうしつつも実在じつざいの他者たしゃには性的せいてき惹ひかれを経験けいけんしないということ」あるいは「『性愛せいあい』や『恋愛れんあい』として一般いっぱん的てきに想定そうていされるような営いとなみを架空かくうのキャラクターと行おこないたいと感かんじること」を表あらわす言葉ことばとして用もちいられている。

全すべてのフィクトセクシュアルの人々ひとびとがアセクシュアルを自認じにんしているわけではないが、フィクトセクシュアルという言葉ことばは英語えいご圏けんのアセクシュアルコミュニティで用もちいられる場合ばあいもあり、日本にっぽんでも広義こうぎのアセクシュアルとして自認じにんしている人ひとがいる。

フィクトセクシュアルの立場たちばからは、「生身なまみの他者たしゃに対たいして性的せいてき・恋愛れんあい的てきに惹ひかれることが規範きはん的てきなセクシュアリティとされること」を指さす「対人たいじん性愛せいあい中心ちゅうしん主義しゅぎ」という概念がいねんが用もちいられている。これはフィクトセクシュアルの周縁しゅうえん化かを説明せつめいする概念がいねんである。松浦まつうらによれば、対人たいじん性愛せいあい中心ちゅうしん主義しゅぎは、アセクシュアル研究けんきゅうにおける強制きょうせい的てき性愛せいあい（compulsory sexuality）と、対物たいぶつ性愛せいあい研究けんきゅうにおける人間にんげん性愛せいあい規範きはん（humanonormativity）と関連かんれんしている。

研究けんきゅう

人口じんこう学がく的てき研究けんきゅう

フィクトセクシュアルに関かんする統計とうけい的てき調査ちょうさはまだ数かずが限かぎられている。日本にっぽん性せい教育きょういく協会きょうかいが2017年ねんに実施じっしした「第だい8回かい 青少年せいしょうねんの性せい行動こうどう全国ぜんこく調査ちょうさ」によれば、「ゲームやアニメの登場とうじょう人物じんぶつに恋愛れんあい感情かんじょうを持もつ」経験けいけんが「ある」と答こたえた人ひとの割合わりあいは、中学ちゅうがく男子だんし13.1%、中学ちゅうがく女子じょし16.0%、高校こうこう男子だんし13.6%、高校こうこう女子じょし15.4%、大学だいがく男子だんし14.4%、大学だいがく女子じょし17.1%である。

フェミニスト／クィア研究けんきゅう

いくつかのアセクシュアル研究けんきゅうや、性的せいてきマイノリティに関かんする入門にゅうもん書しょで、フィクトセクシュアルが言及げんきゅうされている。またフィクトセクシュアル研究けんきゅうのなかには、アセクシュアル研究けんきゅうから影響えいきょうを受うけているものがある。エリザベス・マイルズは「現在げんざいのアセクシュアルの理論りろん化かと同おなじように（……）二に次元じげんキャラクターへの欲望よくぼうは、セックスとは何なにか、法的ほうてき・社会しゃかい的てきな禁止きんしが性的せいてきアクセスや十全じゅうぜんな性的せいてき市民しみん権けんをいかに否定ひていするのか、について私わたしたちに再考さいこうさせるものである」と論ろんじている。

クィア理論りろん的てきな研究けんきゅうも行おこなわれている。松浦まつうら優ゆうは、二に次元じげんをめぐるセクシュアリティがバトラー的てきなパフォーマティヴィティとは異ことなる仕方しかたで支配しはい的てきな規範きはんを攪乱かくらんするということを、テリ・シルヴィオの「アニメーション」概念がいねんや東あずま浩ひろし紀きによるデリダ読解どっかいの分析ぶんせきを通とおして論ろんじている。その攪乱かくらんとは、「以前いぜんには存在そんざいしなかったカテゴリーの存在そんざい物ぶつをアニメーションによって構築こうちくすることを通とおして、知覚ちかくの仕方しかたや欲望よくぼうのあり方かたを変容へんようさせること」である。また松浦まつうらは、対人たいじん性愛せいあい中心ちゅうしん主義しゅぎが異い性愛せいあい規範きはんや性別せいべつ二元論にげんろんと結むすびついていると論ろんじている。

