地ち券けん

地ち券けん（ちけん）とは、明治めいじ初期しょきに土地とちの所有しょゆう権けんを示しめすために明治めいじ政府せいふが発行はっこうした証券しょうけんのこと。

概要がいよう

1879年ねん（明治めいじ12年ねん）発行はっこうの地ち券けん

 

裏面りめん(新あたらしい所有しょゆう者しゃに変かわった場合ばあいは裏面りめん左側ひだりがわに記載きさいされる)

明治めいじ4年ねん12月27日にち（1872年ねん2月がつ5日にち）に東京とうきょう府ふ下したの市街地しがいちに対たいして地ち券けんを発行はっこうし、発行はっこうにあたって従来じゅうらい無税むぜいであった都市としの市街地しがいちに対たいしても地価ちか100分ぶんの1の新税しんぜい（沽券こけん税ぜい）が課かせられることになり、徐々じょじょに東京とうきょう以外いがいの都市とし部ぶでも発行はっこうされた。続つづいて明治めいじ5年ねん2月がつ15日にち（1872年ねん3月23日にち）の田畑たばた永代えいたい売買ばいばい禁止きんし令れいの廃止はいしに伴ともない、これまで貢みつぎ租の対象たいしょうとされていきた郡村こおりむらの土地とちを売買ばいばい譲渡じょうとする際さいにも地ち券けんが交付こうふされることとなった。こちらは従来じゅうらいの貢みつぎ租を引ひき続つづき納おさめることとされた。当初とうしょ、地ち券けんは取引とりひきの都度つど発行はっこうするという方式ほうしきであったが、この方法ほうほうでは全国ぜんこくの土地とちの状況じょうきょうを短期間たんきかんに把握はあくすることは不可能ふかのうであったため、同年どうねん7月がつ4日にち（同年どうねん8月がつ5日にち）に大蔵省おおくらしょう達たち第だい83号ごうを発はっし、都度つどの地ち券けん発行はっこうを改あらため、人民じんみん所有しょゆうのすべての土地とちに地ち券けんを発行はっこうする地ち券けんの全国ぜんこく一般いっぱん発行はっこうとした。この結果けっか、上記じょうきの規定きていに該当がいとうしない全すべての所有しょゆう地ちに対たいしても、地ち券けんが交付こうふされることになった。これを壬みずのえ申さる地ち券けん（じんしんちけん）という。

制度せいど導入どうにゅう時じにおける、地ち券けん作成さくせいの法的ほうてき根拠こんきょは都市とし部ぶにおいては沽券こけん帳ちょう(水みず帳ちょう)、農地のうちについては検地けんち帳ちょうである。壬みずのえ申さる地ち券けんは交付こうふの申請しんせいに対たいし、持もち主ぬし・反別たんべつ・所在しょざいなどを検地けんち帳ちょう等とうと照合しょうごうして作成さくせいされた。田畑たはたでは検地けんち帳ちょうから地ち券けんへの転記てんきに際さいして紛争ふんそうは少すくなかったが、村むら共有きょうゆうの林野りんや・入会地いりあいちでは他たの村むらまでもがしばしば紛争ふんそう当事とうじ者しゃとなった上うえ、公有こうゆう地ち地ち券けんから進すすんで官民かんみん有ゆう区分くぶんとなる過程かていで国家こっかによる巨大きょだいな民有みんゆう地ち収奪しゅうだつが行おこなわれた。

地ち券けんの発行はっこうは、旧来きゅうらいの町名ちょうめい主ぬしや庄屋しょうやを取とり込こんだ戸長こちょう役場やくばにおいてなされ、割印わりいんを押おした一いち通つうを所有しょゆう者しゃ本人ほんにんに渡わたし、役場やくばで控ひかえを「元帳もとちょう」に綴とじ込こみ保管ほかんした。この元帳もとちょうを地ち券けん大だい帳ちょうといい、毎年まいとしその写うつしを大蔵省おおくらしょうに提出ていしゅつさせることとした。この、地ち券けん大だい帳ちょうが後こうの土地とち台帳だいちょうの基礎きそとなる。

