ねばきん

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エルンスト・ヘッケルKunstformen der Natur自然しぜん芸術げいじゅつてき形態けいたい、1904ねん)より

ねばきん(ねんきん、えい: slime molds)とは、細胞さいぼうせい実体じったい形成けいせいする能力のうりょくをもつアメーバさま単細胞たんさいぼう生物せいぶつ総称そうしょう。この性質せいしつ多様たよう系統けいとうかく生物せいぶつしめすことがられており、単一たんいつ分類ぶんるいぐんには対応たいおうしない。狭義きょうぎにはそのうち変形へんけいきん真正しんせいねばきん)をすが、ほん項目こうもくでは広義こうぎねばきんについての一般いっぱんろんと、我々われわれ認識にんしき変遷へんせんについてあつかう。個々ここ生物せいぶつについてはそれぞれの項目こうもく参照さんしょうのこと。

用語ようご[編集へんしゅう]

ねばきん」というかたりはおそらく英語えいごslime mold直訳ちょくやくしたものであり、南方みなかた熊楠くまぐす業績ぎょうせき紹介しょうかいする目的もくてきで1906ねん海藻かいそう学者がくしゃ遠藤えんどう吉三郎きちさぶろうもちいたものである[1]ねば菌類きんるいもちいられてきた高次こうじ分類ぶんるいぐん学名がくめいのうち、MyxomycotaMyxomycetesなどは直訳ちょくやくすればやはり「ねばきん」となる[2]

位置付いちづ[編集へんしゅう]

ねば菌類きんるいははじめ植物しょくぶつかいなかはら菌類きんるいちか菌類きんるいだとかんがえられていた[1]。しかし生活せいかつたまきなかアメーバのように運動うんどうして微生物びせいぶつ捕食ほしょくする時期じきがあることから、19世紀せいきなかばにアントン・ド・バリー動物どうぶつてき存在そんざい(Mycetozoa)だと主張しゅちょうした。これによって次第しだい植物しょくぶつとも動物どうぶつともつかない原始げんしてき生物せいぶつ原生げんせい生物せいぶつとして認識にんしきされるようになる。もっともねば菌類きんるい研究けんきゅうつづ菌類きんるい学者がくしゃたちが中心ちゅうしんになってすすめた。20世紀せいき後半こうはんになってロバート・ホイッタカーかいせつきんかいふくめたことで菌類きんるいとしての認識にんしき一時いちじいきおいをかえしたが、かく生物せいぶつ全体ぜんたい系統けいとう関係かんけい見直みなおされるなかできんとの類縁るいえんせいはほぼ一貫いっかんして否定ひていされつづけている。

広義こうぎねば菌類きんるい[編集へんしゅう]

20世紀せいきなかごろのもっとも広義こうぎねば菌類きんるい(Mycetozoa; どうきんもん変形へんけいきんもん)は、ジョン・タイラー・ボナー英語えいごばん(1959)[3]にしたがえば以下いかの5ぐんであった。

ラビリンチュラるい Labyrinthulales
水生すいせいねばきんともいう。しゅとして海産かいさん網状もうじょう分泌ぶんぴつぶつうえ単細胞たんさいぼう細胞さいぼうたいすべるようにうごく。
ネコブカビるい Plasmodiophorales
寄生きせいねばきんともいう。しゅとして植物しょくぶつ細胞さいぼうない寄生きせい細胞さいぼうないでアメーバ運動うんどうする変形へんけいたい形成けいせい。やがて胞子ほうしかたまり変形へんけいする。
変形へんけいきん Myxomycetales
真正しんせいねばきん真性しんせいねばきん)ともいう。栄養えいようたい多核たかく網状もうじょう変形へんけいたいで、胞子ほうし形成けいせいにはこまかくかれて多数たすうちいさな実体じったいつくる。モジホコリ(Physarum)など。
細胞さいぼうせいねばきん Acrasiales
単細胞たんさいぼう小型こがたのアメーバで生活せいかつし、それらが多数たすう集合しゅうごうして実体じったい形成けいせいする。タマホコリカビるいDictyosteliumなど)とアクラシスるいの2つがある。
原生げんせいねばきん Protosteliales
変形へんけいきんのような変形へんけいたい形成けいせいするがごく小型こがた胞子ほうし管状かんじょうさきに1つそとせいする。

