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殿しんがり

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殿様とのさまから転送てんそう

殿しんがり(との)は、貴人きじん代名詞だいめいしである。てんじて、殿どの(-どの)は、人名じんめい職名しょくめいなどののちけて敬称けいしょうとする接尾せつびである。

貴人きじん代名詞だいめいし[編集へんしゅう]

殿しんがり(との)は、貴人きじんうやまって代名詞だいめいしである。

元々もともと貴人きじん邸宅ていたくのことをかたりであるが、婉曲えんきょくてきにそこに貴人きじんのことをす。近代きんだい以前いぜん日本にっぽんでは、ひと名前なまえ直接ちょくせつぶことは非礼ひれいにあたり、とく公家くげ武士ぶし相手あいてぶときに官職かんしょく相手あいて邸宅ていたくがある地名ちめいに「殿しんがり」をつけることがおおく、その呼称こしょう家名かめいとして定着ていちゃくした。

たんに「殿しんがり」という表現ひょうげんは、平安へいあん時代じだいには摂政せっしょう関白かんぱくしていた。次第しだい天皇てんのうだけをあらわしていた「御所ごしょ」という呼称こしょうが、上皇じょうこう大臣だいじん公卿くぎょうにも拡大かくだいして使つかわれるようになるにともない、「殿しんがり」というかたり拡大かくだいして貴人きじん一般いっぱん敬称けいしょうになった。また、「殿しんがり」という敬称けいしょう武士ぶし時代じだいには主君しゅくんのことをすようになった。室町むろまち時代ときよには御所ごしょ屋形やかたなどにいでとうと敬称けいしょうとなった。江戸えど時代じだいには大名だいみょう旗本はたもとうやまっていうかたりとなり、それ以下いか身分みぶんものしょうすることはきんじられたが、農村のうそんでは国人くにびとなどの系譜けいふ中世ちゅうせい以来いらい有力ゆうりょく豪農ごうのう隷属れいぞくにあるひとたちが主人しゅじんを「殿しんがり」、子弟していを「若殿わかとの」とぶこともあった。

また、貴人きじんだけでなく、女性じょせい男性だんせいを(とくつまおっとを)うやまって言葉ことばとしても使つかわれた。今日きょうでも「殿方とのがた」という言葉ことばにこの用法ようほうのこっている。

人名じんめい官職かんしょくめい敬称けいしょう[編集へんしゅう]

殿しんがり(-どの)は、人名じんめい官職かんしょくめいなどにけてそのひとたいする敬意けいいあらわ接尾せつびである。「山田やまだ殿どの」「社長しゃちょう殿どの」などのように使つかう。言葉ことば、とりわけ公文書こうぶんしょ表彰状ひょうしょうじょうのような厳格げんかく書状しょじょう宛名あてな使つかわれることがほとんどで、現代げんだいでははな言葉ことば私信ししんではほとんど使つかわれない[1]

歴史れきしてきには上記じょうき代名詞だいめいしとしての「殿しんがり」からてんじたもので、平安へいあん時代じだいには「関白かんぱく殿どの」のようにかなり身分みぶんたか公卿くぎょう官職かんしょくめい住居じゅうきょめいけてもちいられた。鎌倉かまくら時代じだいには対象たいしょうひろがり、武家ぶけ官職かんしょく住居じゅうきょのみならず、官位かんいたないもの人名じんめいにも直接ちょくせつけるようになった。室町むろまち時代じだい末期まっきには「殿しんがり」は形式けいしきてきとなり、より敬意けいいつよい「さま」も併用へいようされるようになった[2]江戸えど時代じだいには書類しょるいとして手形てがた証文しょうもんなどに「殿しんがり」が使つかわれており、その書体しょたい楷書かいしょ行書ぎょうしょ草書そうしょ平仮名ひらがな)によって身分みぶん敬意けいい度合どあいが区別くべつされていた[3]