続つづいて明治めいじ6年ねん（1873年ねん）7月がつ28日にちに地租ちそ改正かいせい条例じょうれいが発布はっぷされるとともに、地ち券けん制度せいどにも改正かいせいが加くわえられ、壬みずのえ申さる地ち券けんに代かわって一いち筆ぴつの地ちに一いち枚まいずつ交付こうふされる全国ぜんこく共通きょうつうの地ち券けんに変更へんこうされ、地租ちそ改正かいせい条例じょうれいで定さだめられた地価ちか100分ぶんの3（1877年ねん以後いご100分ぶんの2.5）の新税しんぜい（地租ちそ）が課かせられた（地租ちそ改正かいせい）。これ以後いごの地ち券けんを改正かいせい地ち券けん（かいせいちけん）という。

地ち券けんにおける土地とちの処分しょぶん性せいが、明治めいじ7年ねん1月がつ29日にちの太政官だじょうかん指令しれいに記しるされている。ここには近代きんだい的てき・封建ほうけん的てき側面そくめんをそれぞれ指摘してきできる。前者ぜんしゃにおいては非ひ戸主こしゅの私的してき自治じちを認みとめて、その非ひ戸主こしゅが私財しざいをはたいて買かい受うけた土地とちや元もとから所有しょゆうしていた土地とちはその非ひ戸主こしゅが自由じゆうに取引とりひきしてよいとした。後者こうしゃにおいては家いえ制度せいどを維持いじするため、非ひ戸主こしゅの土地とち取引とりひきには戸主こしゅの連れん印しるしを要求ようきゅうし、もって家族かぞくの土地とち取引とりひきを拒否きょひする権限けんげんを戸主こしゅに与あたえた。また、土地とちの譲渡じょうとにおいては、地ち券けんを書かき換かえるべきものとされていたところ、明治めいじ12年ねん（1879年ねん）2月がつ、これに替かえ裏書うらがき移転いてんとなったが、翌よく明治めいじ13年ねん（1880年ねん）11月土地とち売買ばいばい譲渡じょうと規則きそくの制定せいていにより、所有しょゆう権けん移転いてんは戸長こちょう役場やくばの公証こうしょう手続てつづきによっておこなわれることになったため、地ち券けんの裏書うらがきは納税のうぜい義務ぎむの移転いてんのみを示しめすものとなったなど、制度せいど上じょう複雑ふくざつなものとなっていた。また、戸長こちょうによる公証こうしょう制せいにより、二に重じゅう登記とうき・虚偽きょぎ登記とうきといった問題もんだいが頻発ひんぱつした。

このため、公証こうしょう制度せいどの整備せいび（公証こうしょう人じん規則きそく制定せいてい）や登記とうき法ほうの実施じっし（明治めいじ19年ねん（1886年ねん）8月がつ13日にち公布こうふ、翌年よくねん2月がつ1日にち施行しこう）によって近代きんだい的てき登記とうき制度せいどが公法こうほう的てきに導入どうにゅうされ、地ち券けんは、法的ほうてきな意味合いみあいを失うしない、明治めいじ22年ねん（1889年ねん）3月22日にちの土地とち台帳だいちょう規則きそく制定せいていとともに廃止はいしされた。

なお、安政あんせい条約じょうやく後のちに外国がいこく人じん居留きょりゅう地ちにおいて各国かっこく領事りょうじが外国がいこく人じん居留きょりゅう者しゃに永代えいたい借地しゃくち権けんを公証こうしょうするために出だした“Title Deed”も「（居留きょりゅう地ち）地ち券けん」と称しょうされている。

関連かんれん項目こうもく

• 地租ちそ
• 宗門しゅうもん人別にんべつ改あらため帳ちょう
• アッシニア