脱出だっしゅつシステム

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LESの発射はっしゃ試験しけんアポロPAT-1

脱出だっしゅつシステム(うちあげだっしゅつシステム、Launch Escape System: LES または Launch Abort System: LAS)とは、ロケット失敗しっぱい有人ゆうじん宇宙船うちゅうせん乗員じょういんモジュールを離脱りだつさせる機構きこうである。たとえば爆発ばくはつ危機ききなど、乗員じょういんせまった脅威きょういがある緊急きんきゅうに、げロケットから乗員じょういんモジュールを瞬時しゅんじ離脱りだつさせることを目的もくてきとする。

複数ふくすう方式ほうしき存在そんざいするが、なかでも乗員じょういんモジュールの先端せんたんけられる脱出だっしゅつロケットとばれる形式けいしきが、アポロ宇宙船うちゅうせんソユーズ宇宙船うちゅうせんはじめひろ使用しようされてきた。脱出だっしゅつロケットは乗員じょういんモジュールのうえけられ、ロケットエンジンの噴流ふんりゅう乗員じょういんモジュールにたらないように角度かくどけられた分離ぶんりノズルとなっていることが特徴とくちょうである。乗員じょういんモジュールのうえとうのような形態けいたいのものには、げプロセスを中断ちゅうだんして作動さどうさせることから「アボートタワー」という通称つうしょうがある。

脱出だっしゅつロケット[編集へんしゅう]

アポロ宇宙船うちゅうせん脱出だっしゅつシステム
炎上えんじょうするロケットから脱出だっしゅつするソユーズT-10-1ごうのカプセル。これは試験しけんあやま発射はっしゃ以外いがい脱出だっしゅつロケットがもちいられたはつれいである。

脱出だっしゅつロケットはアメリカのマーキュリー計画けいかくアポロ計画けいかく宇宙船うちゅうせん使つかわれていた。ロシアのソユーズ宇宙船うちゅうせんではいま使つかわれている。実際じっさいひとった[1]有人ゆうじん宇宙うちゅうでの作動さどうれい2018ねん現在げんざい1983ねん9月26にちソユーズT-10-12018ねん10月11にちソユーズMS-10れいしかない。ソユーズT-10-1では、げの直前ちょくぜん発生はっせいした火災かさいによりロケットが爆発ばくはつするすうびょうまえに、脱出だっしゅつロケットで乗員じょういんカプセルが離脱りだつ安全あんぜん場所ばしょまで到達とうたつした。この脱出だっしゅつ乗員じょういんけた加速かそくは、14から17Gが5秒間びょうかんであった。つたえられるところによると、カプセルは高度こうど2,000mまでたっし、発射はっしゃだいから4kmの地点ちてん着地ちゃくちしたとのことである。ソユーズMS-10では、やく90びょうだい1だん分離ぶんりするさいに、だい1だんだい2だん接触せっしょくしてだい2だん破損はそんしたためロケットが落下らっかはじめたことからげが中断ちゅうだんされた。この段階だんかいではロケット先端せんたん脱出だっしゅつロケットはすで廃棄はいきされていたが、フェアリングに搭載とうさいされた脱出だっしゅつようロケットが作動さどう[2]。カプセルは最大さいだい高度こうど93kmに到達とうたつし、発射はっしゃから19ふん41びょうてんからやく400kmはなれたジェズカズガン東方とうほう20kmの地点ちてん着地ちゃくちした。

