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知識ちしきのろ

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知識ちしきのろ(ちしきののろい、えい: Curse of knowledge)は、他人たにんコミュニケーションっている個人こじんが、自分じぶんっていることは、ひとっているとおもんでしまい、そのことについてあまりらないひと立場たちば理解りかいすることができなくなってしまう認知にんちバイアスである[1][2]一部いちぶ著者ちょしゃによって専門せんもん知識ちしきのろともばれている[3]

たとえば、学校がっこうでは、教師きょうし生徒せいと立場たちばつことができず、困難こんなんまねく。学生がくせい教授きょうじゅとのあいだで、知識ちしきのある教授きょうじゅ知識ちしきすくない学生がくせい立場たちば理解りかいできない。この知識ちしきのろいは、学生がくせいかんがえていることではなく、教員きょういんにとってもっともよくえるものにもとづいて学生がくせい学習がくしゅうについてかんがえることの背後はいごにある危険きけんせい説明せつめいしている[4]

歴史れきし

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知識ちしきのろい」という用語ようごは、1989ねん政治せいじ経済けいざいがくジャーナルの記事きじはじめて使つかわれた。執筆しっぴつしゃ研究けんきゅう目的もくてきは、「情報じょうほう経験けいけん)の豊富ほうふなエージェントが情報じょうほう経験けいけん)のすくないエージェントの判断はんだん正確せいかく予測よそくできるという、非対称ひたいしょう情報じょうほうの(経済けいざいてき分析ぶんせきにおける従来じゅうらい仮定かてい」に対抗たいこうすることであった[5]

このような研究けんきゅうは、1975ねんバルーフ・フィッシュホフによるこう知恵ちえバイアスからされた。こう知恵ちえバイアスとは、特定とくていのイベントの結果けっかることで、実際じっさいよりも予測よそく可能かのうえるという認知にんちバイアスである[6]かれ実施じっしした調査ちょうさによると、参加さんかしゃ結果けっかっていることが自分じぶん反応はんのう影響えいきょうあたえていることをらず、っていたとしても、バイアスの影響えいきょうかすことができなかった。また、研究けんきゅう参加さんかしゃは、知識ちしきのろいに直接ちょくせつ関係かんけいする、「知識ちしきすくないときのしん状態じょうたい」を正確せいかくさい構築こうちくすることができなかった。これは、参加さんかしゃが「知識ちしき受領じゅりょうによって作成さくせいされたのち知恵ちえしん状態じょうたい固定こていされた」ためであるとフィッシュホフによって理論りろんされた[7]。この知識ちしき受領じゅりょうは、知識ちしきのろいのかんがえにつながる。知識ちしきのあるひとは、知識ちしきがなければ自分じぶん自身じしんであれほかひとであれ、ひとなにかんがえ、どのように行動こうどうするかを正確せいかくさい構築こうちくすることはできない。フィッシュホフは、論文ろんぶんなかで、知識ちしきすくない状態じょうたい自分じぶん自身じしん共感きょうかんできないことを疑問ぎもんし、人々ひとびと知識ちしきすくない他者たしゃ認識にんしきをいかにうまくさい構築こうちくできるかは、歴史れきしと「すべての人間にんげん理解りかい」にとって重要じゅうよう問題もんだいであるとべている[7]

