枕まくら投なげ

枕まくら投なげ会場かいじょうになりがちな日本にっぽんの旅館りょかん風景ふうけい

枕まくら投なげ（まくらなげ）は、複数ふくすう人じんで枕まくらを投なげ合あう遊戯ゆうぎである。複数ふくすうの参加さんか者しゃと、適当てきとうな広ひろさの場所ばしょ、十分じゅうぶんな数かずの枕まくらがあれば実行じっこうできる。また、チームを組くんで行おこなうこともある。移動いどう教室きょうしつや修学旅行しゅうがくりょこうなどの学校がっこうの宿泊しゅくはく行事ぎょうじで、しばしば教師きょうしの目めを盗ぬすんで行おこなわれる。枕まくら合戦かっせんとも呼よぶが、これはピローファイト（枕まくら叩はたき）を意味いみする場合ばあいもある。

歴史れきし

枕まくら投なげの歴史れきしは、現在げんざいのところ、ほとんど分わかっていない。「枕まくら投なげ」という言葉ことばそのものも、多おおくの国語こくご辞典じてんには未み記載きさいの語かたりであり、文献ぶんけん上じょうの初出しょしゅつ例れいも明あきらかでない。

江戸えど時代じだい初期しょきに使つかわれていた括くくり枕まくらの構造こうぞうは現在げんざいのものに近ちかいが、髷まげを結ゆうのが一般いっぱん的てきであった江戸えど時代じだい中期ちゅうきから明治めいじ・大正たいしょう頃ごろまでは木き箱ばこに小型こがたの括くくり枕まくらを括くくりつけた箱枕はこまくらや木材もくざいを加工かこうした撥ばち枕まくら、陶磁器とうじき製せいの陶枕とうちんなども多おおく使つかわれていた。

枕まくら投なげがいつ頃ごろ始はじまったかを示しめす決定的けっていてきな資料しりょうはないが、1924年ねん（大正たいしょう13年ねん）に出版しゅっぱんされた『東京とうきょう市立しりつ小学校しょうがっこう児童じどう 震災しんさい記念きねん文集ぶんしゅう 高等こうとう科かの巻まき』という書籍しょせきに掲載けいさいされている児童じどうの作文さくぶんに、「枕まくら投なげ」が出でてくる。

思おもい出だせば去年きょねんの八はち月がつ我わが高等こうとう小学校しょうがっこう生徒せいと数すう十じゅう人にんで武たけ州しゅうの御嶽山みたけさんへ登山とざんした事ことがあった。彼かれの時ときは実じつに面白おもしろかった。昼ひるの疲つかれを忘わすれて床ゆかの中なかで枕まくら投なげをした。室しつは暗くらい誰だれが投なげたか、枕まくらは友人ゆうじんに当あたった、友人ゆうじんは思おもわず痛いたいと声こえを上あげた。此の声こえを聞きくと皆みなクスクスクスと笑わらい出だした。 — 東京とうきょう市し学務がくむ課か（編へん）『東京とうきょう市立しりつ小学校しょうがっこう児童じどう 震災しんさい記念きねん文集ぶんしゅう 高等こうとう科かの巻まき』培風館ばいふうかん、1924年ねん（大正たいしょう13年ねん）、293ページ。
旧きゅう字じ旧きゅう仮名遣かなづかいの原文げんぶんを新字しんじ新しん仮名遣かなづかいに改あらためて引用いんよう。文字もじ強調きょうちょうは引用いんよう者しゃ。

また太平洋戦争たいへいようせんそう末期まっきに沖縄おきなわ県けんから学童がくどう疎開そかいした対馬つしま丸まるの生存せいぞん者しゃが、「船内せんないで枕まくら投なげに興きょうじた」旨むねの証言しょうげんをしている。醒泉国民こくみん学校がっこう（京都きょうと市し下京しもぎょう区く）の1943年ねん卒業生そつぎょうせいの体験たいけん談だんにも枕まくら投なげが登場とうじょうする。

西鉄にしてつ観光かんこうバス（福岡ふくおか県けん）が2004年ねん、現在げんざいの団塊だんかい世代せだい向むけに修学旅行しゅうがくりょこうを再現さいげんする旅行りょこうを企画きかくしたところ、再現さいげんの要望ようぼうが一番いちばん強つよかったのが旅館りょかんでの枕まくら投なげだったという。また、2010年ねんには石川いしかわ県けんの温泉おんせん旅館りょかんが同窓会どうそうかい向むけとして枕まくら投なげ専用せんよう枕まくらを用意よういするなどの宿泊しゅくはくプランを実施じっししている。その背景はいけいには、主おもに1950年代ねんだいから70年代ねんだいの修学旅行しゅうがくりょこうの話はなしで枕まくら投なげの思おもい出でが数多かずおおく登場とうじょうするように、枕まくら投なげが最もっとも親したしまれたのが団塊だんかい世代せだいだったということがある。