スペースシャトル後継こうけいとして開発かいはつされているあたらしいオリオン宇宙船うちゅうせんでも、脱出だっしゅつロケットシステムが採用さいようされている。

また、商業しょうぎょう有人ゆうじん宇宙船うちゅうせんであるスペースXしゃドラゴン2開発かいはつちゅうボーイングしゃCST-100でもLASが装備そうびされるが、これは従来じゅうらい使つかわれていたいただき装備そうびした固体こたいロケットでげる牽引けんいんしき (tractor rocket) ではなく、宇宙うちゅうしたがわ装備そうびした液体えきたいロケットでげるタイプ (pusher system) となる。この方式ほうしき利点りてんは、通常つうじょう投棄とうきされることになる使用しようしなかった推進すいしんやく軌道きどうじょうでの推進すいしんなどにも使つかこと出来できるため効率こうりついというてんにある。ただし、点火てんか直後ちょくご姿勢しせい制御せいぎょするのがむずかしいという問題もんだいもあり、コンピュータの能力のうりょく向上こうじょう必要ひつようだった。また過去かこ採用さいようされなかった理由りゆう液体えきたいロケットは推力すいりょく急激きゅうげきげるのがむずかしかったことおおきいが、近年きんねんのロケット技術ぎじゅつ開発かいはつによりこの問題もんだい解決かいけつされた [3]

宇宙うちゅうしたがわ装備そうびした液体えきたいロケットでげるタイプ (pusher system) の飛行ひこう検証けんしょうは、2009ねん7がつにMLAS (Max Launch Abort System) 飛行ひこう試験しけんおこなわれた。

射出しゃしゅつ座席ざせき[編集へんしゅう]

ロシアのボストークとアメリカのジェミニ計画けいかく宇宙船うちゅうせんでは、ともに射出しゃしゅつ座席ざせき使つか設計せっけいだった。欧州おうしゅう宇宙うちゅう機関きかんエルメスとロシアのブランでも、つね乗員じょういんせてげられるのであれば、射出しゃしゅつ座席ざせき採用さいようしていただろう。ソユーズT-10-1でしめされたように、LESは発射はっしゃだいから乗員じょういん区画くかくを、パラシュートがひらくのに充分じゅうぶん高度こうどまではこべる必要ひつようがある。必然ひつぜんてきに、LESでは強力きょうりょく固体こたいロケットを使つかわざるをず、おおきくておもいものとなる。射出しゃしゅつ座席ざせきほうがよりかるく、地球ちきゅうへの帰還きかん途中とちゅうにも使つかえる可能かのうせいがあることから、可能かのうであれば宇宙船うちゅうせん設計せっけいしゃはそちらを使つかうように設計せっけいしたいだろう。しかし、独立どくりつした座席ざせきとそれぞれに脱出だっしゅつハッチが必要ひつようとなるため、乗員じょういんおお宇宙船うちゅうせんでは射出しゃしゅつ座席ざせき実用じつようてきではない。

スペースシャトルでは、初期しょきの「試験しけん飛行ひこう」では射出しゃしゅつ座席ざせき装備そうびしていたが、マッハ3以下いか速度そくどでしか使用しようできないなどの問題もんだいがあり実用じつよう段階だんかいになるとはずされてしまった。チャレンジャーごう爆発ばくはつ事故じこのちのこりのオービタにはサイドハッチをばし乗員じょういんがパラシュート降下こうかできるように改良かいりょうくわえられたが、この方法ほうほうはオービターが高度こうど6km以下いか滑空かっくうしている状況じょうきょうでしか使用しようできず、段階だんかいでの脱出だっしゅつ手段しゅだん依然いぜんとして用意よういされない状況じょうきょうであった[4]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  1. ^ 無人むじんテストでのじつ作動さどうれいマーキュリー・アトラス3ごうがある。
  2. ^ Soyuz failure probe narrows focus on collision at booster separation” (英語えいご). Spaceflight Now (2018ねん10がつ13にち). 2018ねん10がつ21にち閲覧えつらん
  3. ^ “Launch Aborts Challenge Rocket Engineers”. NASA. (2012ねん1がつ30にち). http://www.nasa.gov/exploration/commercial/crew/LASdevelopment.html 2014ねん3がつ23にち閲覧えつらん 
  4. ^ Paul Marks (2010ねん7がつ30にち). “What's the best way to eject astronauts during lift-off?”. New Scientist. http://www.newscientist.com/article/dn19239-whats-the-best-way-to-eject-astronauts-during-liftoff.html?DCMP=OTC-rss&nsref=space 2010ねん8がつ1にち閲覧えつらん 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]