思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かい

思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かい（しそうのかがくけんきゅうかい）は日本にっぽんの思想しそう・社会しゃかい運動うんどう集団しゅうだんである。

沿革えんかく

鶴見つるみ俊輔しゅんすけが1946年ねんに雑誌ざっし『思想しそうの科学かがく』を刊行かんこうする際さいの同人どうじん7名めいが、思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいの発端ほったんであった。人々ひとびとの思想しそうを経験けいけん科学かがく的てきに研究けんきゅうする会かいという意味いみで「思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かい」という名前なまえがつけられた。この最初さいしょの同人どうじん7名めいは鶴見つるみ俊輔しゅんすけ、鶴見つるみ和子かずこ、武谷たけや三男みつお、武田たけだ清子きよこ、都留つる重人しげと、丸山まるやま真男まさお、渡辺わたなべ慧としである。その後ご1949年ねんに思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいが正式せいしきに発足ほっそくする。川島かわしま武たけし宜よろしが会長かいちょうに就任しゅうにんし、多元たげん主義しゅぎを標榜ひょうぼうする学際がくさい的てき研究けんきゅう会かいが組織そしきされ、後のちに竹内たけうち好よしみ、久野くの収おさむ、いいだももらも加くわわった。《アメリカ思想しそう史し》、《転向てんこう》、《占領せんりょう》等ひとし多おおくの共同きょうどう研究けんきゅうが行おこなわれ、数すう多おおくの著名ちょめいな研究けんきゅう者しゃ、評論ひょうろん家かを育成いくせいし、いわゆる学界がっかい、論壇ろんだんのスターダムとしても機能きのうした。

雑誌ざっし『思想しそうの科学かがく』は思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいの機関きかん誌しとして先駆せんく社しゃ(1946-51)、建たて民社みんしゃ(1953-54)、講談社こうだんしゃ(1954‐55)、中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ(1959‐61)、思想しそうの科学かがく社しゃ（1961-1996）と発行はっこう所しょを変かえて刊行かんこうされた。1996年ねんの雑誌ざっし『思想しそうの科学かがく』の休刊きゅうかん後ごも思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいの活動かつどうは続つづけられている。研究けんきゅう会かいの正式せいしきの機関きかん誌しではないが、同人どうじん誌し『活字かつじ以前いぜん』が思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいの会員かいいんの多おおくが記事きじを寄よせる雑誌ざっしとして、現在げんざい、機能きのうしている。また雑誌ざっし『思想しそうの科学かがく』休刊きゅうかん以前いぜんも以降いこうも、『思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かい 会報かいほう』が、研究けんきゅう会かいの会員かいいん相互そうごの情報じょうほう交換こうかんの場ばとして使つかわれている。なお、1954～1971までの『会報かいほう』は柏書房かしわしょぼうから復刻ふっこく版ばんが刊行かんこうされている。

意義いぎ・特色とくしょく

鶴見つるみ俊輔しゅんすけがハーバード大学だいがくで学まなんできたアメリカン・プラグマティズムを起点きてんとする研究けんきゅう会かいであり、プラグマティズムの多元たげん主義しゅぎ（多元たげん論ろん）が大切たいせつにされた。特とくに大学だいがく内ないの研究けんきゅう者しゃと在野ざいやの研究けんきゅう者しゃとの交流こうりゅうを意識いしきした「民間みんかんアカデミズム」的てきな研究けんきゅう会かいであるという点てん（今いまでこそ世間せけんで当あたり前まえになっているが）、哲学てつがく者しゃだけでなく、ふつうの職業しょくぎょう人じんや生活せいかつ者しゃが有ゆうする哲学てつがくや思想しそうを掘ほり起おこしていこうとした点てんで、先駆せんく的てきな研究けんきゅう会かいであった。また多元たげん主義しゅぎであるため、いわゆる市民しみん派はと呼よばれる進歩しんぽ的てき知識ちしき人じんや「声こえなき声こえの会かい」、「ベ平連べへいれん」（ベトナムに平和へいわを!市民しみん連合れんごう）との人脈じんみゃく的てきな接点せってんも多おおい。