この研究けんきゅうにより、経済けいざい学者がくしゃのキャメラー、ローウェンスタインとウェーバーは、この概念がいねん経済けいざいてき影響えいきょう焦点しょうてんて、そののろいが経済けいざい環境かんきょうにおける資源しげん配分はいぶん悪影響あくえいきょうあたえるかどうかを疑問ぎもんするようになった。その情報じょうほうつうじた当事とうじしゃ取引とりひき交換こうかん損失そんしつこうむ可能かのうせいがあるというかんがえは、経済けいざい理論りろん領域りょういきにもたらすために重要じゅうようなものとなされていた。一方いっぽう当事とうじしゃ他方たほう当事とうじしゃよりも知識ちしきすくない状況じょうきょう理論りろんてき分析ぶんせきは、ほとんどが情報じょうほう非対称ひたいしょうせい最小限さいしょうげんおさえるために、情報じょうほうすくない当事とうじしゃがよりおおくの情報じょうほう学習がくしゅうしようとする方法ほうほう焦点しょうてんてていた。ただし、これらの分析ぶんせきでは、情報じょうほう豊富ほうふ関係かんけいしゃは、実際じっさいには利用りようできない場合ばあいでも、情報じょうほう非対称ひたいしょうせい最適さいてき活用かつようできるという前提ぜんていがある。人々ひとびとは、交渉こうしょうさいにも最適さいてき情報じょうほう利用りようできない[6]

たとえば、2人ふたりがおかね引当ひきあてきん分割ぶんかつについて交渉こうしょうしている。一方いっぽう当事とうじしゃ分割ぶんかつされた金額きんがくのサイズをっているかもしれないが、もう一方いっぽう当事とうじしゃらない。ただし、その利点りてん十分じゅうぶん活用かつようするには、情報じょうほうっている当事とうじしゃは、分割ぶんかつする資料しりょうりょう関係かんけいなくおな提案ていあんおこな必要ひつようがある[8]。しかし、情報じょうほうあたえられた当事とうじしゃは、分割ぶんかつされる金額きんがくおおきいほど、おおくの情報じょうほう提供ていきょうする[9][10]情報じょうほうあたえられたものは、必要ひつよう場合ばあいでも、より情報じょうほう無視むしすることはできない[6]

実験じっけん証拠しょうこ

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スタンフォード大学だいがく大学院生だいがくいんせいであるエリザベス・ニュートンによる1990ねん実験じっけんは、単純たんじゅんなタスクの結果けっかにおける知識ちしきのろいをしめした。被験者ひけんしゃのグループは、有名ゆうめいきょくゆびで「タップ」するようにもとめられ、べつのグループはタップされたきょくつけようとした。 「タッパー」がリスナーによって認識にんしきされる「タップされた」きょくかず予測よそくするようにもとめられたとき、リスナーは毎回まいかい過大かだい見積みつもっていた。「タッパー」はタッピングの内容ないよう精通せいつうしているため、リスナーがきょく簡単かんたん認識にんしきできると想定そうていしており、知識ちしきのろいがしめされている[11][12]

イェール大学だいがく学部がくぶせい対象たいしょうとしたスーザン・バーチとポール・ブルームによる研究けんきゅうでは、知識ちしきのろいの概念がいねん使用しようし、他人たにん行動こうどうについて推論すいろんする能力のうりょくがイベントの結果けっか知識ちしきによってそこなわれるというかんがえを説明せつめいした。参加さんかしゃがイベントの妥当だとうせいについてっていた認識にんしきも、バイアスの程度ていど媒介ばいかいしていた。イベントの妥当だとうせいひくいとかんじた場合ばあい知識ちしき他人たにんがどのように行動こうどうできるかについての潜在せんざいてき説明せつめいがあったときほどの影響えいきょうはなかった[13]。しかし、最近さいきん研究けんきゅうではサンプルサイズがおおきい7つの実験じっけん確実かくじつ再現さいげん可能かのうではなく、この現象げんしょう実際じっさい効果こうかは、もと結果けっか報告ほうこくされたものの半分はんぶん未満みまんであることが発見はっけんされた。したがって、「成人せいじん知識ちしきのろいにたいする妥当だとうせい影響えいきょう十分じゅうぶんちいさいようにおもわれるため、現実げんじつ視点してんをとることへの影響えいきょうさい評価ひょうかする必要ひつようがあるかもしれない」と示唆しさされている[14]

研究けんきゅうしゃは、知識ちしき偏見へんけんのろいを、子供こども大人おとな両方りょうほうあやまった信念しんねん推論すいろん、および子供こどもたちのしん理論りろん発達はったつ困難こんなん関連付かんれんづけた。