明治めいじ21ねん10がつ陸軍りくぐんしょう発行はっこうした軍隊ぐんたい内務ないむしょ陸軍りくぐん内務ないむ規則きそく)に「殿しんがり」の用法ようほうさだめられた[4][5]当時とうじの「殿しんがり」は、陛下へいか天皇てんのう三后さんこう)、殿下でんか皇族こうぞく)および閣下かっか華族かぞく将官しょうかん)に公的こうてき敬称けいしょうとして定義ていぎされており、うえ長官ちょうかん佐官さかん以下いか対象たいしょうであった。口頭こうとうとしては上級じょうきゅうしゃ古参こさんしゃ対象たいしょうであり、二人称ににんしょう三人称さんにんしょうともに「殿しんがり」をけることが基本きほんとされたが、中間ちゅうかんもの上官じょうかん命令めいれい部下ぶかつたえるときには上官じょうかん職名しょくめいのみをうように、場合ばあいによっては職名しょくめい階級かいきゅうのみでぶこともできた。公文書こうぶんしょ宛名あてな敬称けいしょうとしては、身分みぶん階級かいきゅうわず将官しょうかんをもふくめて「殿しんがり」がもちいられた。

以降いこう官公庁かんこうちょうから個人こじんへの通知つうちにおいても一般いっぱんてきには「殿しんがり」が使つかわれてきた。しかし、昭和しょうわ27ねんには、国語こくご審議しんぎかい建議けんぎで「殿しんがり」を「さま」にあらためようとするうごきがあり、これにならった地方自治体ちほうじちたいでは昭和しょうわ40ねんごろより「さま」を使つかうことがえてきている[1]一方いっぽうで、平成へいせい23ねん3がつには文部もんぶ科学かがくしょうが『公文書こうぶんしょ書式しょしき文例ぶんれい[6]提示ていじしており、文科ぶんかしょう発行はっこうする公文こうぶん書式しょしきについては、職名しょくめいてまたは個人こじんての敬称けいしょうを「殿しんがり」とさだめている。今日きょうでも「殿しんがり」は公文書こうぶんしょ目上めうえ目下もっかかかわらずもちいられてはいるが、目下もっかものへの私信ししんもちいるとも説明せつめいされることから、認識にんしき齟齬そごけたい場合ばあいには「さま」を使つかうのが無難ぶなんである。

脚注きゃくちゅう参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b 菊地きくち康人やすひと敬語けいご講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、p245
  2. ^ 西田にしだ直敏なおとし日本人にっぽんじん敬語けいご生活せいかつ翰林かんりん書房しょぼう,p241
  3. ^ 『「ことば」シリーズ21 言葉ことばかんする問題もんだいしゅう10』とい38(文化庁ぶんかちょう昭和しょうわ59ねん3がつ31にちhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/mondai/mondai_06/pdf/sanko_2.pdf
  4. ^ 法規ほうき分類ぶんるいだい全巻ぜんかんろく』(内閣ないかく記録きろくきょく明治めいじ25ねん国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんデジタルコレクション)https://dl.ndl.go.jp/pid/994247/1/335
  5. ^ 陸軍りくぐん内務ないむしょ』(武揚ぶようどう明治めいじ41ねん12月、国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんデジタルコレクション)https://dl.ndl.go.jp/pid/904580/1/15
  6. ^ 公用こうようぶん書式しょしき文例ぶんれい』p17(文部もんぶ科学かがくしょう平成へいせい23ねん3がつhttps://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/fe/%E3%80%8E%E5%85%AC%E6%96%87%E6%9B%B8%E3%81%AE%E6%9B%B8%E5%BC%8F%E3%81%A8%E6%96%87%E4%BE%8B%EF%BC%88%E5%85%AD%E8%A8%82%EF%BC%89%E3%80%8F%EF%BC%88%E5%B9%B3%E6%88%9023%E5%B9%B4%EF%BC%93%E6%9C%88%E6%96%87%E9%83%A8%E7%A7%91%E5%AD%A6%E7%9C%81%EF%BC%89.pdf#page=17

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]