雑誌ざっし『思想しそうの科学かがく』は思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいの機関きかん誌しではあるが、実際じっさいには会員かいいんの投稿とうこう論文ろんぶんを中心ちゅうしんに誌面しめんが構成こうせいされるというよりは、会員かいいんの代表だいひょうが編集へんしゅう委員いいんを務つとめ、外部がいぶのライターに寄稿きこうを頼たのむ記事きじが多おおかった。また鶴見つるみ俊輔しゅんすけが面白おもしろいと思おもった人物じんぶつに『思想しそうの科学かがく』への執筆しっぴつを依頼いらいし、執筆しっぴつを引ひき受うけてくれたら研究けんきゅう会かいへの入会にゅうかいも勧すすめるという方向ほうこうで、初期しょきの会員かいいんは増ふやしていった。以上いじょうの理由りゆうから『思想しそうの科学かがく』は思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいの機関きかん誌しでありつつ商業しょうぎょう的てきな広ひろがりをもちえた。そのような商業しょうぎょう性せいが雑誌ざっし『思想しそうの科学かがく』が思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいの機関きかん誌しでありつつ、戦後せんご思想しそうに一定いっていの影響えいきょう力りょくをもった理由りゆうである。つまり雑誌ざっし『思想しそうの科学かがく』は思想しそうの科学かがく社しゃ等とうその折々おりおりの版元はんもとの雑誌ざっしでありつつ、思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいの機関きかん誌しであるという二に重じゅうの性格せいかくを実際じっさいには負おっていた。

以上いじょうのべたように、雑誌ざっしは研究けんきゅう会かいの機関きかん誌しであるが相対そうたい的てき自律じりつ性せいがあった。そのことが一部いちぶの会員かいいんたちの不満ふまんの種たねでもあったことが、『思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かい 会報かいほう』の古ふるい号ごうを読よむと、分わかる。研究けんきゅう会かいはプラグマティズムに由来ゆらいする多元たげん主義しゅぎを目指めざしつつ、雑誌ざっしは新しん左翼さよく系けいの記事きじに偏へんしている、等々とうとう。しかしまた、雑誌ざっし『思想しそうの科学かがく』、版元はんもとの思想しそうの科学かがく社しゃ、思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かい相互そうごの路線ろせんのズレとか緊張きんちょう関係かんけいが、研究けんきゅう会かいの活力かつりょくともなっていた。

なお、雑誌ざっし『思想しそうの科学かがく』あるいは思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいの多元たげん主義しゅぎと中井なかい正一しょういち、久野くの収おさむ、新村しんむら猛たけし、武谷たけや三男みつおらが1930年代ねんだいに刊行かんこうした『世界せかい文化ぶんか』『土曜日どようび』との関連かんれん性せいも、鶴見つるみ俊輔しゅんすけによって指摘してきされている。「『思想しそうの科学かがく』の多元たげん主義しゅぎは、創刊そうかん同人どうじんの一人ひとり、武谷たけや三男みつおが、戦前せんぜんの雑誌ざっし『世界せかい文化ぶんか』と『土曜日どようび』から受うけついだもので、思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいと雑誌ざっしの歴史れきしを通つうじて除名じょめいがおこなわれたことがない、という事実じじつによって、かろうじて今日きょうまで双方そうほうに保たもたれている」と、近年きんねん、鶴見つるみは過去かこを振ふり返かえって語かたっている。実際じっさい、『世界せかい文化ぶんか』同人どうじんは武谷たけや、久野くの、新村しんむら、和田わだ洋一よういちなど多おおくが思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいに関かかわってきたし、思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいにおける京都大学きょうとだいがく人文じんぶん科学かがく研究所けんきゅうじょ系けいの人脈じんみゃくを代表だいひょうする人物じんぶつである桑原くわばら武夫たけおは、中井なかい正一しょういちとは親したしかった。

このように『世界せかい文化ぶんか』、京大きょうだい人文研じんぶんけんという京都きょうとの人脈じんみゃくがこの研究けんきゅう会かいの大おおきな流ながれとしてあり、鶴見つるみ俊輔しゅんすけ自身じしん、京大きょうだい人文研じんぶんけん助教授じょきょうじゅや同志社大学どうししゃだいがく教授きょうじゅを務つとめたこともある。その一方いっぽうで研究けんきゅう会かいの本部ほんぶも思想しそうの科学かがく社しゃも都内とないにあり、東京とうきょうと京都きょうとに拠点きょてんをもちつつ、読者どくしゃの会かいや地方ちほう集会しゅうかい等とうを通つうじて、地域ちいきの多元たげん性せいも掘ほり起おこしていくというのが、この研究けんきゅう会かいの特色とくしょくであった。