フィクトセクシュアルの人ひとへのインタビュー調査ちょうさから、かれらがアセクシュアルと同おなじように強制きょうせい的てき性愛せいあいによる抑圧よくあつを経験けいけんすることがあると示しめされているほか、性的せいてき欲望よくぼうは必かならずしも性交せいこうへの欲望よくぼうではないことも調査ちょうさから示唆しさされている。日本にっぽんや台湾たいわんでのインタビュー調査ちょうさから、フィクトセクシュアルの人々ひとびとの実践じっせんには強制きょうせい的てき性愛せいあいや対人たいじん性愛せいあい中心ちゅうしん主義しゅぎへの抵抗ていこうの可能かのう性せいが見みられると指摘してきされている。

架空かくうのキャラクターとの関係かんけい

Karhulahtiらが指摘してきしているように、フィクトセクシュアルの人々ひとびとは「虚構きょこうと現実げんじつを混同こんどうしているのではない」が、「人間にんげんを相手あいてにするのと同おなじようにはキャラクターと相互そうご行為こういできない」ために苦悩くのうを経験けいけんすることがある。このパラドックスは、廖希文ぶんによる台湾たいわんでの調査ちょうさからも確認かくにんされている。

しかしフィクトセクシュアルの人ひとと架空かくうのキャラクターとの関係かんけいは、必かならずしも一方向いちほうこう的てきなものではない。インターフェイスやキャラクターのグッズなどさまざまな媒体ばいたいや、二に次じ創作そうさくのような実践じっせんを通とおして、フィクトセクシュアルの人々ひとびとはキャラクターとの感情かんじょう的てきなつながりを経験けいけんしたり、キャラクターの存在そんざいを感かんじたりすることがある。廖希文ぶんは台湾たいわんでの調査ちょうさをもとに、フィクトセクシュアルの人々ひとびとと架空かくうのキャラクターとの関係かんけいは人類じんるい学がくにおける「関係かんけい的てき認識にんしき論ろん」（relational epistemology）や「分ぶん人じん」（dividual）の観点かんてんから理解りかいできると示唆しさしている。

他方たほうで、すべての異性愛者いせいあいしゃが性的せいてき接触せっしょくを望のぞむわけではないのと同おなじように、フィクトセクシュアルの人々ひとびとのなかにも架空かくうのキャラクターとの相互そうご行為こういを望のぞまない人々ひとびとがいることが、松浦まつうらの調査ちょうさから示唆しさされている。こうした人々ひとびとの存在そんざいは、すべてのフィクトセクシュアルが架空かくうのキャラクターとの性的せいてき・恋愛れんあい的てきな親密しんみつ関係かんけいを望のぞんでいるに違ちがいない、という恋愛れんあい伴侶はんりょ規範きはん的てきなステレオタイプによって不可視ふかし化かされる。そのため松浦まつうらの調査ちょうさで示しめされているように、フィクトセクシュアル当事とうじ者しゃからは、「セクシュアリティ」と「恋愛れんあい」の結むすびつきを自明じめい視しする認識にんしきが批判ひはんされている。

マンガ研究けんきゅう

伊藤いとう剛つよしは「そもそもキャラ図像ずぞうに対たいして「生身なまみの身体しんたい」の写像しゃぞう、あるいは誇張こちょうされたステレオタイプ以外いがいの読よみの存在そんざいを認みとめないのであれば、フィクトセクシャルが欲望よくぼうの対象たいしょうとする〈もの〉自体じたいの水準すいじゅんは見みえてこない」と指摘してきしている。

差別さべつやスティグマ

対人たいじん性愛せいあい中心ちゅうしん主義しゅぎ的てきな社会しゃかいでは、フィクトセクシュアルの人々ひとびとはスティグマ化かされたり不可視ふかし化かされたりすることがある。そのスティグマによってフィクトセクシュアルの人々ひとびとが孤立こりつや孤独こどく感かんを経験けいけんする可能かのう性せいがあると、Karhulahtiらは示唆しさしている。またフィクトセクシュアルはしばしば単たんなる「嗜好しこう」とみなされてLGBTQ+から排除はいじょされることがあると松浦まつうら優ゆうは指摘してきしており、LGBTコミュニティからも偏見へんけんを向むけられることがある。