競技きょうぎ化か

比較的ひかくてき大だい規模きぼなイベント等とうで行おこなわれる枕まくら投なげでは、独自どくじのルールが設定せっていされることもある。たとえば、2001年ねんに兵庫ひょうご県けん有馬ありま温泉おんせん・岡山おかやま県けん湯原ゆはら温泉おんせん・広島ひろしま県けん宮浜温泉みやはまおんせんで順次じゅんじ開催かいさいされた「温泉おんせん旅館りょかんまくら投なげ世界せかい選手権せんしゅけん」においては、あたかも砲丸投ほうがんなげのように、投擲とうてきエリアから着地ちゃくちエリアに向むけて枕まくらを投なげ、飛ひ距離きょりを競きそうことを目的もくてきとした。しかしながら、これは遊戯ゆうぎというよりは競技きょうぎであり、一般いっぱんにいわゆる枕まくら投なげの概念がいねんとは必かならずしも相容あいいれない。2014年ねん大会たいかいには室伏むろふし由佳ゆかも出場しゅつじょうし世界せかい記録きろくを出だしたが直後ちょくごに学生がくせい時代じだいのライバル選手せんしゅに記録きろくを更新こうしんされた。

また、米べいニューヨークやサンフランシスコなどの「ピローファイト」の催もよおしが「枕まくら投なげ」として紹介しょうかいされることがあるが、これは、枕まくらで互たがいに相手あいてを打擲ちょうちゃくする遊ゆう戯おどけないし一種いっしゅの格闘かくとうであり、一般いっぱん的てきに考かんがえられている枕まくら投なげとは異質いしつである。中国ちゅうごく湖南こなん省しょう長ちょう沙すな市しでの「枕頭ちんとう大戦たいせん」は、相手あいてに枕まくらを投なげたり、相手あいてを枕まくらで打うったりするもので、日本にっぽんの修学旅行しゅうがくりょこうでの枕まくら投なげと似にる部分ぶぶんもあるが、イベントとして戸外こがいで盛大せいだいに行おこなわれる点てんが異ことなっている。

日本にっぽんの伝統でんとう的てきな「枕まくら投なげ」にルールを設定せっていしてスポーツ化かされた「全日本ぜんにほんまくら投なげ大会たいかいin伊東いとう温泉おんせん」。

2013年ねんからは静岡しずおか県けん伊東いとう温泉おんせんにて「全日本ぜんにほんまくら投なげ大会たいかいin伊東いとう温泉おんせん」が開催かいさいされている。これは「まくら投なげ」のスポーツ化かに近ちかく、8対たい8のドッジボール形式けいしきで実施じっしされ、ルールは40畳じょうのフィールド内ないで、温泉おんせん浴衣ゆかたを着用ちゃくようしクラッシュラテックスの素材そざいの入はいった専用せんよう枕まくらが使つかわれる。大将たいしょう、アタッカー、リベロ、サポーターという4つの役割やくわりが存在そんざいしており、布団ふとんを盾たてにして防御ぼうぎょが可能かのう、大将たいしょうが当あたったらその場ばで負まけ、「先生せんせいが来きたぞ〜」コールによって10秒間びょうかん試合しあいの進行しんこうを止とめて相手あいて陣地じんちの枕まくらを回収かいしゅうが出来できる等ひとし、一般いっぱん的てきにイメージされる枕まくら投なげに近ちかづける形かたちでルールが制定せいていされた。伊東いとう温泉おんせんだけではなく全国ぜんこく的てきな予選よせん会かいへも発展はってんし、伊東いとう温泉おんせん発祥はっしょうの公式こうしきルールが浸透しんとうしている。伊東いとう温泉おんせん発祥はっしょうの公式こうしきルールを用もちいて実施じっしされる枕まくら投なげのことを「スポーツ枕まくら投なげ」と呼よぶこともある。

受賞じゅしょう

スポーツ枕まくら投なげ専用せんようの競技きょうぎ枕まくらやユニフォーム用ようの温泉おんせん浴衣ゆかたが開発かいはつされ、テレビのバラエティ番組ばんぐみや企業きぎょうPRにも活用かつようされている。

世界せかいでも権威けんいある広告こうこく賞しょう「アドフェスト（アジア太平洋たいへいよう広告こうこく祭さい）２０２１」で、スポーツ枕まくら投なげの一連いちれんの広報こうほう宣伝せんでん活動かつどうを高たかく評価ひょうかされ、広告こうこく祭さいの独自どくじ賞しょうとして知しられる「ロータス・ルーツ」部門ぶもんの最優秀さいゆうしゅう賞しょうに輝かがやいた。同どう部門ぶもんでの日本にっぽんの受賞じゅしょうは静岡しずおか県けん伊東いとう市しのみ。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『Savemation 2003年ねん1月がつ号ごう』、アズビル

関連かんれん項目こうもく

• ピローファイト
• こどもの文化ぶんか

外部がいぶリンク

• 温泉おんせん旅館りょかんまくら投なげ世界せかい選手権せんしゅけん - 飛ひ距離きょり競争きょうそう
• 全国ぜんこくまくら投なげ大会たいかい