丸山まるやま真男まさおは終生しゅうせい会員かいいんであったが、研究けんきゅう会かいはなんでもありの「イラハイイラハイ主義しゅぎ」と揶揄やゆしている。

歴代れきだい会長かいちょう

• 川島かわしま武たけし宜よろし（1950-）
• 竹内たけうち好よしみ（1953-55)）
• 磯野いその誠一せいいち（1955-1957）
• 日高ひだか六郎ろくろう（1958-1959）
• 久野くの収おさむ（1959-1962）
• 市井いちい三郎さぶろう（1962）
• 鶴見つるみ俊輔しゅんすけ（1962-1963）
• 片桐かたぎりユズル（1963-1964）
• 安田やすだ武たけし（1964-1966）
• 加太かだこうじ（1966-1967）（1979-1980）
• 佃つくだ実みのる夫おっと（1967-1969）
• 矢部やべ基はじめ晴はれ（1969-1971）
• 上野うえの博正ひろまさ（1971-1973）
• 折原おりはら脩三しゅうぞう（1973-1974）
• 山領やまりょう健二けんじ（1974-1975）
• 石井いしい紀子のりこ（1975-1976）
• 渡辺わたなべ一衛かずえ（1976-1977）
• しまねきよし（1977-1978）
• 阿おもね伊い染しみ徳美とくみ（1978-1979）
• 後藤ごとう宏行ひろゆき（1980-1981）加太かだこうじ氏しの思想しそうの科学かがく社しゃ社長しゃちょう就任しゅうにんに伴ともない会長かいちょう代行だいこうを務つとめる
• 田村たむら紀雄としお（1981-1982）
• 渋谷しぶや定輔ていすけ（1982-1986）
• 大野おおの明男あきお（1986-1988）
• 天野あまの正子まさこ（1988-1992）
• 安田やすだ常雄つねお（1992-2004）
• 大河原おおかわら昌夫まさお（2004-2010）
• 上原うえはら隆たかし（2010-2011）
• 後藤ごとう嘉宏よしひろ（2011-）

注ちゅう）天野あまの正子まさこ、石井いしい紀子のりこ、安田やすだ常雄つねお、山領やまりょう健けん二にの「思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かい」会長かいちょう就任しゅうにん時期じきにおいては、『「思想しそうの科学かがく」五ご十じゅう年ねん史し 源流げんりゅうから未来みらいへ』（思想しそうの科学かがく社しゃ）の「執筆しっぴつ者しゃプロフィール」では、在任ざいにん期間きかんと在任ざいにん年度ねんどが混在こんざいしているようですので、『思想しそうの科学かがく 会報かいほう』の評議ひょうぎ員いん会かいの記録きろくが掲載けいさいされている「事務じむ局きょくだより」の記事きじをもとに在任ざいにん期間きかんで統一とういつしました。

参考さんこう文献ぶんけん

• 横尾よこお夏なつ織お「「思想しそうの科学かがく」における多元たげん主義しゅぎの展開てんかいと大衆たいしゅうへのアプローチ」『早稲田大学わせだだいがく社会しゃかい科学かがく部ぶ創設そうせつ40周年しゅうねん記念きねん 学生がくせい論ろん文集ぶんしゅう』、早稲田大学わせだだいがく社会しゃかい科学かがく学会がっかい、2006年ねん11月、199-208頁ぺーじ、CRID 1050001202468454528、NAID 120002228047。 
• 後藤ごとう嘉宏よしひろ「中井なかい正一しょういちと思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かいに関かんする研究けんきゅう序説じょせつ: 思想しそう集団しゅうだんの継続けいぞく性せいと断続だんぞく性せいに着目ちゃくもくして」『コミュニケーション科学かがく』第だい24巻かん、東京経済大学とうきょうけいざいだいがく コミュニケーション学会がっかい、2006年ねん、125-139頁ぺーじ。 
• 『思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かい』 - コトバンク
• 鶴見つるみ俊輔しゅんすけ「態度たいどと知識ちしき――『思想しそうの科学かがく』小史しょうし」『思想しそう』1021号ごう,2009年ねん
• 竹内たけうち, 洋よう『メディアと知識ちしき人じん - 清水しみず幾太郎いくたろうの覇権はけんと忘却ぼうきゃく』中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ、2012年ねん。ISBN 978-4120044052。 

外部がいぶリンク

• 思想しそうの科学かがく研究けんきゅう会かい