また二に次元じげんキャラクターに対たいする性的せいてき惹ひかれや性的せいてき欲望よくぼうは、実際じっさいにはキャラクターというノンヒューマンへの欲望よくぼうであるにもかかわらず、単たんに特殊とくしゅな様式ようしきで描えがかれた人間にんげんに対たいする嗜好しこうとみなされ、単たんなる対人たいじん性愛せいあいだと誤解ごかいされることがある。一部いちぶの研究けんきゅう者しゃやアクティビストからは、二に次元じげんの未成年みせいねんキャラクターへの欲望よくぼうを人間にんげんの子供こどもに対たいする欲望よくぼうとみなすことは、対人たいじん性愛せいあい中心ちゅうしん主義しゅぎ的てきな偏見へんけんであると指摘してきされている。

コミュニティやアクティビズム

松浦まつうらの調査ちょうさによれば、フィクトセクシュアルの人々ひとびとのオンライン投稿とうこうからは、性的せいてきマジョリティを「対人たいじん性愛せいあい」と名指なざすことを通とおして、対人たいじん性愛せいあい中心ちゅうしん主義しゅぎを批判ひはんする主張しゅちょうが提起ていきされている。また松浦まつうらは、二に次元じげんの性的せいてき表現ひょうげんが生身なまみの女性じょせいを性的せいてき対象たいしょう化かしたり小児しょうに性せい加害かがいを助長じょちょうしたりするというのは対人たいじん性愛せいあい中心ちゅうしん主義しゅぎ的てきな発想はっそうだと批判ひはんするとともに、対人たいじん性愛せいあい中心ちゅうしん主義しゅぎ批判ひはんはレイプカルチャーを批判ひはんするものでもあると述のべている。この批判ひはんはフェミニストやLGBTQの運動うんどうとの連帯れんたいを志向しこうしている。

二に次元じげんキャラクターとの結婚けっこんをめぐる運動うんどうも存在そんざいする。2008年ねんには二に次元じげんキャラクターとの結婚けっこんを法的ほうてきに認みとめることを求もとめる署名しょめい活動かつどうが行おこなわれた。現時点げんじてんでは二に次元じげんキャラクターとの結婚けっこんは法的ほうてきには制度せいど化かされていないが、「キャラクターとの婚姻こんいん届とどけの受理じゅり・結婚けっこん証明しょうめい書しょの発行はっこうおよびキャラ愛あいのサポート」を行おこなう団体だんたいとして「次元じげん局きょく」が存在そんざいする。イアン・コンドリーは、二に次元じげんキャラクターとの結婚けっこんについて、「生身なまみの他者たしゃとのつながりを求もとめるよりアニメのキャラクターと結婚けっこんしたいと言いうような可哀相かわいそうな奴やつと茶化ちゃかす態度たいどは、現在げんざい支配しはい的てきな風俗ふうぞく習慣しゅうかんを当然とうぜんのものとして強制きょうせいしてしまうという危険きけんを孕はらんでいる」と指摘してきしている。

台湾たいわんでは、フィクトセクシュアルの承認しょうにんをや対人たいじん性愛せいあいの相対そうたい化かを推進すいしんする団体だんたいとして、廖希文ぶんが臺たい大だい御ご宅たく研究けんきゅう讀書どくしょ會かい（臺たい大宅おおたく研けん）を設立せつりつしている。臺たい大宅おおたく研けんはフィクトセクシュアルについての講演こうえん会かい、「フィクトセクシュアル宣言せんげん」の刊行かんこう、松浦まつうら優ゆうの論文ろんぶんの翻訳ほんやくなどを行おこなっている。

関連かんれん項目こうもく

• 対人たいじん性愛せいあい中心ちゅうしん主義しゅぎ
• 二に次元じげんコンプレックス
• 近藤こんどう顕あらわ彦
• 対物たいぶつ性愛せいあい
• ピグマリオンコンプレックス
• 性的せいてきマイノリティ
• LGBTQ

外部がいぶリンク

• ネットで読よめるフィクトセクシュアル・非ひ対人たいじん性愛せいあい情報じょうほうリンク集しゅう
• 次元じげん局きょく
• 臺たい大だい御ご宅たく研究けんきゅう讀書どくしょ會かい