語形ごけい融合ゆうごう

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語形ごけい融合ゆうごう(ごけいゆうごう、syncretism)とは、1 つのパラダイムなかに、複数ふくすう同音どうおん語形ごけい体系たいけいてき存在そんざいすることである[1]:174たん融合ゆうごうともう。

たとえば、ドイツのあらゆる動詞どうし現在げんざい時制じせいのパラダイムにおいて、一人称いちにんしょう複数ふくすうかたち三人称さんにんしょう複数ふくすうがた同音どうおんであり、文法ぶんぽうてきにもこれらの語形ごけい一体いったいとなっている(後述こうじゅつ)。このような場合ばあい、これらの語形ごけい融合ゆうごうしている、とう。

語形ごけい融合ゆうごう基準きじゅん[編集へんしゅう]

ドイツ動詞どうし現在げんざい時制じせいのパラダイムでは、一人称いちにんしょう複数ふくすうがた三人称さんにんしょう複数ふくすうがた同音どうおんである。たとえば、ひょう 1 の spielen ‘play’ のれいでは、これらの語形ごけい両方りょうほうとも spielen となる。しかしそれだけではなく、おおくの場合ばあい三人称さんにんしょう単数たんすうがた二人称ににんしょう複数ふくすうがた同音どうおんひょう 1 では spielt)となる。

ひょう 1. ドイツ動詞どうし現在げんざい時制じせいのパラダイムのれい (spielen ‘play’)
1 たん (ich) spiele ‘I play’
2 たん (du) spielst ‘you play’
3 たん (er/sie) spielt ‘he/she plays’
1 ふく (wir) spielen ‘we play’
2 ふく (ihr) spielt ‘you play’
3 ふく (sie) spielen ‘they play’

ただし、この場合ばあい一人称いちにんしょう複数ふくすうがた三人称さんにんしょう複数ふくすうがた同音どうおん (spielen) であることと、三人称さんにんしょう単数たんすうがた二人称ににんしょう複数ふくすうがた同音どうおん (spielt) であることのあいだには、つぎのようなちがいがある。そのため、前者ぜんしゃ語形ごけい融合ゆうごうれいであるが、後者こうしゃたんなる偶然ぐうぜん一致いっちかんがえられる[1]:174

まず、前者ぜんしゃわせは、あらゆる動詞どうしのパラダイムで同音どうおんになるが、後者こうしゃわせは、一部いちぶ動詞どうしのパラダイムでは同音どうおんにならない。たとえば、geben ‘give’ のように、二人称ににんしょう単数たんすうがた三人称さんにんしょう単数たんすうがた語幹ごかん母音ぼいん交替こうたいする動詞どうしでは、三人称さんにんしょう単数たんすうがたgibt二人称ににんしょう複数ふくすうがたgebt となり、同音どうおんにならない。

また、これにかんするちがいは文法ぶんぽうてきにもみとめられる。例文れいぶん (1) のように、「A または B」という意味いみ名詞めいし主語しゅご場合ばあい動詞どうしは A と B の両方りょうほう人称にんしょうかず一致いっちしなければならない。(1) では、A も B も三人称さんにんしょう単数たんすうなので、動詞どうしかたち三人称さんにんしょう単数たんすうがた spielt となる。

(1)    Entweder  Ballack  oder  Klose  spielt  gegen  Bulgarien. 
either  Ballack  or  Klose  plays  against  Bulgaria 
‘Either Ballack or Klose will play in the Bulgaria match.’ [1]:175

一方いっぽう例文れいぶん (2) では、一人称いちにんしょう単数たんすう二人称ににんしょう単数たんすうわせなので、どちらにも同時どうじ一致いっちするということはできない。そのため、一人称いちにんしょう単数たんすうがた spiele も、二人称ににんしょう単数たんすうがた spielst使つかえない。

(2)  Entweder  ich  oder  du  spiele/spielst  gegen  Bulgarien. 
either  or  you  play  against  Bulgaria 
‘Either I or you will play in the Bulgaria match.’ [1]:175

ところが、例文れいぶん (3) のように、一人称いちにんしょう複数ふくすう三人称さんにんしょう複数ふくすうわせの場合ばあい動詞どうし一人称いちにんしょう複数ふくすうがた三人称さんにんしょう複数ふくすうがたspielen になる。このことは、これらの語形ごけい融合ゆうごうしていることをしめしている。

(3)    Entweder  wir  oder  sie  spielen  gegen  Bulgarien. 
either  we  or  they  play  against  Bulgaria 
‘Either we or they will play in the Bulgaria match.’ [1]:175

ぎゃくに、三人称さんにんしょう単数たんすう二人称ににんしょう複数ふくすう場合ばあい語形ごけい同音どうおんでも spielt使つかうことはできない。これは、これらが偶然ぐうぜん同音どうおんなだけで、ことなる語形ごけいであることをしめしている。

(4)  Entweder  Bierhoff  oder  ihr  spielt  gegen  Bulgarien. 
either  Bierhoff  or  you  play  against  Bulgaria 
‘Either Bierhoff or you will play in the Bulgaria match.’ [1]:175

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d e f Haspelmath, Martin & Sims, Andrea D. 2010. Understanding morphology. 2nd edition. London: Hodder Education.

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]