地籍ちせき調査ちょうさ

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地籍ちせき調査ちょうさ(ちせきちょうさ)とは、国土こくど調査ちょうさほう昭和しょうわ26ねん6月1にち法律ほうりつだい180ごう)にもとづく国土こくど調査ちょうさ一環いっかんとしておこな土地とち調査ちょうさのことである。

概要がいよう[編集へんしゅう]

地籍ちせきとは、一筆いっぴつ土地とち登記とうき簿じょういち区画くかくのこと)ごとの土地とちについての現在げんざいおよ過去かこのあらゆる情報じょうほうす。地籍ちせき調査ちょうさは、一筆ひとふでごとの土地とちについて、所有しょゆうしゃ地番ちばん地目ちもく調査ちょうさするとともに、土地とち境界きょうかいふでかい)と面積めんせき地積ちせき)を測量そくりょうする。その成果せいかである地籍ちせき地籍ちせき簿は、20日間にちかん閲覧えつらん都道府県とどうふけん認証にんしょうて、登記とうきしょ法務局ほうむきょく地方ちほう法務局ほうむきょくおよびその支局しきょく出張所しゅっちょうしょ)に送付そうふされる。登記とうきしょでは、地籍ちせき簿もとづき登記とうき記録きろく内容ないようあらため、地籍ちせき不動産ふどうさん登記とうきほうだい14じょうだい1こう規定きていする地図ちずとしてそなける。

地籍ちせき調査ちょうさ実施じっし主体しゅたい市町村しちょうそんなどの地方ちほう公共こうきょう団体だんたい土地とち改良かいりょうなどの団体だんたいであり、土地とち所有しょゆうしゃ境界きょうかい確認かくにん立会たちあいと調査ちょうさ成果せいか確認かくにんおこなうのみである。土地とち所有しょゆうしゃ現地げんち立会たちあいに協力きょうりょくせず、境界きょうかい確認かくにんできなかった場合ばあいには、ふでかい未定みていとして処理しょりされ、のち境界きょうかい確認かくにんする必要ひつようしょうじたとしても、所有しょゆうしゃ費用ひよう負担ふたん調査ちょうさおこなわなければならなくなる。

背景はいけい[編集へんしゅう]

国土こくど調査ちょうさほう制定せいていまえにも、内務省ないむしょう地理ちりりょう国土こくど地理ちりいん前身ぜんしんひとつ)により、明治めいじ時代じだい初期しょきから“地籍ちせき編纂へんさん調査ちょうさ”としょうした同様どうよう調査ちょうさおこなわれてきたが、1884ねん全国ぜんこくだい三角さんかく測量そくりょう業務ぎょうむ参謀さんぼう本部ほんぶ国土こくど地理ちりいん前身ぜんしんひとつ)に移管いかんされたのをに、この調査ちょうさ頓挫とんざしてしまった。その国土こくど調査ちょうさほう制定せいていされた昭和しょうわ26ねん当時とうじ土地とち現況げんきょうかんする資料しりょうとしては、登記とうきしょ土地とち台帳だいちょうとその付属ふぞく地図ちずそなけられていた。これらは明治めいじ時代じだい地租ちそ改正かいせいさい作成さくせいされた成果せいか基礎きそとするものであり、土地とち実態じったいかならずしも一致いっちしているわけではなく、不正確ふせいかくなものもおおかった。そこで、土地とちかんする施策しさく計画けいかく実施じっし円滑えんかつすすめるため、必要ひつよう基礎きそ資料しりょう整備せいびとして、地籍ちせき調査ちょうさ実施じっしもとめられていた。

現状げんじょう[編集へんしゅう]

平成へいせい26ねんまつ現在げんざい調査ちょうさ対象たいしょう面積めんせきやく半分はんぶんしか完了かんりょうしておらず、とく都市とし人口じんこう集中しゅうちゅう地区ちく)については2わり程度ていどしか実施じっしされていない。東北とうほく九州きゅうしゅう地方ちほうなどでは進捗しんちょくりつたかいのにたいして、土地とち利用りよう複雑ふくざつさん大都市だいとしけん周辺しゅうへんでは調査ちょうさがほとんどすすんでいない状況じょうきょうにある。

調査ちょうさ開始かいしから63年間ねんかん進捗しんちょくりつが51%という現状げんじょうからすると、現在げんざいのペースのままでは、完了かんりょうまでに60ねん以上いじょうようすることになる。調査ちょうさ完了かんりょうまでのあいだ調査ちょうさ実施じっししていない地域ちいきについては、土地とち位置いち面積めんせき正確せいかくでない図面ずめん使つかわれることになる。

調査ちょうさ実施じっしによる問題もんだいてん[編集へんしゅう]

