総領そうりょう

総領そうりょう（そうりょう、すぶるおさ、すべおさ・惣領そうりょう）とは、律令制りつりょうせいが完成かんせいする前まえの7世紀せいき後半こうはんに諸国しょこくに置おかれていた地方ちほう官かんのこと。ただし、『日本書紀にほんしょき』・『続ぞく日本にっぽん紀き』に記しるされた名称めいしょうは統一とういつされておらず、惣領そうりょう・総そう令れいなど複数ふくすうの表現ひょうげんがある。

概要がいよう

総領そうりょう（惣領そうりょう）が設置せっちされていた地域ちいきとして、坂東ばんどう・吉備きび・筑紫つくし・伊予いよ・周防すおうなどが知しられており、「坂東ばんどう」「筑紫つくし」などの広域こういき地名ちめいや「伊予いよ」が讃岐さぬき国こくの事ことを扱あつかったり、「吉備きび」が播磨はりま国こくの事ことを扱あつかった記録きろくもあるため、後世こうせいの大宰府だざいふのように複数ふくすうの令れい制せい国こくに相当そうとうする地域ちいきを統括とうかつしていたとする見方みかたがある。

その一方いっぽうで『日本書紀にほんしょき』には大だい宰おさむ（たいさい/おおみこともち）と呼よばれる地方ちほう官かんが少すくなくても吉備きびと筑紫つくしに置おかれており、壬みずのえ申さるの乱らんの際さいに大友皇子おおとものおうじ（弘文天皇こうぶんてんのう）の使者ししゃが募兵ぼへいを両りょう大だい宰おさむに求もとめて筑紫つくし大だい宰おさむの栗ぐり隈くま王おうに拒絶きょぜつされる場面ばめんがあることから現地げんちの軍事ぐんじ権けんを掌握しょうあくする立場たちばにあったことが知しられている。

総領そうりょう（惣領そうりょう）と大だい宰おさむとの関係かんけいについては諸説しょせつがあり、両者りょうしゃが同一どういつのものなのか、上下じょうげ関係かんけいにあるのか議論ぎろんがある。すなわち、両者りょうしゃを同一どういつ（別称べっしょうであった）とする説せつ、総領そうりょうは後世こうせいの国司こくしに相当そうとうし大だい宰おさむは複数ふくすう国こくを統括とうかつする地位ちいで総領そうりょうの上官じょうかんにあたるとする説せつ、大だい宰おさむは『日本書紀にほんしょき』編纂へんさん当時とうじに用もちいられた「後世こうせいの呼称こしょう」であり大宝たいほう律令りつりょう以前いぜんの実際じっさいの官制かんせいは総領そうりょうのみであったとする説せつ、大だい宰おさむは官かん司しで総領そうりょうはそこに属ぞくしていた官職かんしょくであるとする説せつ、大だい宰おさむと総領そうりょうは別々べつべつの官職かんしょくで前者ぜんしゃは部民ぶみんと軍事ぐんじ・外交がいこうを後者こうしゃは屯たむろ倉くらと国造くにのみやつこ・評ひょう制せいを扱あつかったとする説せつなど様々さまざまな説せつが出だされて結論けつろんが出だされていない。更さらに総領そうりょうや大だい宰おさむの制度せいどが当時とうじにおける倭国わのくに→日本にっぽんの領域りょういき全体ぜんたいで実施じっしされたものなのか、重要じゅうような地域ちいきでのみ行おこなわれたものなのかも不明ふめいなままである。もっとも、総領そうりょう・大だい宰おさむともに大化たいか前代ぜんだいの国造くにのみやつこ制せいから律令制りつりょうせいの国くに郡ぐん制せいへの過渡かと期きである「国くに評ひょう制せい」において行政ぎょうせい・軍事ぐんじに関かんする大おおきな権限けんげんを持もっていた地位ちいであったという点てんでは諸説しょせつ一致いっちしている。

総領そうりょう（惣領そうりょう）や大だい宰おさむが登場とうじょうするのは、『日本書紀にほんしょき』推古天皇すいこてんのう17年ねん（609年ねん）に登場とうじょうする「筑紫つくし大だい宰おさむ」から『続ぞく日本にっぽん紀き』文武ぶんぶ天皇てんのう4年ねん（700年ねん）に登場とうじょうする「筑紫つくし惣領そうりょう、周防すおう惣領そうりょう、吉備きび惣領そうりょう」までの100年ねん弱じゃくに過すぎず、史料しりょうが極きわめて少すくない。更さらに孝徳天皇こうとくてんのうの時代じだいに設置せっちされたと推定すいていされている坂東ばんどう総領そうりょうを除のぞくと、その活躍かつやくは天武天皇てんむてんのうから文武ぶんぶ天皇てんのうの時期じきに集中しゅうちゅうしているのも特徴とくちょうと言いえる。そして、大宝たいほう律令りつりょうの施行しこう後ごは国司こくし制度せいどに改あらためられ、九州きゅうしゅう全域ぜんいきを統括とうかつする「大宰府だざいふ」にその名残なごりを残のこしたと考かんがえられている。

派生はせい的てき用法ようほう

広域こういきを支配しはいする職しょくから転てんじて、下記かきの意味いみを持もつ言葉ことばとして使つかわれる。

• 全部ぜんぶを支配しはいすること。「将軍しょうぐんがあとをば母堂ぼどうの二に位いの尼あま―して」〈愚ぐ管かん抄しょう・六ろく〉
• 中世ちゅうせい、武士ぶしの族ぞく的てき結合けつごうの長ちょう。惣領そうりょう地頭じとう。
• 家名かめいを継つぐべき人ひと。家いえの相続そうぞく人じん。跡取あととり。
• いちばん初はじめに生うまれた子こ。長男ちょうなんまたは長女ちょうじょ。

脚注きゃくちゅう

関連かんれん項目こうもく

• 大だい宰おさむ帥そち
• 太宰府だざいふ

参考さんこう文献ぶんけん

• 森もり公こう章あきら「惣領そうりょう・大だい宰おさむ」『日本にっぽん史し大だい事典じてん 4』（平凡社へいぼんしゃ 1993年ねん） ISBN 978-4-582-13104-8
• 八木やぎ充たかし「総領そうりょう」『日本にっぽん歴史れきし大だい事典じてん 2』（小学館しょうがくかん 2000年ねん） ISBN 978-4-09-523002-3
• 酒井さかい芳司ほうじ「九州きゅうしゅう地方ちほうの軍事ぐんじと交通こうつう」館野たての和己かずみ・出田いでた和久かずひさ 編へん『日本にっぽん古代こだいの交通こうつう・流通りゅうつう・情報じょうほう　1　制度せいどと実態じったい』（吉川弘文館よしかわこうぶんかん、2016年ねん） ISBN 978-4-642-01728-2 P238-241"王族おうぞく将軍しょうぐんと大だい宰おさむ"・"大だい宰おさむと総領そうりょう"