アプリケーション

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マーケティング

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経済けいざい学者がくしゃのキャメラー、ローウェンスタイン、ウェーバーは、知識ちしきのろいを経済けいざいがく最初さいしょ適用てきようした。これは、知識ちしき豊富ほうふなエージェントが知識ちしきすくないエージェントの判断はんだん正確せいかく予測よそくできるという仮定かてい本質ほんしつてき真実しんじつではない理由りゆう方法ほうほう説明せつめいするためであった。かれらはまた、かれらの製品せいひんについてよりよくらされている販売はんばい代理だいりてん実際じっさいかれらの製品せいひん販売はんばいするときにのあまりられていない代理だいりてんたいして不利ふりになるかもしれないという発見はっけん支持しじしようとした。その理由りゆうは、情報じょうほうつうじたエージェントは、かれらがっている特権とっけんてき知識ちしき無視むしできず、したがって「のろわれ」、よりナイーブなエージェントが許容きょようできるとなす価値かち製品せいひん販売はんばいできないためだとわれている[6][15]

教育きょういく

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知識ちしきのろいが教育きょういくむずかしさに関連かんれんする可能かのうせいがあることも示唆しさされている[4]知識ちしきのろいは、生徒せいと検証けんしょうしたものではなく、教師きょうし視点してんたずねることによって、生徒せいと資料しりょうをどのように学習がくしゅうしているかをかんがえることは、有害ゆうがいか、潜在せんざいてき効果こうかがない可能かのうせいがあることを意味いみする。教師きょうし自分じぶんつたえようとしている知識ちしきをすでにっているが、知識ちしきつたえる方法ほうほうは、まだ知識ちしきっていないひとにとっては最善さいぜんではないかもしれない。