調査ちょうさ実施じっしによる問題もんだいてん以下いかにて列挙れっきょする。

  • 土地とち売買ばいばい相続そうぞくなどをきっかけに隣人りんじんとのあいだ境界きょうかいあらそいが発生はっせいする場合ばあいがあり、土地とち取引とりひき相続そうぞく支障ししょうしょうじる。
  • 水道すいどう道路どうろなどのインフラを整備せいびする公共こうきょう事業じぎょうにおいて、境界きょうかい確認かくにん用地ようち取得しゅとく多大ただい期間きかん費用ひようようする場合ばあいがあり、その進捗しんちょく支障ししょうしょうじる。
  • 地震じしん土砂崩どしゃくずれ、水害すいがいなどの災害さいがいにより土地とち形状けいじょうわってしまった場合ばあいもと境界きょうかい正確せいかく復元ふくげんすることができないため、迅速じんそく復旧ふっきゅう作業さぎょう支障ししょうしょうじる。
  • 地理ちり情報じょうほうシステム(GIS)を構築こうちくするさいに、ベースとなる地図ちず情報じょうほうがないため、一筆ひとふでごとの土地とち位置いち基準きじゅんとして属性ぞくせい情報じょうほうむすびつけることができず、GISの活用かつよう支障ししょうしょうじる。

調査ちょうさすすまない原因げんいん[編集へんしゅう]

調査ちょうさすすまない原因げんいん以下いかにて列挙れっきょする。

人員じんいん不足ふそく[編集へんしゅう]

  • 行政ぎょうせい需要じゅよう多様たようする一方いっぽうで、自治体じちたい職員しょくいん人件じんけん人員じんいんへの削減さくげん圧力あつりょくつよまるなか地籍ちせき調査ちょうさ実施じっし主体しゅたいである市町村しちょうそんなどの地方ちほう公共こうきょう団体だんたいにおいて、調査ちょうさ実施じっし必要ひつよう職員しょくいん確保かくほすることが困難こんなんになっている。

財政ざいせい問題もんだい[編集へんしゅう]

  • 地籍ちせき調査ちょうさようする経費けいひのうち50%はくに負担ふたんし、のこりを都道府県とどうふけん市町村しちょうそんで25%ずつ負担ふたんする。都道府県とどうふけん市町村しちょうそん負担ふたんぶんの8わりについては特別とくべつ交付こうふぜい交付こうふされるので、実質じっしつ負担ふたんは5%であるが、きびしい地方ちほう財政ざいせい状況じょうきょうなか予算よさん確保かくほすることが困難こんなんになっている。
  • また、市町村しちょうそん調査ちょうさ実施じっし要望ようぼうしていても、都道府県とどうふけん予算よさん不足ふそく制約せいやくとなり、市町村しちょうそん要望ようぼうみとめられないこともある。

市町村しちょうそん意識いしき[編集へんしゅう]

  • 地籍ちせき調査ちょうさ自治じち事務じむであるため、市町村しちょうそんみずからの判断はんだんにより実施じっしするかかを決定けっていすることになる。しかし、平成へいせい26ねん現在げんざいやく200の市町村しちょうそん調査ちょうさ着手ちゃくしゅしておらず、また着手ちゃくしゅしたにもかかわらず様々さまざま理由りゆう休止きゅうししている市町村しちょうそんやく300あるなど、調査ちょうさ効用こうよう十分じゅうぶん理解りかいしていない市町村しちょうそんがいまだに存在そんざいしている。

住民じゅうみん協力きょうりょく[編集へんしゅう]

  • 地籍ちせき調査ちょうさ実施じっしには土地とち所有しょゆうしゃ協力きょうりょく不可欠ふかけつであるが、境界きょうかい問題もんだいについて「こす」ことになりかねないとして、調査ちょうさへの協力きょうりょく消極しょうきょくてき場合ばあいがある(地籍ちせき調査ちょうさそのものが土地とちかんするトラブルを直接ちょくせつ解決かいけつするわけではなく、場合ばあいによってはかえってトラブルのもとになることもある)。

認識にんしき[編集へんしゅう]

  • 上記じょうきとの重複じゅうふくになるが、国民こくみん認識にんしきによるところがだいである。たとえば、航空こうくう写真しゃしんもしくは地形ちけい地番ちばんかさねて表示ひょうじさせたデータを公開こうかいすると、ふで界線かいせん現況げんきょうとのずれがあきらかになるとの理由りゆうでデータの公開こうかいこばむことがある。地形ちけい地番ちばんかさわせは土地とち情報じょうほう基本きほんであるが、個々ここ土地とちについてもより正確せいかく情報じょうほうつことの優位ゆういせい説明せつめいする必要ひつようがある。

地籍ちせき調査ちょうさへのこだわり[編集へんしゅう]

  • そもそも地籍ちせき調査ちょうさではなく、不動産ふどうさん登記とうきほう14じょう地図ちず以下いかほう14じょう地図ちずりゃくす。)を整備せいびすることがさい重要じゅうよう課題かだいではなかったのか。地籍ちせき調査ちょうさは、ほう14じょう地図ちず整備せいびするための手段しゅだんとしておおきな役割やくわりになっているが、「地籍ちせき調査ちょうさがすすまない」原因げんいんではなく、「ほう14じょう地図ちず整備せいびがすすまない」原因げんいんとしてかんがえるべきであろう。