ボナーによればこれらの共通きょうつうてんは「菌類きんるい動物どうぶつ性質せいしつあわ原始げんしてきぐんからだせい生物せいぶつで、多少たしょうなりともねばねばしている」ことのみであり、相互そうご関係かんけいがあるかどうか明確めいかく便宜べんぎじょうぐんであった[3]

その、まずラビリンチュラるいとネコブカビるいのぞかれ[4]、21世紀せいきはいって以降いこうこれらをねばきんとしてあつかうことはまれになっている。系統的けいとうてきにはラビリンチュラるいストラメノパイルに、ネコブカビるいリザリアふくまれている[5]一方いっぽうのこり3ぐん真正しんせいねばきん原生げんせいねばきん細胞さいぼうせいねばきん)はつづねばきんとしてあつかわれているが、分子ぶんし系統けいとう解析かいせきによれば原生げんせいねばきん細胞さいぼうせいねばきん系統けいとうてきである[6][7]。しかし真正しんせいねばきん原生げんせいねばきん、そして細胞さいぼうせいねばきんのうちタマホコリカビるいは、アメーボゾアふくまれており、少々しょうしょう例外れいがいのぞけばこの3ぐんたん系統けいとうてきである[6][7]

アメーボゾア

省略しょうりゃく

コノーサ

Variosea

アメーバるい

Eumycetozoa

細胞さいぼうせいねばきん一部いちぶ

真正しんせいねばきん

原生げんせいねばきん一部いちぶ

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b 萩原はぎはら博光ひろみつ ちょ変形へんけい菌類きんるい」、国立こくりつ科学かがく博物館はくぶつかん へん へん菌類きんるいのふしぎ:かたちとはたらきの驚異きょうい多様たようせい』(だい2はん東海大学とうかいだいがく出版しゅっぱん国立こくりつ科学かがく博物館はくぶつかん叢書そうしょ〉、2014ねん、88-94ぺーじISBN 9784486020264 
  2. ^ 松本まつもとあつしねばきん分類ぶんるいがく歴史れきし」『ねばきんおどろくべき生命せいめいりょくなぞ~』まことぶんどう新光しんこうしゃ、2007ねん、120-123ぺーじISBN 978-4-416-20711-6 
  3. ^ a b Bonner, J.T (1959). “Aggregation Organisms”. The cellular slime molds. Investigations in the biological sciences. Princeton University Press. pp. 3-18. NCID BA38289214 
  4. ^ Olive, L.S. (1975). “Introduction and Keys to Higher Taxa”. The Mycetozoans. Academic Press. pp. 1-7. ISBN 0-12-526250-7 
  5. ^ Adl, S. M. et al. (2019). “Revisions to the Classification, Nomenclature, and Diversity of Eukaryotes” (pdf). J. Eukaryot. Microbiol. 66 (1): 4-119. doi:10.1111/jeu.12691. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jeu.12691/pdf. 
  6. ^ a b Brown, Matthew W., and Silberman, Jeffrey D. (2013). “The Non-dictyostelid Sorocarpic Amoebae”. In Romeralo, Baldauf, Escalante (eds.). Dictyostelids: Evolution, Genomics and Cell Biology. pp. 219-242. doi:10.1007/978-3-642-38487-5_12. ISBN 978-3-642-38487-5 
  7. ^ a b Kang, et al. (2017). “Between a Pod and a Hard Test: The Deep Evolution of Amoebae”. Mol. Biol. Evol. 34 (9): 2258–2270. doi:10.1093/molbev/msx162.