専門せんもん知識ちしきのろいは、あたらしいスキルを習得しゅうとくする学習がくしゅうしゃにとってぎゃく効果こうかになる可能かのうせいがある[16][17]専門せんもん予測よそくは、科学かがく研究けんきゅう重要じゅうよう設計せっけいじょう決定けっていへの時間じかんとリソースのてはうまでもなく、教育きょういく公平こうへいせいトレーニング、そして若者わかもの自己じこ啓発けいはつ影響えいきょうあたえる可能かのうせいがあるため、重要じゅうようである[18]効果こうかてき教師きょうしは、複雑ふくざつあたらしいスキル習得しゅうとくしたり、なじみのない概念がいねん理解りかいしたりするときに人々ひとびと直面ちょくめんする問題もんだい誤解ごかい予測よそくする必要ひつようがある。これには、教師きょうし自分じぶん自身じしんまたはたがいのバイアスの盲点もうてん認識にんしきすることもふくまれる。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ Kennedy, Jane (1995). “Debiasing the Curse of Knowledge in Audit Judgment”. The Accounting Review 70 (2): 249–273. JSTOR 248305. 
  2. ^ 自分じぶんっていることは、相手あいてっている」とおもってしまうのろい「知識ちしきのろい」”. BRANDING TAILOR. 2022ねん3がつ7にち閲覧えつらん
  3. ^ Hinds, Pamela J. (1999). “The curse of expertise: The effects of expertise and debiasing methods on prediction of novice performance”. Journal of Experimental Psychology: Applied 5 (2): 205–221. doi:10.1037/1076-898X.5.2.205. 
  4. ^ a b Wieman, Carl (2007). “The 'Curse of Knowledge', or Why Intuition About Teaching Often Fails”. APS News 16 (10). http://www.cwsei.ubc.ca/resources/files/Wieman_APS_News_Back_Page_with_refs_Nov_2007.pdf. 
  5. ^ Froyd, Jeff; Layne, Jean (2008). “Faculty development strategies for overcoming the "curse of knowledge"”. 2008 38th Annual Frontiers in Education Conference. doi:10.1109/FIE.2008.4720529. ISBN 978-1-4244-1969-2 
  6. ^ a b c d Camerer, Colin; Loewenstein, George; Weber, Martin (1989). “The Curse of Knowledge in Economic Settings: An Experimental Analysis”. Journal of Political Economy 97 (5): 1232–1254. doi:10.1086/261651. http://authors.library.caltech.edu/22171/1/1831894%5B1%5D.pdf. 
  7. ^ a b Fischhoff, Baruch (1975). “Hindsight is not equal to foresight: The effect of outcome knowledge on judgment under uncertainty”. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance 1 (3): 288–299. doi:10.1037/0096-1523.1.3.288.  Reprinted: Fischhoff, Baruch (2003). “Hindsight is not equal to foresight: The effect of outcome knowledge on judgment under uncertainty”. Qual Saf Health Care 12 (4): 304–11. doi:10.1136/qhc.12.4.304. PMC 1743746. PMID 12897366. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1743746/. 
  8. ^ Myerson, Roger B. "Negotiation in Games: A Theoretical Overview". In Un-certainty, Information, and Communication: Essays in Honor of Kenneth J. Arrow, vol. 3, edited by Walter P. Heller, Ross M. Starr, and David A. Starrett. New York: Cambridge Univ. Press, 1986.
  9. ^ Banks, Jeff; Camerer, Colin F.; and Porter, David. "Experimental Tests of Nash Refinements in Signaling Games." Working paper. Philadelphia: Univ. Pennsylvania, Dept. Decision Sci., 1988.
  10. ^ Forsythe, Robert; Kennan, John; Sopher, Barry (1991). “An Experimental Analysis of Strikes in Bargaining Games with One-Sided Private Information”. The American Economic Review 81 (1): 253–278. JSTOR 2006799. https://www.researchgate.net/publication/4901075. 
  11. ^ Heath, Chip; Heath, Dan (Dec 2006). “The Curse of Knowledge”. Harvard Business Review. https://hbr.org/2006/12/the-curse-of-knowledge 26 April 2016閲覧えつらん 
  12. ^ Elizabeth L., Newton. “The rocky road from actions to intentions”. Stanford University. 2022ねん3がつ7にち閲覧えつらん
  13. ^ Birch, S. A.J.; Bloom, P. (2007). “The Curse of Knowledge in Reasoning About False Beliefs”. Psychological Science 18 (5): 382–386. doi:10.1111/j.1467-9280.2007.01909.x. PMID 17576275. http://bobweigel.net/projects/images/Birch%26bloom_curse.pdf. 
  14. ^ Ryskin, Rachel A.; Brown-Schmidt, Sarah (25 March 2014). “Do Adults Show a Curse of Knowledge in False-Belief Reasoning? A Robust Estimate of the True Effect Size”. PLOS ONE 9 (3): e92406. Bibcode2014PLoSO...992406R. doi:10.1371/journal.pone.0092406. PMC 3965426. PMID 24667826. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3965426/. 
  15. ^ Birch, Susan A. J.; Bernstein, Daniel M. (2007). “What Can Children Tell Us About Hindsight Bias: A Fundamental Constraint on Perspective–Taking?”. Social Cognition 25 (1): 98–113. doi:10.1521/soco.2007.25.1.98. http://www.kpu.ca/sites/default/files/downloads/Highsight_Bias_2007_Birch_and_Bernstein3964.pdf. 
  16. ^ Sian beilock (2011-09-09). Choke: What the Secrets of the Brain Reveal About Getting It Right When You Have To. Atria Publishing Group/Simon & Schuster. ISBN 978-1416596189. https://archive.org/details/chokewhatsecrets0000beil 
  17. ^ The curse of Expertise
  18. ^ Hinds, Pamela J. (1999). “The Curse of Expertise: The Effects of Expertise and Debiasing Methods on Predictions of Novice Performance”. Journal of Experimental Psychology: Applied (American Psychological Association) 5 (2): 205-221. doi:10.1037/1076-898X.5.2.205. ISSN 1076-898X.