地籍ちせき精度せいど[編集へんしゅう]

地籍ちせきには、測量そくりょうおよび作図さくず方法ほうほうによりさまざまな精度せいどちがいがある。測量そくりょう方法ほうほうとしては、図解ずかいほう数値すうちほう座標ざひょうほう)のちがいがあり、作図さくず方法ほうほうとしては、手書てがきトレースかペンプロッタのちがいがある。数値すうちほう座標ざひょうほう)は、計算けいさんしてあらゆるてん座標ざひょう数値すうちするのにたいし、図解ずかいほう座標ざひょう数値すうちせずに平板へいばん測量そくりょうでアリダードなどを使つかって方向ほうこうをおさえ距離きょりはかりながら作図さくずするなどの方法ほうほうである。図解ずかいほう数値すうちほう併用へいようもありうる。ペンプロッタによる作図さくずは、CADきゃどソフトからプロッタに作図さくずデータをおく機械きかい作図さくずするのにたいし、手書てがきトレースは人間にんげんによる作図さくずである。また面積めんせき計算けいさんにおいては、プラニメーターによる計測けいそく地籍ちせきからふでかいてんった座標ざひょうによる面積めんせき計算けいさんふでかい確定かくていした座標ざひょうによる面積めんせき計算けいさんなどのちがいがある。

ふでかいてん精度せいどは、現地げんち実測じっそくおよびふでかい計算けいさんにより確定かくていした座標ざひょうかどうかによる。数値すうちほうでない場合ばあいは、地籍ちせき読取よみと座標ざひょうとなるため精度せいどたかふでかい復元ふくげん不可能ふかのうである。座標ざひょう読取よみと作業さぎょうはかなりの誤差ごさともなうものであるが、技術ぎじゅつ進歩しんぽにより精度せいどたか座標ざひょう読取よみと可能かのうとなれば、これをもってじゅん確定かくてい座標ざひょうとみなすこともできよう。ただし、現況げんきょうとの照合しょうごう不可欠ふかけつである。測量そくりょう数値すうちほうおこなったとしても、作製さくせいした地籍ちせきからの読取よみと座標ざひょう面積めんせき計算けいさんすることがあり、地籍ちせき調査ちょうさといえども一様いちよう精度せいどではないことを留意りゅういしなければならない。

元来がんらい地籍ちせき調査ちょうさ目的もくてき正確せいかく地図ちず不動産ふどうさん登記とうきほう14じょう地図ちず)を作製さくせいしその結果けっか登記とうき簿反映はんえいすることにあったが、現在げんざい調査ちょうさ範囲はんいないぜんふでかいてん現地げんち立会たちあいのうえ公共こうきょう座標ざひょうにより確定かくていし、確定かくていした座標ざひょうにより面積めんせき計算けいさんし、その結果けっかにより登記とうき地積ちせき訂正ていせいし、その結果けっかだか精度せいど地図ちず出来上できあがるというながれになっている。つまり主眼しゅがんは、公共こうきょう座標ざひょうによるふでかい確定かくていである。ふでかいてん公共こうきょう座標ざひょうにより確定かくていされることで、よりこう精度せいどふでかいてん復元ふくげんできるようになった。

法的ほうてき効力こうりょく[編集へんしゅう]

地籍ちせき調査ちょうさは、地租ちそ改正かいせいさい作成さくせいされたおおやけうえふでかい現地げんち復元ふくげんし、これを確認かくにんするものであり、現在げんざい所有しょゆうけん範囲はんいもとづいてあらたなふでかい創設そうせつするものではない。したがって、調査ちょうさまえ土地とち売買ばいばい交換こうかんおこなわれていたとしても、それにもとづいて境界きょうかいせん形成けいせいされることはなく、元々もともと存在そんざいしたふでかい位置いち確認かくにんするだけである。しかし、なかには、土地とち売買ばいばいとうともな税金ぜいきん登録とうろく免許めんきょぜいなど)の支払しはらいをまぬかれるため、調査ちょうさ担当たんとうしゃだまそうとする悪質あくしつ土地とち所有しょゆうしゃ存在そんざいするということである。

なお、国土こくど調査ちょうさによる地籍ちせきは、地籍ちせき調査ちょうさ作業さぎょう規程きてい準則じゅんそく[1]もとづく作業さぎょう手順てじゅんによってされているかぎ信用しんようせいたかいとおもわれ、境界きょうかい確定かくていのための有力ゆうりょく資料しりょうとなっている[2]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 地籍ちせき調査ちょうさ作業さぎょう規程きてい準則じゅんそく - e-Gov法令ほうれい検索けんさく
  2. ^ 境界きょうかいをめぐる法律ほうりつ問題もんだい - ウェイバックマシン(2017ねん6がつ29にちアーカイブぶん) - 菊池きくち綜合そうごう法律ほうりつ事務所じむしょ

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]